奥義:63『今からガチ恋♡始めます』
「恋愛リアリティショーに...、アクアを...、ですか?」
自身の目の前に座る者達の語った内容を反芻しつつも、理解が追いつかない様子の苺プロ社長_斉藤壱護。
恋愛リアリティショー、恋愛バラエティ番組_読んで字の如く、出演者達の恋愛模様をバラエティ番組として取り扱ったものである。
所謂素人、ないしテレビ出演とは縁の無い若手の芸能人に話を振っていく都合上、お笑い芸人のステップアップの場として機能してきた歴史も有るのだが、今回壱護が持ち掛けられた『恋愛リアリティショー』の場合、司会の存在も無ければ台本も存在しない形態を取るのだ。
その都合上、『次はどうなるのか』という視聴者の好奇心を煽る効果に加えて、司会やスタジオを必要としない事から必然的に少ない予算で制作出来る事から『恋愛バラエティ』に取って代わる形となっている。
「...フフ、その反応を見るに社長は余り良い印象が無さそうなのら。」
「...そう言ってやるなよ田ちゃん。
今時、多少の知識と良識の有る人ならこの話に警戒してしまっても無理はないよ...。」
それが分かってるなら何でこんな話を持ってきたんだ_そんな言葉を必死に飲み込み、目の前に座る二人の人物_田楽マンと鏑木の言葉を待つ壱護。
SNSの発達した現代においてリアリティを謳う都合上、その番組内で描かれた内容は出演者と直結されやすく、謂れなき誹謗中傷に繋がってしまうのだ。
事実、アメリカで制作された同様の番組に関係して、2004年からの12年間において21人もの自殺者が出ているとの情報も出ている。
そんな番組への出演依頼が来ては、壱護が警戒するのも当然だろう。
これがまだ、駆け出しの段階であるルビーへの打診であれば、先晩の『今日あま』の件でも協力した苺プロ側に対する『謝礼』と考える事も出来るが、アクアの場合一般的な知名度は兎も角、業界内においては既に十分な実績を積み上げてきた若手俳優と言っていい状態である為、この様な形でのメディア露出に頼る必要性は低い。
「僕らと社長の仲だ...。
田ちゃん、ここはもう正直に話そうじゃないか。」
「鏑木ちゃん、そうやって煽るだけ煽って実際に喋るのは人任せなのどうにかして欲しいのら...。
ここだけの話、若手の子達から『話し振られると怖い』って相談されてるのら...。」
「えっ、そうなの...?
そんなに辛気臭い顔しちゃってたかな...。」
「世代の違いも有るのでは...?
SNSが当たり前になってる世代ですから、『他人に指摘されない様にする意識』が以前とは比べ物にならないのでしょう。」
「ほう...、流石は社長、見識なのら...。
実は、今回の話も社長が今言った事と関わる事なのら。」
やられた_そんな感情を何とか抑える様努める壱護。
茶番なのか本当の事なのかは兎も角、先の二人のやり取りに対する自身の言葉は二人の思惑を自分から『理解している』との言質を取らせてしまったに等しい。
言ってしまえば、恋愛リアリティショーの場に起用したい者がおり、その何某のフォローを同年代のアクアに依頼したいという事だろう。
「...実はその番組なんだけどね...、あかね君も出演する予定なんだ。」
「...黒川あかねさんが...ですか?
