予めご了承いただけますと幸いです。
「うわぁ...、凄い...。
見てアクア君、本当に海の上に街が有るよ...。」
「...知識では知ってたが、実際に見るととんでもない所なんだな...。」
飛行機の窓から見える圧巻の光景を、隣の席に座る少年_星野アクアと共有する少女_黒川あかね。
彼女の感嘆の声にアクアも素直に同意する他ない。
彼らを含めた複数人が、空路を使い目指しているその場所の事は、彼も前世の頃より存在自体は認知していたものの、自分の目で見るこの瞬間迄はどこか御伽話の様に感じていた故に。
海上都市_人工の地盤の上に建設された、完全に人の手によって生み出された土地の上に、近未来的なビル群が並ぶ光景。
日本にもかつて東京湾近郊にそういった都市を建造する計画自体は存在したらしいが、地震や津波の影響は如何ともし難いようで、仮に実現するとしてもずっと先の話なのだろうとアクアは考えていた。
『サイバー都市』。
帝王を自称するギガによって統治されている事実上の都市国家であり、ギガの呼称から『サイバー帝国』と称される事も有る。
超高度なテクノロジーと『とある物』によって生み出される莫大なエネルギーによって運用されるその都市は、旧マルハーゲ帝国属下の時代と比較するとまるで違う場所の話をしているかと思える程の変化を見せていた。
かつてギガの直属の部下である『電脳6闘騎士』によって管理、運営されていた処刑施設はアミューズメント施設へと生まれ変わり、著しく制限されていた都市内外の人の出入りは非常に活発なものとなっている。
そもそもの処刑対象が、都市内の犯罪者及び旧帝国への反逆者を利用した富裕層向けの見せ物であり、それを利用して毛狩り隊や都市の運用資金として循環させる目的が有った。
結果、帝国との関係が消滅してしまえば、ギガがそれを続けるメリットは皆無と判断するのは当然の事であろう。
そんなサイバー都市をアクア達が訪れている理由、それは同都市で開催される児童から学生に至るまで幅広い年代向けの総合芸術文化イベントに参加する為である。
その内容たるや多岐に渡り、少年少女達が実際にオブジェや陶器等を製作する体験会から、電脳6闘騎士の一人『詩人』が管理する書庫の解放等、様々な『芸術』に関わる施設を利用する事が出来るのだ。
入場料さえ払ってしまえば、様々な芸術の世界を堪能出来るこのイベントは、当然それらの道を志す者にとっては貴重な体験であり、また都市側から見ても重要な収入源たり得ている。
アクア達の場合は、劇団ララライとハレクラニとのコネクションを利用し、『ハレクラニからの推薦』という形でこの場所を訪れている。
先のワークショップにおける課題は、このイベントに参加する者を選定する狙いが有ったのだ。
(...この面子の中に私が入る資格なんて有るのかしら...。)
そんな推薦枠の一つを勝ち取った少女_有馬かなは、自分がそれに選ばれた理由に疑問を感じてしまう。
彼女とアクア達、そこに上原大輝を加えた四名がサイバー都市を訪れる者として選ばれたのだが、イベントの趣旨を考えた場合、自分がそれに参加する意義がどれだけ有るのかが分からないのだ。
ララライの思惑を『将来性を感じる若い才能を伸ばす為の投資』だと考えた場合、他の三人と比較しても『有馬かな』という存在は良くも悪くも完成度が高過ぎる存在故に。
無論彼女とて、自分にはもう成長する部分が残っていない等と自惚れるつまりはないが、それが今回のイベントによって劇的に変わるとは思えないのだ。
他の三人、特にあかねと大輝が選ばれた理由は実に明快である。
自身が叩きのめされたあかねの演技は、あれでもまだ未完成だと答えざるを得ない。
対象への分析と考察の精度に関しては、その類稀な役者としてのセンスと合わさり非常に高度な代物であるが、現実としてあの時アクアの助けが無ければ彼女は全ての明太子を回収する事は叶わなかっただろう。
