JIF_待ちに待ったB小町のデビュー戦となる舞台に、鏑木と共に立ちはだかった三人組_『獄殺三兄弟』。
以前よりハレクラニの部下として働いていた彼らがこの場にいる理由、更に言えばそのハレクラニや鏑木とバビロン界の繋がりの背景は、かつてボーボボ達とハレクラニが共同戦線を張った裏マルハーゲ帝国との戦い、その最中に勃発した対白狂での乱戦にまで遡る。
『殺戮のカタルシス』と呼ばれ恐れられた白狂の力たるや、対峙した首領パッチをして「洒落にならない」と言わしめる程であり、暴走状態に至った白狂に対しては最終的に13対1という異例の総がかりでもって何とか鎮圧に成功した、ボーボボ達の戦いを振り返っても屈指の強敵と言える存在なのだ。
白狂の脅威度を認めたハレクラニも上記の戦闘に加勢、その後ハイドレートを打倒するに至り裏マルハーゲ帝国を巡る一連の戦いは幕を閉じる。
その後ハレルヤランドへと帰還し、帝国崩壊によって訪れるだろう混乱に備え、戦闘力と経済力の両面で力を蓄えていた彼だが、この一連の経験により他者と協力しその力を利用する効果の大きさを強く認識させられていたのだ。
対クリムゾン戦において、意図せずして自身のゴージャス真拳の力を利用された結果、顕現した金天ボの力がクリムゾン達を蹂躙するに至った件に始まり、上記の白狂、ボーボボと同じ毛の五真拳を操るベーベベ、凶悪な足の裏真拳とニャンニャンアーマーを駆使するハイドレートと、彼から見ても苦戦が必至となるだろう強敵との連戦を、己の力のみで乗り越えられたと考える程自惚れた性格ではなかった。
旧帝国の経済面における要所の一つであるハレルヤランドを経営し成長させてきた手腕は伊達ではなく、己のプライドよりも優先させるべきものがいくらでも存在する事を重々承知していたのである。
その後彼は、サイバー帝国の経済基盤についてギガより相談を受けていた際の繋がりから、電脳6闘騎士の一人であるJを通しソフトンへとコンタクトを取る。
ソフトンが操るバビロン真拳の力を手にしようなどとは考えず、現実的にバビロン界側が受け入れやすい条件を提示したのだ。
その内容が、ハレルヤランド内において警備員兼施設内スタッフとして雇用するというものであったが為に、バビロン界側も彼の提案を無碍に出来なかったのである。
と言うのも、ソフトンを始めとして超然とし神秘的な力を操るイメージの有るバビロン真拳使い達であるが、当然ながら彼らも生身の肉体を持つ生ある者達であり、腹を満たす為の活動が必要なのだ。
ソフトンにしてもアイスクリーム店の経営や野糞のバイト等収入源を確保しており、決して着の身着のままという生活ではない事が分かる。
その結果バビロンの戦士達の雇用に成功したハレルヤランドは、ギガ達サイバー帝国も屈したネオ・マルハーゲ帝国の侵攻にも耐え、ハレクラニ本人も真拳狩りの被害を免れるに至ったのだから確かな効果が有ったと言っていいだろう。
しかしながら、いくらメリットが有ると言えど、ハレクラニの帝国時代における悪行とその脅威度を考えればバビロン界側がその提案を跳ね除けたとしても不思議ではなかった。
そんなハレクラニの力を理解しながらも、バビロン界側が彼の提案を受け入れたのは、偏にネオ・マルハーゲ帝国をそれ以上の脅威として認識したからである。
ツルッパゲラーメンによって民衆を苦しめるだけでなく、そんな帝国への対抗勢力たり得る真拳使いまでもが拘束される状況にあっては、当代屈指の使い手であるソフトンが新たな力を得る事が必須であった。
ゴールデン・ソフトンの力の慣熟には、バビロン神への信心と無私の精神だけでなく、『本来なら受け入れなければならない否定したい未来』を否定し己の制御下に置く強い自我と欲求を必要としたのだ。
その観点で考えれば、『金』という人間の文化的生活に必須となる概念を操るハレクラニは、『個人の欲』を力とする上でこれ以上ない指南役たり得たのである。