これはまたどういった経緯で...?」
この二人を相手に腹芸を挑むのは無謀だと判断したのか、壱護は方針を変え思った事を正直に話す。
黒川あかねを知る業界人から見れば、その実力と世間的な知名度の剥離はアクアのそれ以上であり、舞台業界が今や『劇団ララライのエース』と呼ばれる実力を持つ彼女の露出を増やしたいという考えには理解が及ぶ。
問題は、その露出の舞台として恋愛リアリティショーという場が適しているとは思えない点だ。
舞台上での圧倒的な演技によって人を魅了する事を本懐とする彼女の魅力を伝える上で、恋愛模様を映したとて全く持ってピントがズレていると言えるだろう。
「うーん...、話してもいいけど。
アクア君の出演はオッケーなのら...?」
「...どうせアクアも出る事を前提で進めてるんでしょう...?」
「どうせとは随分な言い草なのら。
ねぇ、鏑木ちゃん。」
「そう言ってやるなよ、田ちゃん...。
僕らは他の事務所の子に配慮してくれる社長の優しさを享受しようじゃないか。」
この二人は一度、自分がよく知るウンコ頭の男性に説法でもして貰った方がいいのではないか_そんな壱護の思いを知ってか知らずか、それまでの軽い佇まいを改めた二人が、この話の背景を語り始める。
「丁度、この番組の放送が終わってすぐなんだけど...。
その位のタイミングでの稽古開始を目標に、とある作品の舞台化企画が進んでいるのら...。」
「社長も聞いた事は有るんじゃないですか?
豊洲の『ステアラ劇場』でやるんですよ...。」
「...確か、IHIがネーミングライツを獲った劇場ですよね?
2.5次元作品で使われて好評だって話は聞いていますが...。
その舞台に黒川さんが出演すると...?」
IHIステージアラウンド東京_オランダ、アムステルダムに在する『Theater Hangaar』に次ぐ世界で二つ目の、『客席が360°回転する劇場』である。
円状の舞台の中心に客席が設置され、舞台の『セットの入れ替え』という否応無く訪れる継ぎ目を、客席を回転させ別のセットが予め設置されている方向へと向けさせる事で軽減した、それまでの舞台の常識を覆す存在なのだ。
そんな劇場の話が出たとなると、あかねが件の舞台のキャストとして内定しており、その舞台のPRの一環として主要キャストたる彼女の番組出演に繋がったと壱護が考えたのも自然な事だろう。
「あくまでも現時点では、有力な候補としか言えないけれど...。
だがまあ、彼女の実力を考えれば『余程な事』が無い限りは起用されると見ていいのら。」
「アクアはその『余程の事』が起きない様にする為のお目付け役という訳ですか...。」
自身の返した言葉に頷く田楽マンの姿に、壱護も彼らが自分達に話を持ち掛けてきた意図を把握し始める。
あかねを推し出すとなると、件の舞台のキャストには十中八九他のララライの役者達も参加するだろう。
現在のララライ所属の二枚看板とされるのが『黒川あかね』と『上原大輝』である。
この内、大輝の方はテレビドラマでの主演経験も有る事から、所謂役者の演技力や受賞歴に疎い一般層にも一定の知名度を得ている。
その彼と並行してあかねを売り出す事で、件の舞台は勿論だが、その先の出演作に向け舞台業界全体の新規客層の確保を狙いたいと考えるのは自然な事だろう。
そこで個人として互いに既知の関係であるアクアに彼女のフォロー役として白羽の矢が立ったという事か。
「勿論、タダでとは言わない。
今回の件が上手く進んでくれれば、御社の方々の活動についてのご相談は受けさせていただくつもりです。
それこそ、アクア君にもその舞台の話を振っていきたい。」
「それはまあ、そういったお話をいただけるのは大変ありがたい事ですが...。
正直、そこまでのリスクを冒す必要が有るのでしょうか?