理由は至極単純。
分析と実践のサンプル不足、そして小学生という肉体の限界になる。
そんな彼女に様々な芸術作品を触れさせ、刺激を与えるのは当然の流れだろう。
大輝の方はもっと分かりやすい。
父親に指導された事もあってか、とても『未経験』とは言えない振る舞いではあったものの、経験不足という点については如何ともし難い問題だ。
アクア相手にも怖気付く事なく立ち向かう姿勢も加味すれば、有望株として扱われるのにも納得がいく。
その対戦相手であったアクアにしても、本人がどう考えているかはさておき、かなから言わせれば伸び代だらけの存在である。
性格故なのかよく周りを見ており、他人の演技にそつなく合わせる事が得意ではあるのだが、翻って自分から感情を出し前に出ていく事は苦手としている印象が拭えないのだ。
大輝が将来的にどの程度の存在になるかは分からないが、今のままでは二人の立場が逆転してしまう可能性とて全く否定出来ない。
「なあ、有馬。
カミキさんと一緒にいるあのアフロの人、どういう人か知ってるか?」
隣の席に座る大輝がそう声を掛けてくるが、何を隠そうその人物の存在が彼女がこのイベントへの参加要請を承諾した理由である。
「アクアやカミキさんが昔からお世話になってる人よ。
ついでに言うと、私やあかねもそうね。
とは言っても、何で芸能界と関係無い筈のおじさんがここにいるのかは私もよく分からないけど。」
「へぇ...、結構顔が広い人なんだな...。
...そう考えれば、父さん達の事を知ってたのも自然なのか...。」
大輝の『顔が広い』という評価に、かの人物の人脈について考え苦笑いを浮かべるかな。
アクアやヒカルと関わりが有るという事は、必然アイや苺プロの面々とも交流が有るのだろうし、今回自分達に同行している事からしてララライ側にもそれなりに顔がきくのだろう。
本人に直接確かめた訳ではない為、真偽の程は定かではないが、あの『田楽マン』や『魚雷ガール』、果ては『横浜の純子』とも関わりが有るらしいのだ。
これで本人はあくまでも芸能関係者ではないと言うのだから、噂にしてもどこまでが本当でどこからが嘘なのか等到底判別が付く筈が無い。
大輝の言葉の後半は彼が声音を絞った故に聞き取れなかったものの、彼の父がヒカルのマネージャーという立場の都合上、何かしら思い当たる節が有るのだろう。
(あの人が父さんの言う『助っ人』なんだとしたら...、多分俺の為に態々って事だよな...。)
一方で大輝の方も、その人物が同行している理由の大半が自分に有るのだろうと考える。
彼個人としても、かつての母親の凶行を止めてくれた恩を感じてはいたが、よもやこの場にいる子役全員と関わりが有るとは想像が付かなかった。
隣の席に座る天才の少女曰く、芸能関係者ではないとの話だが、では何故その様な人物がこの場にいるのか。
『この場において一人だけ混ざる素人のフォロー』なのだと考えれば、悔しい事だが納得がいく。
他の三人の様に、役者として自他問わずに各々の強みと弱みが明確ならば今回のイベントにおける行動指針も見えてくるが、その土台すら出来ていない者が相手では話にならないだろう。
事実、アクアこそ映像作品の方に傾倒してはいるらしいが、三人共よく本を読む_つまり、活字に触れる習慣を既に付けているらしいのだ。
父にもかつて同様のアドバイスを貰ってはいたものの、その時には意味がさっぱり分からなかったが、アクアに完膚なきまでに敗北した今なら理解出来る。
『物事を想像する力』も、『その経験の蓄積』も、自分にはまるで足りていなかった。
アクアには、自分の小手先の技等容易く飲み込んでしまえる程の『深み』が有ったという事だろう。
そんな状態であれば、芝居単体ではなく敢えて芸術分野全般への造詣を深める為に、その分野に明るい人物としてあのアフロの男性に助力を願う方がいいと言った所か。