そんなハレクラニ達のやり取りから時計の針をグッと現在時刻に近付け、場面はB小町のメンバーの一人であるメムにとっても他人事ではなかった騒動_今ガチ撮影中の時期に移る。
かの番組が発端となり、出演者_黒川あかねに対するバッシングが相次ぐ事態となってしまったのは周知の事実であるが、この騒動による影響を受け撮影現場となったハレルヤランドにも幾分かの風評被害が出てしまったのだ。
それ自体はハレクラニも事が起きてしまった時点で想定済みではあったものの、この騒動を良しとせず疑問を投げ掛けたのがバビロン界である。
前述の通り、撮影現場近くにも当然ながらバビロンの戦士達がスタッフに扮して働いており、その情報が行き渡るのが早かった事も重なり、バビロン界はこう考えたのだ。
『黒川あかねという罪なき者が理不尽に虐げられる_ハレクラニならばそれも想定出来たのではないか』と。
ソフトンを通じ、彼の強大さと共にその才覚を理解してしまった故か、その神算鬼謀を持ってすれば、あの騒動を事前に食い止める事が出来たのではないかとバビロン界は言いたいのだ。
尤も、この点に関しては例えハレクラニにそれだけの権力が有ったとしても、実際に介入に至ったとは考え難いのが実情である。
前提として、ハレクラニはあくまでも『ハレルヤランドの経営責任者』であり、テレビ番組の撮影スタッフでもなければ現場を統括する人間でもない。
軍艦達が行った行動にしても、事前に内容と目的は知らされてはいたものの、そこから門外漢の人間に懸念事項を想定し口出ししろというのは無理がある。
そこで番組のプロデューサーである鏑木が、現在ハレルヤランド内にてスタッフの教育を担当している獄殺三兄弟と共にバビロン界へと事情の説明に訪れたのだった。
しかし、それをただの説明だけで終わらせようとしないのが、ハレクラニと鏑木という男達だ。
余人の立ち入りがそう簡単に出来る場所ではないバビロン界ではあるが、今回のJIF然りバビロン界の関係者が許可を出せば、意外な程素直に往来が可能なのだ。
原住生物やバビロンの戦士達の鍛錬の邪魔をしない限り、積極的に敵対行動を取る者達でない事は、現在アイスンの下で働くじごくのイルカ達の存在や、かつて軍艦との決闘を前にこの世界を訪れたボーボボ達が生きる証明となっている。
そこで鏑木達は、外の世界から隔絶され情報の秘匿性が高いバビロン界を、劇団ララライ等彼らと繋がりの有る組織の下部組織として少年代の者達の養成施設的に利用出来ないかと考えたのだ。
鍛練によって巧みな身のこなしを誇るバビロンの戦士達が、役者としての才覚を見せればそのままララライへの紹介を、仮に能力的なマッチングが上手くいかなかったとしても会場スタッフ等の紹介に繋がるだろう。
或いは、かつてアイも所属していた魚雷ガールが代表を務める児童養護施設から参加を呼び掛け、将来の役者や逆にバビロン界への弟子入りと言った道も有るか。
現在もカミキ ヒカルのマネージャーを務めている上原の様に、個人としては芽が出なかった存在を指導員として再利用すると言った事も考えられる。
(ふふっ、アイディアだけは幾らでも出てくるね...。
かなちゃん達には悪いけど、この勝負には勝たせて貰うよ。)
よもや対戦相手として自身が面倒を見ていた者達のグループが現れるとは思わなかった鏑木だが、既にこの謎の戦いの先を見据えている。
戦いへの勝利後に訪れるだろうバビロン神なる存在、ないしバビロン界の上層部に対し、自身の想いを伝える渾身の一曲を披露する予定だ。
獄殺三兄弟の背後に悠然と構えながら、野望を湛えた不敵な笑みを新人アイドルへと容赦無く見せつけていく。
「まさか鏑木Pが出てくるなんて...。
ヒカルは何か聞いてる?」
