推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:71獄

 J(じごくの)I(イルカ)F(ファブリーズ)

 聞いた事も無ければ、内容を想像する事すら叶わない謎の催しに参加する事になっていたらしい事実を、現地に到着した段階で初めて知らされたB小町の面々。

 J(ジャパン)I(アイドル)F(フェスティバル)だと早とちりした彼女達にも、きちんとタレントに対して参加イベントの詳細を伝えていなかった新野達にも非は有るだろうが、まずは双方の認識を合わせる事が先決だと判断したかなが、新野へと自分達の現在地を問う。

 

「あのー、マネージャー...。

 私達、『JIF』って勝手にアイドルフェスの方に行けるもんだと思ってたんですけど...。」

 

「...ああ、そういう事...。

 ちゃんと伝えてなかった私も悪かったわね...。

 今のあなた達がアイドルフェスの方に参加出来る訳ないって考えれば分かるかなって思ってたんだけど...。」

 

 バツの悪そうな表情と共に語られた新野の弁に、B小町の面々は返す言葉が無い。

 何しろ、『JIF』への参加の報を聞いて彼女達の中に渦巻いたのは『信じられない』という言葉だったのだから。

 『JIF』の単語を聞いてルビーが騒ぎ始めた時点で、新野も注釈を入れる配慮は必要だっただろうが、逆に言えばせめてかなかメムのどちらかは違和感を感じ新野に確認を取る等の行動を期待していたと言ったところか。

 

「で、でもでも...!

 今日、私達がデビューライブを出来るのは変わらないんですよね⁉︎」

 

「うむ、想定していた舞台と違うと言えど、初陣を飾る事に変わりは有るまい。」

 

 重くなった空気を変えるべく声を上げたのはルビーと地雷ダンディだ。

 そもそも自分達はライブ会場の大小について一喜一憂出来る立場ではない筈である。

 想定と違っていた事は否めないが、まだ『じごくの云々』の会場すら確認していない現状でネガティブな思考を続けるのは、この話を自分達に対して持ち掛けてくれたソフトンに対しても失礼だろう。

 流石にアイドルフェス側と同等の規模とは考え難いものの、そもそもそこでのライブが成功しなければ『アイドルの祭典』への参加は夢物語なのだ。

 

「...ハァ、それは確かにそうね...。

 こういう時はあんたらの切り替えの早さが羨ましいわ...。」

 

「ただ、観客の数は期待出来ないかもね...。

 配信見てくれてた人達も、絶対フェスの方に行っちゃってるだろうし...。」

 

 ルビー達に倣い二人も気持ちを切り替えるが、現実としてメムの配信視聴者を中心としたB小町の応援客として期待されていた人々の存在は無いものと考えねばならないだろう。

 恐らく自分達が気付かなかっただけで、苺プロ側としてはこちらの『JIF』への参加アナウンスと案内をしていたのだろうが、ただでさえ聞き覚えの無いイベント、ましてやソフトンの口振りからして神事の様な雰囲気が感じられるとあっては些か人を選ぶと言わざるを得まい。

 

「ふむ...、どの程度の数を求めているのかは分からないが、『ヤツら』が何とかするとは言っていたが...。

 ああ、丁度見えてきただろう。」

 

「えっ...?」

 

 ソフトンが指し示す方向へと一同が視線を向けると、上空から何やら飛行機の様な存在が向かってきているのが確認出来るが。

 

「オラオラァー、もっと必死こいて漕げやドルオタ共ーー‼︎

 途中で墜落したら、B小町の所には行けねえぞーー‼︎」

 

「サー、イエッサー‼︎」

 

「何やってんだあの人ーー‼︎⁉︎」

 

 こちらへと向かってくる飛行体は、一見すると小型の飛行機の様に見えた。

 左右へと広がる大きな主翼、回転するプロペラの存在から受けるごく自然な印象なのだが、通常の飛行機とは異なる点が見受けられるのだ。

 主翼の部分へと目を凝らせば、そこには何人もの人が括り付けられており、一輪車のペダルの様なものを漕ぎ続けている。

 そんな両翼に挟まれる場所に、彼女達がよく知るアフロの男性が何故か軍服を身に纏い、長く伸ばした鼻毛で人々を叩き続けている様だ。

 恐らく主翼に括り付けられている人々がペダルを漕ぐ事で、プロペラの動力としているのだろう。

 アフロの男性の口振りからして、ペダルを漕いでいるのはB小町の応援に駆け付けたファン達と言った所か。

 

