推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:64損な役

 長い歴史を積み重ねてきた『恋愛リアリティショー』という番組には、当然ながらその歴史と共に蓄積されてきたノウハウが有る。

 エンターテイメント性を担保しつつ、『やらせ』と思われぬよう各出演者の個性に任せる部分が大きい。

 ここに出演者とディレクターとのディレクションが加わる事で、各々のカメラの前での振る舞いに『演出』が入る訳だが、これが中々に曲者なのだ。

 ディレクターの話を『アドバイス』と取るか、『指示』と取るか_明確なルールとして存在していない以上、その判断は出演者側に委ねられており、自然と番組の中での立ち位置というものが明確になってくる。

 

「見て見て、記事になってる!

 私、ちょっとは視聴者獲得に貢献出来たかな?」

 

 鷲見ゆきの様に、上手く自分を目立たせる為の立ち振る舞いが出来る者。

 

「俺はガチよ?

 何なら結婚までいけたらおもろない?」

 

 熊野ノブユキの様に、良くも悪くも表裏がなくキャラとして人望を集めやすい者。

 

「楽器弾いてる時と似てるかも...。

 カメラ向けられると、どうしてもスイッチ切り替わっちゃうって言うのかな...。」

 

 森本ケンゴの様に、番組映えが悪く出番を得るのに苦労する者。

 

「私は自分のチャンネルにお客の導線引くのが目的だしね。

 ...と言うか、社長達が暴れ回ってるせいでそれどころじゃないし...。」

 

 MEMの様に、番組に出演する目的を明確にし、必要な範囲の動きに留める者。

 

 そして。

 

「先手、2九桂馬ワープ成り。」

 

「あっ、あれは⁉︎

 首領パッチの得意技、『初手桂馬ワープ』‼︎

 天の助はこれにどう返すつもりだ...。」

 

「後手、同じく2九相手飛車裏切り成り。」

 

「これは⁉︎

 相手の駒をそのまま勝手に自分のものとして扱う『裏切り』...‼︎

 これはまだまだどうなるか分からんぞ...。」

 

 自分達の手に余る存在の対応を押し付けられる、黒川あかねの様な者である。

 首領パッチと天の助が繰り広げる、将棋の様で将棋ではない謎の行動に対しても淡々と進行する彼女の姿に、共演者は尊敬と驚嘆が入り混じった視線を向けていた。

 

「なぁ、アッくん...。

 この後、皆で焼肉行くんだけどさ、黒川さん達の『あれ』って声掛けて大丈夫な感じ...?」

 

 そう自身へと声を掛けてきた共演者の少年_ノブユキの表情に、自分もかつてはこんな反応だったのだろうかと感じさせられるアクア。

 はっきり言えば、彼とて未だに彼らの奇行の意図を把握出来ていないばかりか、何故あかねがあんなにも適応出来ているのか説明して欲しい位なのだ。

 恐らく、ノブユキ達からすればあの奇行を続ける者達と既に打ち解けた様子のアクアへと事態の打開を願ったのだろう。

 

「...店の住所とか分かるか?」

 

「えっ、おう、ちょい待って...。 ほい、ここ。」

 

 アクアからの質問の意図が分からず面食らうものの、スマートフォンの画面に店舗情報を表示したノブユキ。

 手早く紙に店の住所と名前を書いた彼が、ボーボボに近付いていくのを固唾を飲んで見守るが。

 すると彼が徐に掴んだボーボボのアフロが蓋の様に割れたかと思うと、そこにメモを挟み満足げな表情を見せる。

 

「よし、これでいいだろ。

 俺、家に連絡してくるわ。」

 

「何がこれでいいの⁉︎

 えっ、ホントにいいのアレで⁉︎」

 

 

 

「いらっしゃいませ。」

 

「あっ、すいません、予約していた熊野っす。」

 

「はい、熊野様ですね。

 お連れ様は既にご到着しております。」

 

「えっ...?」

 

 目当ての店に到着した一行を代表して、予約を取っていたノブユキが店員へと確認を取ると、彼にとっては予想外の返答がなされる。

 確かに予約自体は人数分取ってはいたが、あの変人達よりも自分達は先に出発した筈なのだ。

 困惑しつつも店員の案内に従い、部屋へと案内されると。

 

「うわぁ...、もうかなりグラついてきてますよ...。」

 

「そーっと、そーっとだぞ...。」

 

「今度は何してんだこの人達‼︎⁉︎」

 

