苺プロの会議室には現在、事情を知らない者が見れば空いた口が塞がらない程の悲惨な光景が広がっている。
空になった酒瓶や缶の数々、開けっ放しになった菓子類の袋、ゴミ袋に雑多に詰め込まれたゴミの数々、そしてそんな部屋で死んだ様に眠る人々。
およそ企業の事務所内とは思えないその状況で、一人頭を起こした者がいた。
「ハハ、大変だこりゃ。」
時刻は18時を少し過ぎた頃合い。
言葉の主_アイは、部屋の惨状に苦笑いを浮かべる。
昨日の今頃はライブの真っ最中であった事を考えると、人生の中でも屈指の濃密な24時間を過ごしたと言えるだろう。
姫川が警察へと引き渡されるのを確認した面々に、最早各自の自宅へと戻るだけの気力は残っておらず、一度苺プロの事務所へと戻ってきたのである。
午前中に仮眠を取り、その後猛烈な空腹に襲われた面々がどんちゃん騒ぎを起こすのは最早必定であり、その結果が今の状況だ。
「もうちょっと寝かせておいた方がいいかな...。
皆疲れてるもんね...。」
そう語るアイ自身も、相当の気怠さを感じている。
本来は各自帰宅した方がゆっくり休めるとは思うのだが、せめてもう二、三人目を覚ます迄は眠らせてやりたい。
軽く背を伸ばしてゴミを片付けるが、その最中も目を覚ます者は現れなかった。
余りに非日常的な経験を考えれば致し方ないし、この場にいる者達の尽力によって自身の大切な人を取り戻す事が出来た事もあって、彼女が可能な限り物音を立てない様にしたのが功を奏したようだ。
部屋の入口に立った彼女の中に、今も夢の中にいる面々に対する様々な気持ちが膨らんでいく。
天邪鬼な自分でも、相手が寝ている今なら素直に気持ちを吐き出せるだろう。
「三人がB小町に来るって言われた時さ、正直ちょっと不安だったんだよね。」
まず声を掛けたのは、久常、有坂、松井の三人に対してだ。
壱護からメンバー増員の話をされたのは、丁度ララライのワークショップに参加する直前だったろうか。
それまで創設メンバー四人で上手くやっていた所に知らない人間が入ってくるというのは、対人関係に難の有るアイとしては余り喜ばしくない出来事であった。
ただでさえどんな相手かも分からない上に、前の事務所でもアイドルとして活動していたという話を聞いていた為に、彼女達と上手くやれるのかという気持ちが有ったのが正直な所である。
その辺りは結局は壱護の采配も手伝い杞憂に終わったが、アイとしても実際に彼女達とレッスンを受け、その能力に驚かされたのをよく覚えている。
楽器の演奏、歌唱力、語学力、端的に自分との差を感じさせる強みを持っていた彼女達に抱いた感情を吐露していく。
「私さ、三人の事凄いなって思うのと同時に、羨ましいなって思ったんだ...。
何か続けてきた事が有る人って、こんなに出来る事が一杯有るんだなって...。
だから、アクアとルビーに色んな事をやらせてあげたいって思える様になったのは三人のおかげだよ。」
自分が久常の様に何かしらの楽器を弾ける様になる迄どの位時間が掛かるだろう。
自分の担当曲であっても、有坂の方が上手く歌える筈だ。
松井の様に英語を話す事が出来たら、コミュニケーションが取れる相手が何人増えるか等想像もつかない。
それらは全て、彼女達の努力が齎した可能性だ。
それを『羨ましい』と思える程度には、自分も人として成長出来ているのかもしれない。
「ソフトンさんがいなかったら、今頃皆ってどうなってたんだろうね...。」
命の恩人という存在が出来てしまった自分の人生だが、彼がいなかった場合の未来等想像するだに恐ろしい。
もしあの時自分が刺されていれば、自分の命は勿論だが子供達も生きている保証は無いだろう。