「代表が、新しく若年層向けの養成施設を作るみたいな話はしてたけど...。
まさかとは思うけどバビロン界が関係してるのかな...?」
「いや、そのまさかかもしれねぇぜ。」
ステージ上にアイドルどころかアーティストというイメージすら湧かない存在が現れ、困惑しきりのB小町のメンバーであるルビーの両親_アイとヒカル。
娘の晴れ舞台に駆け付けた二人だが、何故か自分達が知る番組プロデューサーがステージ上にいるという状況故に、娘の心配すら忘れてしまっている様だ。
そんな二人の横から、鏑木の存在に思い当たる節が有るらしい者の声が掛かる。
「天の助...、お前らまた変な事しでかしたんじゃないだろうな...。」
「人聞きの悪い事言うなよ。
『今ガチ』の打ち上げの時にちょいと相談受けただけだぜ。」
「...その相談って?」
二人へと声を掛けてきた者_天の助や彼と共にいる変人達の普段の行い故か、彼の隣に座る男性_ヘッポコ丸が鏑木の出現の裏に彼らの奇行が関与しているのではと疑いの眼差しを向ける。
B小町のデビューの場である事を彼らも事前に把握していた故に、流石に彼女達の足を引っ張る様な真似はしていないだろうと思いたいが、彼の言う『相談』とやらの内容によっては、アイドルとしてのパフォーマンスとは全く別のベクトルから観客の支持を奪われてしまいかねない。
「いやさ、『東京ところてんコミュニケーション』の時みたいに、自分にも一曲作ってくれないかって言われたんだよ。
大方、目を掛けてる新人向けなんだろうと思ってたんだが、Pが自ら出てきたって事はそういう事なんじゃねえかな。」
鏑木が相談相手として匿名性を重視したのか、或いはバビロン界_異界で披露する予定である事を前提に考えていた故の、常人とは異なる感性を持つ存在を選択したのかは定かではないが、話を聞いていたアイ達も予想以上に彼が入念な準備をした上でこの場に臨んでいる可能性に警戒心を強める。
「どの様な裏があるにせよ、鏑木さんが自ら望んだ一曲ともなると相応のものが出てきそうですね...。」
「ああ、Pも自分から作詞にも関わりたいって言ってた位だから、相当気合い入れてた筈だぜ。
曲名は確か『カブRAGI2000 %』って言ってたな...。」
「⁉︎」
「悪いが早速仕掛けさせて貰うぜ...。
食らえぇぇ‼︎ 『プロデューサーミサイル』‼︎‼︎」
「キャアアァァァァ⁉︎
Pをぶん投げたーー‼︎⁉︎」
先手必勝_戦いにおける定石とばかりに主導権を握らんとする獄殺三兄弟の次男_メガファン。
実力者揃いではあるものの、コミュニケーション能力に難のある者が多い『ヘル・キラーズ』と呼ばれるハレクラニ達直属の部下達であるが、それらを実質的に切り盛りしているのが彼であった。
単純な戦闘力だけなら長兄の覇王、同じヘル・キラーズの鮮血のガルベルやT-500の後塵を拝しているものの、部下の配置や効率的に作業を進める冷静さを持つ彼をハレクラニも高く評価していた。
事実、かつてのボーボボ達との戦いにおいても、接敵後すぐにビュティとスズを拘束、人質とする事でボーボボの先手を封じる等『利用出来るものは何でも利用する』シビアな思考を備えていると言っていいだろう。
そんな彼がまず利用したのが、自分達の後ろでニヒルな笑みを見せている鏑木と相対するB小町の面々の関係性であった。
番組プロデューサーとアーティストという関係上、起用する側とされる側という構図が発生するのが必然である。
そうなれば、特に今後使われる可能性を考慮せねばならないB小町は、どうしてもその存在に気後れしてしまうだろう。
そんな彼を武器として投擲、彼女達に損害を与える事が出来ればそれで良し、対応に苦慮するであろう彼女達が回避に徹したとしても、間違いなく流れを自分達へと引き寄せる事が出来るとの考えからであった。
「くっ...、背に腹は変えられないわね...!
