推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:6凄い人

 自身の病室の扉を、病院内では不適切な程の勢いを持って開いた数少ない友人の姿を見て、天童寺さりなは目を丸くさせた。

 この快活な友人が、通院している人間とは思えないエネルギッシュさを見せるのは今に始まった事ではないし、病院の先生や看護師から窘められる光景を見た回数も両手の指の数をとっくに超している。

 そうは言っても、さりなにとっては退屈極まりない入院生活に刺激を与えてくれる貴重な存在となっている現状、彼女の口から友人の問題行動が医師達の耳に入る事は無いのだが。

 

 脳神経外科の病棟で入院生活を送っていたさりなが、彼女の友人であるポコミと出会う事が出来たのは、ポコミが同じ脳神経系を受診していた事が大きい。

 ポコミの方は脳神経内科という違いは有ったものの、同じ病棟の中で同年代の子供というのは互いにとって目立つ存在であった様で、ポコミが初受診と共に検査入院をしていた数日間で簡単に打ち解けてしまった。

 そしてその関係は、さりなにとってはありがたい事に、ポコミが既にこの病棟へ用が無くなった今でも続いている。

 現在彼女が通院しているのは精神科であり、本来脳神経系病棟に来る用事は無いのだが、それでも毎回顔を出している辺りに二人の関係性が伺えよう。

 この日は、やれ兄には早くパートナーの女性と落ち着いて欲しいだの、自分の事よりもその女性の事を優先して欲しいだのと、彼女が慕う兄についての愚痴を聞かされた。

 そこまで結婚を焦る年齢なのかと聞けば、相手方も彼女の兄もまだ10代だと言う。

 一般的には寧ろ時期尚早と言われるだろう年齢なのだが、このブラコンの友人には通用しないらしい。

 彼女の知り合い伝で、その兄上殿がオナラで音楽界への進出を狙っているなどと言う意味不明な話を聞いた時には、他人の家族でありながら心配になったが。

 そんなポコミの元に件の兄上殿から、芸能事務所で働く旨の連絡が入り、兄に電話をしてくると言って病室を飛び出したのが、数十分程前だったろうか。

 ポコミが電話を掛けている間、さりなもまた先程迄の話を振り返っていた。

 オナラ云々は置いておくとして、彼女の兄が芸能界や音楽界に進出するというのもあり得ない話ではないと彼女は考えていた。

 以前、例のパートナーであろう女性と写っている写真を見せて貰ったが、兄妹揃って美形だと思わされた事は記憶に新しい。

 そして、もう一つの話題。

 自分は縁のないまま、人生を終えるだろう事を僅か12歳にしてさりなは理解してしまっていた。

 退形成性星細胞腫_自身の病に対して詳しい事は分からないが、日本の法律で女性の結婚が可能となる16歳を迎える事すら怪しい体である事は感じている。

 自分はきっと、結婚もそれ以前に恋すら知る事も無いのだろう_そんな思いを胸の内に隠し、貴重な友人の話を聞く姿勢をとる。

 

「えっとね、お兄ちゃん達は事務職で働く事になって、お兄ちゃん達の知り合いの子がアイドルになるんだって!」

 

 話を聞き、さりなは成程と納得した態度を見せる。

 恐らくそのアイドル候補と彼女の兄、そして例のオナラ云々の情報の出所は共通の知り合いであり、彼女はそのブラコンぶりを揶揄われたのだろう。

 それっぽい嘘を吐く時、真実を混ぜるとよりリアリティが増すというのは昔から聞く話だが、成程『彼女の兄が芸能事務所で働く事』も『これから音楽界に進出しようとしている人物がいる事』も事実なのだ。

 

(そもそもオナラで歌うって時点で怪しいと思わなかったのかな...。)

 

 友人と彼女の知り合いとの関係性が心配になりつつ、例のアイドル候補の写真が映ったポコミの携帯の画面を覗き込む。

 

「...確かにすっごい可愛い子だね。携帯のカメラでこれでしょ...。」

 

「そうそう、予想以上に美人だったから思わず笑っちゃったよね!