そうなった時、ヒカルは、ボーボボ達は、苺プロの面々はどんな反応を見せるのだろうか。
少なくとも自分はあの瞬間、一度未来を諦めた。
「事件の後ね、皆泣いてた。
泣いてくれてたんだ。
『よかった』って言ってくれたんだよ。」
『星野アイ』という存在は、自分が思っているよりもずっと他人に影響を与える存在なのだという事を気付かせてくれた。
自分が生きている事を喜んでくれる人が沢山いるのだと教えてくれた。
『明日が有る事』の尊さを教えてくれた。
そんな、ある意味では自分達全員を救ってくれたとも言える相手だからこそ、これだけは言っておきたい。
「生きてる事が当たり前じゃないって教えてくれてありがとう。
ただ、家のトイレに無断で出入りしてたのは普通に犯罪だからね。」
「最初に謝っとくね。
初めて破天荒さんに会った日、パチさんとじゃれつき始めた時は正直引いた。」
見た目と中身のギャップという意味なら、ソフトンに負けず劣らずな存在ではあるが、ヒカルの事を考えれば彼も大恩有る人物と言えるだろう。
大切な人に何かしらの抱えているものが有るとしたら、せめてそれを一緒に背負いたいと考えるのは自然な事だろう。
ではヒカルの過去を知っている現在、もし自分が彼だったら自分の口で秘密を打ち明ける事が出来るだろうか。
当時の彼よりもボーボボ達の人柄を理解している自分でも、正直難しいと思ってしまう。
どれだけ相手が善良な人間であっても、話すのを躊躇してしまう事柄というのは存在する。
まして当時の彼にとって、自分達は出会って一週間程度の間柄だった。
自分の言葉を使う事なく秘密を明かせるというのは、心理的負荷を考えれば相当大きかったのだろう。
彼の秘密を知った後の冷静な対応を含め、ボーボボ達ともまた違った『大人としての在り方』を見せられたのが破天荒という人物だ。
やるべき事はしっかりとこなし、好きなものにはとことん熱中する_中々に参考になる生き方と言えるだろう。
「田楽さんは...、特に無いかなぁ...。」
苺プロという大枠で見れば、自分も彼の世話になった者の一人ではあるのだが、どちらかと言うと彼と関わりが深いのは壱護達の方だろう。
余り感じる事が無いので次に行く事にする。
「魚雷先生、私、あの時より少しは大人になれてるかな...?」
初めて会ったあの日、彼女はこの世界を『星野アイにとっては少し生き難い世界』と語った。
当時の自分は今よりも世間知らずで、本当に弱い存在だった。
彼女が芸能界においても好き放題やれるのは何故なのか、嫌われるかもしれないとは思わないのか、ずっと疑問だったのだ。
子供達の成長を見守る過程で、その理由の一部は理解出来た気がした。
きっと彼女は彼女自身を、そして彼女を取り巻く世界そのものを愛しているのだろう。
愛は人を強くするのだから。
「少なくとも、自分の周りの人には気持ちを届けたいって思える様になったよ。」
「実はさ、最初の頃、三人から壁を感じてたんだよね。」
新野、高峯、渡辺、ずっと共にやってきた戦友に対して、ずっとひた隠しにしてきた事を打ち明ける。
無論、無理のない事だとは思うし、三人から見ても自分は扱いに困る存在だったのだろう。
四人の内、一人だけ混じるズブの素人。
自分の性格は勿論だが、業界の常識すら知らない存在等、下手げに触れたくないと考えても仕方がない。
だからこそ、出来るだけ話し掛けやすい様にと、プライベートの話題でも話せる範囲は正直に話す様にしたつもりだったのだが、余り受けが良くなかったのを覚えている。
後に分かった事なのだが、業界人にとっての『プライベートの話』というのは、『互いの秘密を共有する運命共同体』となる事であって、何の得にもならない話をしても意味が無いのだ。