ならばこっちも、『ダンディ・ブーメラン』‼︎」
「こっちも仲間ぶん投げちゃったー‼︎」
芸歴の長さが関係しているのかは定かではないが、対するB小町の中でもかなの反応は一際早かった。
現実として鏑木が質量兵器となって自分達に迫ってきている以上、避けるなり受け止めるなり何かしらの対応は必須となる。
しかし、ここで彼女は敢えて『回避』という選択をしなかった。
それは、会場に設置された巨大なモニターに映った自分達の顔写真の横に表示された『支持率』のグラフに変化が起きていた事を目ざとく察知していた故である。
グラフが変動しているのは、自分達に迫ってきている鏑木と彼を投擲したメガファン_つまり、先のアクションによって観客が盛り上がり、支持を得たと考えるべきだろう。
その考えを基にすれば、逃げの一手が下策となるとの判断にも理解が及ぶ。
果たして、投擲されたにも関わらず変わらぬ笑みを浮かべる鏑木と、回転する地雷ダンディの距離がどんどん近付いていくが。
「冷笑系、冷笑系、地雷式。
冷笑系、冷笑系、地雷式。」
『ブーーーーー‼︎‼︎』
「ぎゃああぁぁぁぁ‼︎‼︎」
「ブッハッハッハッハ‼︎‼︎
見てよメムちょ、ホントに薙刀降ってきたよ‼︎」
「しかも師匠には一切効いてないの、マジウケる‼︎
だっはっはっはっは‼︎」
「どんだけ笑ってんのよ⁉︎
アンタらPに絞められるわよ⁉︎」
かつての清涼飲料水のCMの様なリズムに乗り、回転する地雷ダンディの上で謎の踊りを披露する鏑木。
しかしながら観客の受けは芳しくなく、ブーイングと共にSDTMから薙刀が二人へと降り注ぐ。
鋼鉄製の身体を持つ地雷ダンディは兎も角、ただの人間である鏑木にとっては一本でもまともに当たれば洒落にならない事態となる為か、平時の冷静さをかなぐり捨てて地雷ダンディを盾に脅威を避け続けていた。
そんな彼の姿が何故かツボにハマった様子で大笑いするルビーとメム。
そもそも薙刀が降ってくるのはステージのギミックであって、彼女達も決して他人事ではないのだが、余程あの鏑木が焦燥する様が珍しく映ったのだろう。
今後の事を考えかなが二人を窘めるものの、どこ吹く風と言った様子だ。
「くっ...、鏑木さんをよくも...!」
「いや、アンタらがぶん投げたんじゃん⁉︎」
「こうしちゃいられねぇ‼︎
助けに行くぞ‼︎」
「ああ‼︎」
「そうはいかないよ‼︎
メムちょ、ここで一気に畳み掛けよう‼︎」
「オッケー‼︎」
「アンタらも何言ってんの⁉︎
えっ、歌わなくていいの⁉︎」
鏑木の危機に思わずと言った様子で悪態をつくメガファンだが、そもそもの原因が自分である事は完全に意識の外の様だ。
三兄弟の末弟であるビープと共に救援に駆け付けようとするが、当然変人達の相手をしてきた彼女達が、自分達が主導権を握る絶好の機会を逃す筈もなかった。
要注意人物たる鏑木、そして単純な力勝負ではとても対抗出来ないだろう獄殺三兄弟の動きを封じ込める為に、ルビーとメムもまた舞台の中央へと駆け付けていく。
果たして彼女達は、自分達が何の為にここに来たのか覚えているのだろうか。
「アイドルだろうと容赦はしねぇ‼︎
このビープ様が相手だ‼︎」
「ならこっちも...、『カイ...ジョウ』‼︎‼︎
裁かれよ、笠松の御心のままに...。」
鏑木の援護を始めたメガファンに代わり、前に出るビープ。
そんな彼の額へと、謎の呪文と共にメムが指を突き立てるが。
「脅かしやがって、何もねえじゃねえか‼︎
アイドルだからって容赦しねぇつったろコラー‼︎」
素人にコケにされたと感じたのか、はたまた彼にとっては因縁深いソフトンの技を想起させる故か、怒りに身を任せたビープが目の前のメムを宣言通り痛めつけていく。
恐らく鏑木から事前に指示がなされていたのだろうか、顔面への攻撃こそ無いものの、何の能力も無い筈の女性相手には些か過剰と言える暴力と言えるが。
気は済んだか?_そんな問いが彼の背中へと投げ掛けられ、嫌な予感と共に後ろを振り返ると、何故か体育館でバスケットボールに興じる者達が存在していた。
「...何だこれは...?」
「海常高校バスケ部だよ。」
「⁉︎」
ビープの疑問に答えるのは、先程まで彼が痛めつけていた筈の存在_メムであった。
