推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:51『アクア』と『吾郎』、『ルビー』と『さりな』

「なー、何で聞いてやんないんだよー...。

 この左目の傷の事をよー...。

 ちゃんと聞けよー...。」

 

「ごめんね、今そういうタイミングじゃないから。」

 

「何でー...。

 前の話の終わり、皆凄い聞きたそうだったじゃーん...。

 急に冷たくしないでよー...。」

 

 自身の左目に走る傷痕にさして興味が無い様子の周囲の面々に、首領パッチと共に体をくねらせつつ抗議の声を上げるルビー。

 普段であればこういった場面で乗ってきそうなボーボボにすら無視されている現状に困り顔を見せる。

 

「アクアにも話を聞かないといけないから、ルビーとパチさんにばっかり尺を使えないの。」

 

「前の話からちょっとはしゃぎ過ぎだよ。

 今は真面目な話をする時間だから、そのシール外してそこに座って。」

 

「...あ、ハイ...、ごめんなさい...。」

 

 両親から窘められしおらしくなったルビーが、左目に貼っていたシールを剥がし席に着き、残されたバカがアイによってトイレと浴室の掃除を指示された事で、部屋の空気は一気に厳粛なものとなる。

 これから話す内容を考えると、邪魔な要素を排除し会話に集中したいという所だろう。

 

 

 

「それで、まずはルビーに聞きたいんだけど、さっきあなたの隣に現れて合体?しちゃった人と、何か関係が有ると思っていいの?」

 

「何というか...、イタコって言うんだっけ?

 降霊術っていうのとも違う感じだったけど...。」

 

 ルビー以外の面々が知りたがっている事を、代表してアイが彼女へと問い掛ける。

 結局、先の一幕における彼女と首領パッチの行動については、その内容も意味も分からず仕舞いになってしまったものの、少なくとも『死者の姿が複数人にハッキリと視認出来る程に具現化し、生者に話し掛け、挙げ句の果てには何らかの力によって生者と一体化する』等という現象が発生した事実は認めなければならない。

 ポコミの言う降霊術の様に、彼女の体を依代としている様には見えなかった事も、現象についての想像を難しくしていた。

 彼女の様子や具現化した『彼女』が語り掛ける様子からして、決して悪いものではないと信じたいが、せめて彼女に悪影響が有るのかだけでも把握したいのだろう。

 そんな問い掛けにルビーは一度アクアと視線を合わせると、先程迄の雰囲気はどこに行ったのだと言わんばかりに落ち着いた雰囲気を醸し出す。

 

「信じて貰えるかは分からないし...、そもそも私自身も未だによく分かってないのが正直な所なんだけど...。

 あれは敢えて言うなら、『もう一人の自分』って感じかなぁ...。」

 

 その言葉に他の面々が胡乱げな視線を送るのも致し方ないだろう。

 『星野ルビー』と『彼女』は、間違いなく赤の他人である筈だ。

 先の奇怪な現象が、生前の『彼女』と親交の有ったポコミやアイの危機等に際して発生するという方がまだ理解出来る。

 ましてや彼女が生まれる遥か前に亡くなっている相手を『もう一人の自分』と称するのは、余りにも突飛な発言だろう。

 

「私には、『天童寺さりな』としての記憶が有るの。

 所謂前世ってやつなんだけど...。」

 

 自身の言葉を聞いて押し黙る一同に苦笑いを浮かべるルビー。

 いつか自身の秘密を明かす日が来る可能性に備え、アクアと共にシミュレーションを行ってはいたものの、やはりと言うべきか非常に居心地が悪い。

 

「前世...、さりなちゃんがルビーの...。

 それじゃあ、『あの時』二人が現れたのって...。」

 

 一方のアイとヒカルも、娘の発言を与太話と切り捨てられないだけの経験が頭の中に残っていた。

 出産直後に我が子が人形にされたかと思えば、今度は見知った人間が姿を現したあの日の出来事は、結局どういった現象だったのか分からずにいたのだが。

 

「...ルビーちゃん、ゴメンね...。

 あなたを疑いたくはないんだけど、その人は私達にとっても大切な人だから...。

 あなたがさりなちゃんだっていう証拠は有るのかな...?」

 

 思案するアイ達を横目に、ポコミがルビーへと発言の証左を問い掛ける。

 彼女達の感情を別にしても、死者の名を軽々しく語る事は褒められた行為ではない。

 ルビーの様子からして、彼女が酔狂で先の発言をした訳ではないのは察せられるが、自分達にとって大切な人物の名を出すだけの根拠を示してもらいたいのだ。

 