先のかなにしても、口では『何故ここにいるのか分からない』等と言ってはいたが、その柔らかい表情からも彼を信頼しているのだろう事が十分に伝わってくる。
この場にいる皆が信頼する彼なら、或いは自分の事も導いてくれるのかもしれない_そんな希望を胸に彼が窓の外の景色を見遣ると。
『キャアアァァァァ、ソフトン様との夢のハネムーンギョラアァァァァ‼︎』
『グアァァァァ‼︎』
「⁉︎」
謎の飛行体が驚異的な速度で飛行機を追い抜き、サイバー都市へと向かっていった。
何となくではあるが、その飛行体の形状がミサイルの様な形には見えたものの、何やら人らしきものが括り付けられている様に見えた大輝は思わず我が目を疑ってしまう。
「...どうしたの? 何かあった?」
「...飛行機で疲れたのかもな...。
着陸迄、目閉じてるわ...。」
自身の様子を不審に思ったのか、声を掛けてきたかなに返答しつつ一時の休息を取る大輝。
慣れない長旅故に眠気が襲ってきたのだろうと無理矢理自分を納得させた様だ。
「ギガ様、間も無く例のハレクラニ殿からの推薦を受けた者達を乗せたシャトルが到着するかと...。」
自身にそう声を掛けてきた長髪の男性_パナの言葉に薄く笑みを浮かべるこの男こそ、サイバー帝国帝王『ギガ』その人である。
「漸くか...。
『ヤツ』が『例の物』を持ってきてる事の確認は?」
「日本を発つ際の手荷物検査から確認が取れております。
しかしギガ様...、本当によろしいのですか?
『ヤツ』を...、ボーボボ達を再びこの都市に入れる等...。」
パナの言葉にギガに寄り添う二人の女性も心配そうな面持ちだが、彼としても周囲の懸念は十分理解出来ていた。
ボーボボ達と言えば、かつて電脳6闘騎士を、そしてギガ自身をも打ち破った怨敵である。
また、そういった感情論を抜きにしても、奇怪な行動の目立つボーボボ達を都市内へと招く事に抵抗を感じるのも無理はないだろう。
「お前らの心配も分かるじゃん...。
だからこそ、『あの条件』を呑ませたんだからな...。」
主人のその言い分に、パナもそれ以上の追求が出来ない。
ボーボボ達を入市させる懸念については、彼だけでなく電脳6闘騎士のほぼ全員から上がっていたのだ。
個人的にボーボボの仲間の一人であるソフトンとの親交が有るJが辛うじて穏健な意見を述べたものの、過去の戦いの記憶を思えば当然の反応だろう。
いくらララライにハレクラニの後ろ盾が有るとは言っても、ギガとしてもボーボボ達の入市を素直に認める訳にはいかなかったのだが、然りとてボーボボ達に受け入れさせた『とある条件』とは別に、ララライとハレクラニを無碍に出来ない事情が彼にも有ったのだ。
一つは勿論、サイバー都市への経済的な影響を見越してのものである。
人工の島という都合上、限りある土地の活用方法については普通の国家以上にシビアに考えねばならず、今回のイベント等観光に力を入れるに当たっても、旧帝国時代からの脱却を果たした先達であるハレクラニから多くの助言を受けていた。
組織を運営する手腕に関しては、ギガ自身彼の方が一枚も二枚も上手であると認めざるを得ず、その彼の息のかかった者達の希望を退けられる程、彼は甘い男ではないのだ。
その気になればサイバー都市を訪れようとしている旅行客等、いくらでも吸い取れる魅力がハレルヤランドには有るのだから。
そしてもう一つ、今回のイベントを開催した理由とも密接に関わっているのが、ギガがサイバー都市の主たる所以『オブジェ真拳』である。
その奥義たるや強力無比であり、奥義の一つである『ギガサウンド』を最大出力で放った際には、一時的とはいえボーボボ達はおろかあの魚雷ガールの動きすら封じ込めてみせた程だ。
しかしその強力さの代償は大きく、使用者本人だけでは賄い切れない程の膨大なエネルギーを必要としてしまう欠陥が存在していた。