マネージャーのつもりなのだろうか、ジャージを身に付けた彼女の存在、そして当然の様に他の作品の団体を登場させる所業に戦慄を禁じ得ない。
「バ...バカな、貴様は今俺が...。」
「よく見てみなよ。
それはあなたが生み出した妄想の産物だよ。」
妄想の産物_先程の自らの怒りすら幻想に対するものだったとの彼女の言葉に、それを必死で振り払うべく自身の足元に伏せる存在に目を向けるビープだが。
「黄瀬君じゃん‼︎⁉︎
ちょっと待って、俺さっきまで黄瀬君ボコってたの⁉︎
黒子ファンの人達に殺されるんだけど‼︎⁉︎」
「あなたはキセキの世代の手の平で踊っていたに過ぎない。
裁かれよ...、愚かなる理想と共に...。」
「いや裁かれるべきなのはこの作者だろ‼︎⁉︎」
『カサマツの裁き』
「ぎゃああああ‼︎‼︎」
「灰崎と共に散れ...。」
「そしてゾーンアンドパーフェクト・コピーっス。」
「な...、なんなんだあの技は...。」
「二人共、大判焼き出来たよー。」
「...。」
「何でそんなの作ってんだ⁉︎
ってか、覇王の兄者も一緒にやってるし⁉︎」
「くっ...、メガファン君、これ以上彼女達のペースにされては面倒だ...。
ルビー君だけでも足止めしてくれるかい?」
「承知しました‼︎」
海常高校バスケ部の青春の一幕を垣間見た事によって、支持率を一気に引き上げたメムの技に驚愕を禁じ得ないメガファン。
鏑木と共に体勢を整える事にこそ成功したものの、結果的にビープが各個撃破され数的不利の状況を齎してしまった。
まずは状況を再び五分へと持ち込むべく、何故か長兄_覇王と共に菓子作りに興じているルビーへと狙いを定めた。
「『星...野と見せかけて金田一』‼︎‼︎
裁かれよ、金田一の御心のままに。」
「バ...バカな...。
貴様も奴と同じ技を...。」
しかし、ここでも先手を打ったのはルビーであった。
謎の呪文と共に、メガファン、鏑木双方の眉間へと指を突き立てる。
弟に痛打を与えた技を、他にも使える者がいる事実、そしてこれから自分達に起こるだろう現象にメガファンも戦慄するが。
「でけえ金田一さんだーーー‼︎‼︎」
「しかもこの金ちゃん、何て格好してんだ⁉︎」
そこに現れた存在に二人が困惑してしまうのも無理からぬ事だろう。
大きさだけで言えば奈良県の大仏を彷彿とさせる巨大な像が出現したのだが、その外見が問題であった。
頭部が彼らもよく知る劇団ララライ代表_金田一である事はまだ理解出来る。
技の発動時のルビーの発言しかり、鏑木だけでなくハレルヤランドで以前より公演を行っていた都合上、メガファンとも知り合いであった事を考えれば、謎の異空間に自分達を引き摺り込む為のトリガーとして利用した可能性は考えられるだろう。
しかし、その金田一像は何故かネグリジェとTバックという余りに顔面と不釣り合いな服装なのだ。
四つん這いで臀部を突き出し、妙に性的なポーズを取っているのが何とも気色悪い。
「当然だよ。
これは二人が望んだ幻想だから。」
「どっから顔出してんの⁉︎」
「しかも、この変な金ちゃん増えたぞ⁉︎」
混乱の只中にいる二人にルビーの声が掛かる。
声のする方へと目を向ければ、巨大な金田一像の臀部から顔を覗かせるルビーの姿。
そんな彼女に気を取られていると、いつの間に増えたのか人間大の金田一像がよさこい踊りと共に増殖し、二人を取り囲んでしまった。
「あなた達は変な奴のお尻で踊っていたに過ぎない...。」
「いや、踊ってるのはコイツらだろ‼︎」
『変な奴の裁き』
「ぎゃああああ‼︎‼︎」
「大判焼きと共に散れ...。」
「そしてネグリジェアンドTバック。」
「...やってくれたね...。
よくも僕をここまでコケにしてくれたものだよ...。
潰してやる...。」
「ぬう、あの者の気迫、侮れんぞ...!」
「鏑木さんのあんな表情、初めて見たかも...。」
「ちょっ、それってヤバくない⁉︎」
「アンタらの自業自得でしょ。
ちょっとは絞られなさい。」
支持率に大差を付けたにも関わらず、B小町の面々はその状況を素直に喜べないでいる。
鏑木が放つ怒気と気迫は地雷ダンディですら警戒する程であり、未だ大きな動きを見せない覇王と共に一気に形勢をひっくり返される恐れがあるだろう。
