魚雷ガールと田楽マン、二人はかつてボーボボ達と共に激闘を繰り広げた仲間であり、壱護から相談を受けたボーボボの要請によって苺プロを訪れているのだが、その立場故に苺プロに協力する理由は異なる。
魚雷ガールは、女性向けファッション雑誌『魅惑レディー』の専属モデルとして活躍しており、盟友の『横浜の純子』と共に二大カリスマモデルと評される。
また、その歯に衣着せぬ発言でコメンテーターとしても一定の支持を獲得、その裏で反戦・慈善活動を積極的に行い、果ては純子とのラジオ番組が長寿化する等文字通り芸能界でも暴れ回っている。
かたや、田楽マンはメンバー全員が犬の人気アイドルグループ『犬's』のメンバーとして活躍。
ドラムスとしてだけでなく、楽曲の作詞・作曲を担当し、最新シングル『犬だってコタツに入りたい/オレにチョコはNG』も現在オリコンチャート上位にランクインし、全盛期程では無いが以前からの固定ファンを中心に根強く人気を獲得している。
そんな二人を紹介しつつ、壱護はこの二人を紹介してきたボーボボからの言外のメッセージを読み解く。
この二人から何も感じ取れないのならお前達はそれまでだ_と。
(あのアイですら圧倒されてるか...。 中々えげつない事考える人だ。)
新人アイドル達は一様に硬い表情をしているが、それも無理からぬ事だろう。
彼女達の前に立つのは、『長年に渡って芸能界で活躍する女性タレント』と『固定ファンが付く程人気を博すアイドルグループのメンバー』、言ってしまえば彼女達が目指す理想像の一つと言える。
ましてやアイ以外の三人にとって魚雷ガールは、同じモデルという世界で戦う者として雲の上の存在である。
(ここにいる全員の情報からこの状況になる迄を読んで紹介してきたんなら...、見かけに寄らず相当な策士だな...。)
尚、ボーボボが二人を紹介した理由は『面白い事になりそうだから』であり、壱護が勝手に深読みしているだけである。
(にしても、お二人もお二人で、何でこの話を受けたんかねぇ...。)
続いて壱護は、チラリと二人を見つつ思案する。
本来この様な弱小事務所の、ましてやデビューすらしていないアイドルの世話を焼く義理など無い。
となれば、何かしらの思惑が有るのだろうが_と。
魚雷ガールは自身を『先生である』と考えている。
その為、自身が生徒と認めた者が困っていれば手を貸すし、悩んでいる者がいれば助言をしてやりたい。
自身の言動で相手が少しでも生きやすくなれば嬉しくなるし、逆に生徒を不幸にしようとする者は全力で排除する。
とはいえ、神ならぬ魚雷の身である彼女では当然手の届かない場所の方が圧倒的に大きい。
芸能活動も自身に助けを求める声を少しでも掬い上げる為の手段でしかない。
そして彼女は今、自身の前に立つ四人の内一人をチラリと見つめつつ、生徒を想う『先生』の顔になる。
(本当は、助けを求める迄は口を出したくないけれど、今回は出張サービスギョラ。)
一方で田楽マンの考えはより打算的である。
ここでコネを作っておけば、後々彼女達が名声を勝ち取った際に接触しやすくなる。
コラボとしての楽曲の提供はもちろんだが、アイドルは個人として活躍の幅を広げる者も多く、ドラマや映画の主要キャラクター役に抜擢されるケースも珍しくはない。
そこに一枚噛めれば、後は幾らでも人脈を広げていくチャンスはやってくる。
金のなる木を成長させる為の養分は多くて困る事は無いのだ。
また、仮に彼女達が上手くいかなかったとしても、田楽マンになんら被害は無い。
仮にこの件が明るみになったとて、寧ろ『後進の育成に積極的』としてイメージアップに繋がるだろう。
ローリスク・ハイリターンな素晴らしい投資というわけだ。
『皆大好き田楽マン』でい続ける為には、お利口な犬ではいられないのである。
こんなだから、ビュティに『一生友達出来ない』と思われてしまうのだが。
するとここで四人の少女の内の一人_アイが徐に手を挙げる。
「すいません...。ちょっとトイレ行ってきてもいいですか?」
「あ、あぁ。構わん。お二人ともすいません。」
壱護と共に一礼すると足早に部屋を出ていくアイの表情は強張っており、共にアイドルとなる三人からも心配と同情の視線が送られる。