舞台のPRを兼ねてという事なら、何もリアリティショーを選ばずとも良いのでは...?」
鏑木達がここまで根回しをするからには、件の舞台というのは相当肝入りの企画なのだろう。
舞台業界全体のPRとして考えてみても、『舞台』と『恋愛リアリティショー』の客層が合致するとはとても思えないのが実情である。
両者の間にもう一つ何かの要素が絡んでいると壱護も予想するが。
「...実はその舞台の公演中に、ハレクラニ氏が視察に来るとの話が有るんです...。
恐らく、ステアラの劇場をハレルヤランド内に建設した場合の事を考えてなんでしょう...。」
次の瞬間、鏑木の口から思ってもみなかった名が出てきた事を訝しむ壱護。
鏑木の予想自体は、ハレクラニを知る彼から見ても十分有り得そうな事だと思えるが、余りにも話が明後日の方向へと飛んできてしまった為に先程の話とどんな関係があるのかが予想もできないのだ。
「この番組の収録現場を選定していた時でした...。
どこから伝わったのか、氏からハレルヤランド内での撮影を持ち掛けられたんです。
その対価として、『何人かこちらが選んだキャストを出演させたい』との要望をいただいたんですが、こちらとしてはキャスティングの手間が軽減されるのもあって断る理由も有りませんでした...。
その数日後です。
ララライの金田一君から私に連絡が来たのは...。」
「ちょっ、ちょっと待って下さい⁉︎
それじゃあハレクラニさんは、その舞台の企画の事も把握してるって言うんですか⁉︎」
「...実際にどこまで知ってるかは分からないですがね...。
氏が色んな方向にアンテナを張っているのは社長もよくご存知でしょう?」
鏑木の言葉に、壱護もまたかつてB小町のメンバーが出演した彼のYouTubeチャンネルの存在を思い返しつつ、今回の話に彼が一枚噛んでいるという彼の思惑を類推し始める。
ハレクラニが件の舞台についての情報を掴んでいるかは兎も角、ステージアラウンドの劇場やララライで活躍する役者達については把握していると考えていいだろう。
何しろ、劇団ララライの躍進の背景には、彼がハレルヤランド内の劇場を提供した事で公演の回数をこなせた事実が有ったのだ。
当時駆け出しの若手役者であったカミキ ヒカルも、今や舞台役者の代表格にまで登り詰めている事実からして、劇団全体へ齎した影響を否定する事は出来まい。
そんなハレクラニとララライの蜜月の関係は現在も続いており、そうなると『ララライのエース』と称されるあかねの状況について把握している事は想像に難くない。
番組への出演を通して、あかね自身並びにララライへの興味を抱いた新規客層を取り込めればそれで良し、そうでなくとも撮影現場として画面に映るハレルヤランドのPRと考えれば、『広告宣伝費を支払うどころか、撮影に使われた事による収入を得つつ宣伝を行える』という時点で十分なメリットを感じるだろう。
そんな話を持ち掛けられたララライの代表である金田一が、急ぎ鏑木達へと連絡を取り今回の話に繋がったといった所か。
「お話は理解しました...。
ただ、アクア以外にも何人か『助っ人』の参加の許可をお願いしたく...。
田楽マンさんもよくご存知の『あの人達』ですよ。」
「...アイツらを呼んで大丈夫なのら...?
下手したら問題の原因になりかねないのら...。」
「毒を食らわば皿までです...。
『あの人達』と一緒にいれば、たとえ黒川さんだろうと否応無く騒ぎに巻き込まれ、目立つ事になるでしょう...。
ハレクラニさんの狙いが『黒川あかねの認知度の上昇』であるとしても、何も彼女本人が何かをする必要はない...。
寧ろ『騒いでいる者達に振り回される苦労人』という役なら、彼女の性格を考えても都合がいいかと。」
壱護の提案に、自身もよく知る『とある者達』の顔を思い浮かべつつ渋い表情を隠さない田楽マン。
