推しのボ   作:モドラナイッチ

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第二章:芽吹く才能
奥義:49最悪だ


『最悪だ。』

 

 SNS上のたった一つのアカウントによって投稿された、たった一つのコメントを皮切りに、とあるニュースに対する世間の印象は厳しいものが多くなっていった。

 

 

 

『元B小町のアイと劇団ララライの人気俳優カミキ ヒカルの結婚、及び自分達の間に子供がいる事実の公表』

 

 苺プロとララライによってそれぞれなされた発表に対するネット上の反応は様々なものが有った。

 美男美女同士お似合いとして祝福する者_

 二人がそういった関係であった事を驚く者_

 子供の年齢如何によっては、10代で出産した可能性に対する否定的な意見を出す者_

 それぞれのファンであった事から、結婚相手となった双方に対する醜い嫉妬を吐き出す者_

 若くして母親となった少女をアイドルとして利用し続けた事務所の姿勢に疑問を呈する者_

 そして、アイドルでありながら恋人がいるどころか出産までしているアイに対して、『ファンに対する裏切り』としてネガティブな意見を書き連ねる者。

 過激な意見というのは必然目立ちやすく、それに脊髄反射的に反応する者達によって更に二人への否定的な意見が相次いでいく。

 『既に子供がいる』というスキャンダラスな情報から、かつてのアイの殺害未遂事件の犯行動機とも関連性が有るのではと推測する声も重なり、邪推が邪推を呼ぶ悪循環に歯止めが効かない状態となってしまったのだ。

 二人の素性や妊娠の経緯を知らないどころか、さして興味すら無い者達が愉快犯的に騒ぎ立て、民衆の意識が彼らと同じ方向となるのも致し方ないのかもしれない。

 二人のファンですらない『大多数の人間』にとっては、このニュースに対する世間の声を見聞きした二人の感情等文字通り『他人事』であり、このニュース自体も日々の生活に不満と退屈を感じる人々にとってはただの『刺激』にしかなり得ないのだから。

 

 そんな中で行われたのが、アイと壱護が出席した記者会見であった。

 多くのメディアが参加し、そして多くのB小町ファンが画面の向こうから行方を見守る会見の場にて、まずは壱護から改めて事務所としての公式見解が説明される。

 前提として、事務所としてはアイドル活動中においても、メンバーに対してプライベートにおける恋愛の制限はしていなかった事_

 アイとヒカルの関係については、苺プロ側、ララライ側双方で認識していた事_

 妊娠した事については、事務所側は勿論の事、当人達にとっても想定外の出来事であった事_

 妊娠初期に報告を受け、その上で当人達の意思表示の下、出産すると決めた事を語っていく。

 

 これによって、事務所側からファンに対する『タレント同士の自由恋愛を束縛してはいない』というスタンスを明確に示した事になる。

 アイドルを抱える事務所の多くは、業界の慣例としてメンバーに対する恋愛の制限を課す事が有るが、それは決してあらゆる事務所が絶対に施行しなければならないルール等ではなく、苺プロ側が『ウチはウチ』と言ってしまえばそれまでなのだ。

 しかし、これで話が済む筈が無いと言わんばかりに、一人の記者から質問がなされる。

 事務所の方針は理解した。

 では妊娠が発覚しても尚、アイがアイドルを続ける決断をしたのは何故なのか_と。

 

 ファン、逆に二人に対する悪感情を抱く者、そして大多数の中立の者達が答えを求める点はここであった。

 彼女が『体調不良』という名目で活動を休止していた期間、今となってはそれが出産の為の準備であった事に疑いの余地は無い。

 当時の二人の年齢を考えれば、母子の健康面は勿論だが経済的にもリスクの大きい決断と言わざるを得ないだろう。

 今でこそ、二人共芸能界において一定の地位を確立するに至っているが、当時は寧ろこれからスターダムへとのし上がろうという段階であった。

 当時の年齢を考えれば、他に収入源を探すのが難しかったヒカルが俳優業を続けるのはまだ理解が及ぶが、アイがアイドルに拘る必要は無かったと言っていい。

 結果的に収入の総額は少なくなるだろうが、苺プロに籍を残すとしても事務職に転向する等、より安定した手段は有った筈である。

 親となった事が功を奏したのかは定かではないが、結果だけを見ればアイは復帰後もファンを魅了し、ヒカルも演劇の世界で着実に実績を積み重ねてはいる。

 しかし、生まれたばかりの子供と共に過ごす時間を犠牲にする事や、秘密が露呈するリスクを考えれば、決して賢い選択だとは言えないだろう。

 事実としてアイの殺害未遂事件が発生しているのだから、『結果的に上手くいったからいいだろう』で済ませる訳にもいかない。

 それでも尚、その選択をしたのは『苺プロ側が金儲けを優先したから』_世間はそう考えているのだ。

 

