『ア・ナ・タの食卓♪
サインはT〜ぬ!♪』
スマートフォンの画面に流れる映像と特徴的な歌詞が、テーブルを囲む四人の若者の目と耳に届いていく。
青空の下で態々寄り集まって画面を覗く四人の共通点と言えば、同じ学校のものなのだろう制服を着ている点だろうか。
四人の内一人だけ混ざる男性にしても、他の三名の着るブレザーと同様のデザインのものを着ており、然程四人が通う学校への知識が無い者が見ても、同じ学校に通う生徒なのだろう事が察せられるだろう。
「一番最近の活動がこれなんだけど...。
ど...、どうかな...?」
動画の再生が終わると、恐る恐るといった様子で一人の少女が対面に座る二人の少女へと声を掛ける。
その少女も、そしてその隣に座る少年の表情もまるで品定めを待つ様な神妙な面持ちであり、四人の中に自然と緊張感が生まれているが。
「えっと...、ルビーちゃんもアイさんも...、あとこのマネージャーさんもほんま美人やなぁ思うよ。」
「みなみちゃんありがとー‼︎
ママとポコミさんの事褒めてくれて、すっごい嬉しい‼︎」
「主旨変わってるぞ...。」
先程迄再生されていた動画_『元B小町のメンバーが、マネージャーと娘と一緒にパロディソングを歌って踊ってみた』を視聴した率直な感想を述べる少女_寿みなみに対し、その動画タイトルにおける『娘』の位置付けである少女_星野ルビーが満面の笑みを浮かべる。
彼女にとって見れば、母であるアイとそのマネージャーであるポコミは前世における貴重な友人であり、動画の企画上とはいえ二人と共にB小町の楽曲_パロディソングと言えどかつての友人達との夢を叶えた形となる。
しかし現実的には、アイドルを志す彼女が親の力を借りて活動の一歩目を踏み出したと言うしかなく、彼女とその兄_アクアが通う高校のクラスメイトとなった者達に対して現状の活動の評価を願った形だ。
詰まる所、動画を観賞した上でのルビーに対する評価や印象を探るのが目的である為、アクアの指摘の通りみなみからの母とかつての友人に対する賞賛を喜んでいても意味がないのだ。
「わ、分かってるって...!
それで...、その、歌とかダンスはどうかな...?」
「うーん、せやなぁ...。
専門やないけどダンスは凄いなぁ思うよ!
歌はどうなんやろ...、そういうもんと思えばB小町の曲に聴こえるかなぁ...。」
ルビーが幼い頃より才能を高く評価されてきたダンスの方は兎も角、歌唱力については何とも歯切れの悪い答えが返ってくる。
そもそもパロディソングなのだから、B小町の曲の様に聴こえても当然なのだが。
「...えっと、不知火さんはどうですか?」
そこで他の意見も聞いてみようと水を向けられたのは、みなみと共に件の動画を観ていた少女_不知火フリルだ。
現状、この場にいる四人の中では群を抜いた知名度を誇る人物であり、『美少女と聞けば殆どの者が思い浮かべる』とのルビーの弁にも納得せざるを得ない美貌とキャリアの差も併さって、自然と敬語になってしまっている。
「ん...取り敢えず、敬語じゃなくていいよ。
同級生なんだし。
それで、まずルビーさんに質問なんだけど、歌唱力は現状どんなもんなの?」
「えー...、えっと、その...。」
「カラオケで良くてヘタウマって所だ。」
淡々とした起伏のない口調故か、或いはフリルとの現時点での差に気後れしてしまっているのか、ルビーの耳には凡百のそれとは比較にならない程鋭く質問が届く。
助け船を出したアクアの言葉に鋭い視線を向けるものの、現実的な評価をすれば『壊滅的と言う程ではない』とするしかない彼女に対し、反対に変わらず涼しい表情のフリルが言葉を続ける。
「成程ね...。
まぁ、歌唱力がそこそこのアイドルなんて山程いるし、ルビーさんの見た目とダンスの実力なら、他に歌が上手いメンバーがいれば全然カバー出来る範囲だと思う。
問題はそこに当てがあるのかだけど...。」
「...。」
「無いって事ね...。
じゃあ取り敢えず、ルビーさんは自分でこの動画のメリットとデメリットをどう考えてる?」
ルビーが押し黙ったままである事を、ある意味での回答と理解したフリルは、続けて先の動画に出演している事の意味を理解出来ているのかを問う。
「えっと...、最初にも言ったけど私はママ_アイみたいなアイドルになるのが夢なんだ。
それで、ママに相談して『折角親が元アイドルなんだから、それを利用しちゃおう』って事でこの動画を撮ったの。
実際、苺プロの社長も本格的なデビュー前に多少でも顔を売れるのはいい事だって言ってくれたし。
デメリットって言うと何だろう...。
動画のコメントにも有るけど、やっぱりママと比べられちゃう事かな...?」