曲がりなりにもモデルとして活動していた自分達と違い、つい最近まで一般人であった彼女にこの状況は厳しいものだろう_と。
事務所を通り過ぎ、トイレへと駆け込むアイの様子にビュティとミヤコもまた心配した様子だ。
「アイちゃん、大丈夫ですかね...。緊張しちゃったのかな。」
「あの子も人の子って事かしらね...。
まぁ、本人には悪いけど、ちょっと安心しちゃうわ。」
割となんでもそつなくこなし、その独特の感性も相まって人間離れした空気のある彼女にも生身の人間らしい部分が有るのだと、和やかな気持ちになる二人に気付かれぬ様、ヘッポコ丸は内心で彼女がトイレへと向かった理由を言い当てる。
それは、この場において彼だからこそ気付けた事。
(オナラ、我慢してたんだな。)
トイレへと入ったアイは、砂漠のオアシスにたどり着いた様な表情であった。
その後、新人アイドル達は二人を前にした自己紹介を行う。
アイ以外の三人はその経歴故にダンスの技量や得意な曲について質問が飛び、アイに関しては歌唱力が未知数である為か大まかな運動能力の確認に留まった。
そして現在、壱護はミヤコと共に田楽マンからの各員の評価と今後の方針について検討を行なっている。
「結論から言うと、これだけ得意な曲調がバラバラなら個人的には楽曲毎に中心として歌うメンバーを変えていく方が良いと思うのら。」
田楽マンの言葉に息を呑む壱護。
自身の構想である『アイがセンターとして活躍する光景』にはやはり無理が有ったか_と。
「私もその意見に賛成です。
お互いの実力を認め合える程、大人になれるとは思えないですから...。」
そんな田楽マンの提案を後押しする様なミヤコの言葉に、改めて自身よりもマネージャーとしての才覚が優れている事を感じる壱護。
成程、確かに明確にセンターを固定すれば、他のメンバーからは嫉妬の感情が生まれるだろう。
そして彼の構想においてセンターとなる人物は人間関係を拗らせる光景が容易に想像出来るのだからタチが悪い。
「勘違いしてほしく無いけど、仮に誰かをセンターで固定したとしてもある程度人気が出る可能性は有るのら。」
「それは...、どういう事ですか?」
先程とは逆の、それこそ自身の考えに近い発言の真意を問う壱護。
曰く、そのセンターになる人物が強烈な求心力を発揮すれば、結局はグループの売上に繋がるだろうという事だ。
それは同時に他のメンバーのファンすら食い潰す事でもあるが。
「それに、最初に言った案にも当然デメリットは有るのら。」
その言葉に今度はミヤコが目を丸くする。
マネージャーとしての見地から言えば、先の案は全員にチャンスが訪れる魅力的なプランに思えるからだ。
しかし、田楽マンからすればそんな甘い話等無い。
全員にチャンスがあるという事は、裏を返せば言い訳が出来なくなるという事だ。
楽曲毎の売上や再生数は、残酷なまでに順位付けを行ってしまう。
そういった現実に向き合えるかは彼女達次第だ。
「1を10にする事と、0を1にする事、どちらが難しいと思うかは社長次第なのら。」
そう言う田楽マンは、芸能界で生き残ってきた猛者の顔だ。
彼からすれば、グループ全員が売れようが誰か一人が売れようが、どちらでも構わないのである。
一方の魚雷ガールは、別室で四人と個別に面談を行っており、最後にアイの順番が回ってきていた。
他のメンバーは、皆一様に夢中で相談したと語っていたが、自分の場合はどうだろうかと思案するアイ。
初対面の方が却って相談しやすいのでは?_ビュティ達に言われた言葉に納得する部分は有るものの、何を話せばいいのだろうか。
「最後はアイさんね。
芸能界に入ったのはつい最近みたいだけれど、何か不安な事は有るギョラ?」
なんともざっくりとした聞き方に面食らうアイ。
確かにこのくらい大雑把な方が気軽に話しやすいのかもしれない。
そこでアイは、現実味が増してきたアイドルとしての活動について考えを口にする。
「社長からも聞いてるかもしれないですけど、人と深く関わるのが苦手でして...。
周りから見ると、『変わった子』みたいなんですよね私。」
自嘲気味に笑う表情から、悲哀の感情が魚雷ガールへと伝わる。
それは、決して他人事ではないが故に。
「『変わった子』ね。 先生もよく言われたギョラ。」