 彼らが扉を開けると、ボーボボ達が金網の上でジェンガを行う光景が広がっていた。

 よく見れば既に火が点けられており、下の方から燃え始めている様だ。

 

「おう、来たかお前ら。

 こっちは先に始めてるぞ。」

 

「いや、何やってんすかそれ⁉︎

 ってか、下の方燃えてるし、危な‼︎」

 

「何って焼きジェンガだけど、今の若い子達ってやらないの?」

 

「焼きジェンガ⁉︎」

 

「焼肉屋に来たら、まず焼きジェンガだよな。」

 

「聞いた事ないよそんな話⁉︎」

 

 

 

 謎のジェンガが続行不可能になった所で、若者達によって行われた協議により変人達を半分ずつ受け持つ形で二つのテーブルへと分かれる一行。

 首領パッチと天の助の相手を受け持つノブユキ、ゆき、ケンゴの三人が、せめて食事中位はあかねの負担を減らしたいと申し出た故だった。

 尤も、そんな彼らの気遣いも自身の前に座り、懸命に他人の分の肉を焼く彼女の真面目さの前ではどれだけ届いているのかとアクアは疑問に感じてしまうが。

 

「アクア君、カイノミ焼けたよ。

 はい、どうぞ。」

 

「自分の分は自分で焼くから気にすんなって。

 あかね、さっきから全然食ってないだろ。」

 

「そ、そんな事は...。」

 

「皿も汚れてなければ、タレが飛び散ってもいない。

 掃除機みたいに吸い込んでるってのか?

 焼いてやるからさっさと食えよ。」

 

「むぅー...、アクア君の意地悪...。」

 

「ねぇねぇ、二人共随分距離近いよねー...。

 『実はもう隠れて』ってやつー?」

 

 自身の横で繰り広げられる二人のやり取りに、MEMが揶揄いながらの質問を投げ掛けるが、それは野次馬的な意図だけではない。

 実際、番組の中で映っている範囲だけでなく本当にカップルとなる者達も存在する為、二人が本当に恋人同士だとすればそれを事前に知っておく事は互いの関係性を続けていく上で大切な事だ。

 現状、MEMに個人としてアクアに対する特別な感情はなく、可能であれば番組終了後も二人とは良き友人としてありたい故の確認作業である。

 

「お互い子役上がりだから、昔からの知り合いなだけだよ。

 クソ真面目だから『自分、精進の身なので』つって、マジでトング離さねぇんだ。」

 

「ハッハッハッ、成程な!

 あかね君、これは年寄りからの小言に聞こえるかもしれんが、いくら真面目とは言え、何時迄もその調子だと後輩が気まずい思いをするぞ。

 なぁ、MEM君!」

 

「ちょおっ⁉︎

 こっちに飛び火させんのやめて下さいよ、社長!

 前に何してたとか皆に話してないんですよ⁉︎」

 

「...そういえば、お二人はどういったご関係なんですか?

 撮影が始まった時の時点で、仲良さそうだなとは思ってたんですが...。」

 

 アクアからの説明を受けた軍艦の言葉に耳が痛そうな様子のあかねだが、話の矛先がMEM達の関係性に移ったのをこれ幸いと逆に彼らへと問い返す。

 これに関しては、アクアを含め他の面々も気になってはいたのだが、公開されていない各々の情報について踏み込むのは憚られるのが実情であった。

 MEMの方も悩む素振りを見せるものの、あかねに軍艦達の対応を任せてしまっている負目がある故か少しずつ自分の情報を明かし始める。

 

「一時期バイトしてた時にお世話になっててねー...。

 漁業の社長さんだから、今もたまにお裾分けして貰ってるんだ。」

 

「成程、それじゃあ軍艦さんが参加してるのってMEMとの繋がりって事か...。」

 

 ユーチューバーという彼女の立場上、これ以上の詮索を避ける為に、アクアが軍艦という存在が番組に参加している背景を推察するが、これを他ならぬ彼女自身が否定した。

 撮影場所として利用されているハレルヤランドの主たるハレクラニと繋がりのある軍艦から声を掛けられた事で、自分が出演する事となったのだ_と。

 

「そんな風に卑下するものじゃないぞ。

 元はと言えばMEM君がハレクラニの奴のチャンネルで興味を引いたのが切っ掛けじゃないか。」

 

「そうだぞ。

 こんなタコ野郎じゃなく、自分の努力を自分で誉めてやるべきだぜ。」

 

「そこまで言わなくてもよくない⁉︎

 お前の肉に墨ぶっかけるぞ⁉︎」

 

「ちょっと待って⁉︎

 向こうの席で軍艦さんが蛸になってんだけど、どういう事⁉︎」

 

(ボーボボさんの言い方は兎も角、軍艦さんって一体何者なんだ...?)