ルビーの語った内容、それはズバリ二世タレントに付き纏う問題だ。
親が偉大であればある程、物事への挑戦のハードルは一般のそれとは比較にならない程に下がるが、その分周囲は否応なく『偉大な親』のフィルター越しにその者を評価してしまう。
ましてや親と同じ道を進もうとすれば、必然比較されてしまうだろう。
これを嫌い、親とは全く違う道に進む者がいるのも無理からぬ事だ。
自身の要望を汲んでくれたのか、敬語からある程度砕けた話し方に修正されている事に好印象を抱くフリルは、続けてルビー側が自分達にこの話を持ち掛けてきた意図を察し、問い掛ける。
自分達を誘うつもりなのだろう_と。
「そこまで分かってるなら、後はルビーさんの気持ち次第だから私からはこれ以上の事は言えない。
それで、私達にこの話をしてきたのはメンバーに知名度の有る人を加えたいって所かな?」
「えっ、そういう事なん⁉︎
でも、不知火さんは兎も角、私の方でそんな人気取れるとは思えへんのやけど...。」
「その...、二人を騙すつもりは無かったんだけど、先に私の実力を知って貰ってからの方が聞いて貰いやすいかなぁって...。
それに、不知火さんは勿論だけど、みなみちゃんだって前に雑誌の表紙を飾ったって話してたよね。
今の私じゃ、一人でどれだけ頑張ったってたかが知れてると思う...。
悔しいけど、『アイの娘』って看板を外した私がソロで勝負出来る程甘い世界じゃないのは分かってるつもり...。
だから、一緒に頑張ってくれる仲間が欲しくて...。」
そう語り頭を下げるルビーに対し、一度視線を交わしつつ困った様子のフリルとみなみ。
成程、『星野ルビー』単体では売り出すのが難しいとの感想を自分達程度の者が抱いたのだから、苺プロの上層部が同様の判断を下したとて何ら不思議はないだろう。
単純に彼女の実力が向上すればその限りではないのだろうが、その努力を怠ってきた者が自らを客観視し、他人の力を頼ろうとはしない事は二人にも理解が出来る。
所謂、『歌って踊れるマルチタレント』として活躍を続けるフリルは勿論だが、みなみにしても知名度こそまだまだと言える状況ではあるものの、雑誌側に評価される美貌に加えて、そのおっとりとした性格が『自分とは違う層を取り込める』とルビーが考えたと言った所か。
「二人共、困らせてしまって申し訳ない。
妹が『聞いてみたい人が二人いる』って言うんで事務所側も様子見してたんだけど、まさか他の事務所の人に声掛けるとは思わなくって...。」
「えっ、私そんなにダメな事してる⁉︎」
「いや、普通に駄目だろ。」
「...まぁ、私も個人的には面白そうだとは思うけど、流石にお世話になってる事務所を離れてまでやろうとは思わないかな。」
「うちもルビーちゃんの事応援しようとは思うけど...。
そもそも、自分がアイドルなんてやれると思えへんしなぁ...。」
そんな二人を見兼ねたアクアの仲裁の言葉に衝撃を受けたのはルビーの方だが、そもそも他の事務所の人間に勝手に誘いを掛ける時点で二人の所属事務所に喧嘩を売っていると受け取られかねない。
事務所を跨いだユニット結成ともなると、番組内における企画や様々な事務所に対しての強い影響力を持つ大御所と呼ばれるタレントが関わるケースが多いが、今ルビーがしている事は当然ながらそのどちらでもないのだ。
基本的に新たなユニットを一から結成しようと思うと、自社内、若しくはフリーの状態である者から探していくのが常であり、その意味では苺プロの様な規模の小さい事務所がかつてのB小町の逸材達を集める事が出来たのは正に数奇な巡り合わせと言えるだろう。
事実、ルビーが活動するアイドルユニットのメンバー選考に関しては、苺プロ側も動いてはいるものの難航しているのが実情であり、『直に接している中で声を掛けたい相手がいる』というルビーの言い分を無碍にも出来ない背景が有った。
とは言え、四人を含めた若手芸能人ないしその卵達が通う陽東高校の芸能科は、基本的に芸能事務所に所属している事を示す証明書が応募資格に含まれている。
例外として、中等部から在籍していた生徒が事務所から離籍しフリーの状態になる場合でも、一年以内に一定以上の芸能活動実績を示す事で高等部への進学が認められるケースが有るが、こればかりは当人とのコミュニケーションによって確認を取る他ないのが実情であり、苺プロ側もそのわずかな可能性に期待したのだろう。
前提として『本当にそんな存在が見つかったら御の字』程度の心持ちであり、この場にアクアを同席させているのも他所の事務所のタレントに余計な事を言わない為のお目付け役なのだ。
「えー...、そういう事は最初に教えてよー!