話のネタとしても、『養護施設で世話になっている人』というのは客観的に見ても反応に困るものだろう。
「面倒なのと一緒にされちゃったなって思われてたんだろうけど、それでも見捨てずにいてくれてありがとう...。
三人がいたから...、今日迄頑張ってこれたよ...。」
「子供が出来てからさ、私なりに社長とミヤコさんの凄さが分かってきたよ...。」
公人として、規模は違えど人を纏め上げる才覚を持ち、私人としても互いを支え合うパートナーである二人。
世間知らずの小娘達をよくもここまで導いたものだと思う。
芸能界における自分達の両親とも言える二人からすると、特に自分は手の掛かる存在だっただろう。
アクアとルビーが産まれ、彼らの聡明さに助けられているから余計に分かる。
自分とヒカルも二人の様になれればいいとは思うが、自分とミヤコの差を考えるだけでも大分厳しそうな道のりだ。
それから、比喩的表現とは別に戸籍上でも自分は二人の娘という事になっている。
なってはいるのだが、諸々の事情が重なり同居した期間すら無い為、言葉通り書類上の関係であって、お互いにその様に接した事は無かった。
その為非常に気恥ずかしいが、いつかキチンと面と向かって言う時の練習だと思う事にしよう。
「その...、お父さん、お母さん...、長い間お疲れ様。
これからもよろしくお願いします...。」
一人っ子_少なくともかつて実母と共に暮らしていた頃迄はそうであった自分にとって、兄弟姉妹がいる感覚がどういったものなのかは判然としないのが実情だ。
周囲の人間であれば、今自分の目の前で寝息を立てる人物_ビュティとヘッポコ丸の様に良好な関係の者もいれば、久常の様に余り芳しくない者もいる。
身も蓋もない言い方をしてしまうと、当人同士の問題という事で終わってしまうのだが、そういった意味では自分はこの二人の厚意を存分に享受してきたと言えるだろう。
そもそもの出会いからして、自分は二人から見れば間違いなく気を遣って接する子供であった筈であるし、記憶を振り返ってみても二人は施設の他の子供達にも平等に優しく接していた。
今にして思えば、星野アイの欲張りな部分が表出したのは、二人に対する独占欲が最初だったのだろう。
自分の話を聞いて欲しい、一緒に出かけて欲しい、その笑顔を自分に対して向けて欲しい、愛に飢えていた幼い自分にとって大人達との間に立ってくれる二人の存在はそれだけ貴重だったのだ。
「お姉ちゃんとへっさんはどんな家族になってくのかな...。
二人に子供が出来たら、今度はアクアとルビーがお兄ちゃん、お姉ちゃんって呼ばれるのかな...。」
そこまで口にし、ハッとする。
自覚したニヤケ顔に加え、度の過ぎた妄想に自己嫌悪が止まらない。
自分が一番自立出来ていない相手はこの二人なのかもしれない。
友人という存在の定義は人それぞれで変わってくるだろうが、少なくともこれだけはハッキリと言える。
自分には自信を持って友人と呼べる対象は少ない。
近々の付き合いが無い所謂旧友という存在に対象を拡げても、変化は少ないだろう。
それ故に、彼女との縁は非常に貴重なものだ。
「私の顔にステッキ押し付けてくる人なんてポコっちぐらいだぞー、全く...。」
共に笑い、中身の無い頭の悪い会話で盛り上がり、駄目な所は遠慮無く怒ってくれる相手。
互いに何の打算も無く話せる人物というのが、自分にとってのポコミという存在である。
初めて会話を交わした時から妙にテンションの高い人物だとは思っていたが、本人曰くあれはプライベートでの性格であって、当時学校では意外にも静かに過ごしていたらしい。
