推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:67役割

「あかね承! あかね承!」

 

「ぎゃああぁぁぁぁ‼︎」

 

「あかね承⁉︎」

 

「くっ、あかねが魚雷先生の模倣を仕上げちまった以上、この方法しかない!

 アクア、これを被れ‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

 『魚雷ガールの模倣』という前人未到の快挙を成し遂げ、『あかね承』なる謎の技を用いて暴れ回るあかね。

 そんな彼女の脅威度を『魚雷ガールと同等』と判断したボーボボが、アクアへ了解を取る隙すら与えず『ある物』を頭から被せる。

 その声色からして、柄にもなく相当な焦りを滲ませているが。

 

「何その被り物⁉︎

 どう見てもウンコじゃん‼︎⁉︎」

 

「黙って見てろ‼︎

 今はこれしか手が無えんだ‼︎

 くらえ、『ソフトンLOVEパワー』‼︎‼︎」

 

「キャアアァァァァ...、しゃちほこ。」

 

「訳分かんねぇ‼︎」

 

 アクアが被せられた、一部の者達には見覚えのある特徴的な『ソレ』の見た目にノブユキが困惑の声を上げるが、その反応に反しその姿を見せつけられたあかねは鯱となって『魚雷ガール』としての勢いを鎮静化させた。

 彼の言う通り全く持って理解不能な事象ではあるが。

 

「そういえば聞いた事が有る...。

 魚雷ガールさんは裏でウンコ頭のイケメン彼氏と付き合ってるって...。」

 

「いや『ウンコ頭のイケメン』って、存在自体が矛盾してんじゃん...。」

 

「それ、俺も聞いた事有る...。

 ウンコ頭のイケボなイケメンが、偶にライブの司会で出没するって...。

 『その人が司会したアーティストは売れる』って噂なんだよ。」

 

「ねぇ、皆真面目な顔して話してるけど本気で言ってんの...?

 もしかしてあかねのも含めて俺以外皆グルって事...?」

 

 『ウンコ頭によってあかねの暴走が止まった』事実を否定は出来ないものの、自分の知らない業界の噂話に困惑しきりのノブユキ。

 モデル業界にしろ音楽業界にしろ、業界内で連綿と受け継がれてきたアングラ情報ともなると尾鰭が付いているとしか思えないが、至極真面目な様子の周囲の面々は彼の疑問に答えてはくれないようだ。

 

 

 

「おっほぉ...。

 あかねちゃん行っちゃう? 行っちゃう?

 行け! ブチューって行っちゃえ!

 行ったああぁぁぁ‼︎」

 

「ママ...。」

 

 星野家のリビングに大きな女性の声が響き渡る。

 恋愛リアリティショーに出演している自身の息子が、その唇を奪われる瞬間にまるでスポーツ中継でも観ているかの様なテンションで反応するアクアの母_星野アイ。

 『魚雷ガール』という規格外の存在を模倣してみせたあかねは、案の定と言うべきか視聴者からの印象をものの見事に塗り替えてみせた。

 彼女のそれまでの内気な印象からのギャップの大きさだけでなく、『魚雷ガール』を鎮める事が出来る『ウンコ頭』の担い手としてアクアとのカップリングが成立した事も大きいだろう。

 意図せずして、壱護と鏑木達が画策していた『黒川あかねのお目付け役となる星野アクア』の構図が成立した格好だが、よもや番組を盛り上げるカップリングの一つとして浮かび上がってくるとまでは予想出来なかったに違いない。

 そんな二人は、魚雷ガールの持つウンコ頭ことソフトンへの感情をも模倣してみせたあかねによって番組最終回という段階で遂にカップルとなり得たのだ。

 

 内情を知らない視聴者からすれば、『雰囲気をガラリと変えたあかねが、見事アクアを射止めてみせた』と映るが、これが二人だけでなく魚雷ガール、ソフトンの両名をも知る人間から見ると印象が変わってしまう。

 魚雷ガールの感情を知る者にとって見れば、当然ソフトンに扮する者が現れれば、彼女の感情を模倣するあかねが『同様の感情を持っている様に振舞う』と考えるのは自然な事だ。

 ここで問題となるのが、『アクアは被り物を被せられているだけで、ソフトンを演じている訳ではない』という点である。

 これを踏まえると、『アクアが魚雷ガールに迫られている』と見る事が出来るのだ。

 番組の趣旨を考えれば、『身内の貞操の危機』と騒ぐのは些か厳しいものの、流石に面白おかしくスポーツ感覚で見る場面ではないと考える者が多いだろう。

 事実、アクアと同じくアイを親に持つルビーは、母の言動に引いた様子である。

 彼女とてあかねは勿論、魚雷ガールに対してもネガティブな印象が有る訳ではないが、かと言って『番組上の演出』と容易く割切る事は難しいのが実情なのだ。

 

「うん? どしたの、ルビー?