おじさん達が色々やってるから、割と自由なんだって思っちゃうじゃん!」
「何であの人達を基準にすんだよ...。」
「ははは...、その、メンバー探し応援しとるよ。
うちの知り合い紹介出来たら良かったんやけど、うちらの歳だと芸能界目指してる子は大体スカウトされてるかオーディション参加とか行動に起こしてるやろうしなぁ...。」
兄妹のやり取りに苦笑いを浮かべつつ、みなみもルビーに対して紹介出来る者がいるかを思い浮かべていくものの、そう簡単に話は進まないだろうと予測する。
フリーの状態である者に声を掛けるとなると、モデルとして活動する彼女の知り合いで言えば読者モデルとなるだろうか。
当然、そういった者達には雑誌側もアプローチを掛けている筈であり、本人がその気なら早い者勝ちとなる。
逆に、学業や他の趣味を優先する等の理由から芸能界入りを拒否する者もいるだろう。
何れにせよ、この第一関門を突破したとしても本人にアイドル業への興味が無ければ結局はそこまでになってしまう。
(こうやって考えてみると、スカウトって思った以上に大変なんやなぁ...。)
みなみがスカウトの難しさについて考えていると、何やら隣に座るフリルが先の動画の関連動画から興味深いものを見つけた様だ。
どうやら先の動画のメイキング映像らしく、サムネイルにもルビー達と共にスタッフらしき者の姿が映っている。
「ねえ、さっき言ってた『おじさん』ってこの人達の事?」
「えっ、うんそうだよ。
でも、そんなに面白い内容じゃないと思うけど観てみる?」
件の動画に興味を示した様子のフリルの質問に答えつつ、少々意外に思うルビー。
根本的にコアなファン向けの映像である事を考えると、アイの裏側に興味があるのかとも考えるが、ここに映っているのは当然ながら『カメラの前にいる状態のアイ』であり、彼女の素の部分がどれだけ映っているかは懐疑的になってしまう。
果たして、ルビーが動画を再生すると、冒頭からスタッフの者達が彼女と共に奇行を繰り広げ始めた。
『ルビー、ボボック、生きてるかぁ...。』
『あぁ...、なんとかな...。』
(⁉︎ 何してはるの、コレ⁉︎)
『こっちだパチ前!』
『何だ、この階段は...?』
『兎に角入ってみようよ!』
(何だも何も普通の階段なんじゃ...。 あれ、これうちがおかしいんかな...?)
『折角だから、俺はこのぬの扉を選ぶぜ!』
(ぬの扉って何...? えっ、何で皆真面目な顔して観てんの...?)
『デストコロテン。』
そんな謎のナレーションを最後に動画は幕を閉じた。
何だこれ_そんな言葉をグッと呑み込んで周囲の様子を窺うみなみ。
結局、動画の内容を理解出来ずに終わってしまった事に加え、メイキング映像を謳っているにも関わらずアイもマネージャーらしき女性の姿も一切見られなかった事から、気付かぬ内に全く関係無い動画を観せられたのかと考えたが。
「この人達面白いね...。」
「この動画の編集、お兄ちゃんがやってるんだよ!」
「へぇ...。
誰かに教えて貰ってる感じ...?」
「ああー...、五反田監督って言えば分かる?」
「! へぇ、五反田監督に弟子がいるって噂本当だったんだ...。」
(えっ、何で皆普通に感想話してんの⁉︎ あっ、これうちのツッコミ待ち⁉︎)
動画について真面目に情報交換を行う三人の姿に、みなみが思わず困惑してしまうものの、ここで幸か不幸か彼女の中には思い当たる可能性が有った。
彼女の関西弁の様に聞こえる言葉遣いは所謂エセであり、生まれも育ちも神奈川県民の寿みなみは決して関西人ではないのだ。
然りとて、『エセ関西弁を使う事』をキャラとしている以上、関西人風の振る舞いを求められる可能性は十分あり得るだろう。
「えっと...、三人共いつまで冗談言うてるんよ〜!