その者達を知る者であれば、騒ぎを起こしこそすれど平穏無事に撮影が終わるとは思えないだろう。
下手をすれば、あかねだけの問題に留まらない騒動に発展する可能性も考えられる。
しかし、そこは流石に癖のあるメンバーばかりのB小町を伝説的なアイドルグループへと導いた壱護。
『何もない事を目指す』だけが対策ではないと語ってみせる。
無論、アクアのフォローのみで本当にやり過ごせたなら問題ない。
ただ、番組の性質上、彼とあかねが付きっきりの状態というのは難しいだろう。
いくら台本が無い状態とは言えど、番組の盛り上がりの為の編集、演出というものは存在する。
いっそ彼ら二人が、互いに対して番組内だけでも『それらしい素振り』を見せられるのなら共にいる時間が長い事の言い訳にもなるだろうが、あかねの性格を考えるとボロが出そうな感は否めない。
ならば、彼女が演出上のヒール役となる前に、騒ぎを起こす存在を拵え、それに振り回される被害者としてしまえばいい。
恋愛模様を描くメンバーと別の所で、コメディ的な立ち位置となりつつアクアが彼女をフォローする流れを作れば、好き嫌いや目立つかどうかは別にしても視聴者から多少の同情的な感情は期待出来よう。
上手くすれば、そういった彼女の姿に興味を持った者達が、舞台上での彼女の圧倒的な技量に度肝を抜かれる展開も期待出来るかもしれない。
「成程、流石のご慧眼ですね...。
しかし、物事に絶対はない...。
今の若い世代の視聴者がそういった姿に悪感情を抱く可能性もゼロとは言えない。
あかね君がそうした理不尽な悪意に晒されてしまったとしても、『その人物達』であれば何とかしてくれるのでしょうか?」
「理不尽が相手ならば尚の事でしょう...。
あの人達以上に理不尽を打ち砕く力を持つ人なんて、そう思い付くものではありませんから...。」
鏑木の懸念も尤もなものだ。
不特定多数の人間が、何をどの様に受け取るか等事前に把握が出来る筈がない。
ならこちらにも相応の存在を置いておかねばなるまい。
賽の目が悪い方向に転がってしまっても、それを覆してしまう程の理不尽な存在を。
「『今からガチ恋♡始めます』ねぇ...。
家族がこういう番組に出るのって、二人からするとどういう気持ちなの?」
「複雑意外の何ものでもない...。」
「まあ、そういう仕事なんだから仕方がないと思うしかないけどねー...。
流石にキスとかし始めたら気まずいかな...。」
「実際、こういう番組に対する出演者のスタンスも人それぞれだって聞きます。
『リアリティ』を謳ってる以上、ガチガチにキャラを作らないとやってられないって人もいるでしょうね...。」
苺プロ社内のソファに並んで腰掛け、テーブルの上に置かれたパソコンの画面に視線を送りつつそんな会話を交わす四人の女性。
苺プロ所属の俳優_星野アクアが恋愛リアリティショーである『今からガチ恋♡始めます』なる番組に出演する事となり、それに対する反応を女性の一人であるポコミが、共に座るアクアにとっての母と妹へと問い掛ける。
芸能人という立場と出演する番組の趣旨を考えれば、彼の母_アイが語った様に『そういうもの』と割り切った方が精神衛生上マシな選択と言えよう。
或いは彼の前世も含めて複雑な感情に包まれている様子のアクアの妹_ルビーに同情する気持ちはポコミにも有るが、この番組は兎も角、彼が俳優業を続けていく限りは『そういったシーン』を演じる可能性はゼロではないのだ。
ただでさえ出演者からすれば、自分達の一挙手一投足を視聴者に監視されている様な状態である。
ルビーの隣に座る、つい最近苺プロと契約したばかりの少女_有馬かなが言う様に、画面に映る彼は『アクアであってアクアではない』と考えておいた方が過敏な反応をせずに済むだろう。
「...あっ、あかねちゃんだ!