 

 ボーボボの言葉に蛸に変身して憤慨する軍艦だが、話を聞いていたアクアとしてもハレクラニとの繋がりを持つ彼の素性が気になる所だ。

 ここまでの振舞いを見てもそこまで悪い人間とは思えないが、然りとて只人が繋がりを持てる相手では断じてない事やボーボボ達と旧知の仲らしい様子からも、或いは彼にも人に触れられたくない過去が有るのやもしれない。

 何やら反対側の席が騒がしいが、蛸になるのがそこまで物珍しいのだろうか。

 

「まぁ、このタコ社長の事は置いといてだよ...。

 あかねちゃんに聞きたいんだけど、今のままでホントにいいの...?」

 

(俺、置いとかれた⁉︎)

 

「えっと...、それってどういう...。

 あっ、カルビがいい感じだよ、アクア君!」

 

「...これ見ればMEMの言いたい事が分かるだろ...。」

 

 蛸になった者よりも優先すべき話題_番組内でのあかねの立場についてMEMが彼女自身の認識を問う。

 その意図を汲み取れなかったのか、或いは敢えてそう言ったのか言葉を濁すあかねだが、先んじてアクアがはぐらかそうとする彼女の逃げ道を封じるべくスマートフォンの画面を見せつける。

 放っておけば間違いなく一人で抱え込むであろう彼女を孤独にさせない為に。

 

『今日の今ガチで大凡の立ち位置が決まった感じだ。

 ゆき、ノブユキ、ケンゴの三角関係がメイン。

 パチンとプル菜も一緒にバカやりながら仲良さそう。

 MEMちょ、アクアも地頭が良いのか、世間話役だけどいいキャラしてる。

 あかねは...必要かって言われたら別にって感じ...。』

 

「...牛タン美味しい...。」

 

「...勿論、これは番組の公式アカウントに付けられた一視聴者の意見でしかない...。

 これに同意しない人間もいるだろうな。」

 

 たかがネット、素人の意見と侮るなかれ。

 総務省による2022年版情報通信白書では、2021年時の国内のインターネット普及率が82.9%(約1億78万人)との発表がなされ、その内の80.2%(約8149万人)がSNSを利用しているとされているのだ。

 同年における国内のインターネット広告費たるや2兆7000億円にも昇っており、テレビ、新聞、雑誌、ラジオのマスコミ媒体の合計を上回るに至っている。

 これだけ不特定多数の人間の好き勝手な意見を、その8割程度の人間が自由に見聞き出来る状況では、マーケティングにおいてとても無視出来るものではなくなってしまっていると言っていいだろう。

 最早、コンテンツと消費者は相互監視状態と言ってよく、『ネットの反応を見るな』という時代は終わってしまった。

 

 翻って、この場にいる芸能人にとってのコンテンツとは何か。

 言うまでもなく自分自身である。

 アクアがあかねに見せたのは、正に『何処ぞの誰かの一意見』でしかないのだが、この『今ガチ』という舞台に引っ張り出された若者達の評価の縮図と言っていい。

 

「なぁ、ニ人共何でそんな難しい顔してんだ...?

 あかねが性格的に目立ち難いのは分かるんだが、実力を考えたら『舞台に興味のない奴ら』の意見なんて気にしなくてもいいんじゃねぇか...?」

 

「これが単なる友達付き合いなら、それでも全然いいと思います。

 寧ろ、ボーボボさんの様にあかねちゃんの人間性を把握している人から見れば好印象を抱く人も多いと思うんですよ...。」

 

「...確かに、あかね君がどれだけ凄い役者さんだったとしても、舞台ってなるとなぁ...。

 ハレクラニの奴は好きらしかったんだが、周りで興味があるってなるとその位しか思い浮かばん...。」

 

「...あっ、ホルモン焼けてきた...。」

 

(コイツ、自分の話してるって分かってんのか...?)

