都内某所の高層マンションの一室。
リビングは柔らかい照明で照らされ、テーブルの上に置かれた小さめのグラスとボールアイスがその光を反射している。
テーブルの周囲を照らす照明以外を消している為、周囲の暗さがムードを引き立てているのも、部屋の主が狙った演出なのだろうか。
「凄いね...、いらない所の電気消すだけでこんなに雰囲気変わるんだ...。
流石のセンスだなぁ...。」
「そんな大層なもんじゃないって。
独り身が長いから節約してたのがスタートだもん。」
部屋の主たる女性はそう謙遜するが、その言葉を受けた女性も同じ独身である為に、それが単なる節約だけの由来でない事が感じられる。
必要な場所以外が暗くなっているという事は、ムーディである反面暗さと寂しさを感じさせる光景とも言えるだろう。
この静かな空間を自然なものとしているのは、部屋の主がその雰囲気に合わせた照明や家具、そして今し方彼女によって再生され始めた落ち着いた曲調の曲等、『この空間』を創り上げた者のセンスの賜物と言える。
するとその部屋への来訪者の存在を告げるインターホンが鳴り響いた。
『ニノちゃん、お待たせ!』
「いえ、今開けますね!」
玄関先にいる女性の姿を確認した部屋の主_ニノこと新野が玄関へと向かっていく。
程なく、新野を含めた三人の足音が先頃より彼女と話していた女性の待つリビングへとやってくると。
「うわ、暗!
相変わらず、ニノってこういう辛気臭い曲好きだよねー。」
「そこのワインのコルク、鼻の穴に捩じ込んであげようか?」
他人の家にやってきてのあんまりな第一声を上げた女性に、新野から当然とも言える反応がされるが、その女性_アイは気にした様子がない様だ。
「このアイさんが、雰囲気ピッタリの名曲を選んであげるよ!」
「えー...、アイち余計な事しないでよめんどくさいなぁ...。」
そんなアイの傍若無人振りに、先んじてニノと共にアイ達を待っていた女性_ポコミが顔を顰める。
最早、彼女の行動に真面目に応対する事すら億劫と言った様子の雰囲気からして、ポコミやニノ、そして彼女と共にこの部屋へとやってきた女性_ビュティの彼女との付き合いの長さが窺えよう。
そんな雰囲気を無視してアイが携帯から楽曲の再生を始めるが。
『Wow-wow-wow♪
Wow-wow-wow♪
この世に生まれた_』
「ああっ⁉︎
何で消しちゃうのさ⁉︎」
「雰囲気ぶち壊しだからだよ。
作品知ってても知らなくても気まずくなんだろ...。」
「何今の曲...?」
「特撮モノの主題歌だよ。
アマプラで配信されてたやつで、ウチの子供に影響されて私が観てるって話したら二人もハマっちゃったみたい。」
「『家族』ってなんだろうって私も考えさせられたよね...。」
「へぇ...、そんなシリアスな内容なんだ?」
それまでの落ち着いた雰囲気から一転、非常にテンションの高い曲のイントロに新野が面食らう。
ビュティから聞かされた番組のジャンルのイメージからすると、真顔になるポコミの反応が些か過剰な様に思えたのだ。
有料コンテンツで配信されているという情報や、腕を組んで作品について思い浮かべているアイの真剣な様子からして、見応えの有るストーリーになっているのやもしれない。
「そんなに面白いなら、それ観ながら話す?
