ボーボボと天の助が融合した姿_天ボボの放った強烈な衝撃波は、鳴嶋メルトを初めとする若手モデル達が立っていた場所の背後の壁へと突き刺さり、その威力の程を示している。
こんなものが人体に当たったらどうなるか等、想像するだに恐ろしいが、どうやら彼曰くこれでも大分加減をしているらしい。
「アナタ達にも、これから有馬さんとのお仕事が有るんでしょう...。
僕としても争い事は嫌いなんです...。 ですから...。」
(成程、自分の言葉を強制的に聞かせる為の示威行為という訳か...。
些か物騒ではあるけど、確かに効果的だと言わざるを得ないね...。)
続けて語られた天ボボの言葉に、先の彼の行動の意図を察する鏑木。
圧倒的な武力を見せつける事によって会話の主導権を握る是非は兎も角、事実としてボーボボ達の言葉に対して反抗的な態度が見て取れたメルト達も、すっかり押し黙って彼の言葉を聞いている。
『口で言っても分からないなら』という言い分は、決して今の時代に則したものではないだろうが、そうした言い回しが生まれる程度には確かな効果を生んでいたと言えるだろう。
「話し合いで解決しましょう‼︎」
「⁉︎」
(ええーー‼︎⁉︎
話し合う気全く無いだろこの人‼︎)
そんな鏑木の考えを尻目に、今度は天ボボの左手から破壊の奔流が放たれる。
辛うじて当たってこそいないものの、内心でツッコんだ高峯でなくとも彼の言動の不一致に愕然としてしまうだろう。
「この人...、所謂平和主義者ってヤツか...!」
「どう見ても違うでしょ‼︎‼︎」
「上等だよ!
そこまで言うならアンタの言う『話し合い』ってので解決しようぜ‼︎」
おもいっきり鏑木にツッコまれたモデル仲間の言葉だが、メルトも天ボボの言葉と併せ思う所が有ったのか彼の提案を受け入れる姿勢を見せる。
ここまでしてでも自分達に伝えたい事が有るのだろう_と。
「この...、分からず屋ーー‼︎‼︎」
「ぶほっ‼︎⁉︎」
「メルトー‼︎⁉︎」
「何でーー‼︎⁉︎
今、メルト君分かってたじゃん‼︎」
そんなメルトの歩み寄り等無かったかの様に、天ボボの拳が無防備な彼の胴体へと突き刺さった。
支離滅裂な行動の数々に周囲が唖然とする中、畳み掛ける様に彼の腰に提げられた6本の鞘からエネルギーが出現し、吹き飛ばされたメルトと『ブリの生態』を観賞していた首領パッチを拘束し、その体に『ぬ』形の傷を刻み込んでいく。
「僕には...、僕には...。
人を傷つける事なんて出来ないよ...。」
(おもいっきり傷つけてる...。)
「クソッ...、何なんだよコイツ...。」
モデル仲間達に支えられ、何とか立ち上がるメルト。
ここ迄の短い時間だけでも、天ボボが常人では抵抗すら叶わない力を持っている事はその身で持って実感させられている。
冷静に考えれば、この様な相手の言動に対して軽はずみな返答は謹むべきである事は理解出来るのだが、この超展開の連続と自身が脅威に晒されたが為に血が昇っているのか、彼は再び選択を誤ってしまった。
それが新たな悲劇を生むとは知らずに。
「聞かせて下さい...。
何故アナタ達は無意味に人を傷つけ...、そして人の善意すら拒絶するのですか...?」
「んなもん俺らが知るかよ!