理由は余り話したがらなそうであった為、長い事その話題には触れない様にしていたのだが、先の酒盛りの最中に、姫川が使用していた『善滅丸』なるものが関係しているという事を教えてくれた。
彼女が宮崎で通院していたのもそれが理由らしく、精神的に厳しかった時期に出会ったのがさりなだったそうだ。
例の薬について知識の無いアイには今一ピンと来ない感覚なのだが、自分達の親世代は旧マルハーゲ帝国への恐怖が残っている者も多く、『例の薬と関わっていた』という断片的な情報だけでそういった者達を遠ざける空気が有ったらしい。
『普通に話してくれるだけでいいの...。
それだけで二人は、私にとっての大事な友達なの...。』
半泣きで自分に抱きついてくる彼女を笑って受け止めてやれる位には、自分も彼女を大切に想っているのだと再認識させられた。
自分の娘に同じ事をして、頭を撫でられているのを見た時には彼女の飲酒の量が心配になったが。
「天さんが最初の日にくれたライチ、美味しかったなー...。」
今となっては懐かしい思い出だ。
あの一件然り、非常に気配りが出来る人物というのが彼_天の助への印象である。
所謂3バカの中でも非常に落ち着いた言動が目立ち、二人と比較しても良い意味で熱くなる事が少ない故か、ともすると利己的でドライな印象を受けそうになるが、『相手の言葉をキチンと受け止める』という能力に関して非常に優れた人物だ。
乗るべき所とツッコむ所、褒める時と注意する時、その軟体に反して彼の中の判断基準は揺らぐ事が無く、その姿勢は子供ながらに尊敬の念を抱いたのをよく覚えている。
丁度、新野達三人との関係性に頭を悩ませている頃だったか。
運動に付き合って欲しいと言われて何をするかと思えば、その体を自転車の様に変形させサイクリングを開始したのだ。
自分で漕がずとも前に進む自転車という不思議な体験に心を踊らせる中、唐突に『何かあったか?』と聞いてきた時には流石に驚いたが、そこで掛けられた言葉には非常に勇気を貰ったものだった。
『心配すんな。
30年以上掛かっちまったが、俺にも話を聞いてくれる相手が出来た。
その調子でやってれば、いつか皆にアイの言葉が届く様になる。』
あれから10年程度経ったが、確かに彼の言う通りの結果になっている。
「さてと、今日も天さんの体にゼリー混ぜとこっと。」
首領パッチという存在についての評価は非常に難しい。
そもそも、未だにどういった存在なのかすら分かっていない上に、その行動原理の多くは理解不能なのだ。
良い部分を見ていくと、困難に際しても自分が前に出る事を厭わない親分気質な所は有るのだが、往々にしてその言動が原因で制裁を喰らっている為、一度聞いた事が有った。
その時の自分は浅はかにも、『一番目立ちたいから』とか『自分なりに何かしらの目標が有る』位に考えていたのだが。
『パチさんってさ、何でいつも変な事するの?
ビュティさん達に怒られるの分かってるんでしょ?』
『そんなのオメェ、決まってんじゃねぇか。
俺が主人公だからだよ。
ハジケてぇからハジケる_それが俺の人生だぜ。』
天啓とは斯くやと思わされる言葉であった。
主人公_物語の中心となり牽引する存在。
成程、自分の人生を牽引するのは自分であるべきだろう。
着目すべきは、彼が『一番になる』とも『目標が有る』とも言っていない点だ。
自分の人生の決め方は人それぞれ、自分がやりたい事をやれる選択をするべき_実現できるかは別にしても一つの理想と言える考えである。
そんな彼の顔を眺めていると、その額に『シンデレラ』の文字が浮かび上がった。
生憎と林檎は切らしていたので、最近貰った『青森の蜜柑』を口の中に突っ込んでおく事にしよう。
「ねぇ、おじさん...。 私って変わった?