丁度、面白そうなのもやってないし。」
「...辞めとこう。」
「えっ...?」
「どうしてもって言うなら止めないけど、出来れば後で一人で観て。」
「出来るだけ精神が安定してる時に観るといいよ。」
「ちょっと待って、何⁉︎
三人共一体何を観たの⁉︎」
「それで、ニノちゃん。
もうそろそろ『話』始めちゃってもいいんじゃない?」
その場にいる全員の酒が進み、その頬が朱に染まってきた頃合いを見計らってか、ビュティが今回この集まりを呼び掛けた張本人である新野へと声を掛ける。
全員がある程度酔った状態であれば、多少重い内容であっても話しやすいだろうとの配慮からであったが、それでも自分から話を切り出すのは気が引けていたのか、新野も彼女へと礼を述べつつ言葉を絞り出し始めた。
「ハハ...、ありがとうございます。
...実は、この度私新野、タレント活動を引退する事になりました。
発表前に、三人に聞いて欲しくて...。」
「...そっか。」
「頑張ったね...。」
自分の口で『それ』を言うのが、彼女に取ってどれだけ勇気のいる事だったのか。
アイにしてもポコミにしても、想像する事しか出来ない状況である故に、彼女の言葉を静かに受け止める事しか出来ない。
あくまでマネージャーでしかないポコミは言うに及ばず、本来彼女と同じ事態になる事を危惧していなければならないアイにしても、未だ衰えぬ人気を誇るが故に完全に感覚を共有する事は不可能である。
「...はぁ、やっと言えた。
ついさっき迄飲んでたのかって位喉カラッカラだわ。」
「...いつ決めたのか聞いていい?」
余程緊張していたのだろう。
深く息を吐いた新野が、感じた渇きを癒す様にグラスを煽る。
実の所、アイと彼女のマネージャーであるという立場上、ポコミにはこの事態もある程度は予想が出来ていた。
彼女達へのオファーを管理する都合上、当然ながらその数が少なくなっている事も認知していた故に。
マネージャーとして、最後の決断の折に相談をして貰えなかったのは忸怩たる思いではあるが、同年代であり良くも悪くも距離が近いが故に、彼女にも言い辛い部分が有ったのやもしれない。
「...自分でも、仕事が無くなってってるのは分かってたからさ...。
元々、ちょっとずつ考えてはいたんだ...。
社長達にも相談したりしててね...。
決めたのは、去年の年末。
アイがゲストでラジオに出てた時だね。
ポコミちゃんもイジられてたりしてて、『ああ、二人共年末なのに頑張ってるんだなぁ』って思っちゃってさ...。」
「...。」
自分が暇を持て余している事への焦りや嫉妬ではなく、ただ純粋に繁忙期を迎えていた二人への賞賛の気持ちを感じてしまった_『切磋琢磨する仲間』ではなく『ただの視聴者』へと気持ちが傾いてしまった故だと語る新野。
仕事の減少と共に少しずつすり減っていた彼女の心の支点が、完全に折れてしまった瞬間だったのだろう。
引退に至る決断についての相談をポコミやアイに出来なかったのも、友人相手へのプライドなどではなく、二人へと相談した所でどうにかなる様な状況ではないと彼女自身が理解している為であった。
「B小町が解散してからさ、ホントに思い知らされたんだ...。
『ああ、私ってマジでアイドルしか無かったんだ』って...。
B小町の看板が無くなったら、私は『ただの真面目なヤツ』でしかなかった。
そこが良いんだって言ってくれる先輩方もいたけど、そりゃあ売り出すのにも苦労するよね...。」
彼女自身が語った通り、苺プロとしても『売り出しに難儀する存在』というのが、タレント『ニノ』の実情であった。
旧B小町のメンバーの技能を比較していった場合、彼女は歌手やダンサーとして、或いはアイドル以外の分野で才覚を伸ばしていった他の面々と違い、良くも悪くもアイドルにしかなり得なかったのだ。
旧B小町がまだ活動中であった頃、当時は彼女自身も『他のやりたい事』を明確にしていなかった故か、苺プロは彼女を『マルチタレント』として売り出していった。