 あっ、もしかして『せんせを取られちゃった』って感じ?」

 

「...いや、別にそこは私も弁えてるつもりだけど...。

 ママは嫌じゃないの...?」

 

 自身の感情を推察した母の言葉に、ルビーは当たらずとも遠からずと言った様子だ。

 自身が前世で抱いた感情を知る母からすれば、娘の表情をあかねに対する嫉妬と捉えたのやもしれない。

 しかしながら、彼女の方もその感情については折り合いをつけようとはしている。

 現実として、今の自分達は『さりなと吾郎』ではなく『ルビーとアクア』である以上、前世の感情を引き摺り続けるのは互いの精神衛生上だけでなく倫理的にもよろしくない。

 仮に、互いの前世の正体を知ったのが今_さりなとしての生を終えた年頃と重なっていたなら、やり場のない感情に苦しんだ可能性を否定は出来ないが、流石に15年もの期間を貰えれば、互いの前世と今世を区別する必要性について話し合う時間は十分に有った。

 

「うーん...、私は『そういうもん』だと思って観てるし、相手があかねちゃんならまぁいっかなって感じかな。

 あの子が真面目で頑張り屋さんな事はずっと前から知ってるし。」

 

「それじゃあ、あかねちゃんはお兄ちゃんの事好きなの...?」

 

「さぁ? それは本人に聞かなきゃ分かんないけどさ。

 でも、少なくともアクアの方も『完全に拒否してる』訳じゃないじゃん。

 裏で本当に付き合ってるかなんて私だって分かんないけど、どうせ付き合うなら私もよく知ってる人が相手の方が安心だもん。」

 

「それに、これからアイドルとして本格的に活動していくなら、ルビーだって他人事じゃないよ。」

 

 母のあっけらかんとした言い草に、ルビーも『それはそうだろう』とは思う。

 前世の感情は自分の中で解決すべき問題としても、肉親である以上、兄の交際相手ともなれば少しでも気が合う相手である方が望ましい。

 当人同士の感情が如何程かは兎も角、現実としてキスという行為を受け入れた以上、アクアもあかねに対する生理的な拒否反応は無いと言っていい。

 カメラが回っていない時間でも当然キャスト同士の交流は有る筈であり、いくら魚雷ガールの模倣をしていると言っても、アクアが本格的な拒否反応を示していれば、あかねがそれを無視する様な人間でない事は彼女も理解はしている。

 先日のミヤコの言葉然り、この画面に映るアクアは『恋愛リアリティショーの出演者役の星野アクア』だと考えるべきなのだろう。

 何より、二人の前にコーヒーを差し出した彼女の父であるヒカルの言う通り、彼女自身もこうして画面の前の人間や観客達に好き放題言われる立場になっていくのだ。

 

「パパ...。

 喋るのいつ振りだっけ...?」

 

「えっ⁉︎ 今日はずっと家にいたじゃない...。

 えっ、僕何かしちゃった?」

 

「ううん、そうだよね...。

 思ったよりお兄ちゃんの事が効いてるのかも...。」

 

 何故か父の話す姿を見るのが随分と久方振りの様な気がしたルビー。

 彼の言い分は芸能人として全く持って当然の忠告であり、寧ろ芸能一家と言える環境にいる自分は、態々言われなくともそういった心構えをして然るべきだと言えよう。

 まだタレント契約をしていない段階ならいざ知らず、あの『有馬かな』をも巻き込んだアイドルユニットの計画が発足している現状を鑑みれば、自分が思う以上にアクアの恋愛事情に心を揺さぶられているのかもしれない。

 

「えっと、話を戻すけど...。

 ルビーがアイドルとして活動するなら、観る人は君に『相応のアイドルとしての振舞い』を求める筈だ。」

 

「アイドルとしての振舞いって、プライベートの人間関係も気を付けろって事...?

 それなら、私元からドルオタだし、ファンの気持ちも分かるつもりだけど...。」

 

「...あっ、もしかして避妊はしっかりしろって事じゃない?