 

 あかねが幼い頃からそれなりに繋がりのあるボーボボが、アクアとMEMの感じる懸念がそもそもどれだけ気にするべき事項なのか疑問を呈する。

 成程、軍艦の言う通り『舞台演劇』というコンテンツ自体が人を選ぶものであるとすれば、『今ガチ』への出演が宣伝効果を生まなかったとしても、そもそもの期待値が低いと考える事が出来るだろう。

 仮に、舞台自体のプロモーションを期して舞台役者を起用する考えが『起用する側』に有ったとして、その中から態々『黒川あかね』という番組映えしない者を選択した以上、現在の状況を彼女が責められるのは筋違いと言っていい。

 ネット上の口コミによって彼女のファンの好意的意見が波及する事を目論んだとして、現実的には精々アクアのファンが彼女の出演する作品に興味を持つかどうかという所だろうか。

 無論、これに関してはあかねに限った問題ではなく、出演者各々のファン層が重なり難いという状況は全員が抱える課題であり、当の本人が食欲を満たす事を優先している是非は兎も角、個人の努力で覆せるものではないのも事実である。

 詰まる所、『文句を言うだけで、興味すら抱かない層』に配慮したとて、それがララライや舞台の宣伝に繋がるとは思えない以上、あかねがどれだけ振舞いを変えたとしても効果は薄いとボーボボは考えているのだ。

 

「この番組への出演を、あかねちゃんのプロモーションだと仮定します...。

 確かにボーボボさんの言う通り、元々ニッチな業界である以上、新規顧客の導線とするには厳しい企画だと言えるでしょう...。

 ですが、上の狙いが『黒川あかねだけ』で釣る事じゃないとしたらどうですか?」

 

「あかねだけじゃない...。

 例えば、アクアみたいな共演者って事か?」

 

「いい線いってますけど、私の予想はそこじゃないんですよー。

 俳優さんにとって、共演者以上に絶対になくてはならないものです。」

 

「...自分が演じる役、ひいては出演する作品そのものか...。」

 

 自身の考察に対し、ボーボボの意見を聞いた上でアクアが導き出した答えにMEMも笑みを浮かべる。

 即ち、この恋愛リアリティショーを単純に『黒川あかね』と『恋愛リアリティショーの視聴者層』を繋げる場所として設定するだけでなく、『長年の舞台ファン』と『恋愛リアリティショーを好む若年層にファン層が多い作品』を繋げる意図があるのではないかという事だ。

 更に自身の考えを詳細に語るべく、MEMが両の人差し指を立てる。

 

「この番組と、その舞台Xの出資者が同じ人物であり、その舞台Xは出資者にとって絶対外せない大掛かりな企画であるとしましょう。

 あかねちゃんの他にも、凄い役者さん達の出演に目処が立ち順調に準備が進んでいると思った矢先、とある問題が浮かび上がりました。

 その舞台X、ないし原作は『人気作品』と言える作品ではあるものの、いざ舞台作品とした時に長年の舞台ファンと需要が重ならない可能性が出てきたのです。

 そこで目を付けたのが、作品と番組のファン層が重なる恋愛リアリティショーなのでした!

 作品Xのメインキャラを演じる予定の黒川あかねちゃんの顔を売っておけば、普段舞台を観に行かない恋愛リアリティショーの視聴者が興味を持ってくれるかも_と考えた偉い人達からすると、今の無味無臭状態のあかねちゃんの状況はよろしくないんじゃない...ってのが私の考えなんだけどー。

 ズバリ、今のってどうかな...?」

 

 そんなMEMの考察と共に注がれた視線を受けてか、はたまた食事がひと段落ついたタイミングだったのか、パチリと割り箸を置きナプキンで口元を拭ったあかねの表情は、『劇団ララライのエース_黒川あかね』のそれへと変わっていた。

 

「...作品名は言えませんが、オーディションのお話をいただいているのは事実です。

 MEMさんが仰るスポンサーの方々の考えまでは分かりませんが、確かに『その作品』と恋愛リアリティショーのファンの年齢層は近いと言えると思います。

 ...ですが、私自身として仮に何かを変えられるとしたら、それはやっぱり演じる事しかないかと...。

 今の状況についてディレクターにも相談しましたが、今足りない役は『三角関係に乱入する悪女』...。

 もし、それによって目立つ事を望まれているのなら私は...。」

 

「辞めとけ。」

 

 そんな彼女の言葉をアクアが遮ると、その言葉が聞こえていたのだろう隣のテーブルの面々も彼女へと抗議の視線を送る。

 

「舞台の上にいないお前がそんな事をしても、間違いなく誤解されるだけで終わる。

 本名で活動してる事の意味が分からない訳じゃないだろ...?」

 

「そうだよ!