尤も、相手が鏑木である事実は対峙した時点で明確であったのだから、反撃するにしても獄殺三兄弟のみに集中する等の対策は可能であり、反応にも今更感が拭えないのが実情であるが。
「潰してやるぞ、有馬かな。」
「⁉︎ 何で⁉︎
何で私なの⁉︎
私何もしてなくない⁉︎」
「かなちゃん、子役時代からその性格なんでしょー?」
「色んな迷惑掛けてたのが積み重なってんじゃないのー?」
「くっ...コイツら他人事だと思って...。」
唐突に自分へと向けられた矛先に困惑するかなだが、続けて繰り出された仲間からの指摘に否定の材料を持たない。
未だ付き合いの短いメムにすら察せられる性格に加え、なまじ活動期間が長い故にどこで誰から不況を買っているか等把握のしようも無いのだ。
まして相手はあの鏑木であり、多少の不満を持ったとしても中々それを表出しない相手である。
取り急ぎ、相手へのフォローが求められる事を瞬時に理解したかなが行動を開始した。
「マスター‼︎
あの人達にカクテル一杯ずつ...、私からの奢りで!」
「OK。」
いつの間にかバーテンダーに扮したメムに注文を入れ、行方を注意深く見守るかな。
バーの落ち着いた雰囲気と一杯の酒によって、先程迄の流れで荒んだ心を鎮める効果を期待しているのだ。
品を準備したメムが同じくバーテンダーの格好となったルビー、蝶ネクタイを着けた地雷ダンディと共に鏑木達へと近付いていく。
「かなちゃんからの宣戦布告じゃーー‼︎‼︎」
(何やってんのさーー‼︎⁉︎)
「ほらほら、元天才子役様の酒が飲めないのかなー?」
「辞めなさいよ、コラー‼︎‼︎
ホンットにすいません、ウチのバカ共が‼︎
ごめんなさい本当‼︎」
鏑木の顔面へとカクテルをぶっかけたメムを皮切りに、ルビーと地雷ダンディもまた獄殺三兄弟の頭上へとカクテルをかけていった。
その暴挙に泣きそうになるのを必死に堪えつつ、懐に忍ばせていたぬのハンカチで四人を拭いていくかな。
幸か不幸か会場の盛り上がりと共にB小町全体の支持率は上昇している様だが、こんな異界の行事の支持率の為に今後の数多の仕事を無くしてしまってはとても吊り合いが取れていない。
「かなちゃん...、君の気持ちはよく分かったよ。
三人共、あの技をお願い出来るかな...?」
「承知しました。
行くぜ小娘、兄弟奥義『マシンガンに頼ります』‼︎」
「あだだだだだだ‼︎」
「先輩、大丈夫⁉︎」
「くっ、一体何があの人達をあそこまで...。」
「アンタらのせいだよ‼︎」
「仕方あるまい、我が鋼鉄の身を盾としよう‼︎
円盤真拳奥義『地雷傘』‼︎」
「ダンディ‼︎ 私達の為に...‼︎」
「いや、面積足りてないんだけど⁉︎」
静かに怒りを漲らせた鏑木の指示によって繰り出された兄弟奥義により、BB弾の嵐がかなに直撃する。
流石にバビロン界の指示で実銃は持ち込めなかったのだが、十分な効果を発揮している様だ。
見かねた地雷ダンディの我が身を盾とする奥義も、悲しいかな女性三人分を賄える面積には到底届かずである。
「ああもう、こっちにも何か武器は無いの⁉︎」
「ボンタンが有るよ。」
「武器じゃねーし‼︎‼︎」
「そういえば配信中にリスナーから聞いた事が有るんだけど、固いボンタンは鉄砲に勝る武器になるって言われてるんだって...。」
「言われてないわよ‼︎」
「敢えて柔らかいのだけ持ってきました。」
「何で‼︎⁉︎」
「やる価値アリだね。」
「うおおおおおおお‼︎
ボンタンボンタンボンタンボンタンボンタンボンタン‼︎‼︎」
「ぐおおおおおおお、相変わらずボンタン強えーー‼︎」
『そこまでや‼︎‼︎』
B小町の思わぬ反撃によって鏑木達が怯んだその時であった。
巨大なスピーカーを通し、会場内にアイスンの制止の声が響く。
強い言葉にB小町側も動きを止め、ステージ上の全員が彼女の声に耳を傾ける。
『両チーム共、よう頑張った。
せやけど、ここで決着や...。』
先の制止の時とは異なる静かな口調で語られた言葉の意味を理解し、ステージ上の面々が電光掲示板へと目を向ける。
「勝った...? 私達、勝った...?」
「は...ははは、勝った!