ギガはこれを、『拘束した真拳使いをオブジェに変貌させ、そこから都度エネルギーを吸い取る』という形で補っていたものの、率直に言って非常に燃費が悪いと言わざるを得ない。
仮に強敵の侵攻に対して、オブジェのストックを消費し、その敵を新たなオブジェにしたとしても、リソースを考えれば弱体化の一途を辿るのは必定である。
事実、都市外での戦闘ではいくら相手が裏マルハーゲ四天王の一人とは言え、クリムゾンに一方的に敗れる等屈辱を味わった経験も有り、彼自身にとってもこの点は無視出来ない問題であった。
オブジェ真拳とは別に持つ『芸術の力』にしても、大量のエネルギーを必要とする点は変わらず、やはり何らかの形でオブジェのストックを増やしていく必要が有る。
そこで彼が着目したのがオブジェ真拳の起源_『自らの師を含めた先代の使い手達は、奥義を編み出すエネルギーをどの様に賄っていたのか』であった。
使い手個人によって多少の差は有るだろうが、『本人だけでは賄えない程のエネルギーを必要とする』という性質は変わらない筈であり、事実としてオブジェ真拳が自分の代迄存続している以上、『先代達がやっていて、自分がやっていない事が有る筈だ』と。
そして研究を進めた彼は、驚くべき真実に到達する。
先代達が自作したオブジェ等の芸術作品からエネルギーを供給していた事、そして自他共に別個の独立した能力だと思われていた『オブジェ真拳』と『芸術の力』が、実は密接に関係している能力である事に。
そもそもオブジェ真拳自体が、高度な芸術的感性とそれを具現化する能力が不可欠な真拳である為、必然的に『芸術性』をエネルギーに変換する方法を身に付ける事に繋がるのだ。
彼はこのエネルギーを利用し、『物理的な干渉を行うものをオブジェ真拳』、『一定の区画をエネルギーで包み、空間そのものに干渉するのを芸術の力』であると定義している。
これならば、予め己のエネルギーを小分けにしておく事でストックとしてきた先代達が奥義の数々を開発出来た理由にも納得がいく。
翻って、そんな彼が何故イベントの開催に踏み切ったのか。
子供達が生み出す微弱な『芸術の力』を保管し、己の力とする為なのだ。
ストックを増やす為には創作活動に時間を割かねばならないが、都市を治める者としては中々時間を取れないのも事実。
ならば他人に創らせてしまえばいい。
正に、公私両面で力を蓄える為の策を打ったと言えよう。
たとえどんな状況に陥ったとしても、歩みを止める事はない_それが彼が帝王たり得る所以である。
「ああ、それと何やら魚雷の様な物体がウンコを括り付けて街に突入してきたとの報告も上がっております。」
「いやまずそっちを先に言えよ⁉︎」
「...ねぇ、アクア...。
あそこで騒いでるのって、どう見ても...。」
「有馬、一つ忠告しておいてやる。
巻き込まれたくなかったら、ボーボボさんやその仲間の人達には極力触れるな...。
あの人達のペースになったら、何の為にここまで来たのか分からなく_」
「あっ、ママ見て!
お兄ちゃん達も降りてきたみたいだよ!」
飛行機から人工の大地へと降り立ったかなが、一際騒がしい箇所に見覚えのある者の姿を認めるが、アクアがそれを制する。
ボーボボ達が決して悪い人物でない事は彼も認めるが、今回のサイバー都市への訪問の理由を考えれば極力部外者に振り回されるのは避けたいのが本音であった。
父達とボーボボが機内で長らく話をしていた事からも、彼らの方でも入念に計画を立てている可能性が高い。
そんな考えから、かなを含めたこの場にいる子役達に向けた忠告を行っていた彼の言葉を遮り、その希望を無惨にも打ち砕いたのはよりにもよって彼の身内の人間であった。
(嘘...、魚雷ガールさんの隣にいる人の頭って、どう見ても...。)
(う、うわぁ...、魚雷さんとかアイさんとか凄い人一杯いるのに、あの人の頭から目が離せない...。)
「皆お疲れー。
改めてだけど、今日はアクアがお世話になります。」
「あっ、いえいえ!