「おじさんってば相変わらず無茶苦茶やるわね...。」

 

「いやペガサス乗ってる先輩も大概でしょ。」

 

「ペガサス⁉︎」

 

「む...、もう一機同じものが来た様だぞ。」

 

 かなのペガサス事情に驚愕するメムを他所に、謎の飛行機は変わらず空路を進み続けている。

 実を言うとこの飛行機、かつてボーボボ達がマルハーゲ帝国次期皇帝決定戦、果てはハイドレート達裏マルハーゲ帝国との激闘にまで発展した一連の戦いの発端となった、『空ニャン』という毛狩り隊員との空中での戦いの後に密かに接収していた代物なのだが、そんな事情を知る由もないB小町の面々からすればまた妙な物体を引っ張り出してきたと感じた事だろう。

 相変わらずの無茶苦茶振りに彼女達がげんなりとする横で、地雷ダンディが新たな空からの来訪者の存在を認めるが。

 

「ニッポン‼︎ ニッポン‼︎ ニッポン‼︎」

 

「オーイエス、オーイエス、オーイエス‼︎」

 

(違う、似てるけど違う...。)

 

(どういう仕組みで動いてんのあれ...?)

 

 その飛行機は見た目こそボーボボ達が乗るものと似通っているのだが、よく目を凝らせばまるで別物である事が分かる。

 そもそも翼の存在すら無く、代わりに胴体部から伸びている棒に多くの人々が掴まっているのだ。

 日本国旗が刺繍されたレオタードを身に纏い『ニッポン』コールを続ける首領パッチの音頭に従い、棒に掴まる人々が懸垂を続けている。

 少なくとも外見からは全く動力源が分からないのだが、現実としてプロペラが回転し空を飛び続けているのだから、理解が及ぶ筈も無いだろう。

 

 

 

「全然来ぇへんから迎えに来てみたら、何しとんねん?」

 

 謎の存在に気を取られていた一同の背後から、聞き覚えの無い女性の声が掛かる。

 その口調からして、この場にいる者のいずれかと知己の関係である事が窺えるが。

 

「ああ、すまん。

 丁度彼女達のファンが、知り合いと共に向かってきていた所だったのでな。」

 

「あん?

 ...何やアイツらも呼んだんかいな...。」

 

「そう邪険にするな...。

 間違いなく彼女達に力を与えてくれる存在だ。」

 

 その関西弁で話す女性がソフトン相手にも物怖じせずに話す光景は、B小町の面々に対して少なからず衝撃を与えるものであった。

 ソフトンの強烈な外見に関しては既知のものであるとしても、超然とした雰囲気を持つ彼と堂々と話せるのは、その女性の美貌による自信故か、はたまたソフトンと同じく自信を裏付けるだけの『力』を持つが故か。

 

「あの、ウンコさん...。

 そのお姉さんの事教えて貰えると...。」

 

(ってか、ずっとスルーしてたけどその呼び方は流石にアイドルとしてどうなのよ...。)

 

「うむ、その説明は会場に移動しながらするとしよう。

 『困った時のウォシュレット』。」

 

 メムから何とも言えない視線を向けられるルビーが、謎の女性についての説明をソフトンへと求めると、彼もまたその必要性を感じていたのかその申し出に同意しつつ、謎の呪文を唱える。

 まるで空間そのものが捩れ、渦巻いている様な現象が発生したかと思えば、それまでとは全く違う場所へと一同が移動してしまった。

 

「向こうに大きな塔が見えるだろう。

 あの『パンテーン・タワー』がJIFの会場となる。」

 

(パンテーン・タワー⁉︎)

 

(ってか、さっきの合言葉みたいの何⁉︎)

 

「ほな、ウチも自己紹介しとこか。

 名前はアイスン、そいつと同じバビロンの戦士や。」

 

 ソフトンが目標となる場所を指差せば、確かに離れた場所からでも容易に発見出来るだろう塔が目に映る。

 JIFがバビロン界なるものやそれに連なるソフトン達関係者にとっての祭事であるとすれば、所謂シンボルマークとしての役割を果たしているのだろう。

 するとソフトンの隣に立つ女性が名を名乗ると同時に、その頭部を変貌させる。

 真っ白な球体に吊り上がった両目、そしてアイスのコーンの様なものを帽子の様に乗せている彼女_バビロンの女戦士アイスンの姿に、ルビーは愕然とした様子で己の気持ちを吐露した。