 大体、『番組を盛り上げるだけ』の為にそんな扱いされなきゃならないなんて間違ってる!」

 

「正直言っちゃあなんだけど、あのD何かあっても間違いなく梯子外してくるぜ...。」

 

「今の番組の状況だって、黒川さんがこのバカ二人の相手をしてくれてるのも一因なんだ...。

 一人で貧乏くじ役になる事ないって。」

 

「サラッと俺らの事バカって言ったぞ、コイツ⁉︎」

 

「皆...。

 でも、それじゃあ状況は変わらないし...。」

 

 同じ番組で苦楽を共にしてきた仲間が理不尽な扱いを受けるのは我慢ならないと、ゆき達があかねに早まった真似をせぬ様声を上げる。

 『今ガチ』の現状は、先程アクアがあかねへと見せた視聴者の感想の通り、ゆきとノブユキのカップリングを主軸にケンゴが加わった三角関係が中心となっている。

 番組映えしない性格という意味ではあかねと似通うケンゴも、三角関係の一角となる事でノブユキとは違った『真面目で仕事人気質』との評価を得ているのだ。

 土台、キャストが男女三対三、バカが二人となっている以上どこかで奇数の組み合わせが発生してしまえば、番組の性質上割を食う存在が出てきてしまうのは避けられない。

 ここでアクア、MEMと共にもう一つの三角関係を形成出来るならまだしも、『割を食う存在』となってしまったあかねにとっては辛い事に、二人は積極的に恋愛面の描写に参加しない『安全圏』へと早々に退避してしまった。

 これで、通常の恋愛リアリティショーと比較してのイレギュラーたるボーボボ達の存在が無ければ、更に厳しい立場になっていただろう。

 八方塞がりの様相を呈し空気が重くなる中、ここまで静観していた者達がその空気を払拭せんと手を叩いた。

 

「要はヒール役を作りつつ、そこまで反感を貰わない様にすりゃあいいんだよな?

 なら、俺達に任せておきな。」

 

「俺達の相手をあかね君に押し付けてきたのは番組側も同じなんだ。

 なら、精々それを利用させて貰おうじゃないか。」

 

 事態を引っ掻き回す_成程、彼らなら息をする様にそれをこなしてしまうかもしれない。

 

 

 

「うおっ⁉︎ あっぶねぇ...。」

 

「ほう、よく避けたじゃねぇか。」

 

 ダンサーならではの身体能力を活かし、間一髪ボーボボの鼻毛による攻撃を回避したノブユキ。

 そんな彼の立ち回りに賞賛の言葉が送られるが、ノブユキとしてもそれを素直に受け取る事は出来ない。

 首領パッチや天の助に容赦無く浴びせられたそれと比較すれば、実力の一割すら引き出せていない事を素人ながらに感じ取れた故に。

 現在、彼らリアリティショーの出演者達は、ボーボボ及び軍艦の腰に着けられた鈴を取る事に躍起になっていた。

 

 企画名『NARUTO』_余りにもそのまんま過ぎて危険な名前のその企画の内容は、二人の腰の鈴を奪う事に成功すれば、一定時間『その二人が話す間、他のメンバーは乱入する事が出来なくなる』というものである。

 鈴を取る個数に制限は無く、一人が二人分の鈴を確保し意中の相手との時間を確保するといった事も可能であり、その時間カメラを独占する事が出来るのだ。

 

「で、そこにいるお前らは来ないのか?」

 

「クソッ、やっぱりバレてやがったか!」

 

「くぅ...、ノブくん、ここは一旦退却しよう!」

 

 身を潜め、ボーボボの隙を窺っていたゆきとケンゴだが、奇襲が不可能と悟り一度MEM達との合流を選択する。

 

「...全く、大した企画を考えるよ...。」

 

「ハハハ、でも俺こういう方が楽しくて好きだな!」

 

「確かに!

 これだったら、自然と皆で協力出来るしね!」

 

 この日、ボーボボと軍艦が打ち出した企画の巧妙さに舌を巻く面々だが、中々どうして好印象な様だ。

 一見すると、『誰が最初に鈴を奪うか』の競争になってしまう様に思えるが、その実キャスト全員が一つの目標に向かって団結出来る企画となっているのだ。

 鈴を取る個数に制限が無い_これは裏を返せば、全員分の鈴を確保しても良いという事である。

 番組スタッフ側の意図が介入しない、文字通り『キャスト達だけのリアリティショー』を一定時間とは言え実現する事が出来る。

 その上、企画中に協力する過程でのキャスト同士の親密さは、恋愛と友情どちらの描写にも利用可能、一種のアトラクションとして機能し単純にギスギスとした空気感を出すだけの三角関係とは一線を画す『画』をスタッフ側へ提供する等、大人側にもメリットが有るのだからボーボボ達の手腕に頭が上がらないのだろう。