なまじアイの離脱中もグループの人気を支える存在となっていただけに、様々な分野で使える便利屋的存在となる事を目論んでいたのだろう。
事実、彼女はグループ解散のその時迄、基本的には人気No.2の位置を保ち続け、同じグループで同じ売り出し方であったアイと比較しても、愛嬌の良さと真面目さが受け入れられていた。
グループ解散によって多少人気に陰りは見えたものの、それでも彼女の『好きにはならずとも嫌われない』キャラクターは、一定の需要を保ち続ける筈であったのだ。
しかしそうはならなかった_その原因は言わずもがな、彼女と同じ売り出し方をされていたアイである。
本来、彼女とアイを比較すると、その仕事に対する真面目さから『魅力的ではあるが手の掛かるアイの補佐役』の立場を保ちつつ、より一般的な感性に近い存在となり、業界の内外を問わず一定の人望を確保出来た筈であった。
彼女にとっても苺プロ側にとっても良くも悪くも誤算であったのが、予期せぬ妊娠と出産、そこからの育児に加え子供達の存在やヒカルとの関係を秘匿し続けた事が、強い責任感の醸成に繋がったアイの変化なのだ。
独特の感性を保ちつつ、アイが現場の人間からも人望を集め始めてしまうと、二人の単純な比較が避けられなくなってしまったのである。
どこまでも『アイに次ぐ存在』であった彼女の需要が失われていくのは、非情ではあるが自明の理であったと言えよう。
「私は二人と友達のままでいたかったから...。
だから...、辞める事にした。」
ここからしぶとく続けていれば、再ブレイクの可能性も決してゼロではないのは多くの先立が証明している事実ではあるが、その道を自ら断ち切った理由。
それは長年共に歩んできた仲間であり、容赦の無い比較の視線に晒されてきた芸能人生を生き抜く上で互いに支えとしてきた友人に対して醜い感情を向けたくないが為である。
「...それで、これからの事は何か決まってるの?」
「一応、社長が『任せたいポジションが有る』って話はしてくれてます。
具体的にどんな役目なのかはまだ分からないですけど...。」
「『貧乏クジ同盟』の新入りなんじゃない?
ほら、ロックオンと名前の響き似てるし。」
「誰がニーノ・ディランディだよ。
アンタの頭狙い撃ってやろうか?」
(そういうとこで真面目に返してるからじゃ...、いや辞めとこ...。)
「まあまあ、そう怒んない怒んない。
取り敢えず、何にも道が見えてない訳じゃないんだからさ!
ほら、ニノの新しい門出にもう一回乾杯しよ!」
「...ホント何でこんな奴から、アクア君とルビーちゃんみたいな良い子が生まれてこれたんだろ...。」
「うん...、私も色んな意味でそう思う...。」
新野の進路の詳細は兎も角、少なくとも壱護から何かしらのポストを打診されているとの情報を受けてか、アイが本人以上に気分を良くした様子で彼女の新たな門出を祝おうと提案する。
どの様な役割であるにせよ、苺プロ内で何かしらの役割を得る事が出来れば、自分達が共にいられる時間はまだ続くという事を理解した故に。
とは言え、余りに天邪鬼なその態度には、新野もアイの聡明な二人の子供達との繋がりを疑わしく感じてしまった様だ。
二人の素性を知らない者からすれば、彼女でなくともそう感じるだろうが。
その素性を知るが故に、自身の言葉に何とも言えない表情を見せるポコミの様子を不思議に思いつつ、アイに合わせて新野がグラスを掲げれば、四つのグラスがカチンと音を立てた。
彼女の狙い通りだったのかどうかはさて置き、落ち着いた曲調のBGM、柔らかい光が全員のグラスの氷に反射する光景が合わさり、情緒的な雰囲気を醸し出す。
鈍く乱反射する光が、さながら新野の先が見えないとも様々な可能性を秘めているとも取れる未来を暗示している様に映る。
「不確かなニノの未来に、ポツダム宣言‼︎‼︎」
「励ましたいのか茶化したいのかどっちなんだよアンタは‼︎⁉︎」
一つだけ確かなのは、彼女達の関係はそう簡単に変わらないという事だろう。
「今日は三人のマネージャーになる人を紹介するわ。」