こっちはドラマに出たいなんて言ってねぇし、優しくしてくれなんて頼んでもいねぇんだ‼︎」
「...そ...、そんな...考え理解出来ないよ‼︎‼︎」
「グボァ‼︎」
「うぉわーー‼︎⁉︎」
メルトの返答に対し哀しげな表情を見せたかと思いきや、更なる返答とばかりに何処からか取り出した木刀を振るう天ボボ。
メルトの横にいたモデルの脇腹へと直撃したそれは、如何に峰打ちにしているとはいえ相当の痛みを与えている事だろう。
「アナタのその間違った考え方が...、彼を殺したのです。」
「違うよ‼︎‼︎
アンタがやったんだよ‼︎」
高峯からの至極真っ当なツッコミに対し、天ボボはその体にオーラを纏いつつその行動の真意を語る。
これが自分なりの『平和』を実現させる為の対話なのだ_と。
「仕方が無かったんです...。
今の質問は、奥義『平和願望7条約』の一つでしたから...。」
(成程...、相手の返答が自分なりの平和に対する考えとそぐわない場合に制裁を加えるって事か...。)
一連の言動を見ていた鏑木が、先の行動の意図を察すると共に一つの希望を見出す。
事実、先の質問に対する返答は、この特殊な状況を差し引いてもとても褒められたものではない。
そもそも天ボボが見せている能力を考えれば、問答無用で性根を叩き直す位の事は訳がない筈だ。
彼らへ自省を促し、態度を改めさせなければ、これから先でもまた同じ様なトラブルに見舞われる事だろう。
果たして、彼の推測の答えを示すかの様に天ボボが奥義の概要を語り始める。
「アナタ達の返答が『平和』を導く答えならば、この『平和バッヂ』を差し上げます。」
(何そのチープなバッヂ⁉︎)
「でも平和でない答えの時は...、殺します。」
(殺すの‼︎⁉︎)
「では早速いきます‼︎
平和質問1‼︎
『争いを無くす為に、僕達は今何をすべきと考えますか』?」
(これは...、また随分とアバウトな質問だね...。)
モデル達の言動を注視しつつ、鏑木が最初の質問に対して頭を捻らせる。
流石にこのまま彼らが被害に遭うのを黙って見ている訳にもいかない以上、彼らの様子次第では多少の危険は承知で自分が代わりに答える必要が有るだろう。
しかしながら、こうも質問自体が抽象的では質問された人間によって答えも変わってくる可能性が高い。
「あの、鏑木さん...。
これってもしかして、平和に対して考える事自体を促してるんでしょうか?」
そんな考えに耽っている所に掛けられた高峯の考察に、鏑木も成程と思わされる。
最初の質問にしても、複数人に問い掛ける都合上各々の考えが異なる可能性が高いと言えるだろう。
極端な話、答えを聞いた天ボボの裁量次第で許す事も制裁を加える事も出来る状態なのだ。
つまり、質問を重ねるに従って少しずつでも平和的な思考へと相手を導き、争いを終結させる事が目的だとすれば、全七種の質問の中でも最初の方には天ボボ側がある程度の解答の幅を設けている可能性は考えられる。
多少チープと言える様な内容でも、現状を切り抜ける返答をメルト達に期待するが。
「知るかよ‼︎
そんなに俺達が気に入らねぇなら、争いでも何でも起こしゃいいじゃねぇか‼︎」
(いい加減学習しろよ、バカー‼︎)
そんな期待に対して、モデル達のあんまりな答えに鏑木が頭を抱えるが、当然その様な答えに天ボボが納得する筈は無い。
アサルトライフルの電動モデルガンを両脇に抱えると、その無慈悲な銃口と共に言葉を投げ掛ける。
「残念な答えです...。
僕はアナタ達を...、救いたいだけなのにーー‼︎‼︎」
「ぎゃああああ‼︎‼︎」
(絶対救う気ないーー‼︎)
「全く恐ろしい考え方の人達だ...。
僕は誰も傷つけたくないのに...。」
(恐ろしいのはアンタだよ...。)
「では平和質問2。
『平和を齎す為に一番必要なものは』?」
天ボボの言動の不一致に引き気味の高峯を他所に、質問は次の内容へと移っていく。
流石に制裁を受け続けた故か、モデル達にも考えに変化が見られた様だ。
「ぐ...、コイツ流石にヤバ過ぎじゃねぇか...?」
「確かに、変な事言ったら何されるか分かんねぇしな...。
何かそれっぽい事言っといた方がいいだろ...。」
「...そうだ! こんな感じならいいんじゃねぇか?