「うん...。

 勿論だよ、『ポコミちゃん』。

 二人共、ちょっと耳寄せてくれる?」

 

 ポコミを含めた周囲の面々の反応に対し、ルビーはそれを想定内の事態とばかりにかつての友人達と顔を近付けていく。

 

「ポコミちゃん、まだ小学生の頃からお兄さんの理想の結婚式を勝手に考えてたよね。」

 

「ぐふぅ⁉︎」

 

「うわぁ...。」

 

 それは吾郎すら知らない、ポコミがさりなだけに溢した当時の兄への歪んだ愛情であった。

 彼女の過去を聞かされた今でこそ、互いに辛い経験を乗り越えた兄に、人並みの幸せを手にして欲しいという感情を読み取る事は出来る。

 善滅丸の治療の為か、彼女の中で自罰的な感情が強い時期であったからこそ、自身の周囲の人間の幸福に敏感になっていたのだろう。

 とは言え、当時のさりなから見れば友人の兄ではあっても会った事も無い赤の他人であると言わざるを得ず、彼女自身も過去の振る舞いを『黒歴史』と捉える程度には精神的に成長していた。

 流石のアイも友人のブラコン振りに引いた様子だが、当然ターゲットには彼女も含まれている。

 

「アイちゃん、丁度秋位だったかなぁ。

 急に病院まで連絡してくるからどうしたのかと思ったら、いきなり『男の人が好きそうな食べ物って何だと思う?』なんて聞いてきたからびっくりしたよ。

 良かったね、『パパの好物』になって。」

 

「...。」

 

「似合わねー、乙女全開かよ...。」

 

 羞恥に包まれ両手で顔を覆うアイの意外な一面に、ポコミが冷めた視線を送る。

 そこまで行動に移していながら、結局妊娠するまで互いの気持ちに素直になれなかった等、当時近くにいた者達はさぞやきもきした事だろう。

 無論、ヒカル側の感情も大いに関係していた事から、決して彼女だけの責任ではないが、そんな状態でよくも『好きなのかが分からない』等という態度を取れていたものだ。

 当時の彼女からすれば、自分の周囲の人物との関係性が精々ポコミとのものしか無く、かつ他人に吹聴する様には見えない故のさりなという選択肢を選んだのだが、入院生活を続ける人間にする相談かと聞かれると頭を傾げてしまうのが正直な所である。

 

「えっと...、二人の様子からすると、ルビーの話は本当って事でいいのかな?」

 

 会話に交ざれなかった故に様子を見守る事しか出来ていなかったヒカルの質問に二人が首肯を返した所で、ルビーも自身が座っていた席へと戻っていく。

 仮にさりなが情報を漏らしていたとして、最も可能性が高いと思える相手であるお互いの反応が、逆説的に彼女の口の堅さを示していた為だ。

 そうなると、さりなしか知らない筈の情報をルビーが持ち得ている事を認めざるを得ない。

 反証を提示出来ない以上、一度彼女の言葉を真実であると仮定してアクアの方にも話を聞く方が建設的である。

 

 

 

「それじゃあ、次はアクアの方に聞きたいんだけど...。

 ズバリ、君にも前世の記憶が有るのかい...?」

 

 ヒカルの質問が恐る恐るになってしまうのも致し方ないだろう。

 妹に前世の記憶が残っているなら、双子の兄にももしや_考え自体は自然ではあるが、ルビーの時とは違いその根拠が有る訳でもなく、どこの誰から記憶を引き継いでいるのかも分からないのだ。

 ルビーの場合は、まず彼女の隣にアイとポコミにとっての亡き友人が姿を現すという現象が先に起こっており、アイ達の方も現象自体を不思議には思いつつもネガティブな感情を抱いてはいなかった。

 ポコミが『降霊』の可能性を考えた様に、見ようによっては『亡き友人が娘に力を貸してくれた』とも解釈できる内容であった故に。

 結果的に前世の記憶というとんでもない情報が飛び出しはしたものの、これも落ち着いて考えれば『二度と話す事が叶わない筈だった者との再会が実現した』と解釈出来る。

 しかしながら、そういった付加情報が全く無い状態ではどうだろう。

 『アクア』としての振る舞いから、彼が悪い人間でない事は察せられるが、やはり見知らぬ人間の記憶が有ると言われては戸惑ってしまうのが正直な所だろう。

 アクアの方もそういった感情を抱かれる事を理解しているのか、普段と然程変わりのない落ち着いた雰囲気で口を開いた。

 