 私が妊娠したのも、丁度今のルビー位の頃だし!」

 

「そんなアイドル以前の問題な訳ないだろ、頭パチさんかよ...。」

(ハハハ、それもそうだけどもっと別の事でね。)

 

「えっ。」

 

(ママの事、頭パチさんって言った...。)

 

 父の言う『相応の振舞い』の内容は判然としないものの、ルビーとしても多少なりとも芸能人の端くれである自覚は備えているつもりだ。

 何しろ彼女は、前世より母_アイを含めたアイドルのファンであり、同時に彼女の友でもあり、家族でもある。

 『アイドルファン』という人種が、アイドルにどんな姿を求めているのか。

 逆にどんな行動が疎まれる要因となり得るのか。

 『アイドル』という存在への理想像については、この場にいる誰よりも強い拘りを持っていると自負しているのだ。

 伊達に前世で、文字通り死ぬ迄アイドルオタクであった訳ではない。

 頭を悩ませていると、アイドルとしての偉大な先立である母が思い当たる節が有ったのか考えを述べるが、その内容にどう反応したものか思考が停止してしまう。

 それ故か、それに対する父の言葉への反応が母と共に遅れてしまったのだが、朗らかな笑顔でとんでもない事を言ったのは気のせいだったのだろうか。

 

「まず、ルビーがアイドルとして活動する以上、このお母さんと比較される事は避けられないよね。」

 

「イェイ!」

 

「ユニットを組む有馬さんとの比較も言わずもがな...。

 アイドルとしての有馬さんの人気がどれ程のものかは分からないけれど、少なくとも知名度に関しては彼女の方が間違いなく上と言えるよね。」

 

「それは...、確かにそうだね...。」

 

「まぁ、私ってスターだし?」

 

「具体的なプロデュース方針は苺プロの領分だから、僕も具体的に『ああしろ、こうしろ』とは言わない。

 ただ、これだけは覚悟しておくべきだ。

 アイドルの普遍的なイメージを『楽しそうに歌って踊る存在』だとするなら、君は君自身にしてみれば理不尽としか言えない比較の視線に晒された上で尚、そういった存在でい続ける事を求められると思う...。」

 

「綺麗な存在でい続ける、か...。」

 

 父の意見に唸らされるルビー。

 成程、自身を観る者が少なからず『アイの娘』として母との比較をする事迄は予想がつくとして、『その比較を嫌がる事を世間は許さないだろう』事は、こうしてハッキリと言われなければ目を背けてしまっていた現実であっただろう。

 自身の素性を明かさずにデビュー出来る状況ならまだしも、既にYouTube上で母と共演してしまっている現状、今更比較を拒んだとて後の祭りなのだ。

 デビュー前の段階で母の力を利用したのだから、当然比較される覚悟は出来ているだろうと言われても致し方あるまい。

 それを承知の上で尚、この道を選んだ覚悟を問われるのが『星野ルビー』の現在地という事だ。

 それはそれとして、先程から口を挟んでいる母の事はスルーし続けてしまっていいのだろうか。

 

「私の価値は、私がどれだけ『アイドルを楽しんでいるか』に掛かってるって事だね...。」

 

「君からすれば、およそ努力ではどうにもならない問題に悩まされるのは理不尽だと思う...。

 でも、それが一度認められてしまえば、君にとっての強力な武器となる筈だ。」

 

「もしもし、おじさん?

 明日、事務所来る時にプリン買ってきて...。

 アクアにいつものやつって言えば分かるから...。」

 

「...。」

 

「...。」

 

「今真面目な話してんだから空気読めやぁぁぁぁ‼︎」

 

「ゴハァ‼︎」

 

「ええぇぇぇぇ‼︎⁉︎

 何でママがパパの事引っ叩いてんの⁉︎」

 

「フッ、また一段と腕を上げたようだね.,.。」

 

「ハッ...、私が何年おじさん達と一緒にいると思ってんの?」

 

「何言ってんのこの人達⁉︎

 えっ、これ私がおかしいの⁉︎」

 

 

 

「ねぇ、ミヤコさん。

 ルビー達っていつから活動始めるの?」

 

「あら、活動はちゃんとしてるわよ。

 現に今もレッスンの真っ最中じゃない。」

 

 自社所属タレントの中でも屈指の人気を誇る元人気アイドル_アイからの質問に対し、パソコンの画面から視線を外す事なくそう答える苺プロ社長夫人こと斉藤ミヤコ。

 その答えに対するアイの反応たるや、不満を隠そうともしない仏頂面だが、ミヤコの方もまた全く意に介していない様子だ。

 そんな反応等最初から分かりきっているとでも言わんばかりに。

 