 

「そ、そんな...。

 それじゃあ、ウンコさんはウンコじゃなくてソフトクリームだったって事...?」

 

(驚くとこそこなんだ...、いや気持ちは分かるけど...。)

 

「バビロンの戦士達はその厳しい鍛練の末に、バビロン真拳の力と共に己の真の姿を隠す仮面と名を授けられると聞く...。

 具現化する姿形もまた、その個々人によって異なるのだろう。」

 

「ああ...。

 事実、俺の頭がウンコであるかどうかは定かではない。」

 

「って事は、まだウンコの可能性は残ってるんだよね⁉︎

 よし‼︎」

 

「何がよしなのよ‼︎

 折角ぼかしてんだから、ウンコウンコ言うのやめなさいよ‼︎」

 

「そいつの頭の事は後でゆっくり話すとええ。

 先に移動しよか。」

 

 ソフトンの頭部の真相は兎も角、会場への移動が先決であると判断し先導を開始したアイスンに一同も続いていく。

 その最中、ルビーのソフトンに対する呼び方を流石に見過ごせなかったのか、かなとメムが彼女を窘めるつもりで声を掛ける。

 先の地雷ダンディによる解説や、ソフトンと同じ力を持つのだろうアイスンが彼の頭部を当然のものとして受け入れている事実からして、その外見に本人の意思が介在しているとは言い難いだろう。

 そういった事情を抜きにしても、いくら見た目通りとは言えど他人の事を排泄物呼ばわりするのは流石に失礼にも程があるというものだ。

 

「ちょっとルビー。

 アンタとソフトンさんに何があったか知らないけど、流石にあの呼び方は無いわよ...。」

 

「本人はあんま気にしてなさそうだけど、普通に考えて他の人に聞かれたらマズイっしょ。」

 

「だってしょうがないじゃん!

 あの人、初対面の時にいきなり家のトイレから出てきたんだよ!」

 

「⁉︎」

 

 

 

 『じごくのイルカ・ファブリーズ』_この催しについて語るには、まずソフトン達と行動を共にしているアイスン、及び催し自体の名前の由来となっているじごくのイルカについて説明せねばなるまい。

 両者は共に、ビビビービ・ビービビ率いる発毛獅志として当時の毛の王国に君臨、北のコンディショナー塔にてボーボボ達と激闘を繰り広げたのだ。

 その戦いの最中、ソフトンとアイスン_二人のバビロンの戦士が会合した事からソフトンがビュティの兄である事実が発覚、最終的にはソフトンがアイスンのバビロンの力を吸収しウンコを一巻き多くする運びとなったのである。

 その後ツルリーナ3世との戦いに備え、ソフトンは研鑽を重ね『ゴールデン・ソフトン』の境地へと至るのだが、ここで一つ問題が生じたのだ。

 ゴールデン・ソフトンの力は、彼とアイスンの会合の折に垣間見られた『バビロン予知夢』の内容_即ち彼の妹ビュティがトイレット戦士となってしまう破滅の力を自らの力へと取り込む事で、その未来を無理矢理消滅させた清濁混合の境地によって生まれたのだが、ここでビュティを含めたボーボボ一行と敵対、即ち多少なりとも悪意を持って相対したアイスンの力がその力の発揮を阻害してしまう要因となってしまったのである。

 そこでアイスンへと力を返却し、ゴールデン・ソフトンの力を安定させる事には成功したのだが、今度は返却されたアイスンの側に異変が見られたのだ。

 

「ウチとしても力が戻ってくるなら文句は無かったし、そいつも力が安定するしで問題無く終わる筈やったんやけどな...。」

 

「上手く戻せなかった...とかですか?」

 

 パンテーン・タワーの出入り口が一同の目に見え始めた頃合いであった。

 アイスンが言い淀む様から自然と連想したのだろう。

 メムが問い返した通り、詳しい仕組みは分からずとも話の流れから『モノ』の移動が上手くいかなかったと考えるのは自然な事と言える。

 

「それ位単純やったらここまで大事にならんかったんやが...。」

 

「姐さーん、どこ行ってたんすか‼︎

 俺の愛のニュータイプ交信にも全く反応してくれないし‼︎」

 

 すると塔の中から猛然と一同へと駆け寄ってくる存在の声が響く。

 遠目に見てもヒレや突き出た口等、随所にイルカらしき特徴が垣間見えるが。

 

(イルカ...、いやイルカかあれ...?)