「そうだね...。

 僕の中には、『雨宮吾郎』としての記憶が存在している。

 何故こんな事になってしまっているのかは、ルビー_さりなちゃんと同じで何一つ分かっていないのだけれどね...。」

 

 こちらから出てきた言葉に、再度一同は驚かされるが、一方でどこか納得した様な表情も見せていた。

 

「アクアの中にはせんせが...。

 でも、それならあの時の『あれ』も、最初から二人が中にいたって事だったんだね...。」

 

「そうだね。

 それに、雨宮先生の意識が有ったって分かったら、アクアの落ち着き振りにも納得がいくよ。」

 

 ルビーの時ともまた違う、予想外の落ち着いた反応に驚かされたのはアクアの方だ。

 彼から見れば、事前情報が全くない状態で秘密を明かした事もあり、より重苦しい空気になる事を想像していたのだが。

 

「その...、何か思い当たる節が有るのかな...?

 ルビーの時もそうだったけど、思ったよりすんなり受け入れている様に見えたんだけど...。」

 

 当然、彼としては周囲の反応の根拠を確かめざるを得ない。

 アクアとしての振る舞いも、結果を振り返ってその振る舞いのバックボーンに雨宮吾郎の意識が有った事で納得を見せるのは理解出来るが、そもそも自分の子供に前世の記憶が有るという状況に対してアイ達は非常に落ち着いた反応を見せていると言える。

 

「あ、その感じだと二人は覚えてない感じなのかな?

 二人が産まれてすぐにあった事なんだけどね。」

 

 そんな彼の疑問に反応しつつアイが語った出産直後の一幕の内容に、アクアとルビーは目を丸くする。

 互いに夢の様なものと考えていた光景が、実際に起きた現象であった故に。

 

「成程...、あれは夢じゃなかったのか...。

 ただ、何というか...、そんな事が有ったのによく僕らを疑わなかったね?」

 

 アイ達の受け入れが早い理由は理解出来たものの、そんな出来事の後にも関わらず自分達に疑いの目を向けなかった事に疑問を感じるアクア。

 前世の存在にまで考えが及ぶかは兎も角、特に自分の振る舞いは小学生未満の子供からはかなり逸脱したものであっただろう。

 

「うーん...、まぁ正直『凄すぎるよなー』とは思ってたんだけど...。

 親の遺伝で天才なのかなって!」

 

「流石ママだね!」

 

「...そう...、えっと、父さんの方はどうかな?」

 

 少々心配になる反応のアイと、彼女を微塵の疑いもなく肯定するルビーにポコミと共に微妙な表情を向けつつ、ヒカルへと水を向けるアクア。

 流石にアイよりは常識的な感性の彼から見た意見が気になる所だが。

 

「そうだね...、取り敢えず二人についてだけれど、確かに年齢に見合わない態度だって感じた事は有ったよ。

 ただ、流石にそこから前世なんてとこには考えが行かなかったし、特に僕の方は二人と一緒にいられる時間も少なかったから、手が掛からないという意味では本当に助けられた立場だから...。

 ...それで、僕らとしては今後二人にどう接すればいいのかな?」

 

「...私は...、二人に任せるよ...。

 『ルビー』としてこれからも生きていきたい気持ちは有るけど、『さりな』の記憶は今の考え方にも間違いなく影響してる筈だし...。

 それを気味が悪いって思われても仕方がないとは思うから...。」

 

 自身の見解を述べたヒカルの返しの質問に、まずはルビーが思いを語る。

 そもそも彼女からすれば、一時とは言え良好な家族関係の中で生活し、いくら望んでも手に入れる事は叶わなかった健康な体を得られただけで十分過ぎる程だ。

 アイドルになる事は確かに夢ではあるが、それが叶わなかったとしても、まだまだやりたい事は山程有る。

 ただ、これが本来の『星野ルビー』の意志なのかと聞かれると難しい所だ。

 本来はアクア_吾郎の様に前世と今世を切り分けて考えるべきなのだろうが、彼女の場合どうしても前世からの延長として考えてしまう所が有り、それを『アイとヒカルの子供の夢』としていいのかは微妙なラインだと感じてしまう。

 特にアイとポコミが自身の肉体と魂を分けて見ようとするなら『さりな』として扱われる事も考えられるだろう。

 それこそ自身で語った様に『気味が悪い』と拒絶されても文句は言えないというのが彼女の考えであった。

 

「...そっか...、ありがとう。

 アクアはどう?