 回答の為にマイクを取ろうとした壱護を、アイが制する。

 自分の口で語る_そんな覚悟が見える彼女の表情に、その意思を尊重したかの様に視線を逸らす壱護。

 彼女が記者達へと向き直った事で、彼女の両の鼻の穴からぶら下がった『鼻毛ちゃん』がぶつかりカチンと音を鳴らした。

 数名の記者が目を背けているが、何か気になる事が有ったのだろうか。

 

「勘違いをして欲しくないので、ハッキリさせておきたいんですけど...。

 出産後もアイドルに復帰する事を選んだのは、私の意志です。」

 

 俄にざわめき立つ記者達。

 中継を見守っている者達も同様の反応だろうか。

 何しろ、この発言によってそもそもの前提が変わってきてしまうのだから致し方あるまい。

 これまでの批判意見の考えは、その殆どが『母親となってしまった少女を尚拘束し、商売の道具とした苺プロ、そして芸能界の闇』という前提の下に成り立っている。

 しかし、これがアイ自身の決断が優先された結果となっては、事務所側を責める事は難しい。

 

「質問よろしいでしょうか。

 つまり、アイさんはカミキさんとの関係やお子さんの情報が露呈するリスクを承知の上だった、という認識で間違いないでしょうか?」

 

 そんな人々の考えを代弁するかの様な記者からの質問にも、アイの表情は変わる事が無い。

 想定内の質問であると言わんばかりだ。

 

「その通りです。

 社長は私達の決断を応援して下さいましたが、創設メンバーの三人に説明した時には、『せめてどっちかにするべきじゃないか』って言われました。

 当然ですよね...。

 『彼氏がいて、子供までいるアイドルなんて受け入れられる訳がない』_

 『そもそも、子育てはどうするんだ』_

 それについては何も言い返せないですし、『あの事件』で私だけでなく子供達の命も危険に晒されてしまった...。

 母親としても、アイドルとしても、駄目な奴だなって自分でも思います...。」

 

 そこで彼女は一度言葉を区切る。

 世間の反応等、彼女にも簡単に想像が付いていた。

 新野、高峯、渡辺の三人の反応は、当然のものであろう。

 彼女自身の口で説得した三人でさえあの反応であったのだから、事情を知らない者達が聞いてポジティブな反応を期待するのは流石に楽観的過ぎる。

 

「それでも...、意図したものじゃなかったけど...。

 好きな人との間に出来た命も、自分の好きな仕事も、諦めたくなかった...。

 皆さんが、アイドルや芸能人にどんなイメージを持ってるかは分からないですけど...。

 私達にも、こういう欲張りで汚い生身の部分が有るんだって事は分かって欲しいです...。」

 

 彼女が語った想いに静まり返る会見場。

 ここで一度、『アイ』と『カミキ ヒカル』というタレントとしての名前を無視し、事実だけを見るとどうなるだろうか。

 『年若い男女の間に意図せず子供が出来てしまったものの、双方合意の上で出産を行い、その後折を見て結婚する』_ただ親としての責任を果たそうとする二人の若者がいるだけであり、非難される謂れはない。

 こうなってしまうと、『中立の者達』は一気に二人への同情と応援の気持ちを強めていく。

 もし自分が同じ立場になったとしたら、それでも尚彼女の決断を断固として否定出来る程強い意志を持った者等、その中にはいないからだ。

 

「...最後に一つだけ...。

 アイさんは秘密を守り通しながらアイドルとしての活動を終えましたが、ご家族やメンバー、ファンに対してどういった感情を抱いていたのでしょうか?」

 