うわぁ、すっかりお姉さんになっちゃったね...。」
そんな彼女達が視線を向ける画面では、丁度出演者の紹介が行われている。
ファッションモデルの『鷲見ゆき』、ダンサーの『熊野ノブユキ』に次いで紹介されたのが、この場にいる全員が知る『黒川あかね』である。
立場上、サイバー都市を訪れた時を含め、数える程しか顔を合わせた事がないルビーとしては、一つしか年齢が違わないにも関わらずすっかり美人の女性となった彼女に対して感嘆してしまう。
「ユーチューバーにバンドマン...、ホントに色んな人が出てんのね...。
ねぇルビーちゃん...、『せんせ』大丈夫かな...。」
「う、うーん...。
女慣れしてるプレイボーイな所見せ付けられるのかな...。」
「ねぇ、ポコっちー。
観ながらでいいから足ツボ押しフガガガガ...⁉︎」
「⁉︎」
続けて紹介される者達の様々な肩書きに面食らいつつ、自身の左隣に座るルビーに対し、小声で感じた懸念を問い掛けるポコミ。
実の所、現状アクアが前世の記憶と雨宮吾郎の意識について本人なりに折り合いをつけたと聞かされてはいるものの、それは決して吾郎の意識が完全に消滅した証拠とは言えないのだ。
彼が以前話していた様に人格が融合したか、或いはサイバー都市で行われたという特訓とやらで主導権が完全にアクアへと移行したのかは定かではないが、やはり言動の端々に吾郎としての意識や仕草が垣間見れる事からも、少なからず彼の振る舞いに影響はあると言っていいだろう。
こうも世代の違う者達に囲まれては、彼が精神的苦痛を感じてしまう可能性は勿論だが、以前自分達がいた病院内で聞いた吾郎の遊び慣れしているとの噂等、見たくない一面を見せ付けられる事も有り得る。
或いはアクアの方が、敢えてそういった『吾郎の振る舞い』をキャラとして利用する事も考えられるか。
そんな自分達にとっての大切な人の一大事だと言うのに、足を投げ出して空気の読めない事をほざいている右隣の女の頬にマッサージ棒をめり込ませてやった。
何やらかなが驚愕の表情を見せているが、丁度アクアの登場シーンであるからだろうか。
『めっちゃ緊張するわー。
皆、よろしくね!』
「いや誰‼︎」
「キャラ作り過ぎでしょ!
お兄ちゃん、陰のオーラ発してる闇系じゃない!」
「何だよコレ!
いつもこんな感じで口説きに行ってたのかあのヤロー!」
アクアが見せる余りにも爽やかな姿に、二人は我慢出来ずツッコんでしまう。
ルビーの言う『闇系』なる失礼な評価の正否は兎も角、二人からするとアクアにしろ吾郎にしろ同じ爽やかさでも冷静でインテリジェンスを感じさせる方向であり、この様な軽薄さを感じさせるものではないのだ。
彼女達の余りの必死さにアイとかなは若干引いた様子だが、二人としてはそれどころではないのだろう。
『ええ〜、かっこい〜。
役者さんって憧れるぅ〜。』
「あーあ、お兄ちゃんこういうぶりっ子タイプに厳しいからなぁ。
この子はないなぁ。」
「ただでさえ既に知り合いのあかねちゃんもいる状況だしね。
何だったら昔二人でそういう事したらどうするって聞いたら、すっげー嫌そうな顔してたし。」
「いや私が電話で聞かされてた話だと二人も大概...、ゴメン何でもない...。」
アクアを甘ったるい声で褒めつつ距離を縮めようとするユーチューバーのMEMちょに対して、厳しい指摘を行う二人。
自分達の記憶に加え、既知の間柄であるあかねがいる状況下でこういった近付き方を彼が受け入れるとは思えない故なのだろう。
何やらまたポコミの隣に座る女性が妙な事を言おうとしていたが、二人が視線を向けると言葉を中断してしまった。
『MEMちょも可愛いね...。
めっちゃ照れる...。』
「は? 死ね。」
「何だあのインテリメガネめ...!
結局、相手が誰だろうと『可愛い』とか平気で言っちゃうんだ!」
「女に囲まれて浮かれてんな...。
帰ったら説教だわ...。」
(眼鏡...? プライベートでしてるって事かしら...。
にしても、ルビーは兎も角何でポコミさんまで...?)
「結局お兄ちゃんもオスなんだね。」
「チョロそうなメス見つけたら、すぐコレだよ。」
(それブーメランじゃ...、やめとこ、ぶっ飛ばされそうだし...。)
「二人共、コレメディア用だから落ち着いて...。
そうしないと番組が成り立たないでしょ?
