今後も含め描写上目立たせる予定は有りませんが、こういった要素が苦手な方もいらっしゃるかと思いますので、予めご了承いただけますと幸いです。
ビニールシートの上にうつ伏せで寝そべるその人物の頬は、その者の感情を示すかの様に赤く染まっている。
血管の拡張によって、血液が急速に流れた結果と考えれば、その原因も類推出来るだろう。
緊張と不安、そして恥じらいの感情も含まれているだろうか。
それもその筈、その者は一糸纏わぬ姿なのだ。
うつ伏せの状態で微動だにしないのも、周囲にいる者に自身の羞恥を悟られまいとしている故なのだろう。
「ひゃっ⁉︎ ンッ‼︎」
その人物の高鳴る心臓と火照り、それとは真逆の性質の刺激が背中から脳へと急速に伝わっていく。
低音のジェルかオイルの様な物質が肌に触れた事で、ひんやりとした感覚に体が跳ね、その刺激を外に逃す様にその口から嬌声が飛び出るのも無理からぬ事だろう。
「ッ⁉︎ クッ...、ふぅ...。」
今度はその人物の脚部へと刺激が走る。
その細い両の脚の腱からふくらはぎ、そして太腿へと背中に塗られているものと同じ液体が塗られていく。
男性の手と思われる大きな四本の手によって、入念に液体を塗りたくられたその肢体は、どこか扇情的な妖しい輝きを放ち始めた。
自身の体がその様な状態であり、尚且つ無防備な状態でその背中を二人から眺められている状況故か、はたまた二人の手付きがマッサージの効果を齎したのか、その伏せた顔の隙間からくぐもった吐息が漏れ出していく。
全身を襲う快感に、クラクラとした感覚に包まれていたその人物の脳が突如として覚醒し、その心臓が一段と鼓動の音を大きくした。
当然だろう。
背中を、脚を這っていた四本の手は、それぞれ体の端から中央に向けて動いていたのだ。
そうなれば、当然行き着く先は一つしかない。
所謂デリケートゾーンへと近付いていく手の感触に、徐々に下腹部へと熱がこもっていく。
「あっ...あの、その辺りは...。」
「駄目だ...。」
震える声で紡がれた懇願はしかし、その背中に手を置く男性によって退けられてしまう。
男性の指が徐々に自身の足の付け根へと近付いてきた事を察知したその人物が、ささやかな抵抗を示す為に両脚の隙間を狭めようと力を込めるが、その抵抗はもう一人の男性が両脚の動きを抑えてしまい封じられてしまった。
マグマの様に沸き立つ羞恥と、全身に癌細胞の如く伝播していく快感_二つの感覚に蹂躙されたその人物は顔を上気させ、大粒の汗に混じり固く閉ざされた瞼から溢れた液体も頬を伝っているようだ。
「次は前だ。 仰向けになれ。」
男性の強い命令口調は、聞く人間によっては相当の威圧感を与えるだろう。
常人離れした高身長と鍛えられた肉体だけでなく、その目を隠し真意を探らせないサングラスの存在も一因だろうか。
にも関わらず、その人物は彼の指示に対して興奮の様な感情を隠せずにいたのだ。
冷静に考えれば、全裸の状態で仰向けにでもなろうものなら、他人に見せられない部位を晒す事に繋がる。
ましてやここに二人の男性がいる事を考えれば、たとえ同性であったとしても猛烈な羞恥心に襲われる事だろう。
その上での自身の中に膨らんでいく感情に、自分はマゾヒストの性質が有ったのだろうかとの思いを巡らせつつ、その人物がゆっくりと体の向きを変えていく。
「お願い...、優しく...。」
潤んだ瞳を男性へと向けつつ搾り出されたその言葉に対する返答が、その口元へとすぐさま降り注がれる。
「ウルセー‼︎‼︎
ややこしい事言ってねぇで、さっさと仰向きになれやー‼︎‼︎」
「ボフェア‼︎⁉︎」
その男性_ボーボボの鉄拳がその人物の頬へとめり込んでいく。
もう一人の男性_ヒカルと共に、ボーボボがその人物の体を無理矢理ひっくり返してしまうが。
「さっさと塗らせろ。」
「っ...!!
アンタ達っていつもそうよね...!
パチ美の事何だと思ってるのよ⁉︎」
「バカだろ。」
「バカですね。」
「...んもう...、いけずなんだから...。」
全身をオイル塗れにされた首領パッチの両手に風船を括り付けると、彼の鼻の穴へとコンセントを挿すボーボボ。
その一部始終を眺めていたアクアが、彼の行動の意図を問い掛けるが。
「...あの、ボーボボさん...?