おじさんから見たら、大して変わってないのかな...。」
自分が苺プロに入った日の事はよく覚えている。
感情を乱しながら出力した『変われるか』という自分の言葉に、彼は『ムリ』と語った。
あの時のあんまりな台詞の意図は未だに分かっていない。
様々な子供達の面倒を見た経験から、そう簡単な道ではないという忠告だったのか_
変われなくとも構わないという、逃げ道を用意する言葉だったのか_
変わる必要が無いというメッセージだったのか_
或いは単純にこちらを煽るだけが目的だったのか_
真相はどうあれ、当時の自分がそれだけ危うい存在であったのは間違いないだろう。
「おじさんは昔から変わらないよね。
B小町が有名になってもずっと変わらずにいてくれたの、凄く嬉しかったな...。」
対する彼への印象は、昔から『変だけど優しいおじさん』のままだ。
自分が芸能人になろうが、アイドルとして人気が出ようが、子供が出来ようが、変わらぬ態度で接してくれた。
そのお陰で、大人達の中で働く事になっても、自分は子供のままでいられたのだと思う。
例え変われなかったとしても、『星野アイ』を受け入れてくれる存在がいてくれたからこそ、自分は変わる為の一歩を踏み出せたのかもしれない。
「そうだ、折角だし今度おじさん達にお酒でも買ってあげようかな。
今まで沢山お世話になってきたんだし、ちょっとずつでもお返ししてかないと。」
すると突然彼のアフロが開き、見覚えの無い人物が姿を現した。
まるで蟹の様に左右にはねた不思議な髪型の男性は、アイに対して静かに語る。
「だが俺はレアだぜ。 報酬は高いぞ。」
たったそれだけを言い放ち、男性はアフロの中に消え去ってしまう。
相変わらず意味不明な現象を発生させる彼を見て、アイは思わず呟いた。
「...いや、誰...?」
「ねぇ、自分が誰かと結婚するって、子供の頃に想像出来た?」
そう言葉を掛けた相手は、自分の左手の薬指にはまっている物を贈ってきた者だ。
『大人になったら仕事をして、誰かと結婚して、子供を育てる』、そんな漠然とした将来への展望を描いた者は多いのではないだろうか。
大抵の場合、『自分も親と同じ様になっていく』と子供が考えるのは自然な事であろう。
では自分はどうなのかと言うと、残念ながら恐らく少数派の意見となる。
実の親等到底参考に出来るものではないし、結婚願望が有ったかと聞かれると否定を返すしかなかった為だ。
自身の前で目を閉じている青年との関係は、予想外の妊娠によって急速に進展したが、もしあれが無かったとしても相応の時期が訪れれば、何となく収まるところに収まったのではと思うし、結婚というのは本来そういった形の方がいいのではないかとアイは考えている。
以前、B小町のライブ配信中に見たファンのコメント_『ずっと一緒にいたいという意思表示』が結婚願望なのだとすれば、それは義務や社会的責任とは別の、然るべき相手を見つけた時に湧き上がってくるものである筈だ。
「『おしどり夫婦』なんて呼ばれる様になれたらいいね...。」
「二人はどんな大人になるのかな...。」
隣り合って眠る我が子の頭をそっと撫でる。
大人でも厳しい24時間だったのだから、二人にとっては肉体的にも精神的にも相当厳しいものが有っただろう。
「私の友達にね、ルビーと同じですっごくアイドルが好きな人がいたの...。
優しくて強い人だったんだよ...。
周りの人を笑顔にできちゃう人でね、あの子がアイドルになったら人気が出たんじゃないかな...。」
娘に語り掛けたのはかつての友人の話だ。
娘がB小町について語る時と、ポコミ伝に聞いた『彼女がB小町について語る様』はそっくりである。
もし娘がアイドルになったら、きっと彼女の様に周囲を魅了する笑顔を振り撒いてくれるのではないだろうか。
親子共演等夢が広がる話だ。
娘がどんな顔をするかは分からないが、ポコミと共に三人で『沈没ガールズ』もやってみたい。
「アクアは役者さんかな?