ルビーちゃんも、ちゃんとした動画見せたって〜!」
「えっ、何が⁉︎」
「...その、別に調子に乗ってたつもりはないんだけど、そんなにまずい動画だったかな...。」
「...あっ、もしかしてモデル目線で気になる所が有ったとか?
だとしたら私にも教えてほしいな。」
「...ゴメン、何でもない...。」
自分なりに今の状況を打開する為の渾身のツッコミを放ったみなみだが、残念ながら周囲の反応は芳しいものとは言えない結果になってしまった。
彼女のエセ関西弁マスターへの道のりはまだまだ果てしなく続いているという事か。
しょんぼりとしたみなみの様子を不思議に思いつつ、フリルも今回の話の総括となるコメントを述べる。
「ルビーさんがどう思うかは分からないけど...。
個人的には、この人達と絡んでる時の方が輝いて見えるな。」
「⁉︎」
「よく手入れされた艶々の髪...。
あどけなさの抜けない童顔...。
天然おバカっぽいキャラクター...。
確かにそう...。
長年アイドルを追ってきた私の経験上、ああいう子はコッテリしたオタの人気を滅茶苦茶稼ぐ!」
「さりなちゃん...、そういう事言う時はもう少しボリューム落とそう...。」
自分達の目線の先にいる少女_有馬かなに対する妹の分析に、思わず彼女の前世の名を呼び自制を促すアクア。
同じアイドルオタクとしては非常に的確な分析だと思えるものの、第三者は勿論だが本人に聞かれようものなら、さぞ不愉快な事だろう。
彼らがかなの下を訪れた理由を考えれば、話を始める前から相手にマイナスな印象を与える事は避けたい。
「ロリ先輩って今フリーなんだね...。
まぁ、確かに知名度も申し分ないし人気も出そうだけど...。」
「けど、何が引っ掛かってるわけ...?
人気出そうなら誘うだけ誘ってみたらいいじゃん。」
アクアの後を付いてきてみれば、成程確かに自分が求める条件に合致する存在として『有馬かな』を提示してきたのだから、納得するしかないルビー。
にも関わらず言い淀む彼女に、兎に角ダメ元で誘ってみてはどうかとアクアも行動を促すが。
「私はせんせみたいに接点無い人にいきなり話し掛けるとか無理なの!
こう見えても交友の幅狭いんだからね!」
「そう...、何かゴメン...。」
普段の溌剌とした印象からは想像し難いが、ルビーは初対面や然程接点の無い同年代の人間に対して距離感を掴むのを苦手としている。
良く言えば素直、悪く言うと遠慮がなく失礼なその性格は、多分に彼女の前世での苦しい記憶が影響しているのだろう。
病院の大人達に気を遣われる事が日常と化していた彼女に出来る最大の気遣いは、『元気な子供を演じる事』だった。
しかし、見た目や状況が変われば、周囲の人間が受ける印象も変わってくる。
『難病を患いながらも笑顔を絶やさない健気な少女』は、『良くも悪くもハッキリとものを言う好き嫌いの分かれる人物』へと変わってしまったのだ。
これに加え、その恵まれた容姿に対する嫉妬や、どう好意的に見ても奇異なその名から、初めから彼女に対する印象が悪い人間が一定数いた事もあり、いつからか自分から交友の幅を広げる事を恐れる様になってしまったのが現状である。
実の所、みなみにしても隣の席同士になった事が縁で彼女の方から話し掛けてきた事が切っ掛けで友人となり、フリルに至っては本人に言われる迄敬語になっていたのだから、恐らくあの場にアクアとみなみがいなければまともに会話が出来なかった可能性が高い。
「...じゃあ呼び出すのは俺がやっとくから、そこから先はちゃんと話せよ。
有馬だってちゃんと真剣に言えば、話くらいは聞いてくれる。」
「...うん。
でもどうやるの...?
理由も言わずに来てくれるのかなぁ...?」
「あいつはボーボボさんが呼んでるって言えば飛んでくるよ。」
「えぇ...、いくら何でも先輩の事馬鹿にしすぎじゃない...?
流石にそこまで単純じゃないでしょ...。」
「先輩、来てくれるかな...?」
「大丈夫だと思ウッス!