 

「アンタはニュータイプやないし、ウチはティファやあらへん。

 アホな事言わんと、この子らに挨拶しぃや。」

 

「...? おお、その子達が例の_」

 

 協力奥義『推しのボ式歓迎会』

 

「オラオラオラーー‼︎

 ようこそ推しのボの世界へ読者キャラちゃんよーー‼︎

 喜びな、これはアンタの歓迎会だよーー‼︎」

 

「何分もつかのう、この新人は。」

 

「懐かしい!

 このノリマジで懐かしいわーー‼︎」

 

「何て感じの悪い事してんのよアンタら‼︎⁉︎

 寧ろボーボボ世界的には大先輩でしょうが‼︎」

 

 アイスンに促されB小町の存在を認めたイルカらしき存在に、ルビー、メム、新野による協力奥義が炸裂する。

 不良の溜まり場に放り込まれた転入生の如く、彼女達のイビリがイルカらしきものを襲うが、実はこのイルカらしきものこそJIFの名前の由来であるじごくのイルカなのだ。

 読者キャラ募集のグランプリキャラクターとして登場し、アイスンと共にボーボボ達の前に立ちはだかったのだが、最終的には他の募集キャラクター達によって別次元へと引き摺り込まれた筈の存在である。

 

「ソイツはじごくのイルカゆうて読者キャラでな...。

 本来は元の世界に戻された筈やったんやけど...。

 ソイツと一緒にウチの力の一部まで持ってかれてもうたんや。」

 

「じごくのイルカを再度こちら、正確にはこのバビロン界へと呼び出し力を取り戻したまではよかったのだが、その影響であちらとバビロン界の境界が曖昧になってしまったのだ。」

 

「つまりチミ達がこれから参加するJIFは、俺が元いた世界の読者応募キャラ達を鎮める為のものな...の...さ...。」

 

「...。」

 

 簡単や事の経緯を語る二人にじごくのイルカが続く形でJIF開催の目的を語るが、そこで彼と視線を交わし互いに動きを止めたのが地雷ダンディであった。

 まるで因縁の相手と相対したかの様に正対した両者に漂う緊張感に、周囲の者達は戸惑いを隠せない。

 

「なんや、今度はどないした?

 あの円盤がそんなに気になるんか...?」

 

「ダンディ...、吠えたら駄目だよー。

 ほら、新しいお友達に挨拶して。」

 

「止めないでください姐さん...。

 漢には、やらなきゃならん時があるでごわす...。」

 

「怪我させたら向こう一ヶ月、魚しか食わさんからな。」

 

(えっ、イルカなんだから魚が主食なんじゃないの?)

 

「ルビー殿、感じぬか?

 あの者からハジケリストとしての波動を...。」

 

「えー、私その手の話されても分かんないよ...。」

 

(えっ、じゃあ普段の言動は何だと思ってんのこの子⁉︎)

 

(この子にしてあの親ありと言った所かしら...。)

 

 どことなくペットの様な扱いになっている両者の周囲で様々な感情が交錯する中、双方の足が地面を蹴る。

 

「いいのか?

 お前の相手はじごくのイルカだぞ?」

 

「大いに屈する地雷を恐れよ、いかに剛にみゆるとも、言動に余裕と味のない地雷は大事をなすにたらぬ。」

 

「地獄地獄地獄地獄地獄地獄地獄地獄地獄地獄地獄‼︎‼︎」

 

「博文博文博文博文博文博文博文博文博文博文博文‼︎‼︎」

 

(いや何だよその掛け声‼︎⁉︎)

 

 じごくのイルカと地雷ダンディ、双方の拳がぶつかり合う。

 相手の拳を己の拳と相殺させる事で辛うじて保たれている均衡は、言い換えればほんの些細なきっかけで一気に崩れ去るヒリヒリとした緊迫感を周囲へと伝播させていた。

 

「博文ィ‼︎‼︎」

 

「チクショー、二次創作でも勝てねー‼︎」

 

「もう気は済んだやろ。

 さっさと購買に戻りや。」

 

(ソイツ購買だったの⁉︎)

 

「ハイ...。

 あっ、B小町のお姉さん方も終わったらウチで土産見てって下さいねー‼︎」

 

 

 

「ここが控え室や。

 シェル、ほな後は頼むで。」

 

「ハイ。

 それではB小町の皆様、ここからはこのシェルが本番中の説明をさせていただきます。」

 

「あっ、その前にアイスンさん!