私達勝った、ライブ出来るよ‼︎」
メムとルビーの歓喜の声により、かなと地雷ダンディも自分達の勝利を、鏑木達は敗北した事実を認識し始める。
「三人共、下がろう。」
「えっ、ちょっと鏑木さん⁉︎」
「...これ、ハレルヤランドで売ってる『ファンシーちゃんチョコ』...。
よければ食べて欲しい...。」
「あっ、ちょっと二人共待って⁉︎
置いてかれちゃいますよ、兄者!」
観客から讃えられる対象が自分達ではない_それを理解した鏑木の行動は早かった。
敗者は潔く引き下がるのみ、敗北の経験を噛み締め次への糧とするべきだ。
敗因が何であれ、自分達よりも彼女達を高く評価したのが他ならぬオーディエンスなのだから、例え納得出来ずとも受け入れざるを得ない。
「鏑木さん...、その、すいません...。
俺達の力不足で...。」
「そう気に病まないでくれよ...。
君達は十二分に力を尽くしてくれた,..。
それに、彼女達が『B小町』を継ぐに足る力を見せてくれたのも事実だ。」
自分達を下した相手の力を認め、部下を労う。
忸怩たる思いが渦巻いている中で尚、それを隠し『人の上に立つ立場』としての姿勢を徹底する鏑木に感嘆するメガファン。
今回の一件、己の主が自分達を彼の下に付けた意図を察し、改めて彼ら二人が自分には遠く及ばぬ高い次元で戦い続けている存在なのだと感じた故に。
先の戦いに勝てたなら、鏑木という一流の交渉術を持つ人間とバビロン界との交渉に立ち会う事が出来ただろう。
更に言えば、二人はきちんと『負ける可能性』を考慮していたと言っていい。
あくまで今回の出向も、代表たる鏑木を補佐する役割として同行している故に、失敗してしまったとしても自分達への責任の追求は皆無となるだろう。
ヘル・キラーズの実質的なトップ_その程度の視野で収まって満足なのかと彼らは自分達に問い掛けていたのだ。
(もっと広い視点でものを見なきゃいけねぇ...。)
真にハレクラニを補佐する為に_メガファンの表情はバビロン界を訪れる前よりも精悍なものとなっていた。
「えっ、兄者あの子らのグッズなんていつの間に...。」
「大判焼き作ってる時にあのルビーって子に貰った。」
「へー...。
ってかさ、結局俺らって今日何を競ってたんだろうな!」
「さぁ?」
背後から聞こえてくる兄弟の声に、メガファンの表情がより一層厳しくなったのは、彼自身にしか分からない秘密である。
鏑木達が姿を消せば、当然舞台上に残るのは彼女達のみとなる。
それは必然、これまで分散していた観客の視線と期待が集中する事に他ならない。
何が要因となったのかは判然としないが、少なくともこれだけは間違いないとルビーは心中で断言出来た。
(コネなんかじゃない...、この景色は私達が自分の手で勝ち取ったんだ‼︎)
自分達が世間的に知られる『JIF』へと出場すると勘違いした時、随一の芸歴を誇るかなは『コネ』と言って憚らなかった。
徹底的な自己プロデュースによってここまでのし上がってきたメムもまた、『これを利用しない手はない』と語った。
客観的に見て、自分達は何らかの外的要因が働かなければ舞台には立てない存在であると言わざるを得ないのだろう。
しかし、今この瞬間自分の瞳に映る光景はそんなケチをつけられるものではない。
努力と機転と情熱でもって、強大なライバルから勝ち取った権利なのだから。
「皆さーん、改めまして私達は新人アイドル『B小町』でーす‼︎」