ちゃんと来てくれると思ウッス!」
放課後の時間帯の公園。
兄が招集を掛けたと言う有馬かなが、実際にこの場にやってくる事に疑問を感じるルビー。
彼女の兄_アクアがどういった文句で彼女を呼び出したのかは定かではないものの、冷静に考えてもかなにどれだけのメリットがあるのかを問われた時に答えに窮してしまうのが実情だ。
自身の横で何故か臼の様な姿になっているボーボボの存在を元にこの場を訪れたとしても、いざ来てみれば『一応の顔見知り』程度の相手からアイドルへの誘いを受けても困惑してしまうだろう。
「...お兄ちゃんはさ...、先輩がアイドルになる事にメリットを感じると思う...?」
そこで、同年代の人間の中でも数少ない有馬かなに匹敵する芸歴の長さを持つ兄へと問い掛ける。
現状、タレントとしての有馬かなが自分と組むメリットは有るのか_と。
決して、臼になっている者から目を逸らしたい訳でない。
「...有馬が話を聞いてどう思うかはあいつにしか分からないが...。
普通に断られる可能性だって有るだろうな。
アイドルを始めるって事は、当然そっちの仕事に時間を割かれる訳だ。
役者を続けたい一心でこの世界にしがみついてきた奴からしたら、新陳代謝の激しいアイドル業に参入するリスクを考えるのは当然の事だし、最悪役者とアイドル双方の仕事を失う可能性は十分有り得る...。
いくら『B小町』っていう実績が有るとは言っても、苺プロが決して大手じゃないって事実もネックになるかもな...。
一応、俺の方でも説得する為の材料を用意してはいるが、最終的には『キミ』が気持ちを伝えられるか次第だ。
頑張れよ...。」
「来たッス!
あれだと思ウッス!」
「あれって鳥じゃ...、えっ...?」
アクアの言葉にルビーは反論の術を持たない。
客観的な事実の列挙に加え、自身よりもかなの人となりを見てきた彼の言葉を覆すだけの実力が自身に有るとしたら、そもそも彼女に頼る必要もないのだ。
だからこそ、最終的に彼女の心を動かせるかどうかは、前世において『彼』に語ってきた夢と想いを伝えられるかと言いたいのだろう。
すると臼が空を指差し、何かしらの来訪を伝えてくる。
遠目に見えたそれには、大きな二枚の翼が認められる事からも、彼女がそれを鳥だと考えるのは自然な事なのだが。
「おじさぁぁぁぁん‼︎‼︎」
「ペガサスに乗って来てるーー‼︎⁉︎」
「だから飛んでくるって言ったじゃん。」
徐々に近付いてきたそれは、翼の生えた馬_所謂ペガサスに跨った有馬かなであった。
確かに兄は『飛んでくる』と言ったが、本当に物理的に飛んでくる等とどうして想像出来るだろうか。
「フッ、上手く乗りこなしてるみたいだな、かな。」
「勿論よ!
この『重曹号』で次の有馬記念はブイブイ言わせちゃうんだから!」
「出れんの⁉︎
ペガサスで競馬出れんの⁉︎
って言うか何で皆、そんな当たり前みたいな顔してペガサスの話してんの⁉︎」
余りにも自然に『重曹号』なるペガサスの背中から降り立ったかなや、それを何でもない事のように扱っている他の面々の様子にルビーがツッコむも、三人は不思議そうな顔をしている。
「誰かと思ったら、アクアの妹じゃない...。
ウチの制服着ててペガサスの事知らないって事は一般科受けたの?」
「妹は中学卒業迄はタレント契約してなかったんだ。
名前も聞いた事無かったろ?」
「あぁ、成程ね...。
ペガサスは芸能人の移動手段として最近注目されてるのよ。
スキャンダル対策になるしCO2対策で補助金も出るから、アンタも考えときなさい。」
「聞いた事ないよそんな話⁉︎
大体、ペガサスの存在自体がスキャンダルでしょ⁉︎」
ペガサスの存在に未だにルビーは納得がいっていない様子だが、流石にそれだけに時間を取られる訳にもいかないと判断したのだろう。
彼女の様子にかなも一つ呼吸を置くと、アクアへと自分を呼び出した意図を問いただしていく。
「それで...、妹がいるって事はそっちと関係あるって事かしら...?