これは一体何を...?」
「この天気だからな。
コイツをソーラーパネルに見立てて発電するのさ。
アレを使うにしても、電源が必要だろ?」
コンセントを延長コードへと繋ぎつつボーボボが指差した先には、電気式のバーベキューグリルが準備されている。
この日、彼らやアクアの家族達はビュティとヘッポコ丸の家を訪れ、気の知れた者達のみでバーベキューをしようとしているのだ。
成程、確かにその為には電源の確保が必要不可欠である事はアクアにも理解出来るのだが。
「ソーラーパネルって...。
何を塗ったのか知りませんけど、そんな簡単に発電が出来たらデンキウナギがニュースになったりしませんよ...。」
それは彼の前世からの知見による意見であった。
生物学は専門外ではあるものの、医師の端くれとして電気を能動的に生み出し、利用する生物の話を聞いた時には好奇心がそそられたのをよく覚えていた。
例えば彼の発言の中に有ったデンキウナギの仲間は、個体によっては800ボルト以上の電気を発生させるものも存在するが、一般家庭のコンセントから流れる電気が約100ボルト程と考えれば、如何に強力なものかが分かるだろう。
当然そんな生物が存在すれば、『生活用の発電に利用出来ないか』と考えるのは自然な事であろうが、現実としてそれらの生物を使った発電方法が確立されていない以上、そう都合の良い話は無いのだ。
デンキウナギは確かに強力な電気を発生させる事が出来るが、その時間たるや1000分の1秒程ととんでもなく短いものである。
仮に一般家庭の日間消費電力を10kWhとしても、デンキウナギの一瞬の発電だけで全てを賄おうとした場合、およそ5700万匹ものデンキウナギが必要となる_つまりは非現実的である事が明らかなのだ。
それですら、『浪漫のある話』として番組の企画に取り上げられると言うのに、謎の液体を塗った首領パッチ単体でグリルが動かせでもしたら、世界中の学者がひっくり返る事だろう。
「ボーボボ、こっちの電気点いたよ!」
「なっ、エコだろ?」
「いや『エコだろ?』じゃないですよ⁉︎
本当にあの人一体何なんですか⁉︎」
「ハハハ、アクア君元気だねー。
ホント昔のへっ君みたい。」
「ビュティさん達は凄いですね...。
俺は未だに慣れないですよ...。」
この場における数少ない『自分側』の人間からの言葉に、アクアは心から嘆息する。
ボーボボ達との付き合いも10年以上になるが、星野家の中でも彼は一際ボーボボ達に振り回される傾向が強い。
彼らの奇行に生真面目に反応してしまう辺りは、確かにビュティの言う通り彼女の夫と気質が近いのだろう。
前世を含めれば、彼女達とは然程変わらない年齢である筈なのだが、この落ち着きは余程の経験をしてきた故なのだろうか。
「うーん...、確かに慣れも有るけど。
ボーボボ達ならこれ位はまだ理解出来る範囲かなって。」
「ビュティ達と旅してた頃と比べたら、俺達も結構自重してるんだぜ。」
「これで自重⁉︎」
「うぃー...、ねぇねぇアイち...。
ボンちゃんが来年小学生だって!
時間の流れヤバたにえんだよ、ダッハッハッハ‼︎」
「んな事言ったら、アクアとルビーはもう中学生よ中学生!
私らが初めて会った時と子供が同じ歳だってさ!