「そんな事聞きたい訳じゃないの分かってるくせに...。」

 

「娘を心配する気持ちも分かるけれどね...。

 あの子達が『B小町』を名乗ると決めた以上、会社としても下手な真似は出来ないのよ。」

 

 アイの娘_ルビーと有馬かなによって結成されたアイドルユニットは、彼女達_特にルビーの意志によって苺プロにおける伝説的なアイドルグループ『B小町』の名を襲名する事を決めたのだ。

 ルビーのアイドルへの憧れの気持ちを鑑み、ミヤコ達もその決定を無碍にはしなかったものの、彼女達のプロデュース計画の見直しを図らざるを得なくなった事は否めない。

 同一のグループ名の名の下に、所謂候補生を先んじて育成しメンバーの世代交代を行う例は存在するものの、残念ながら苺プロにとっての『B小町』というグループはその様な計画で立ち上げられた存在ではなかった。

 苺プロの会社としての規模を考えれば、それ程多数の若者を候補生として抱える事は不可能である故に、『B小町』はあのラストライブによって伝説となった筈の存在なのだ。

 そんな10年以上も前に解散した筈のグループ名を引っ張り出してくるともなれば、その扱いを慎重に吟味せざるを得ないのは当然と言えよう。

 

「ルビーの事を思えば、あの子がした決断を否定は出来ないし、正直私だって嬉しく思う気持ちも有るわよ。

 けれど、あの子の気持ちと『あなたの娘』ってだけで認められる程安い名前じゃないのも事実...。

 最悪、元祖B小町のファン層が敵に回る可能性だって考えなきゃいけない。」

 

「...でも、この前撮った替え歌のコメント欄でもルビー結構褒められてたよ。

 有馬ちゃんのファンだっているんだし...。」

 

「それは『あなた』のファンだからでしょう。

 有馬さんのファンにしても、当てにするには弱い。

 仮にアクアが『今日あま』で共演したモデル達とアイドルやるってなったら素直に応援出来るかしら?」

 

 ミヤコの現実的な意見を聞いて尚、アイも一度は食い下がろうとするものの、続けて語られた反対の弁に口を噤んでしまう。

 少なくともルビーは『アイの実子』という肩書きがあり、一タレントとしてのかなの知名度も子役時代程ではないにせよ一定の評価を下せるものではあるが、だからと言って彼女達がB小町を襲名する事を『元祖』の躍進を支えたファン達が素直に受け入れると考えるのは楽観が過ぎるだろう。

 低調なパフォーマンスを見せようものなら、『B小町の名を汚すな』との声が上がるのは必定であり、ルビーがアイドルとして成功するどころではなくなってくる。

 件の動画にしても、主役はあくまでもアイであり、その視聴者層も自ずと彼女のファンが多くなる関係上、ルビーに対して否定的な意見を述べる者は現れ難いだろう。

 かなにしても、その本分はあくまで女優業であり、アイドルとしての人気を担保するものとは言い難いのが実情である。

 端的に言えば、今の彼女達は人気の目算すら立てられない状態でありながら過去の人気グループの名を騙ろうとしている分不相応な存在と言わざるを得ないのだ。

 

「有馬さんのリードボーカルとしての実力...。

 ルビーもルックスは抜群だし、ダンスも良い...、『あなたの娘』って話題性も出るでしょうね。

 あとは二人に足りない、『元祖』のファンに頼らずとも集客が期待出来るメンバーが加わわればって所なんだけれど...。」

 

「ああー、それで最近社長ってヘッさんと一緒に出ずっぱりなんだ。」

 

「田楽マンさんや鏑木さんに何人か紹介はして貰ったんだけどね...。

 メンバーが『アイの娘と有馬かな』って聞いた途端に断られてるみたい...。

 まぁ、無理もないでしょうけどね...。」

 

 現状の新生B小町に欠けた要素を補填出来る存在が現れれば_そんな期待から、苺プロ社長の斉藤壱護も自らのコネクションを活かして解散したばかり、もしくはそうなる予定のユニットの人間と接触を図ってはいるものの、結果は芳しいものではない様だ。

 最初から勝負にすらならない可能性の有る相手が二人もいる状況で尚、メンバーに加わろうなどと言う豪胆な者は見つからないのだろう。

 