 そんな会話を交わしている三人が、物陰から自分達と反対側の方向を窺うMEMの姿を捉える。

 

「メッさん、そっちはどんな感じ...?」

 

 ノブユキに声を掛けられた事で三人の存在に気付いたMEMが、返答代わりに先程迄視線を送っていた方を指差すと。

 

「いやー、いい家建てたね!」

 

「ハイ!」

 

 軍艦とあかねが朗らかに会話を交わすその背後には、煉瓦造りの家が建っており、その会話から二人がその家を建築したのだろう事が察せられる。

 

「えっ、家...?」

 

「えっ、ホントに...?

 いや普通に凄くない?」

 

「あれマジで二人が造ったんすか...?」

 

「分かんない...。

 私が見付けた時には、もうあんな感じだったし...。

 っていうか、アクたんって三人と一緒じゃなかったんだ。」

 

 MEMとしても、この光景の説明を求められても困るのだが、そこでふとこの場において見当たらないもう一人の出演者の存在に思い至る。

 MEMとしてはてっきり三人と行動を共にしているのかと考えていたのだが。

 

「...取り敢えず、あかねに何があったか聞いてみよ?

 もしかしたら、どこかに隠れて軍艦さんの鈴を狙ってるのかも。」

 

 ゆきの提案に同意した一行が、丁度軍艦が離れたタイミングであかねと合流しようと近付いていく。

 家の壁を見渡してみても、煉瓦の中に星野アクアが組み込まれている位で何の変哲もない煉瓦造りの家の様にしか見えない。

 

「あっ、四人共ボーボボさんの方はどうだった?」

 

「いやー、こっちも中々厳しくって...、あれ...?」

 

 近付いてくる四人に気付いたあかねが状況を確認するべく情報の共有を行う。

 ボーボボ、軍艦共に一筋縄ではいかない相手である事を実感させられ、全員が作戦の見直しの必要性を認めたタイミングで、ふとあかね以外の面々が違和感を感じた様だ。

 

「...タスケテ。」

 

 そう、彼らが視線を向けた先の家の壁にアクアが一体化させられていたのだ。

 

「組み込まれ_」

 

「組み込まれ_」

 

「組み込まれ_」

 

「組み込まれてるーー‼︎‼︎」

 

「やっと気付いてくれたか...。」

 

 目の前に広がる衝撃的な光景に四人がツッコんだタイミングで、軍艦が再び姿を現す。

 その口元には笑みが浮かんでおり、あかね達は彼の術中に嵌まってしまったのだろう。

 

「クックック、これぞ我流鼻毛真拳奥義『建築拳』。

 そのイケメンは最早ここまでだ。」

 

「くっ、よくもアクア君を‼︎」

 

「一緒に建ててたじゃん。」

 

 アクアを陥れた軍艦の所業にあかねが怒りを見せるものの、四人からすれば彼女も共犯の様にしか見えないのが実情だ。

 恐らく、軍艦の『建築拳』なる技の効果なのだろう事は察せられるものの、家を建てている最中の様子を振り返っているあかねの話を聞かない事には擁護のしようがない。

 

「くっ...、あの時私がアクア君だって気付いていれば...。」

 

『あっ、こんな所にいい煉瓦が!』

 

『俺アクアだけど。』

 

『フーン、フーン♪』

 

『俺アクアだけど。』

 

『軍艦さん、セメント塗り終わりました!』

 

『俺アクアだけど。』

 

『さっき、煉瓦が喋ってましたよ。』

 

『ハハハ、そんなバカな。』

 

「ウソでしょ‼︎⁉︎」

 

「取り敢えず、早く助けてくれ...。」

 

 

 

 この時の面々は、油断していたのだ。

 何だかんだ、この変人達と一緒にやっていれば、こうやって馬鹿騒ぎをしながら番組を乗り切れると。

 

 

 

 ネット上であかねに対するバッシングが溢れ返るその時迄は。




 正直、今回は繋ぎ方が雑かもしれません...。
 (尚、普段も雑で無茶苦茶な模様...。)

 モデルの顔に傷付けちゃうよりは、アクアを組み込んじゃう方がマシだろ!(ハジケ脳)
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