 さりなちゃん私よりアイドルの事詳しいから、凄いかどうかも分かるかなって。」

 

 ポコミの言う通り、さりなはアイドルが好きだ。

 ステージの上で煌びやかな衣装を纏い、楽しそうに歌って踊る。

 観ているだけでこちらを幸せにしてくれる存在。

 自分もこんな風になれたら_そう思った回数など数え切れない。

 

「歳はさりなちゃんと一緒だって。」

 

 その言葉に、更に食い入る様に写真を見つめるさりな。

 確かにアイドルとしての才能を感じるのも理解できる。

 夜空に輝く一等星_そんな例えが浮かんだ彼女は自然と笑顔になっていた。

 

「ポコミちゃん、私断言するよ! この子は凄い、絶対に売れる!」

 

 そんなさりなの様子に、ポコミは若干引き気味だが、そんな事は気にならない。

 彼女は既に、どうしようもない程この画面の中の少女のファンなのだ。

 

 

「それにしても、お兄さんの話冗談だって分かって良かったね。

 まあ、オナラで歌うって時点で冗談っぽかったけど。」

 

「えっ、お兄ちゃんがオナラで歌えるのはホントだよ。

 小さい頃とか子守唄歌って貰ってたし。」

 

「⁉︎」

 

 

 さりながポコミの言葉に衝撃を受けたのと同じ頃。

 苺プロの事務所では、壱護が例のアイドルグループについて頭を悩ませていた。

 グループ名は既に決まっており、アイを含めた四人で始動となる。

 メンバーの人数については、今後増減する可能性があるが、それはその時に考えれば良いだろう。

 問題はグループの方向性。

 どんな曲を歌わせるかも決まっていない中で、壱護は自分の中のイメージ_アイをセンターにする事が正解なのかが分からなかった。

 人気は出るだろうと壱護は自信を持って言える。

 それ程までにアイの才能は圧倒的なのだ。

 だが、彼女からの自己申告やビュティ達への事実確認から得た情報が懸念事項として頭に浮かぶ。

 彼女達へのフォローとしてビュティ達を引き入れたのは良いものの、基本的に彼女達は事務所内での業務を担当してもらう予定の為、目の届かない所も多いだろう。

 アイとは個人的に連絡を取り合えるだろうが、それが別の火種にならない保証は無い。

 強すぎる光は他を食い潰してしまう_アイの人間関係を考えれば、容易に想像出来てしまうのが恐ろしい。

 とはいえ、アイ意外を中心にしたとして彼女以上に人気が出るのかと考えれば、首を傾げてしまうのも事実。

 

(やっぱり、多少のリスクを背負ってでもアイをセンターにするべきか?)

 

 思考が堂々巡りとなる中、彼の携帯から着信音が響く。

 画面に表示された名前は『ボボボーボ・ボーボボ』。

 何かと思えば、現在進行形で悩む問題についてだった。

 

「アイ達から社長が新しいグループの事で相当悩んでるみたいだって聞いたんだが、その様子だと思った以上に大変みたいだな。」

 

 よもや新人達にまで察知されていた事実に、壱護は情け無さを感じる。

 それ故か、普段では部外者に口外しないだろう自身の悩みを愚痴の様に吐き出してしまう。

 突破口の手掛かりでも掴めればという望みを込めて。

 

「そういう事なら、紹介出来るのがいる。

 それで解決するかは分からんが、一人で悩んでいるよりはずっとマシだろう?」

 

 ボーボボの言葉に納得し紹介を依頼した壱護は、この電話先の人物について思案する。

 普段の言動は滅茶苦茶であるのに、どこか他人の懐に入るのが上手い。

 アイにもそういった所が有るが、存外彼らの影響が大きいのかもしれない。

 

 その後、ボーボボから紹介された者の名を確認し、壱護は引き攣った笑みを浮かべる。

 凄え人を連れてきたな_と驚愕するも、その胸中は先程までよりずっと晴れやかだ。

 成程、一人で悩んでいるよりはずっとマシになりそうである。

 

(アイの事といい、あの人達には一生頭が上がらんかもな...。)

 

 

 後日、苺プロの事務所にアイを含めた四人の中学生が集められた。

 彼女達の前に立つ存在を前に緊張した様子の四人に対し、壱護が声を掛ける。

 

「四人共、今日はよく集まってくれた。

 こちらはグループの方向性について助言をいただく為にお越しいただいた魚雷ガールさんと『犬's』の田楽マンさんだ。」

 




 今回はさりなちゃんが、アイもといB小町にハマったきっかけについて書かせていただきました。
 タレントが無断で写真を渡すって大問題かと思うのですが、現時点でのアイはタレントとしての意識が低いという事でご容赦ください。


 脳神経系の下りに関しては、素人では調べてもよく分からず、想像で書いております。
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