自分達のグループ_B小町が所属する苺プロの社長夫人_斉藤ミヤコの言葉に目を丸くするB小町の面々。
現状、レッスンとメンバーの一人_メムのノウハウを活かした動画撮影が活動の全てを占めている事から、言われてみて自分達に明確なマネージャーと言える存在が付いていなかった事に気付いたのだろう。
「...その言い方だと、ミヤコさんって訳でもないんですね。」
「うーん...、あっ、もしかしてポコミさんとか?」
「後は...、まさかのビュティさん就任とか!」
いざ、自分達に今の今迄欠けていた要素について言及された事で、それについて考えざるを得なくなった三人だが、やはり候補として真っ先に上がるのは旧B小町に関わっていた人間となるか。
本人の口振りからして、旧B小町の総合マネージャーを務めていた張本人たるミヤコが担当するという線は無いだろう事から、他の面々から想像する他ない。
そんな中、メムとルビーから出てきた名前は、成程真っ先にそこに行き着くのも自然な事と言える候補であった。
ポコミと言えば、入社以来旧B小町の人気トップ2であるアイとニノのマネージャーを務めていた実績は無視が出来ないだろう。
当時、彼女がこの大役に抜擢された背景には、彼女とアイの個人的な親交及び、正体不明の状態だった推定雨宮吾郎医師殺害犯たるストーカーからの護衛の意味合いが影響していたのだが、なんだかんだとクセのある存在であるアイを支え続けており、新生B小町のマネージャーとして抜擢される可能性は大いに有るだろう。
一方のビュティの方は、名前を出したルビー本人が『まさかの』と語った通り、ポコミと比較すれば現実的に就任する可能性は低いと言える。
曲がりなりにも長年現場でアイドルを支え続けてきたポコミと違い、ビュティの方は入社からこっち事務方の人間なのだ。
ポコミと同様旧B小町の事を知る存在であり、ルビーの母であるアイ、かなが慕うボーボボ、メムが世話になった相手である軍艦やスズとそれぞれの関係者からの信頼を得ている事実は大きな要素ではあるが、実務経験が無い事に加え、彼女の息子の年齢を考えれば拘束時間が長くなるであろう立場を現時点で引き受けるとは考え難い。
「当たらずとも遠からずと言った所かしら。
入ってきてちょうだい。」
「...って事は、ヘッポコ丸さん辺りかしら。
流石におじさん達の誰かって事は無いわよね...?」
「まさかぁ...。
それならまだママがなる方が有るでしょ。」
「...アクたん、いや流石にそれはねぇ...。」
そんな三人の考察に対しミヤコが全否定をしない事から、先の推測で出た人物と近しい者という事になるだろう。
苺プロ内で残る候補として真っ先に上がるのは、やはりヘッポコ丸となるか。
先のビュティの夫でもあり、社内における信頼度は態々問う必要もあるまい。
彼らの息子の養育費を稼がせる為に、壱護達が更なる評価に繋がる様な新しいポストを用意したと考えれば辻褄は合う。
問題は、彼の場合最早壱護の秘書的立場にまでなってしまっている現状で、果たしてそれらの業務と兼任出来るものなのかという点だ。
既存の人員をスライドさせるにせよ、新たに人員を用意するにせよ、そう簡単に務まる役目だとも思えない。
かと言って、ボーボボ達やアイの様に『ただメンバーと親交が有ればいい』というものでもない以上、ある程度は裏方仕事に適性の有る人物が望ましいだろう。
ルビーの兄_アクアは図らずもどうにかこなしてしまいそうな人物ではあるものの、彼自身が目下売り出し中のタレントである事を考えれば、無理な意見と言わざるを得まい。
三者三様に決め手に欠ける候補を出していく中、ミヤコに呼ばれた件の人物が姿を現した。
「メムさんははじめましてだね。
この度、あなた達三人のマネージャーを担当させていただく事になりました、元B小町のニノこと新野です。
三人共よろしく。」
「あっ...、えっと、ハイ...。
こちらこそよろしくお願いします...。」
(お...OGの再就職先ってやつですか...。)
「...あの、ニノさん、いえ新野さんってつい最近迄現役のタレントでしたよね...?