「...皆、頑張って動いてくれてるんだね...。

 よし、それじゃあ私も一肌脱いじゃおうかな!」

 

「あら、何か良い手が思い付いたの?」

 

 『ルビーの母』として何が出来るのか_そんな自身の役割を悟った様子のアイに、ここで初めてミヤコもパソコンから視線を外す。

 ミヤコは、流石元B小町のマネージャーと言うべきか、『新生B小町』における各々の能力と役割を的確に分析している。

 新たなメンバー探しが難航する中で、二人_特にルビーには焦りが出ているだろうが、そんな彼女達を着実に力を付けられる様レッスンに注力させられているのはミヤコとの信頼関係の成せる技と言えよう。

 壱護も、そしてそれに付き従っているヘッポコ丸も、何とか僅かな可能性を手繰り寄せんと足を動かしている。

 よもや自分がスカウトされた頃、社内の人間はこれ程不安な気持ちでいたとは知る由もなかったが。

 ヒカルは父として努めて冷静に娘への助言を行っていた。

 自分達B小町の一ファンとしての現実的な目線と、ルビーの父としての彼女の夢を応援する目線_同じ親でも元アイドルであり彼女の憧れの対象でもあった自分ではどう足掻いても出来ない事であっただろう。

 先の一幕で、自分に対して非常に失礼な事を言っていた気がするが、それは一先ず置いておくとしよう。

 では、自分に出来る事は何か_彼女の考えが思ってもみない光明を見出す可能性を期待し、ミヤコが視線を向けると。

 

「...何してるのか聞いた方がいいかしら...?」

 

「イソギンチャクの構え。」

 

 さも当然だと言わんばかりに言い放たれたアイの謎の行動に頭を悩ませるミヤコ。

 彼女は自身の首と肩を支点として、両足を上方へと伸ばし触手の如く揺らし始めたのだ。

 いっそ体操の一種と言われた方が納得しそうなその行動の意図を探ろうとするが。

 

「イソギンチャクって、近寄ってきた獲物を触手から毒出して捕まえるらしいじゃん。

 だから、元B小町センターの私がこうしてれば、ルビーと一緒にやってくれる子が来てくれると思うんだよね。」

 

「...。」

 

 『何言ってんだコイツ』という言葉をグッと堪え、再びパソコンへと視線を戻すミヤコ。

 日々の勤務時間は原則有限である故に、時間は有効活用しなければならないのだ。

 

「ねぇミヤコさーん。

 イソギンチャクが何食べて生きてるか知ってる?」

 

「...。」

 

「ねぇってばー。」

 

「プリンの事かーー‼︎‼︎」

 

「グヘェ⁉︎」

 

「キャアアァァァァ‼︎」

 

 突如として何かが事務所のドアを突き破り、そのままの勢いでイソギンチャクに扮しているらしいアイへと直撃する。

 

「毎度お馴染みらしいミックスプリンのお届けだぜ。

 近くで社長達と会ったからそのまま一緒に来たんだが...。

 アイのやつは何してんだ...?」

 

「フフ...、流石はおじさんだね...。」

 

 アイを襲った物体の正体は、お馴染みのアフロの男性達が購入してきた菓子を詰め込んでいるらしいバッグであった。

 内容を想像するにそこまで大きさも重量も無いであろうものだけに、激突したアイの呻き声の原因が気にはなるものの、行き詰まっていた空気を変えようとミヤコが彼女へと声を掛ける。

 

「お願いですからもうちょっと普通に入ってきて下さいよ...。

 アイ、中のプリン出してくれる?

 一旦、休憩にしましょう。 私はルビー達を呼んでくるから。」

 

「ハァイ...。

 にしても、これ絶対プリン以外に何か入ってるっしょ...。

 おじさん達、また余計なもの買ってきたんじゃないの...?」

 

 痛みを堪えつつ、バッグを開けていくアイ。

 他人に頼んでおいてこの言い草もどうかと思われるが、流石に中身がプリンだけだとはとても思えない衝撃であっただけに、彼女としても一言文句を言いたくもなったのだろう。

 果たして、彼女が開いたバッグの中には。

 

「こ...こんメムー...、オェ...。」

 

「メムだわーー‼︎‼︎

 これプリンじゃなくてプリン頭のメムだわーー‼︎‼︎」




 こういった章と章の間の話は、どうにもネタの挟み方に苦心してしまいます...。
 偶には終始真面目な話も書いた方がいいかと思いつつ、やっぱりボーボボ要素を挟まずにはいられないジレンマ...。
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