頭良いし、せんせみたいに医者にだってなれちゃうかもね...。
でも、子供の内からモテ過ぎてたらしにならないかは心配だなぁ...。」
息子の方は、父親と同じ道を歩むのだろうか。
実の所、本人がやりたいと言い出した訳ではない為無理強いをするつもりは無いのだが、その成熟した感性と観察眼は自分が世話になっている映画監督も度々褒めていた為、少々惜しい気はしてしまう。
彼の聡明さを考えれば、或いはかつて世話になった人物の様に、白衣を身に纏う事も有り得るだろうか。
ポコミとの接し方等、何故か異性への対応が小慣れた様子なのは少々不安を感じるが。
「思えば、二人にも沢山迷惑掛けたね...。
中々一緒にいられなかったから、嫌われなくてよかったなぁ...。」
様々な事情は有るにせよ、自分は余り良い母親とは言えなかっただろう。
自分達四人が良好な関係でいられたのは、子供達の聡明さ故だ。
それこそ、自分達親よりもボーボボ達の方に懐いても全く文句は言えない扱いをしてしまった。
「二人が大人になってくの、側で見てたいな...。」
もう一度周囲を見渡すが、部屋の中に変化は無い。
これならもう少しだけ話す余裕が有るだろう。
長々と話すつもりは無い。
「皆ありがとう...、大好き...。」
「愛してる。」
その言葉が自分の声で鼓膜に届いた瞬間、込み上げるものを感じ思わず天上へと顔を向ける。
こんなにも時間が掛かってしまったが、やっと言えたのだ。
「あー、良かったぁ...。
この言葉は絶対、嘘じゃ_」
『愛してる。』
突如聞こえてきた自身の声に、時間が停止したかの様に言葉を中断させるアイ。
部屋の中にいる者達の様子は未だ変わらず、何より自身の声が自身の口以外から出てきた事実に違和感を覚えたのだ。
彼女が嫌な予感を覚えた時には、既に手遅れだった。
「いやぁ、まさかアイちがあんな事言ってくれるとはねぇ。」
「ふっ...、うぅ...、アイが...、『お父さん』って...。」
「いやー、部屋の空気が甘ったるくて耐えらんないわー。
コーヒー飲む人ー。」
「先生は信じてたギョラ...。
悲しいけど...、卒業ね。」
次々と体を起こす者達の姿に、アイは顔が急速に熱くなっていくのを感じる。
ふざけるのも大概にして欲しい。
先程迄のは、相手が寝ていると思ったから何とか口にする事が出来た言葉なのだ。
面と向かって言うには、まだまだ心の準備が足りていないというのに。
揃いも揃って生温かい視線を送ってくる者達を代表し、昔と変わらず大きな手を自分の頭に乗せた人物の言葉に、涙腺と共に感情が爆発した。
「アイ、俺達もお前の事、愛してるぜ。」
「うっさい‼︎ 皆の嘘吐き‼︎ バカ‼︎
大っ嫌い‼︎‼︎」
ここまで読んで下さった皆様。
長い間お付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。
ここまで続けられたのは、応援して下さった皆様のおかげです。
全48話をもって、拙作におけるアイの物語は完結となります。
初めての執筆活動故に、『ちょっと位は読んでくれる人いるかな』程度の気持ちで始めた拙作が、こんなにも沢山の方に手に取っていただけるとは考えてもみませんでした。
筆者程度の文才でも、多くの人を惹きつける『推しの子』『ボーボボ』両作品の偉大さを改めて感じている次第です。
今後、続きを書いていくかどうかや、別の作品を書くかどうかは全くの未定ですが、もし拙作の更新や別作品が目に留まりましたら、またお手に取っていただけますと幸いです。
最後に、改めて拙作を手に取っていただき、誠にありがとうございました。
拙作を読んで、少しでも両原作の魅力を感じてくれた方、少しでも笑っていただけた方がいらっしゃれば幸いです。
モドラナイッチ