 ここまでありがとうございます!」

 

 パンテーン・タワー内の控え室へとB小町を案内したアイスンが、部屋の入口付近にて待機していた男性へと後を引き継ぎ、ソフトンと共に足早に去っていく。

 二人以外にも、特徴的な頭部の人々が忙しなく行き交っている事からして、JIF開催が間近に迫っているのだろう。

 そもそも最初の言葉からして、本来はソフトンだけが迎えに来る筈だったのだろうと予測出来るだけに、ルビーが二人の背中に向けて礼を述べた。

 軽く右手を挙げるだけという簡潔なものではあったが、『頑張れ』という意図を受け取ったB小町は改めて男性へと向き合う。

 

「えっと、すいませんでした、邪魔しちゃって...。」

 

「いえ、構いませんよ。

 改めまして、僕はシェルと申します。

 まずはこちらのスケジュール表をご覧下さい。」

 

 シェルと名乗ったその男性の外見に、B小町の面々が目を奪われるのも致し方ない事だろう。

 その美貌もさる事ながら、天使の様な大きな羽が目を引いてしまう。

 奇天烈な外見の存在には慣れている自覚の有る彼女達も、まるで絵画からそのまま現実へと出てきた様な存在には息を呑むしかない。

 

(この羽って作り物じゃない...? だとしたら、毎日セルフ羽毛布団って事⁉︎)

 

(あのルビーですら流石に緊張するか...、まさか他にも参加してるグループがいるなんてね...。)

 

「この一緒にステージに立つって人達もアイドルグループなんですか?」

 

 シェルから受け取った資料を確認し、かなが隣に立つルビーの様子を横目で見れば、緊張と動揺故のものか口元を抑えているのが分かった。

 JIFが自分達が想定していたものとは異なるものであったのは事実だが、見方を変えればよりプレッシャーの少ない状況で経験を積めるという事でもある筈だったのだ。

 ところが、手元の資料によればB小町と共に出演者として『G3 Bs』なる存在が明記されている事から、対バン形式と考えるのが自然であるが、この『G3 Bs』とやらの人気如何によっては完全アウェイの雰囲気となってしまう可能性がどうしても脳裏に過ぎってしまうのだろう。

 この共演者がインディーズグループと言い切れないのが、先のじごくのイルカより語られたJIF開催の真相_詰まるところ『向こう側』の世界の有名アーティストであるという可能性が存在する故である。

 メムが取り急ぎ共演者についての情報を集めようとするが、この場にいる者の中で最も情報を手広く集めているだろう彼女にすら『見覚えが無い』事実が余計にその推測を助長させた。

 バビロン界に関わる者達_今回で言えばソフトンとアイスンがそれぞれの世界から、アーティストやアスリートの類を選抜し両世界の講和を願うと考えれば一応の辻褄が合ってしまうが為に、自分達が想定するライブとは全く異なるものである事を想定せねばなるまい。

 

「申し訳ありません、対戦相手の情報についてはお互いに秘密とするのが規約ですので...。」

 

「...うん、対戦...?」

 

「ハイ、皆様にはこれより、会場を盛り上げる為なら何でもありの対決をしていただきます。

 勝者には、ステージ中央に設置された『スーパー・ダンス・ティーチャー・マシーン』より現金入りの招き猫が降り注ぎます。」

 

「何その生々しい報酬⁉︎」

 

「何でもありってのが引っ掛かるわね...。

 因みに負けた側はどうなるんですか...?」

 

「薙刀が降り注ぎます。」

 

「死ぬよ‼︎ 物騒過ぎでしょ⁉︎」

 

「...盛り上げた方が勝ちとの事だが、具体的にはどう決着をつけるのだ?」

 

 最早ライブどころの話ではなくなってきてしまった様に思える物騒な内容だが、流石に荒事への耐性が違う故か地雷ダンディが冷静に勝利条件を確認する。

 そもそもこのJIFへの出場は、新野や壱護達も容認した上でのものであり、当然その内容についてもソフトン等から説明を受けていたと考えるべきだろう。

 つまり苺プロ上層部はこう言いたいのだ。

 B小町を名乗るならこの程度の障壁は突破して然るべきだ_と。

 