事前の打ち合わせ通り、パフォーマンス前の挨拶をメムが切り出す。
数刻前迄のてんやわんやから何とも見事に切り替えが出来るものだと感心してしまう。
『その場にいられるだけでいい』なんて言っていた割には、早く歌いたそうにしているのは気のせいではあるまい。
「ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、同じ事務所の大先輩である『B小町』さんの名を襲名させていただきました。
先輩方の築いた名に恥じぬよう、精一杯やらせていただきます‼︎」
続いてかなが、堂々とした口調で挨拶を行う。
元来役者志望であった彼女にとって、歌手活動は決して良い思い出ばかりではないと以前語っていたが、やはりこうした場でこれだけ冷静でいられるのは流石と言わざるを得ない。
初対面時にはまさか彼女と共にアイドルとして舞台に立つとは思わなかったが、人間どこでどんな縁が結ばれるか分からないものだ。
ふと彼女の視線の先に目を向ければ、成程あのアフロは目印としてさぞ分かりやすいだろう。
『実年齢』で言えばうんと年下の小娘のニヤケ顔を、後で揶揄ってやるのもいいかもしれない。
かなが挨拶を終えた。
それは即ち、自分に順番が回ってきた事を意味する。
それまでと同じ場所に立っていた筈なのに、全く異なる数の視線が集中する感覚に口が上手く動いてくれない。
皆これを当たり前の様にこなしているのだろうか。
すると、かなが先程見つめていた先の近くに、ある光を見つける。
ずっと憧れの存在であり、生きる希望だった『彼女』が_
その『彼女』を妊娠させた事に当初は憤慨し、それ以上に父娘としての強い絆を築いた『彼』が_
無二の友人であり、あの灰色の病院の記憶を彩ってくれた『彼女』が_
そして、今はもう叶う事はない、叶えてはいけない想いを抱いた『彼』が_
(ズルいなぁ...、皆で隠し事なんてさ。)
いつの間にあんなものを作ったのだと笑ってしまう。
『ルビー無限恒久永遠推し‼︎!』_そんな文字列が並んだ幕を何とも堂々とした表情でこちらに見せつけているのだから。
「私ね、夢を見てたんだ...。 アイドルになる夢だよ。
他のメンバーは二人、どっちも凄く可愛い子なんだぁ...。
皆の前で、ライブしてるの。
観客席には、ずっと私の味方でいてくれた人も、ずっと憧れてた人もいたかなぁ...。
いくら夢でも、おかしすぎだよねぇ...。」
一体何を言っているのだと思われているかもしれない。
舞台に立つ仲間達も、予定と違う台詞が飛び出した事に怪訝な表情を見せている。
緊張でおかしくなったと思われているだろうか。
それでも、この口は止まる事を知らない。
まるで最初からそう言うつもりだったかの様に。
「そう...、ホントなら夢で終わる筈だった...。
私も皆さんと同じ『観てる側』の人間で、この舞台の上は別の次元に有るんじゃないかって思ってた...。
...でも、そうじゃない...。
ここにいる私も、隣にいる仲間も、皆さんから感じる熱気も‼︎
全部全部現実のもの‼︎
だから皆さんも、ここから一緒に着いてきて下さい‼︎
ここが私達新生B小町のスタートラインです‼︎」
彼女の言葉が切れたと同時、曲のイントロが流れ始める。
『元祖』の最後にして、『新生』の最初の曲が。
最後の方が良い話っぽく終わったのでヨシ‼︎
最近、拙作の結末の方の展開ばっかり思い浮かんで、今書いてる部分が疎かになりがちで反省です。