寧ろこちらの方こそ、カミキさんとアクア君にはいつもお世話になっております!」
自分達を見つけたアクアの妹_ルビーに続いて自分達に近付いてきた彼らの母_アイが頭を下げた事により、かなの言葉を皮切りにあかねと大輝も頭を下げていく。
彼女達親子と二人に連れ添う女性_ポコミはあくまでプライベートでこの場所を訪れている事は聞かされているが、それが礼節を怠る理由にはならない。
「その...、変装しなくて大丈夫なんですか?
今日ってプライベートなんですよね...?」
とはいえかなから見れば、やはりアイの出立ちが気になる所だ。
芸能人の多くは、プライベートの外出に際してサングラスやマスクの着用、念入りな者はウィッグを使用するという話も聞く程変装に気を遣う。
有名人の弊害と言うべきか、正体が露呈した途端に休暇どころではなくなってしまう恐れが有る為だ。
しかしアイはと言えば、キャップこそ被ってはいるもののそこまで大胆な変装はしていないのだ。
「まぁ、サイバー都市だしそこまで有名じゃないでしょ!
仮に知ってる人がいても、逆に変装してなければ『アイ似のJK』って思われるよ!」
「ママ天才! 逆転の発想だね!」
「せめてJDって言いなよ、恥ずかしくないの...?
ほら、皆の邪魔になるしそろそろ行こう...。」
なまじ美人であるだけに戯言と言い切れない彼女の言葉にポコミが呆れつつ、一行と離れる事を促す。
嵐の様に過ぎ去っていくアイ達を見送りつつ、あかねが率直な感想をアクアへと述べた。
「その...、アクア君のお母さん、色々凄い人だね...。」
「本当にな...。
それで、魚雷さんとソフトンさんは何故ここに?」
あかねの言葉に渋い表情を見せつつ彼が水を向けたのが、ここまで静観を保っていた魚雷ガールとソフトンであった。
自分達と合流する直前迄アイ達と交流していた事からすると、彼女達と現地で落ち合う約束をしていた訳でもないのだろう。
すると、思わぬ方向からその答えが提示される。
「二人は俺が助っ人として呼んだんだ。
俺達だけじゃ、流石に手が足りんからな。」
「ここにいられる時間は限られている以上、四人で同じ場所を回っていくよりも、それぞれに合った形で狙いを絞った方が効率的だからね。」
二人を招いた張本人であるボーボボの言葉をヒカルが補足する事で、アクア達も一応の納得を見せる。
足りない部分を補うにせよ、長所を伸ばしていくにせよ、折角サイバー都市までやって来て画一的な内容では意味が有るまい。
「おいおいボーボボ...。
そりゃあ聞いてた話と違うじゃん。」
その若干の怒気を孕んだ声に子供達が緊張を覚える。
声の主の圧倒的な存在感に自然と臆してしまったかの様に。
(あれが...、本物のギガ...。 何て威圧感だ...。)
アクアが感じたプレッシャーは、当然この場にいる全員が感じているものだ。
あかねは体を震わせつつ彼の服の袖を掴み、かなと大輝はボーボボの背後に身を隠してはいるものの両名ともその顔は強張っている。
これでも彼の怒りの矛先は、ボーボボと魚雷ガールへと向いているというのだから恐ろしい。
「悪いなギガ、先生も予定をギリギリまで調整してたんだ。」
「別にその魚雷とウンコが来た事自体に文句は無ぇよ...。
だがな、他人の領土に入るならちゃんとした手続きをして来いって言ってんだ!