ズバリ、『愛』です。」
(よし...! これならセーフなんじゃないか...?)
思惑は少々不純ではあるものの、『平和を齎すもの』として仲間が答えた内容に沸き立つモデル達。
その答えに鏑木も自分達の考察を基にして、新たな被害者を減らせるのではと期待を寄せる。
最早、『平和について考える』所から目的がずれてしまっているが、そんな事を気にしていられる余裕は無いのだろう。
「その通り。」
天ボボが件の謎のバッヂを手にしつつ語った言葉に、胸を撫で下ろす一同。
この調子で落ち着きを取り戻していけば、経緯はどうあれ鏑木達が介入し事態を収束させる事も可能だろう。
同時に鏑木達も、天ボボの問答の意図が自分達の推測通りであった事に一安心した様だ。
「でもそれだけじゃ解決しないんだーー‼︎」
「ぶ⁉︎」
(天国から地獄ー‼︎)
しかし、そんな期待を打ち砕く様に、質問に答えたモデルの顔面に天ボボの鉄拳が炸裂した。
最早、モデルを相手にしているとは思えない振る舞いだが、流石にメルト達も今の仕打ちには不満が有る様子だ。
「おい、ふざけんなよ!
コイツの答えだってそんな悪いもんじゃなかっただろ!」
「そうだそうだ!
だったら何て言えば正解だったんだよ!」
「...金です...。」
(現実的だ...。)
「続いては平和質問3です‼︎
『やむを得ない戦いを回避する方法』を答えて下さい‼︎」
天ボボの語った余りに世知辛い正解に、周囲の面々がげんなりとする中でも、問答は容赦無く続いてしまう。
先のやり取りから、その場しのぎの解答ではなくそれなりに真に迫ったものが求められる事は予測出来るが、かと言って彼がいつ迄も待ってくれる保証は無い以上、どこかで答えを絞り出す必要が有るだろう。
「クソッ...、このままじゃまた酷い目に遭うぞ...!」
「でもそれっぽい答えじゃさっきと同じ事になるだろ...!」
「兎に角何か答えねぇと...!
早く考えろ、考えろ、考え...、うおおっ⁉︎」
必死に考えを巡らせるモデル達が、ふと静かになった天ボボの方を見遣ると、彼が両手を翳し巨大なエネルギーの球体を作り出している姿に驚愕を禁じ得ない。
「不正解です‼︎‼︎」
「ぎゃああああ‼︎
せめて答えさせろやー‼︎」
「畜生...。
一体どうすりゃいいんだよ...。」
「次は平和質問4です。
よく聞いて下さいね。」
(最早、相手の事なんか気にしてないんじゃないかこの人...。)
ボロボロな若者達の姿に天ボボの行動原理について考えを巡らせる鏑木だが、正直今更感が拭えない。
余裕の無いモデル達に対して、しっかりと聞き届く様に声を掛けている辺りはまだ希望が感じられるが。
「〜〜...、〜〜...。」
「聞き取れるかーー‼︎‼︎」
ボソボソとか細い声で呟いた天ボボの次なる質問は、モデル達はおろかある程度余裕を持って聴く事が出来ていた鏑木達ですら聞き取れていない。
少なくとも天ボボの感性に近い答えを求められつつ、的外れな答えならば制裁が下される現状でのこの行動には流石にモデル達も抗議の声を上げるが。
「さぁ、解答時間は3秒です。」
「えっ⁉︎」
「おもいっきり無視された⁉︎」
「3、2、1...。」
「おいやべぇって!