失礼ですけど、大丈夫なんですか?」
辛うじて以前から顔見知り程度には親交の有ったルビーが真っ先に挨拶を返すものの、三人の胸中には困惑の感情が渦巻く。
彼女達を含む一般的な認識としては、実質開店休業状態ではあったものの、苺プロ所属のタレントの一人である筈だった。
それがこうして姿を現したという事は、知らぬ間にタレント業を引退していたという事であろう。
そんな元タレントが今度は後輩のマネージャーに就任するとなれば、『再就職先』との棘のあるメムの感想も致し方ないものか。
とは言え、この様な反応がされてしまうのは新野本人もミヤコ達も簡単に想像出来た事であろう。
悲しいかな、新野には『多くの時間』が与えられていた筈であり、その期間を利用してこの場に立つ為の準備をミヤコ達と共にしてきたとも考えられる。
「あなた達の懸念も尤もね。
最低限、私達も必要な業務については伝えてきたし、彼女自身もあなた達と同じ立場ではあったから全く右も左も分からないという事は無いでしょうけれど。
暫くは...、そうね、あなた達のデビューライブ迄は私も彼女をサポートするわよ。」
「...ふむ、良いのではないか?」
「ダンディ...。」
すると、ここ迄の話を黙って聞いていた存在_何故かレコードプレーヤーに挟まって回転していた地雷ダンディが、新野の就任を後押しする。
「『元B小町のニノ』、グループの人気を支え続けたお主達にとっての先立であり、同時にメンバーの中で最も人気であったアイと常に比較され続けた存在。
元祖との比較を避けられぬお主達にとっては、正に最適な存在と言えるのではないか?」
「...ダンディが言ってくれた様に、実際に私がアイと一番比較されていたのかは分からないけれど...。
売り出し方が似ていたからこそ、常にあの子に負けまいと努力してきた自負は有る...。
その努力が決して身を結ばなかったとしても、それでも止まる事はしなかった...。
何故だと思う?」
「No.2としての意地が...。
『自分のファン』を裏切りたくなかったから、とかですか...?」
「折れたくても折れる事が出来なかった...。
他の道を知らなかったから...、なーんて、アハハハ...。」
新野の問いに対してかなとメムが語った言葉は、或いは彼女達自身の過去を重ねてのものなのだろうか。
どれだけ敗北を重ね、他者との才能の差に打ちのめされそうになったとしても。
それでも『自分を見てくれる誰か』がいるからこそ、己の矜持を保ち続けたのか。
或いは、『アイドル』という道を選んだ世間知らずの小娘が、他の生き方を選ぶ方法すら知らぬまま今に至ってしまったのか。
二人の言葉を新野は肯定も否定もしなかったが、少なからず思う所が有るのか目を伏せて考え込む。
他人からの、それも年下からの忌憚の無い意見に自身の半生を注いできたアイドル活動を振り返る彼女の頭上で、どこから出現したのか掌サイズのパンダを乗せた地雷ダンディがUFOの如く回転を始めるが、何の意図が有っての行動なのだろうか。
「B小町が...、アイドルが好きだったから...。」
「...ルビーちゃんには分かっちゃうか...。」
「うん...、私もアイドル大好きだから...。」
(笑うな...、あんなの我慢出来なきゃダメよ有馬かな!)
(ムリムリ、太腿抓ってるのに笑い堪えんのキツすぎる、ホント勘弁して!)
(あれってサザエさんなのかしら...、ヤバ、意識したら笑えてきた...。)
アイドルへの思い入れ_新野とルビーに共通する心根の要素故に、彼女達の間には当然の帰結とでも言うべき雰囲気が漂う。
かなの言う自らのファンへの想いや、メムが語った様に現実として他の生き方を知らなかった実情は勿論有るだろう。
だが、そもそもの原動力とは何だったのか。
それは偏に『アイドル』という存在への人一倍強い憧れと愛情に他ならない。
歌唱力を始め、個別の分野において新野の能力はB小町のメンバーに遅れを取っていたのが実情なのだが、それを凌駕する要因となったのが『メンバーの中で最もファンの目線に近い事』であったのだ。
「ファンの気持ちが分かるからこそ、私はステージ上でずっと笑顔でい続けてきたわ...。
実際、とても楽しかったのも間違いないけれど、やっぱりファンとしても『そうあって欲しい』じゃない?