 その質問に、アイは脳裏に自身の周囲の人々、そしてライブ中の光景を思い浮かべていく。

 取り繕わずに言葉を発するには、この方法が手っ取り早い。

 カメラに目線を合わせる事すらなく、鼻毛ちゃんを指で弄びながら頭の中に浮かんだフレーズを言い放つ。

 

「愛とか友情じゃん?」

 

 その台詞が出てからの事態の動きは早かった。

 彼女の言葉がB小町ファンの心のエナメル線に届き、一気に祝福の声をSNS上に溢れ返らせたのである。

 一部には『意味が分からない、ちゃんと説明しろ』等といった意見も存在したが、少数派の声だけで世間の祝福ムードを塗り替える事は叶わなかった。

 

 

 

「ほんっと...、最悪...。」

 

 自身が置かれた現状に対し、少女_有馬かなは端的に不満を口にした。

 自身の前のテーブルにはCDのケースが積まれ、ご丁寧に『有馬かな NEWシングル』の文字が印刷された貼り紙と共に、ここで何が行われているのかを示している。

 切っ掛けは、かつての彼女が野菜達によって磔にされたCMであった。

 件のCMにて使用された彼女が歌った楽曲『ベジータ・ブート・キャンプ』なるものが、予想以上に人気を博してしまったのだ。

 歌唱レッスン等受けた事が無い彼女からすれば、『下手な奴に歌わせる方が悪い』と言いたくなる様な仕上がりだったのだが、独特の曲調と今よりも更に幼かった彼女の声質が上手い事中毒性を生み出していたのか、ジム等のトレーニング施設や子供の運動会等に使用されるケースが相次いだらしい。

 問題はその後で、何をトチ狂ったのか『有馬かなに他の曲も歌わせてみよう』等と言う話が持ち上がってしまったのだ。

 その結果が、新曲発売のイベントにも関わらず閑古鳥が鳴く悲惨な状況なのだから、先の彼女の不満も致し方ないだろう。

 会場のスタッフとして配置されていた大人達も、居た堪れない空気に耐え切れなかったのか別の場所へと移動した様だが、彼女としても下手に気を遣われるより一人にしてくれる方がありがたい。

 願わくば一分一秒でも早く時が過ぎて欲しい_そんな現実逃避と共に俯く彼女に人影が重なる。

 スタッフの誰かが様子を見に戻ったのだろうか_冷めた目線をその何某に向けると。

 

「ほー、『有馬かな』ってやっぱ実物見ても可愛いもんだなぁ...。」

 

 そこにいたのは、謎のゼリー状の体を持つ物体であった。

 未知の存在に呆気に取られるかなではあったが、スタッフ以外の者がこの場にいる事の意味を思い出し、すぐさま佇まいを直す。

 

「えっ、あっ、えっと...。

 あ、ありがとうございます...。」

 

 客が来る等とは思っていなかった故に、咄嗟に来場してくれた事に対する礼を述べるが、直前の彼の言葉を思い出し後悔する。

 『可愛い』と言われてそれを否定する事なく礼を述べては、ナルシストと受け取られかねないと考えたのだが、目の前の人物は気にする素振りも見せずにCDを一つ手に取り始めた。

 

「...あ、あの...、何で私のCDなんて買おうと...?」

 

 これからそれを買おうとしている者に対して言う事ではないのは百も承知であるが、彼女としても聞かずにはいられなかったのだ。

 今回の曲に関しては、流石に一曲目よりはまともに歌える様にとレッスンを受けて臨みはしたものの、『有馬かな』のファンが自分の歌唱力に興味が有るとは考え難いのが彼女の本音である。

 これが例えば写真集等であれば、多少反応は違うだろうかと自惚れる事も出来るが、流石に今回の企画は畑違いにも程があると言わざるを得ない。

 

「ああ、ちょいと知り合いに頼まれてな。

 嬢ちゃんもボーボボの事は知ってるだろ?」

 

 彼の口から出てきた名前に目を見開くかな。

 『知ってる』どころではない相手だけに、急激に気分が上向くのを自覚する。

 ところ天の助というらしい目の前の彼曰く、この日は別件で動けないボーボボの代わりとして来場したとの事だ。

 

「そ、そうなんだ...。

 おじさん、まだ気に掛けてくれてたんだ...。」

 