メルト、兎に角何か言え!」
「俺かよ⁉︎
えっと...、えっと...、フロリダ?」
「真面目に答えて下さい‼︎‼︎」
「ゴハァ‼︎」
(んな無茶なーー‼︎‼︎)
ヤケクソ感が否めないメルトの解答はあっさりと否定され、彼の鳩尾に容赦の無い制裁が下される。
はっきり言って高峯のツッコミ通りの状況としか言いようが無いのだが、この場でそれを指摘するのは無謀だろう。
『メルトには申し訳ないが、彼には尊い犠牲になって貰う他無かったのだ。』
「おい、何勝手に俺の事殺してんだ‼︎」
「ヤベ、バレた⁉︎」
痛みを堪えながら、勝手にモノローグを追加する首領パッチに怒りをぶつけるメルトだが、すぐさま天ボボへと意識を切り替える。
正味、どれだけ頭を捻った所で自分達が彼を満足させられる様な高尚な回答が出来るとは思えない。
ならば、せめて『自分達は必死に平和について考えている』という事を示すしかないだろう。
「平和質問その5‼︎
『人を守る意義とは何か』?
「愛! 愛! 愛‼︎
純愛‼︎ 熱愛‼︎ 狂愛‼︎
愛なんだよぉーー‼︎‼︎」
「メルトの奴、凄え気迫だ...!」
「だが、こんだけ必死さを見せてればいけるんじゃないか⁉︎」
凄まじい形相で叫ぶメルトの姿に、モデル達も驚かされる。
彼らから見た彼のイメージは、どちらかと言えば無気力で必死さとは無縁の様な人物であった。
これには、アクアやかなは勿論だが、鏑木達ですら目を見開いている事からもそれだけの気持ちが伝わっていると言えよう。
その気持ちの強さが、多少なりとも天ボボの心を動かす事に期待が掛かる。
「ハハハ...。」
(て、聞いてねーー‼︎‼︎)
「プププ...、とうとう無視されてやんの。」
しかし残念ながら、件の天ボボは小鳥と戯れており、全く持ってメルトの熱意は届いていない様だ。
無視されてしまった事実を首領パッチが嘲笑するも、最早メルトにはそれに反応する気力も無いらしい。
すると天ボボが、先程から戯れていた小鳥達をメルト達に対して差し向ける。
「守る意義は人それぞれ別なんだーー‼︎」
「ぎゃあああ、ごもっともー‼︎」
「ぎゃあああ、何でさっきから俺までやられてんだー‼︎」
「いよいよラストの質問です。
アナタは...、アナタは何故そんなに悲しい目をしているのですか...?」
最後の質問_若手モデル全員ではなく、鳴嶋メルト個人への問い掛け。
それは、ボーボボと天の助が彼の胸の内に秘められている闇を感じ取った事によるものだ。
彼らがよく知る、容姿に優れるが故に人の悪意に晒されてしまった少年の姿を重ねたのだろうか。
「何だよ...、何だってんだよ...。
何でそんなに他人に踏み込んでくんだよ...。」
心身共に疲弊している故か、或いは天ボボからの視線に思う所が有ったのか。
事務所の人間や仲間達にすら語る事の無かった己の過去を語り始める。
「...自分で言うのも何だけどさ...、子供の頃から割と見た目を褒められる事は多かったんだ。
実際、スカウトもされた訳だしきっとどんな人から見ても『顔が良い』って思われてたんだと思う...。
だからかは分かんないけど、中学に入ってすぐの頃に三年の先輩に食われてさ...。
『ああ、自分の見た目はモテるんだ』って思った...。」
それを聞いた周囲の面々も複雑な表情だ。
実際、中学生ともなれば男女共にそういった行為に興味を抱き始める年代であり、彼の容姿を考えれば周囲からの誘惑が有った事も想像に難くない。
尤も、『食われた』という表現からして、その行為に彼の意志がどれ程介在していたかは疑問ではあるが。
「黙ってても人は寄ってくるし...、好きな子が出来れば向こうから告ってきた...。
面白い奴をテキトーにイジれば笑いが取れて...、イジってる自分が面白いんだと思ってて...。
テキトーにやってても、大体の事がなんか上手くいって...。
その頃かな...、スカウトされたの。」
その言葉から、周囲の面々も朧げながらに彼の過去を察する。
実際、これだけ容姿が優れていれば他人からの印象はすこぶる良いだろうし、本人の要領の良さによるものか、はたまた彼からの印象を良くしようとした周囲の人間が率先して手を貸していたのか。
全力を尽くさずとも、何となしに上手く事が運び続けてきたのだろう。
「お前ら、覚えてるか?