「会場に集まった11111人の観客に、どちらを支持するかリアルタイムで投票出来るボタンが配布されています。

 制限時間内であれば何度でも再投票が可能ですが、一度でも観客全員の支持がどちらかに傾いてしまった場合は即決着となります。

 制限時間が経過したタイミングでより多くの票を獲得するか、もしくはどちらかから降参の宣言がなされた場合も同様です。

 皆様からご質問が有りましたら何なりと。」

 

「...。」

 

 四人から質問は出てこない。

 今更聞く事等無いという事か、或いは何を聞けばいいのか分からない故か。

 真意は兎も角、全員を一通り見渡したシェルは一礼し部屋を後にする。

 いよいよ後には引けない_そんな全員の決意を再確認すべく、芸歴の長いかなが声を上げた。

 

「さ、皆ここまで来たら今からやる事は何か分かってるわよね?」

 

「うん...、学マスのデイリーやんなきゃ。」

 

「着替えと最終チェックよ‼︎」

 

 

 

 ワインレッドを基調にした衣装を身に纏った三人と、スカート型の衣装を自身の縁に引っ掛けている地雷ダンディ。

 舞台上のすぐ近くまでやってきた四人の耳にも、会場からの歓声が届いていた。

 どの様な形であれ、自分達は間も無く人前に立ってパフォーマンスを披露する事になる。

 成功しようが失敗しようが、どの様な反応に晒されようが、舞台袖から差し込む光の向こう側へと一歩踏み出してしまえば自分達は『B小町』にならなければならない。

 

「皆、行こう...。

 私は、昔の私みたいに塞ぎ込んでる人が、『生きてて良かった』って思える存在になりたい。」

 

 ルビーが拳を突き出す。

 かつての泡沫の夢は、今の彼女にとっての現実となり得た故に。

 

「私は、私を見てくれる人に、期待してくれる人の気持ちに応えたい。」

 

 かなが拳を突き出す。

 期待してくれる人がいる、それがどれだけ力を齎してくれるのかを知る故に。

 

「私は、この会場に来てくれた人達、苺プロの皆、何よりこの四人で『楽しかったね』って言える様にしたい。」

 

 メムが拳を突き出す。

 ままならない現実に晒された時、生きる糧の必要性ともがき続けた先に待つものを知り得た故に。

 

「地中に埋まり続けた我が地雷人生、仲間の為に爆破させるのも一興よ。」

 

 地雷ダンディが拳を突き出す。

 有象無象の中に埋もれるか否か、己の娘よりも更に年若い者達がその岐路に立つ故に。

 

 

 

「ふっ、来たようだね新生B小町の諸君。」

 

「あ、あなたは⁉︎」

 

 決意を固め、ステージへと躍り出たB小町の面々。

 大歓声に包まれる会場の中、反対側に立つ四つの人影の内の一人に目を凝らせば、そこには一部のメンバーにとってはよく見知った者が立っていた。

 

「鏑木...P?」

 

「ふふ、メム君も元気そうだね。

 かなちゃんも、すっかりアイドル衣装が板に付いているじゃないか。」

 

「な、何で鏑木さんが⁉︎

 というか、ステージ上で何する気なんですか⁉︎」

 

「何、この前の一件で僕もハレクラニさんのご機嫌を取らなければならなくなってね...。

 今日はあの方の部下と共に出張してきたのさ。

 まさか相手が君達だとは思わなかったけどね。」

 

「鏑木さん、そろそろこっちの事を紹介して下さいよ。」

 

「知り合いでやり辛いってんなら退がってて下さい。

 我ら三人の力、とくとご覧に入れましょう...。」

 

 すると鏑木の背後に控えていた三人組が彼の前へと出てくる。

 三人の内の二人は中々の体格を誇っており、相応の威圧感をB小町へと与えているが。

 

「ふっ、ではお言葉に甘えようか。

 B小町の諸君、紹介しよう。

 彼らこそ、ハレクラニさん配下の中でも屈指の実力者『獄殺三兄弟』さ。」




Q.何でこんなに時間掛かったん?
A.無駄にオリジナル要素追加したせいで、設定考えるのに苦戦しました。
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