そりゃ私らもアラサーになる訳だよ、キャッハッハッハ‼︎」
家主が許しているのをいい事に、馬鹿笑いを上げる二人の酔っ払い。
酔っ払いの内の一人_アイが非常に若い年齢で親となってしまっている為勘違いしやすいが、もう一人の酔っ払い_ポコミと彼女は未だに30歳に至っていない事もあり、芸能関係の仕事をしている事を差し引いてもまだまだ若い女性なのだ。
そんな二人が己の年齢を実感する要因となっているのが、身近にいる子供の存在である。
二人の子を持つアイは、やはりと言うべきか学校行事等で他の保護者と対面すると一際若さが目立つ存在である。
中には一回り以上歳の離れた者もいる為、尚の事彼女の出産年齢の若さが際立ってしまうのだ。
周囲の人間からしても、まだ『凄く歳の離れた姉』と言われた方が納得出来るだろう。
そんな彼女の子供達が来年度には中学生になる事を考えると、時の流れの早さを感じずにはいられない。
一方のポコミはと言えば、アクアとルビーは勿論だが、より身近な存在として彼女の言う『ボンちゃん』の存在が有るだろう。
現在、彼女の兄とルビーと共に話をしている少年こそ、兄の息子、彼女から見れば甥に当たる存在なのだ。
『ボンクラ丸』と名付けられたその少年の名は、彼女達の案を彼の両親が採用したものである為、彼女達からもよく可愛がられている。
なまじ自分達の子供ではない故か、二人の議論は白熱し最終的な候補を三種類に絞った時には、日付が変わり朝日がカーテンの隙間から差し込んできていた。
丁度起きてきたのだろうアクアに、最終候補となった『ボンクラ丸』、『ビュッポコ丸』、『ボットン』の三つの名を見せた際には、物凄い表情でこちらを凝視した後に発熱対策用のシートを手渡されてしまったのは記憶に新しい。
恐らく徹夜の影響も相まって、相当顔色が悪く見えたのだろう。
「叔母さん達、凄い楽しそうだね。」
「そうだな...。
うん、きっと嬉しい事があったんだよ...。」
息子からの屈託の無い言葉に、ヘッポコ丸は少しの逡巡の後に苦しい返答を絞り出す。
彼らにも聞こえてくる酔っ払い達の会話については、一人の親としては十分理解出来る為に、二人の振る舞いを咎める気は無いのだが、やはり子供の目にどう映っているのかは気になる所だ。
特に彼の隣に腰掛けている少女_ルビーの場合、アイドルとしての母への憧れも人一倍強いだろう事を考えると、あの醜態を受け入れられるのかは心配である。
「その...、ルビーも余り気にしないでやってくれな...。
あいつらも偶にああやって羽を伸ばさないと参っちゃうからさ...。」
「あっ、うん...、あっちは大丈...、いや大丈夫じゃないけどしょうがないと思ってます...。」
彼女からの返答に思わず苦笑いを浮かべるヘッポコ丸。
事実、彼自身もアイとの関わりから苺プロに入社し、アイドル業界の裏側を実感させられる事が多々有っただけに、彼女の『しょうがない』という評価に同意せざるを得ないのだ。
観客の前で披露する綺麗な姿の裏には、アイドル自身だけでなくその周りのスタッフを含めた多くの人間の血の滲む様な努力が積み重なっている。
それに加えて、メンバー間のパワーバランスや上層部の陰謀等、舞台の上にいるアイドルの影には様々な要素が絡み付いており、裏方としても配慮しなければならない部分を挙げろと言われてもキリがない。
ファン、スタッフ、お偉方、或いは舞台に立つアイドル自身が『期待』と呼ぶ無責任な感情の集合体が彼女達をアイドルたらしめているのだろうか。
すると何やら考え込んでいた様子のルビーが、逆に彼へと質問を投げ掛けてきた。
「あの...、ヘッポコ丸さんから見て、私位の歳のママってどんな感じでしたか?」
「えっ...、どうって言われてもなぁ...。」
彼女からの質問の意図を察する事が出来ず、ヘッポコ丸も答えに窮してしまう。
恐らく当時の『アイドルの卵と言えるアイがどう見えていたのか』というのが論点なのだろうが、どういったニュアンスの答えを求められているのかが判然としないのが実情だ。
そこでまずは、その問いの真意を探る為にとアイが今の道を進み始めた経緯を語り始める。
恐らく、壱護から見ればアイに成功の未来を予感させる要素が感じられたのだろう_と。
「それこそ、アイが社長にスカウトされたのが今のルビーと同じ位の頃だったんだけどさ。
実は俺もその場に居合わせてたんだ...。」
(そうだったんだ...。 でも、そう考えればポコミちゃんに連絡が来た時には苺プロにお兄さんが入社してたのも納得だね...。)
彼からの情報に前世の記憶における友人の騒ぎぶりを思い出しつつ、前後関係を整理していくルビー。
成程、思い返してみれば彼女がアイを認知する切っ掛けは、彼とポコミとの連絡が始まりであった。