...だからこそアイに...、『本物』には勝てないって分かってしまった時は堪えたわ...。
好きだからこそ、皆があの子を好きになる気持ちも理解出来てしまうから...。」
「それは...。」
「分かってる...。
あの子だって相応の努力をしていたし、ファンの気持ちを否定するつもりも無い。
それでもやっぱり、あの子の才能を理不尽だと思った事も有った...。
『アイドルを好きなのは絶対私の方なのに』ってね...。」
新野が垣間見せた『アイ』という常識から外れた存在への愛憎渦巻く複雑な感情は、ルビーとしても決して他人事ではなかった。
前世において勇気と活力を貰う存在であったと同時に、幾度となく羨望と嫉妬の感情を抱いた存在。
縦横無尽に動く体躯、聴く者の気分を自然と盛り上げる歌声、ダンスと共に踊る艶やかな髪、何より根拠も無く未来を感じさせるエネルギッシュさ。
天童寺さりなとしてどれだけ望んでも届く事が無い現実を、いっそ理解出来ぬまま逝けたらどれ程気が楽だっただろうか。
無二の友情も、淡い想いも知らないままでいれたら、いっそ清々しく死に向かって行けたのだろうか。
他に使い道が無かった故か、暗記する程覚えてしまったダンスの振付けにしても、吾郎やポコミにメンバー毎のダンスのキレの違いをどれだけ語ろうが、説得力のかけらも無い言葉となっていた事だろう。
そんな彼女達の感情に呼応したのかは定かではないが、地雷ダンディの上で踊るパンダが突如として四頭へと増加し緑色のペンライトを振り始める。
彼女達の話を聞いていた周囲の面々は一様に頭を下げているが、話の内容を考えれば気まずさを感じたのだろうか。
パンダ達がどうやって作ったのか、ルビー達三人と新野の顔写真を使った面を着けつつ、それぞれ『前途洋々』の文字を一文字ずつ刻んだプラカードを掲げたのと同時であった。
「私にも分かるよ...。
好きだから全力でぶつかれて...、好きだから嫌な事も考えちゃって...。
二人もそうだよね?」
「...そうね...。」
「...フッ...、うん...。」
「フフ、何か懐かしいな...。
ミヤコさん、B小町の初期メンバーを思い出しますね!」
「...うん、そうね。
アナタとアイが楽しそうにしてたのを思い出すわ...。」
時間というものは誰に対しても平等であり、自身の周囲の環境が変わってしまった事を新野は強く感じさせられる。
アイと瓜二つの少女は、しかし彼女よりも確かなアイドルへの情熱と才能を感じさせ_
高峯の様に憎まれ口を叩く少女は、当時の自分達とは比較にならない実力と現実的な視点を併せ持つ存在であり_
渡辺と同様に、情熱を胸に秘めつつ一歩引いた視点に立つ女性は、その人生経験故か当時の自分達と同年代であった彼女よりも、より仲間達に対して『大人』の振舞いが出来る事だろう。
そして、情熱だけは人一倍持ち続け、結局一番になる事すら叶わず、燃え滓の如く年齢を重ねた自分。
当時は反応に困ったものだったが、アンチエイジングに励んでいたミヤコの変わらぬ美貌が余計にそれを強調している様に感じられる。
だが、苺プロはその燃え滓に残った火種を無駄にする事を良しとしなかったのだろう。
『B小町』の名を次代へと繋いでくれる後輩達への導火線に火を灯す為に。
時の流れと共に人の役目も変わっていくのだろう。
緑から赤、白、黄色と輝きを変えるパンダ達のペンライトの色の如く。
「皆、一回休憩にしま...何そのパンダ達⁉︎
何してんのそれ‼︎⁉︎」
変わらないのは、今も昔も彼女のツッコミだけかもしれない。
前話もそうでしたが、やっぱりビュティさんって便利な人だと思いました。