 それこそ、『せんせ』からの意見が有るなら聞かせて欲しいけど。」

 

 彼女の言葉を一度受け止め、アクアへと水を向けるアイ。

 アクアと吾郎、ルビーとさりな、それぞれに対する認識を難しくしているのが、両人共に彼女にとっては前世から関わりの有る相手であるという点だ。

 いっそ全く関わりの無い相手であったなら、こちらとしてもあくまで今世の方を優先すればいいのだが、特にルビーの場合は元友人という関係上親子としての距離感を維持出来るのかが判然としない。

 判断の一助として、医学的な見地からの助言を願った形である。

 

「個人的には、今まで通り親子としての関係を続けるのが、お互いにとって健全だと思う。

 これは医学的な話になるんだが、思考や精神は体の成長に大きく影響を受けると言われていてね。

 そうすると、いずれ『アクア』と『吾郎』の境目が無くなっていくというのが僕の予想だ。」

 

 これは、アクアという特殊な例を軸にすると分かり難いが、成長と共に他人との関わりや意思表示が出来る様になってくるというものだ。

 『思春期になると異性を意識し始める』等が分かりやすい変化だろうか。

 アクア自身が第二の人生で実感した事で言えば、幼児期から30歳目前の成人男性の意識を持ち合わせていたにも関わらず、幼児期健忘からは逃れる事が出来なかった経験や、肉体の成長につれてかつての共演者である有馬かなや黒川あかねといった『天才』達との差を感じる様になってきている点が挙げられる。

 精神で言えば二回り以上年下を相手に劣等感を感じる辺りは、徐々に精神が体に適合しているという事だろう。

 アイ達が納得する中、指を一本立てて話を中断するアクア。

 自身の考察は決して確定事項ではない故に。

 

「ただ、これはあくまで僕の実感から考えた予想に過ぎない。

 この推測がルビー_さりなちゃんの方には当て嵌まらない可能性も有るんだ。」

 

 この言葉にはアイ達だけでなく、隣で聞いていたルビーも驚いた様子だが、続けて語られた彼の新たな推察に返す言葉を失ってしまう。

 曰く、『成長し、他人と関わっていく』という意味では、アクアと吾郎に然程の差は無いだろうが、これがルビーとさりなとなると余りにも両者のギャップが大きいだろうという考えであった。

 人生の六割以上を病院で過ごさざるを得なかったさりなから見れば、『学校に行く』『友人と遊ぶ』『目標に向け努力する』と言った事ですら貴重な経験になるのだ。

 『同じ二度目の人生だから』と一括りに出来ない以上、アイ達は勿論だがルビー本人にも伝えておくべき可能性であろう。

 

「色々と語ったけれど、最終的には二人次第というのはルビーと一緒だよ。

 流石にいきなり放り出されるのは困るけれど...。

 さりなちゃんには申し訳ないけど、やっぱり『吾郎』としては普通の子供を産ませてやりたかった気持ちも有るからね...。」

 

 

 

 二人の考えを聞いたアイとヒカルは、視線を交わすとどちらからともなく頷き合う。

 言葉を交わさずとも考えは同じという事が互いに伝わっていく。

 二人へと声を掛ける前に一つ呼吸を置いたアイが、ここまでずっと沈黙を保ってきたボーボボへと視線を送ると、彼からはいつも通りの笑みが返ってきた。

 きっと彼は、『何も言わずとも大丈夫』だと自分達を信じてくれていたのだろう。

 時には黙って見守るのも大人の役目という事か。

 

「二人共、話してくれてありがとう...。

 正直、前世の事は私達もどう考えるのがいいのかは分からないし、多分せんせ...、ううん、アクアが言った様にこれまで通りに接していくのがお互いの為なんだと思う。

 さっきヒカルも言ったけど、私達だって二人に沢山助けられてきた訳だし、そういう意味じゃ二人に前世の記憶が有ってよかったとも言えるよね。

 あとは...、逆に私やポコっちが二人の事を、特にルビーの事をだけど...。

 どうしても『さりなちゃん』として見たり、話し掛けてしまう時が有るかもしれない...。

 流石に、さっきの話を聞かなかった事にしてあなたの中の彼女を忘れるっていうのは難しいと思うから...。

 だから、その辺の距離感とか、お互いにされて嫌な事はちゃんと話し合ってこうね。

 私達、家族なんだし。」

 