魚雷が喋ってる時点で変わってるだろ_とは口にしないアイ。
空気を読むのは得意なのだ。
「施設での事もあの子達から聞いてたけど、無理して他人と仲良くする必要は無いと思うギョラ。
他人とのコミュニケーションが負担になってしまう人だっているんだから。」
「でも、同じグループでやってくなら、仲良い方がファンの人にとっても嬉しいですよね?」
「勿論、仲良く出来るに越した事は無いギョラ。
それに、社会で働いて生きていく以上、最低限コミュニケーション能力は必要だから、そういう意味では貴女にとっては少し生き難い世界かもしれないギョラね。」
魚雷ガールの言葉にぐうの音も出ないアイ。
彼女としても、何も自ら軋轢を生みたいわけではない。
可能な限り空気を読もうとはするし、ボーボボ達の様に自身へ好意的な感情を向けてくれる相手に対しては最大限応えたいと思う。
しかし、一方で『変わった子』を遠ざけようとする動きが彼女の周囲にあったのもまた事実なのだ。
そんな相手にすら笑顔を向けるという行為は、確実にその心を摩耗させていった。
そんな表情を曇らせるアイへ、アドバイスが送られる。
「難しく考えているみたいだけれど、もう少しシンプルに考えてみると良いギョラ。
例えば、斉藤社長にも話していたみたいだけれど、貴女は自分が他人を愛せるかが分からないと思ってるみたいね。」
掛けられた言葉に首肯を返すアイ。
その際に掛けられた『嘘でも言ってる内に本当の愛になるかもしれない』という言葉は、現在彼女にとっての一つの希望となっている。
しかし、それはファンに対しての感情であり、大抵の場合は自身に対して好意的、少なくともグループ全体を応援してくれる相手なのだ。
では、そうで無い相手に対しては?
自身に負の感情を向ける者やそもそも関心の無い者にまで手を広げるべきなのか?
思案する彼女へ、『極端な言い方』と前置きした上で魚雷ガールが選択肢を示す。
「もう少し大枠で捉えてみるギョラ。
ファンも、そうでない人も、友人もビジネスパートナーも含めてあらゆる相手に声を届ける。
先生みたいにね。」
その言葉に、アイは衝撃を受ける。
世界中の全ての人々が愛する対象。
好かれていようと嫌われていようと、全てひっくるめて愛してしまうというのは、まるで宗教の様だと感じさせられる。
「もう一つは、逆に広げた手を閉じてみる事ギョラ。
ファン、或いは事務所や仲間の為、もっと狭くして自分が深く考えずに大切だと思える相手に対してだけでも、それも立派な愛の言葉ギョラ。」
今度は真逆の提案。
自然と心に思い浮かぶ相手に対してというのは、確かに単純で分かりやすい。
「どんな形にするかは貴女次第ギョラ。」
言いつつ、二枚の名刺を渡してくる魚雷ガール。
一枚目はモデルとしての物、そしてもう一つには。
『児童養護施設へいわ 理事会 会長 魚雷ガール』
どうやら自分は、知らぬ間に彼女の『生徒』の一人であった様だ。
二人が事務所を去るのを見送った後、他の者達が事務所へ戻る中、先刻受け取った名刺を片手にビュティ達へと話し掛けるアイ。
「おじさん達もビュティさん達も、魚雷さんと日楽マンさん?と知り合いだったんだね。
教えてくれたら良かったのに。」
「田楽マンね。
ごめんごめん。社長とボーボボに口止めされててさ。
他のメンバーに対して不公平だからって。」
「アハハ。そりゃそうだよね。
それにしても、ホント世間は狭いもんだねぇ。」
ビュティの言葉に納得するアイは上機嫌な様子だ。
自身の今後への方針に対して手掛かりが掴めたからであろうか。
ふと三人が空を見上げれば、そこには太陽に扮する首領パッチ。
気付かれた事に慌てた様子で施設の方向へと飛んでいく彼を見送りつつ、アイは思う。
(仲間はいつでも見守ってくれてる_か。物理的にってのはおじさん達らしいけど。)
今回の田楽マンの提案は、マクロスΔのワルキューレを見て思い付いたものです。
エースボーカルの存在は有りつつ、曲によってそれぞれのメンバーがメインで歌うってのがアリならこういった方法も良いよなと考えた次第です。
魚雷先生とアイの会話は、前者が『一番星のスピカ』の様なあらゆる相手を推す所謂原作のアイ、後者が拙作や他作者様の作品の様に自分を肯定してくれる身近な存在を大切にするアイというイメージです。