何、当たり前みたいに空から突撃してきてんだよ!」
(どうしよう...、ぐうの音も出ないぞこれは...。)
ギガの至極真っ当な指摘に、アクアも内心で焦りを見せる。
彼としても事を荒立てたくないのだろう事は伝わってくるが、普通であれば問答無用で拘束されてもおかしくない行動を魚雷ガール側がしてしまっている都合上、ここで不用意に彼女を庇う事は悪手でしかない。
しかしボーボボ側もこれは想定内であったのか、それぞれ懐からある物を取り出しギガへと投げ渡す。
それは正に彼がボーボボ達の入市を認める為の『交換条件』となる代物であった。
「勿論タダでとは言わないわ...。
私の方からも、これを持ってきたギョラ!」
「流石です、先生!
ギガ、約束の品だ! 受け取りな!」
「こ、こいつは...!
よくもまぁ、これだけの量を集めたじゃん...。」
彼の手元に収まったもの、それはそれぞれ12個ずつ入った高級紀州梅干しであった。
(あれ、どう見ても梅干しだよな...。 何で...?)
(あれ、結構良いやつよね...。 そりゃびっくりもするでしょ...。)
(あっ、あれママが好きなやつだ。 ギガさんも好きなのかな...。)
(まぁ、梅干し好きな外人っているらしいし、多分ギガさんの好物なんだろうな...。)
子役達が、ボーボボ達の行動とそれに対するギガの反応に各々の感想を思い浮かべるが、実の所この梅干しには彼らが予想だにしない価値が秘められているのだ。
サイバー都市の莫大なエネルギーの源_それが紀州梅干しなのである。
Jの黒太陽の力を代替して余りある出力を発揮した梅干しではあるが、サイバー都市内で栽培したものでは出力が安定せず、今の所は日本からの輸入に頼りきりなのが実情。
そんな状況下だからこそ、ギガもボーボボを受け入れる条件としてこの梅干しを要求したのだ。
そして今、ギガの手元には計24粒もの梅干しが有る。
瞬間、ギガの明晰な頭脳がこの梅干しを受け取る事による都市としてのメリットと、魚雷ガールを拘束し事態の沈静化を図るメリットとを比較し吟味し始める。
まず、目の前にいる魚雷ガールとソフトンは紛れもなく不法侵入者であるが、少なくともサイバー都市側が穏健な態度を取っていれば、決して害意の有る存在ではない。
加えて、二人の存在がハレクラニやその子飼の劇団が見出した子役達に対してどの程度影響するのかが、ギガ側には判断出来ないのが実情である。
翻って自身の手元に有る梅干しの数たるや、概算でも向こう二年分もの都市のエネルギーを賄える存在なのだ。
統治者として、ギガがどちらの道を選ぶか等考える必要も無い。
「チッ、こいつに免じて領空の侵害には目を瞑ってやるじゃん...。
ただし、そこの関所で入市検査だけは絶対に受けろよ!」
梅干しを部下へと預け、立ち去っていくギガの背中を見送りつつ、アクアがこのサイバー都市への訪問の真意を問う。
魚雷達の急遽の参加も考えれば、ララライ側としても肝入りの計画なのだろう事は窺えるが。
「四人共薄々勘付いていたとは思うけど、先日のワークショップでの課題はこの場に参加する人員を選抜する為のものだったんだ。
君達は次世代の若手俳優陣の中心になるであろう存在として、このサイバー都市で特別なカリキュラムを受けて貰う。
より端的に言えば、所謂『特訓』だね。」
ヒカルと上原が、ボーボボが、魚雷ガールが、そしてソフトンが少年少女達の前に立ち、四人をこの場所へと連れてきた理由を語る。
お前達は遊びに来たのではないのだ_と。
(この面子で特訓...、大丈夫...、じゃないんだろうな...。)
アクアの心配を他所に、子役達は己の師と共にサイバー都市の中に散らばっていった。
オブジェ真拳について無駄に考察してたらこんなに時間が経ってしまいました。
ギガ編は個人的に面白いバトルが多くて好きです。
皆様の応援のおかげで、本話投稿時点で通算UAが5万を突破しました。
平素よりこんな意味分からないものに目を通して下さり、誠にありがとうございます。