 流石に一度に話すのは長過ぎた故だろうか、彼女が一つ息を吐くと共に部屋の空気が弛緩していく。

 例え子供達に前世の記憶が有ったとしても、それを知らずに過ごしてきたこれまでの数年間が嘘になる訳ではないのだ。

 アイは貝原に襲われたあの日、自分の身を呈してでもアクアとルビーを傷付けさせまいと庇い、ヒカルもまた異形と化した姫川に拘束されながらも、ボーボボへと願ったのは三人の身を守って貰う事だった。

 あの瞬間の行動に、家族への想いに嘘は無いと今のアイとヒカルは自信を持って言う事が出来る。

 そしてもし互いの言動に疑問を感じる瞬間が来たなら、その時は遠慮なく話し合えばいいのだ。

 そんな擦り合わせが出来る時間が、自分達にはまだまだ沢山残されているのだから。

 

 

 

「さてと、そろそろご飯の支度しないとね。

 今日は色んな意味で迷惑掛けちゃったし、おじさんとポコっちも食べてってよ。

 何なら今日泊まってく?」

 

「ママ、天才!

 ねぇポコミちゃん、そうしよ!」

 

「アハ、ルビーちゃん切り替え早いなー...。

 それじゃあ、折角だしお言葉に甘えちゃおうかな。」

 

 アイの提案を了承した事で満面の笑みを浮かべるルビーの姿に苦笑してしまうポコミ。

 先程の会話からものの数秒でアイを再び『ママ』と呼べる辺りは大したものだと思わされるが、或いは率先して『家族』として振る舞おうとしているのかもしれない。

 周囲に気を配り、少しでも笑顔にしようとするその姿は、彼女の中の記憶のままだ。

 

(やっぱり...、さりなちゃんには敵わないなぁ。)

 

「ハハハ、凄い喜びようだね。

 そんなにポコっちが泊まるのが嬉しいの?」

 

「うん!

 私、友達とお泊まり会って初めてだから!」

 

「相変わらずさらっと重い事ぶち込んでくるなぁ...。

 というか、これはこれでルビーとさりなちゃんの境目が無くなってるって事なのか...?」

 

「ま、まぁ、いっそこの位やってくれた方がお互いにやりやすいかもね...。」

 

 最早ルビーとさりなの感情がないまぜになっている様な振る舞いだが、それも一つの答えなのかもしれないと考えるアクアとヒカル。

 さりなとしての記憶が有る事も含めて、『星野ルビー』という一人の人間なのだと考えれば、一々前世の事まで深読みする必要は無くなってくるだろう。

 すると、そんな彼女の姿に思う所が有ったのか、ボーボボからアイへと声が掛かる。

 

「そういう事ならアイ、飯の準備は俺がやっとくから三人で少し話してろよ。

 色々積もる話も有るだろ?」

 

「えっ...、いやでも流石にそれは申し訳ないよ...。」

 

「俺がボーボボさんの事手伝うよ。

 ほら、ルビーが凄い目で見てるから。」

 

 ボーボボの提案は、アイにとってもありがたいものではあるが、流石に客人に家事を任せるというのは忍びない。

 彼女の背中に凄まじい期待を込めた視線を送る妹を見かねたアクアがとりなした事で、二人に謝罪のポーズを取りつつ娘と友人に合流していった。

 

「フッ、やるじゃねぇかアクア。

 流石は元『大人の男』だな。」

 

「揶揄わないで下さいよ...、ああなるとルビーも頑固ですから...。」

 

「ふふ、頼もしいね。

 それじゃあ、僕はパチさんの様子見がてら風呂の準備してきますね。」

 

 彼らのやり取りを微笑ましく思いつつ、先程から姿を見せない首領パッチの様子が気になったヒカルが浴室へ向かおうとした時であった。

 何故か和服を着込み、丁髷を付けた首領パッチが部屋へと入るなり頭を下げてくる。

 その顔は、心なしか普段よりも濃くなっている様に見えるが気のせいなのだろうか。

 

「家人不在の為、かかる日に充分な火をもっておもてなしも叶わず、申し訳なき儀に存ずる。」

 

「家人不在も何も、ここ僕らの家なんですけど...。」

 

 その出立ちと相まって妙に堅苦しい言葉遣いの首領パッチにヒカルがツッコむが、変わらず彼は爽やかな微笑みと共に言葉を続けていく。

 

「ついてはパチ次精一杯のおもてなしとして、熱き風呂を馳走申し上げたく用意致し置き申した。

 お受け頂けましょうや。」

 

「へぇ、流石首領パッチさん、気が利きますね!」

 

「...。」

 