前に、『社長にバンドやりたいって言ってみよう』って言ってた話...。」
「あ、あぁ...、有ったなそんな話...。
確か、メルトが社長に聞いてみるって言ってなかったか...?」
「そうそれ...。
前に社長に観ろって言われたビデオとか観ても、『何か違うな』って感じはしててさ。
思い切って聞いたんだよ...、レッスン受けさせて貰えないかって...。
そしたら、社長に何て言われたと思う?」
不意にモデル仲間達に振られた話題は、過去に彼らの間で話に上がっていた程度のもので、特に具体的な計画が練られているものではない故に、何故急にそんな話を持ち出したのか疑問符が浮かぶ。
そもそも彼らの中で誰一人楽器の演奏すら出来ない状態である為、精々『少し楽器に触ってみたい』程度の軽い気持ちで話していた内容であった筈なのだ。
「俺みたいな事言うヤツは、昔から大量にいたって...。
『顔売りじゃなくてアーティストになりたい』って...。
それで...、『顔売り舐めんな』って...。」
(成程、それで萎えちゃったって訳だね...。)
話を聞いていた鏑木も、彼の無気力な態度の要因を察するものの、かと言ってそれをどう改善したものかと頭を悩ませる。
これまでの人生をのらりくらりと過ごしてきた者が、プロが集まるこの世界で軽はずみな言動をすれば、当然ソニックステージの社長の様な反応が返ってくるだろう。
その結果、仕事に対するモチベーションが低下したとなっては、幼稚としか言いようが無いのが実情である。
しかも厄介なのが、鏑木から見ても現状のメルトのプロデュース方針が間違っているとは思えない点だ。
『鳴嶋メルト』というタレントの現時点での評価は、『すこぶる顔が良いがそれだけ』である。
彼の言う音楽活動にしろ、今回の様な演技にしろ、現在の彼にはその容姿以外に特筆すべきものは何も無い。
そんな彼を事務所がこの現場に入れさせたのは、単なる『イケメン』ではなく『イケメン俳優』として育成する事で、少しでもこの世界で生き残らせる為の投資と考えられる。
今の彼を捩じ込む事による多少の悪評を考慮してでも、彼の容姿に絶対的な商品価値を見出しているのだ。
そんな状況で、当の本人が触れた事すら無い楽器のレッスンを受けたい等と言えば、鏑木から見ても多少口調のキツイ所が有るかの社長でなくとも『舐めるな』と言いたくもなるだろう。
「あの先輩も...、周りのヤツらも...、事務所も...、多分ファンも...。
皆俺の顔にしか興味無いんだ...。
そりゃそうだ...、じゃなきゃこんな何も無い奴誰も相手にする訳ない...。」
「...なら、何で辞めねぇんだ...?