 ボーボボとはかつてのCMでの一件以降会う機会が無かっただけに、彼が自分の動向、それも本業ですらない活動まで把握してくれている事実に、喜びと安心感がない混ぜになった感情に包まれるかな。

 今思い返してみても、あの時の自身の振る舞いは幼稚が過ぎるものであっただろう。

 今でもあの少女_黒川あかねに対し『負けたくない』という気持ちは消えてはいないが、それはそれとしてあんな事をした人間と関わりたいと思う者が少ないだろう事は彼女も理解している。

 

「...にしても、俺こういうイベントってあんま来ないから分かんねえんだけどよ...。

 基本、こういうもんなのか?」

 

 背後を見遣った天の助の言葉に、彼が言わんとする事を理解し再び表情が硬くなるかな。

 客観的に見た『有馬かな』の知名度と現状のギャップ故の発言ではあったのだが、何気ない言葉だからこそ心に来るものが有る。

 周囲を見渡し自分達以外に誰もいないのを確認した彼女は、溜め込んでいたものを吐き出していった。

 

「...人によるって言ったらそれまでですけど...。

 少なくとも、私じゃあこんな風になるんじゃないですか...?」

 

 初対面の相手にこんな事を言ってしまうのもどうかと思うが、もう一度会う機会が有るかも分からない相手だ。

 これで彼が離れていくなら、それはそれでまた気楽な一人に戻るだけである。

 

「そっか...。

 一応、俺も試聴はしたけど悪くないと思ったけどなぁ...。

 まあ、今はダウンロードとかも出来るからか...。」

 

 予想以上に暖かい反応が返ってきた事に戸惑うが、かつてボーボボもこんな調子で自分を励ましてくれた事を思い出し、より誠実に対応しようと考えを改める。

 この場限りの出会いではあっても、こうして自身に向き合ってくれる相手に感謝する位の心の余裕は失っていない。

 

「と言うより、『求められてない』って方が正しいと思います...。

 天の助さんだって、おじさんに頼まれなかったら態々子役が出した曲なんて聴こうとは思わないんじゃないですか?」

 

「あー、そういう感じか...。

 確かに俺も、ボーボボから話聞いた時は『何でCD?』とは思ったな...。」

 

 苦笑いと共に出した言葉に対する彼の正直な反応は、彼女にとってもありがたいものだ。

 ここで変に気を遣われても、現状が変わらない以上はお互いに気まずくなるだけであろう。

 そんな彼の態度が気に入ったのか、内情を語り始める。

 

「私が前にCMに出た時に歌った下手くそな曲が妙に人気が出ちゃったみたいなんですよ。

 子役としての仕事が少なくなってたのもあって、大人の人達が何とかしようとしたんじゃないですかね...。

 まあ、経験しといてもいいかなって思ってやってみたら、こんな感じですね、ハハハ...。」

 

 自分で言っていて悲しくなるが、これが現実だ。

 子役としての『有馬かな』の賞味期限は着実に切れかかっている。

 

「そんなになのか?

 子役の世界の事はよく分からんが、『天才子役』なんてのがすぐに出てくる訳じゃないんだろ?」

 

「もっと単純な話ですよ。

 小学生以下の役を私が演るのは、どう頑張っても無理だって話です...。」

 

 天才子役_久しぶりに聞いたそのフレーズをまだ自分に対して言ってくれる者がいる事を嬉しく思うかなが、寂しげに語った現実に天の助は言葉を失ってしまう。

 成程、体が成長していけば自ずとその時期に合う役を割り当てられるのは当然の事だろう。

 ましてや小学生ともなれば、多少の差はあれど、どんどん体が成長していく世代である。

 加えて小学生以下の頃と比較しても、児童劇団に所属する様な子供も増加し、一つの役に対しての競争率が上がってしまうのは想像に難くない。

 かと言って、演技力にものを言わせたとしても、彼女の背丈で小学校高学年の役を演じるのは無理がある。

 こう考えると、周囲の大人達が別の道を模索しようとするのも分からなくはない。

 

「なんつうか、このイベントもそうだが結構シビアなもんなんだな...。

 俺はてっきり、それなりの実力と知名度が有る奴ならある程度は客が来るもんだと思ってたんだが...。」

 