B小町発足前の段階で、アイとの契約とほぼ違わぬタイミングで彼とビュティが苺プロに入社していた経緯として、『星野アイ』という個人を知る人物の存在を壱護が望んだという事だろう。
「まぁ、見た目に関して言えばスカウトされる位だからさ...。
社長から見ても間違いなく才能を感じる存在だったんだろうな。」
「ッ⁉︎ 今へっさん、私の事可愛いって言った⁉︎」
「ママ、今真面目な話してるからあっちでこれ飲んでて。」
「あっ、ハイ...。」
「ダッヒャッヒャッヒャ‼︎
見てよプルルン、あのアイちの顔‼︎」
「ポコミちゃん⁉︎
天の助君の体切り取って何してんの⁉︎」
ヘッポコ丸の言葉に、かつてアイの姿を初めて見た時の衝撃を思い出す。
自分の思った通り、等と自惚れるつまりはないが、彼の言う通り客観的な評価として人の目を集める存在だと思えたという事だろう。
この点に関しては、両親の美貌を受け継いでいる現状、それなりに自信を持ってもいいと言えるか。
母がしょぼくれているが、今は自分の将来の指針を探る大事なタイミングなのだ。
申し訳ない気持ちも有るが、ビュティ達に相手を任せる事にしよう。
「ただ、アイが所謂素人がイメージするアイドル像と合致するかって聞かれたら、少なくとも当時の俺はそうは思えなかった...。
その頃は大分マシになってたけど、あいつの母親の事が有ったから気分の浮き沈みも今より激しかったと思うし...、余り話そうとはしなかったけど友達も少なかったんじゃないかな...。
それこそ、性格だけだったらポコミの方がよっぽどそういう仕事に向いてるって思ってた。」
「ッ⁉︎ 今の聞いた⁉︎
お兄ちゃんが私の事アイドルだって‼︎」
「叔母さん、今はシーってしてないとお父さんに怒られちゃうよ。」
「...ゴメン...。」
「ブッヒャッヒャッヒャ‼︎
見てよおじさん、ポコっちってば5歳児に怒られてるよ‼︎」
「ぐあぁぁぁ⁉︎ 俺のアフロがぁぁぁ⁉︎」
アイよりもポコミの方がアイドルらしい_成程、両者をよく知る彼ならではの評価だと思わされる。
アイの母、つまり自分にとっての祖母については、軽くだが聞かされてはいた為、大凡の事情は把握していた。
加えて、自分達から見ても母が然程交友関係が広い様には見えない事や、彼女の癖のある性格を考えると、アイドル云々の前に社会で働いていけるのか疑問に感じてしまうのも致し方ないだろう。
その意味では、肉親の支援を受けられる事も併せてポコミの方がまだ安心感は有るか。
何やらその二人の騒ぎによって、ボーボボの頭部が大変な事になっている様だが、父と兄もビュティに加勢した様であるから任せても大丈夫だろう。
「でも、ママはアイドルになる事を決めた...。
それはやっぱり、周りの後押しが有ったからですか...?
それとも、何か目的が有ったのかな...。」
「...その質問の答えになるかは分からないが、昔アイは『愛する事が分からない』って言ってたんだ...。
実家での事とか、アイツの母親との事を考えたら無理もないと思うけど...。
もしかしたら、『アイドルをやってれば、また母親が自分を見つけてくれるかもしれない』って思ったのかもな...。」
「よし切れた!
これで天さんの体を使った『ところ升』の完成だね!」
「フッ、俺のボディをそんな風に使うなんてな...。
二人が成長してくれて、天ちゃん泣いちまうぜ...。」
「えぇ...、二人共ホントにそれで飲むつもりなの...?
お腹壊すから辞めといた方がいいって...。」
「お腹壊すってどういう意味⁉︎」
ヘッポコ丸との会話から、思いもよらぬ所で母との共通点の可能性を見出し驚くルビー。
自身の『アイドルになる』という夢には、前世からの想いだけでなく、もしかすれば転生した身であっても自身の敬愛する人物が自分を見つけてくれるかもしれない、或いは気付かれなかったとしても元気な姿を一目見る事が叶うかもしれない、そんな淡い期待も含まれていたのだ。
結果的に、その相手までもが転生し自身の兄になっている事が判明してしまった為、その期待は根本から成立しなくなってしまったが、互いに姿形が変わっても再び会話を交わす事が出来たのは僥倖と言えるだろう。
翻って、母が同じ様な想いを抱いていたと仮定した場合はどうだろうか。
現在進行形で生き別れとなってしまっている母親を探すとまでは言わずとも、メディアへの露出が増える立場になれば少なくとも『自分は元気でやっている』とのメッセージ代わりにはなるだろう。
何故迎えに来てくれなかったのか_今の母はそんな文句をぶつける事さえ出来ないのだから。
そんな思考に耽っていると、母達が今度は天の助の体を使って何かを企てているらしい声が聞こえてくる。
ビュティの言う通り、健康を害する様な事は控えて欲しいと思うのだが大丈夫なのだろうか。
「それじゃあさ...。
ヘッポコ丸さんから見て私はどう見える?