金に困ってる訳でもないってんなら、そんな苦しい思いをしてまで続ける事も無えだろ...。」
己の空虚さに力無く項垂れてしまうメルトに対し、声を掛けたのはいつの間にやら融合が解除されていたボーボボであった。
事実、彼の話を聞く限り、やる気がないなり嫌な思いをしているというのなら『辞める』という選択肢も有る筈だ。
先程のバンドの話にせよ、彼なりにこの世界でやりたい事が有るのなら、それはそれで覚悟を示さなければ筋が通らないだろう。
彼がただレッスンを受けた所で、事務所側には何の恩恵も無いのだから。
「...アンタの言う通りだよ...。
『顔が良い』だけで金貰ってんのに文句言うなって皆言うんだろうな...。
でも...、それでも...。」
そこで顔を上げたメルトの表情に、仲間達も鏑木達も息を呑む。
涙を流し顔を歪めるその姿は、およそ『イケメン』とは程遠いものだ。
しかし、それ故にそこに表れている感情を他人に伝えるだけの説得力が有った。
「どこかで俺の事を見てくれる人が...。
見た目とか関係無く何かを任せてくれる人が現れるんじゃないかって...。」
震える声で語られた彼の望みは、果たして非難されるべきものだろうか。
外見ではなく中身を見て欲しい_優れた容姿を持つが故に、彼は自分自身を見てくれる存在に飢えていたのだ。
『イケメン』ではなく『ただのメルト』として見てくれる者を。
そんな彼に、ボーボボがスマートフォンの画面を差し出す。
そこには、とある条件で検索されたSNSの投稿が表示されていた。
「鳴嶋、これを見てみな...。
お前のファンのもんだ。
お前を応援してる人は、ちゃんとお前の努力を見てたみたいだぜ。」
『推しがウインクしてくれた。
鬼のファンサのおかげで今月も頑張れそう!』
『メルト君ちょっとずつ露出が増えてて複雑...。
でもウインクが下手だった頃の記憶は私だけのもの。』
『今日も一日、一ハンペン。』
「あ...、あぁ...。」
「世の中、見てくれてる人はちゃんといるもんなんだぜ...。
でも、今のお前じゃあ、その『見てくれる人』までガッカリさせちまうよな...。」
画面を見る視界が歪む。
どうしようもなく暴れ回る感情に苦戦していると、ハンカチを差し出してきたのは天の助だ。
彼の差し出したハンカチの柄は非常に気になる所だが、今は彼の言う通りこの感情の奔流を堰き止める事を優先しよう。
「鳴嶋、今はまだ事務所の人達の言ってる事が分からないかもしれねぇ...。
将来どうなるか、不安も有るだろう...。
そういう時は、目の前の事にがむしゃらに取り組んでみな。
ある『見た目が滅茶苦茶良い奴』を近くで見てきた、おっさんからのアドバイスだ。」
「...うっす...。
おっさん...、いや、おやっさん...。
俺に出来る事なんてたかが知れてると思う...。
それでも、座長を任されたからには、俺がこの作品をサイコーにしてやるよ‼︎」
涙を拭き、拳をボーボボと天の助へと翳すメルトの表情は先程とは別人の様に晴れやかなものだ。
人は所詮、自分が持っているものでしか戦えないのだ。
成程、今の鳴嶋メルトに出来る事等たかが知れているだろう。
正味、星野アクアという実力者が加わったとて、自分の未熟さが相殺される筈はない。
何故なら、この作品において自分は主役を演じなければならないのだから。
それでも、現場を引っ張る位の虚勢は張らねばならないだろう。
こんな自分を応援してくれるファンがいる限り、カメラの前では鳴嶋メルトは『皆の中心にいるイケメン』でなければならないのだから。
そんなメルトの宣誓とも言える言葉に、苦笑とも温かい笑みとも取れる表情を浮かべる鏑木達。
一時はどうなる事かと思われたが、結果的には現場の結束を強めるだけでなく、鳴嶋メルトという有望な若手の意識改革にも成功したのだ。
無論、現実的にはヒロイン役の有馬かなが音頭を取る事になるだろうが、少なくとも仕事に対して前向きに取り組む様になっただけでも大きな進歩である。
今後予定されている、原作者の吉祥寺女史の見学前にこういった機会を設けた事は必ずプラスに働く筈だ。
ただ一人_あの二人と付き合いの長いアクアが、メルトが翳した拳に対して応える様に拳を握ったボーボボの姿に嫌な予感を感じている様だが。
「ちょっとアクア...?
今くらいは素直にメルト君の更生を喜んでもいいんじゃない?
正直、おじさんの言ってる事に私もちょっと泣きそうになっちゃったもの...。」
(コイツ、ホントにちょろいな...。)
「今のテメーに任せられる訳ねぇだろうがーー‼︎‼︎」
「ボハァ‼︎⁉︎」
「ぶん殴ったーー‼︎⁉︎」
「全く...、イケメンってのはすぐ調子に乗りやがる...。」
「いやいや、ちゃんと反省してたじゃん‼︎
悩み聞いてたの何だったの‼︎⁉︎」
当時、天ボボ回のジャンプを立ち読みして笑いを堪えたのはいい思い出です。