おじさんの名前出してまで呼び付けたのに、しょうもない事だったらタダじゃおかないわよ。」
そんな彼女の言葉を受け、前に出たのは聞かれた本人ではなくルビーの方だ。
何かしらの強い決意を秘めた表情に、かなも察するものが有ったのかその言葉を聞く姿勢を取る。
「有馬かなさん...。
私とアイドルやりませんか?」
「アイドル...?
何よ、急に...。」
「苺プロでアイドルユニット組む企画が動いてるの。
そのメンバーを探してて...。
有馬さん、フリーって聞いたからまぁ...、有り体に言うとスカウト...?」
冗談かと聞けたらかなとしても楽だったのだが、本人は勿論アクアとボーボボの雰囲気も、ルビーの語った内容が真剣なものなのだという事を示していた。
そしてだからこそ、かなの判断も素早い。
これ程真剣であるなら、自分も本音で語らねば失礼だろうと考える故に。
「話を持ってきてくれたのは嬉しいけれど...。
ごめんなさい、ナシよ...。」
「俺は林檎の方が好きだな...。」
「そっちのナシじゃないわよ‼︎
そんなに好きなら私がおじさんに剥いてやるわよ、全くもう‼︎
...ハァ、別にアンタに可能性を感じない訳じゃないのよ...。
アンタのお母さん_アイさんと仕事をした事も有るけれど、あの人は正に売れるべくして売れた『本物』だったわ...。
そして、そのお母さんを彷彿とさせる何かを感じてるのも事実...。
でも、それが売れる根拠には到底ならないのは分かるでしょ...?
フリーである以上、私は自分で自分を売り込まなきゃいけない...。
実績の無い領域に足を踏み入れるのは、セルフプロデュース上リスクが大き過ぎるのよ...。
それに...、私はアイドルで売れる程可愛くなんて...。」
「可愛いだろ。」
かなとて、ルビーに対し何の可能性も感じていない訳ではない。
寧ろ、長年の芸能活動によって培われた感覚は、彼女に強く惹かれているのも事実。
彼女の母_アイと否応無く比較される懸念は有るが、それを踏まえても強い才覚を秘めた存在であると認めざるを得ないだろう。
しかし、彼女と組むという事は、必然彼女と共にアイドルとしてステージに上がるという事だ。
何も自身を不細工等と卑下するつもりはないし、平均よりは整った容姿を持つ自覚は有るものの、アイドル的な需要とマッチするとはとても思えない。
少なくとも、いつの間にか臼からいつも通りの姿に戻ったアフロの男性からの直球と言える褒め言葉に顔を赤らめてしまう程度には。
「ちょっ、おじさん揶揄わないでよ...。」
「揶揄ってるつもりは無え...。
かなはそこらのアイドルと比べても可愛いし、歌も上手い。
何しろ、俺はずっとお前の曲を聴いてきたからな...。
そして俺もアクアも、信頼出来るお前にならルビーの事を任せられると思って頼んでるんだ。
勿論、役者がやりたいってのがお前の本音なのは知ってるから無理強いをするつもりは無い...。
だから...、これは俺達の単なる我儘だ...。」
自身と視線を合わせる様に膝を着き、真剣な表情で語るボーボボにかなは益々自身の顔の温度が上昇していくのを感じる。
『ずっと聴いてきた』_その言葉を示す様に、彼が頭を下げるのと同時に開かれたアフロの中からは、彼女が自ら書いたサイン入りのCDジャケットが複数枚顔を覗かせる。
成程、確かに何度も聴いたのだろうか、そのケースには所々細かい傷や指紋が見て取れた。
彼が何度もそれを手に取ってきた証左と言えよう。
「頼む、かな...。」
「む...無理!」
「私からもお願い、先輩‼︎」
「やらないって!」
「かなの事、信頼して頼んでるんだ。」
「もうっ!
何度言われても無理なものは無理!
絶対やらな_」
「有馬、苺プロに入れば必然的にボーボボさんと会える時間も増えるぞ。」
「やるわ。」
有馬かな、苺プロ加入。
ルビーの性格と交友関係に関しては完全に筆者の妄想です。
原作の都合上、アクアもルビーも芸能界以外での人付き合いの描写が少なく、想像の域を出ません。(辛うじて、ルビーの中学での友達が二人いた程度でしょうか?)
ただ、みなみとの初対面時然り、割と失礼な言動が見られる事からも、ギャグ描写であるのと同時に前世において同年代との交流が圧倒的に不足していた事が影響しているのではと考えました。
この為、拙作中においては、ポコミやみなみ、フリルの様に最初から本音で話をしてくれる人とそうでない人とで線引きを行う様になっています。