ママみたいなアイドルになれるかな...?」
そんな少女の絞り出す様な問いに、ヘッポコ丸は先程とは別の意味でどう返したものかと頭を悩ませる。
贔屓目は有るだろうが、彼女の容姿はアイドル、或いは芸能人としての素質を十分に備えていると言えるだろう。
加えて彼女の場合、アイドルに対する憧れは彼女の母よりも純粋なものと考えていい。
ではその純粋な想いが実を結ぶのかと問われれば、簡単に首を縦に振る事が出来ないのも事実なのだ。
例えば、B小町において単純なアイドルへの思い入れで言えば、新野の方が余程アイよりも強く見えた。
事実、彼女はメンバーの中でも一二を争う人気を誇っており、アイの入院中においてもグループの人気を支える要因となっていた事を考えれば、その熱意が根強いファンの獲得に繋がった一因と言っていいだろう。
しかしながら、『アイドル』以外の仕事の獲得に最も苦労したのもまた彼女だったのだ。
冷静に考えればなんて事はない。
彼女がアイドルとしての自分に能力を振り切っていた一方で、他の面々はアイドル以外の分野でも生き残る道を作っていた、もしくはアイの様にアイドルという枠を超えて人気を集めただけである。
事実、B小町解散後のセカンドキャリアにおいて、当初こそアイと抱き合わせの形でオファーを獲得してはいたものの、現状タレントとしての『ニノ』の人気は下火になっていると言わざるを得ない。
では、ルビーがアイと新野のどちら側に転ぶのか_とても無責任な発言が出来る問題ではないだろう。
いくら母がその世界で戦ってきた者とは言えど、業界の在り方や仕事への向き合い方をそっくりそのまま真似できると考えるのは余りにも軽率だ。
いっその事、敢えて厳しい現実を突き付けた方が堅実な人生を歩める_そんな思いからヘッポコ丸が発言しようとした時、二人の間に文字通り割って入る人物が現れる。
「だーいじょうぶだって‼︎
さりなちゃんはね...、私とせんせにアイドルの良さを教えてくれた人なんだから‼︎
そんな人がアイドルになったら...、そらーもう無敵よムテキ‼︎」
「さりなちゃんって...。
おいポコミ、いくら何でも酔っ払い過ぎだろ...。」
「ルビーはねぇ...、私なんかよりずーっと可愛くてカッコいいアイドルになれるよぉ...。
だってぇ...、私よりもずっとアイドルに詳しいし、アイドルが好きな子だもん。」
「...ママも飲み過ぎだよ...。
ボーボボさんの頭、盆栽みたいになっちゃってるじゃん...。」
酔った勢いそのままに自身を取り囲む元友人達の頭を、優しく撫でるルビー。
アルコールが回っているせいか、自身の前世の話を持ち出してしまう事には苦笑してしまうが、一方でその言葉から確かにかつての自分が彼女達へと影響を与えていた事を実感するのだ。
『天童寺さりな』でさえ二人の友人に影響を及ぼした。
ならば、『星野ルビー』ならより多くの人々に声を届けられるのではないか。
少なくとも、陰謀渦巻く芸能界で戦い続けるこの二人の期待に応えられぬようでは、『ドルオタ』の先達として立つ瀬がないだろう。
「...俺から何か言う必要は無さそうだな...。」
「うん...、ありがとうございます!
どれだけ辛くても、現実的じゃないって言われても。
それでも、したい事をするのが人生だから...。
私は絶対、アイドルになるよ!」
ヘッポコ丸も、そして話を聞いていたビュティも、彼女の力強い宣言に思わず頬が緩んでしまう。
比較対象である彼女の兄が特例である事を考えれば致し方ないが、彼と比べればまだ年齢相応の少女だと感じさせられていた彼女も、大人顔負けの情熱と目標を抱く人物なのだと分かり、少年少女の成長の早さを実感させられるのだ。
その力強い瞳が、どこかかつて出会った車椅子に座る少女と重なるのは、気のせいだろうか。
「その意気だー‼︎
って訳で、ルビーのアイドルデビューは『沈没ガールズ』って事でかんぱーい‼︎」
「かんぱーい‼︎」
「えっ⁉︎ いや、どうせやるならもうちょっとちゃんと...。」
宣言を行った張本人を無視して、酔っ払い達が勝手に音頭を取り天の助の体を使った升を煽るが。
「ぶぇぇぇ...、まっず...。」
「うぇぇ...、何かさっきから締まらないなぁ...。」
「何言ってんだよ⁉︎
さっきから二人のせいで変な事になってんだよ⁉︎」
「⁉︎」
ビュティの叫びが、酔っ払い達の五臓六腑に染み渡っていった。
個人的なイメージですが、アイはプライベートだと笑い上戸と泣き上戸を併発する『外で酒を飲ませちゃダメな人』という風に思っています。