 謎の言葉遣いは兎も角、彼の気配りにはアクアも素直に賛辞を贈る。

 星野家の面々は勿論だが、ボーボボやポコミの存在を考えれば風呂の準備は早いに越した事はないだろう。

 風呂の準備が出来ていると伝えたら、ルビーが「三人で入ろう!」と騒ぐ様子が目に浮かぶが、何故か父が余り反応を見せないのが気になる所だ。

 

「...パチさん、一応湯加減を見たいので連れてって貰ってもいいですか?」

 

「承知仕りました。」

 

 自宅の浴室等態々連れて行かれる必要はない筈である為、父の言葉に疑問を感じるアクアだが、そんな彼の肩が叩かれ、振り返ると何故か女子高生の様に制服を纏ったボーボボが立っていた。

 

「アクア君、今日の調理実習楽しみだね!」

 

(...気を配る事が多過ぎる...。)

 

 彼の姿に、無事料理を完遂する決意を固めるアクア。

 今日の我が家の平穏は自分に掛かっているという覚悟が見て取れる。

 首領パッチの方も気にはなるが、体は一つしかない以上父に任せるしかないだろう。

 

 

 

「我が屋敷唯一の自慢です。

 今日は柚子湯に致しました。」

 

 首領パッチが指し示した自宅の風呂には、確かに湯が張ってある様に見えた。

 季節ではないというのにどうやって手に入れたのか分からないが、確かに水面にいくつか柚子らしきものが浮かんでいる。

 

「へぇー、そうですか...。

 あっ、そうだ。

 湯加減見たいので、ちょっと失礼しますね。」

 

「えっ、ちょっと、ヒカル殿?」

 

 笑みを浮かべつつ自身を鷲掴みにして浴槽へ近付いていくヒカルの姿に慌てた様子の首領パッチ。

 そんな彼の体は無情にも浴槽へと放り投げられてしまう。

 

「折角なので、一番風呂どうぞ。」

 

「あひゃひょわーー‼︎」

 

 浴槽に浸かった瞬間、跳ねる様に脱出すると魚の様にのたうち回る首領パッチ。

 ヒカルがその原因となる浴槽に浮かんでいるものを一つずつ取り除いていく。

 

「こんなに氷浮かべて壊れたらどうしてくれるんですか、全くもう...。」

 

「疑って安全を保つより、信じて裏切られた方が良い...、そうではござらぬかヒカル殿...?」

 

「僕、パチさんの事信じてないですから。」

 

 

 

『あひゃひょわーー‼︎』

 

「⁉︎ な、何だ今の...?」

 

「そんな事よりアクア君、これ味見してみてくれる?」

 

 浴室の方から聞こえた奇声に驚くアクアだが、ボーボボの声が掛かった事も手伝い再び料理に集中していく。

 存外、夕食の準備は滞りなく進んでいるが、刃物や火を扱っている事を考えれば、他の事に気を逸らすのは危険だ。

 包丁で材料を刻む彼と、鍋をかき混ぜるボーボボ。

 出立ちこそ奇妙ではあるが、精神的には大人の男同士でこうした静かな時間を過ごすのも悪くはないと感じた時であった。

 

「ねぇ、アクア君...。」

 

「...何でしょう?」

 

「二人の前世の事、最初から知ってたって言ったらどうする?」

 

「⁉︎ いってぇ⁉︎」

 

「もーう、ダメだぞアクア君。

 刃物握ってる時によそ見したら危ないでしょ!」

 

「誰のせいですか、全くもう!」

 

 本気なのか冗談なのか分からないボーボボの一言が切っ掛けで負傷した指を水で洗いつつ、彼へと恨み節を送るアクア。

 星野家の平穏を保つ為、まだまだ彼の気苦労は絶えないのだろう。

 

「アクア君、これからあーくんって呼んでもいいかな?」

 

「絶対嫌です...。」




 以下、原作のアクアの考察シーンやルビーの描写を基にした、本話においての二人が前世について語るシーンの考え方です。

 前世における二人の死亡時の年齢も関係しているのだとは思いますが、一応は医師として就職するまでの人生経験が有ったアクアと違い、ルビーの場合は前世の経験が余りにも乏しく、ほぼ『一周目』と変わらない感覚なのではと考えました。
 ただし、ルビーの方はそもそもの前世でのアイとの関係性が変化している事や、原作よりも吾郎の死やアクアの正体について知るタイミングが大幅に前倒しされており、アクア程ではありませんが原作よりは『ルビー』と『さりな』を区別して考える様になっています。
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