 天の助に他意は無いが、どうしてもその言葉は彼女にとっては皮肉に聞こえてしまう。

 尤もこれは、彼から見た『有馬かな』への率直な印象に加え、彼の周囲にいる芸能人達を軸に考えてしまっている為であり、ここまで顕著に需要の差が出る事が想像出来ないだけだったのだが、そうは言っても言われた側としては面白い筈がない。

 

「そりゃあ、『本当に実力が有る人』だったらそうなるんでしょうけどねー...、『あの人』みたいに。」

 

 分かりやすく不満を示した彼女が指差した先を天の助が見遣ると、向かいのビルの街頭ビジョンには彼もよく知る顔が映っていた。

 

『愛とか友情じゃん。』

 

「ハハハ、確かにアイツは凄えな。」

 

「笑い事じゃないですよ。

 『これ』の発売日が丁度『あの会見』と丸被りで、完全に向こうに話題を持ってかれちゃったんですから...。」

 

 画面に映る女性_アイと長い付き合いである天の助はケラケラと笑うが、それによってただでさえ期待が出来なかった企画の初動すら潰されてしまったかなとしてはたまったものではない。

 歌手活動は本意ではないが、一つの企画を成功させる為に多くの人間が心血を注いでいる事は彼女も理解しているのだ。

 自分が歌手としてどう評価されるか等どうでもいいが、せめて及第点程度の評価を下せる位の成果が出なくては周囲の大人達に申し訳が立たない。

 大人の、母の失望の表情を見る度に増えてきた心の傷をこれ以上増やしたくはない_自分を守ってくれる者がいない世界でもがく少女の、世界に対する精一杯の悪態であった。

 

「私、所謂潮時ってやつなんですかね...。」

 

 普段は口に出せない事を話せたからであろうか。

 内に秘めた弱音を吐露していく。

 まだ年齢的にも仕事が一切無くなるという事態にはならないだろうが、遅かれ早かれ周囲が自身を子役として扱う事はなくなるだろう。

 それならば、いっその事人気と知名度が残っている間に身を引いた方が、綺麗な思い出として残るのではないか_そんな思いからの言葉であったが。

 

「...嬢ちゃんが何もやりたくないって思うんなら、それも一つの手だろうな。

 みっともなくしがみ付いてても、笑われるどころか誰にも見向きもされないかもしれねぇ...。

 『いつか花開く時が来るから頑張れ』なんてのは、無責任過ぎる話だからな。

 でもな...、本当に『その時』が来たら、その成果は全部足掻き続けたそいつのもんだ。」

 

 初対面である以上、彼の過去等かなには知る由もない。

 だと言うのに、何故かその言葉に妙な説得力を感じるのだ。

 彼もまた、足掻き続けた末の光景を見たのかもしれない。

 

「...私、役者を続けたいです...。

 もっと色んな役を演ってみたいし、子役じゃなくても凄いんだって思って欲しいです。」

 

「なら、答えは一つだろ。

 って事で、俺から一つ提案が有るんだよ。

 『コイツ』を歌ってくれねえかな。」

 

 自身の決意を受け止めた彼が懐から出したものを訝しむかな。

 CDを取り出してからの先の発言からして、何かしらの曲なのだろうが、一体自分に何を求めているのだろうかという気持ちになる。

 先程迄の会話の手前、それで仕事のチャンスが増えるのなら取り組む事に異存は無いが、流石に素人の持ち込みで事態が好転する程甘くはないだろう。

 

「これを歌えば、国のお偉いさんの受けも良しで好感度も上がるだろ。

 何か気になる事が有ったら、この番号迄連絡してこいよ!

 んじゃ、頑張れよ‼︎」

 

「えっ、ちょっと、これ本気ですか⁉︎」

 

 その言葉と名刺を残して立ち去っていく天の助に、彼女も呆然としてしまう。

 最悪歌う事自体は構わないのだが、CDケースに入っている紙に書かれた曲名と思われるそれは、正直需要が存在するとは思えない。

 何なら今すぐにでも名刺に書かれた番号に問い合わせたい位だ。

 

「『東京ところてんコミュニケーション』って...、大丈夫なのこれ?」




 感想にて続きを望んでくださる方がいらっしゃり、大変嬉しい気持ちです。
 本話から、アクアやルビー達の世代の成長(妄想)を描いていこうと思います。
 また、暇潰しとして楽しんでいただけましたら幸いです。
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