身近な男が女にデレデレしてる所見ると腹立つのは分かるけれどね。
アクアも役者...。
そういう男を演じる気持ちでそこにいるんじゃないかしら。」
アクアに対する視線と舌鋒を鋭くした二人を落ち着かせようと、側で様子を見守っていたミヤコが彼を擁護すべく、番組に対するスタンスを先のかなの言葉と同様のニュアンスで語り掛ける。
流石に壱護から聞いているこの番組の裏の事情まで話す訳にはいかないが、彼女達の複雑な心境に理解を示しつつも『仕事である』というスタンスは観る側も汲む必要が有るだろう。
その言葉には二人も何も返せない様子で、ひとまず勢いが鎮静化していった様だ。
代わりに画面の向こう側がとんでもない事になってしまっているが。
『やほやほー、喜多川パチンでーす! 皆よろー!』
『天条プル菜です、よろしくお願いします。』
『よーし、全員揃ったか出席取るぞー。
俺は担任のボボ八だ、これからよろしくな!』
『用務員の軍艦だ。
番組内の企画で質問がある時は俺に聞いてくれ。』
「いや何してんのあの人達‼︎
後、このリーゼントの人誰⁉︎」
「パチさんも天さんも何制服なんか着てんの⁉︎
私ですら仕事でしか着た事ないのに!
大体、読モ兼コスプレイヤーと雛人形職人ってどんなキャラ付けだよ‼︎」
「おじさんも何がボボ八よ!
私が家庭教師頼んだ時は黙ってヘッポコ丸さん送ってきたくせに...!」
今度はアイとかなの声が重なってしまうが、無理もないだろう。
何の前触れも無く現れたのが、ギャルメイクを施された首領パッチ、何故か製作途中なのだろう雛人形の顔の部分を大事そうに持つ天の助、そして本来番組に存在しない筈の『教師』という役割を宣言したボーボボでは混乱してしまうのも当然だ。
ボーボボの隣にいる『軍艦』なる男性には見覚えがないが、その異様な出立ちを見るに十中八九彼らの関係者である事が窺える。
『え、えーとっ...、番組の企画って〜、どういう事するんですかぁ...?』
『そもそもこの番組で教師って何するんですか...?
所謂、司会って考えておけばいいのか...。』
「いいわよアクア!
こういう時率先して質問出来るのは、視聴者からのポイントも高いわ!」
「このMEMちょって子も偉いね!
アクアと一緒に纏め役みたいになってくれそう!」
奇特な者達の登場に周囲が唖然とする中、状況を整理しようと努めるアクアとMEMちょの姿勢を二人が高く評価する。
アクアとあかね以外の出演者、そして大多数の視聴者にとっていきなり現れた謎の人物に対して臆せず質問出来るのは、恋愛的なやり取りとは別の意味で好印象となるだろう。
彼らの関係性を知る自分達だからこそ、普通に会話している事を当然の事と思えるが、そうでない者からすれば『いきなり現れた変な人に勇気を持って話し掛ける事が出来る人』と映る。
MEMちょと軍艦の関係性を知らない自分達がそう感じた様に。
こういった役割が続けば、無理に恋愛的な演出に拘らずともバイプレイヤーとしての立場を確立出来る様に思えるが。
『自分で考えろやー‼︎‼︎』
『指示待ちはいつまで経っても指示待ちのままだぞ‼︎‼︎』
『キャアアァァァ‼︎‼︎』
『チックショー、この番組のっけから滅茶苦茶じゃねーか‼︎⁉︎』
「...。」
果たして、変人達を出演させた壱護達の思惑とは?
懸念される黒川あかねの運命は?
大人達の思惑に翻弄される出演者達のリアリティショーが、今始まる。
平素より拙作を手に取ってくださる皆様。
明けましておめでとうございます。
何となく始めたアホな作品ではございますが、どうか今年もお付き合いいただけますと幸いです。
それでは、皆様と皆様の推しに幸せとハジケが在らん事を。