推しのボ   作:モドラナイッチ

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 本話より2.5次元舞台編となりますが、劇中劇である『東京ブレイド』内にて、展開の都合上オリジナルの役を追加させていただきました。
 この点をご了承の上、お読みいただけますと幸いです。


第六章:2.5次元舞台
奥義:73顔合わせ


「それじゃあ、まずは乾杯といこ...痛たたた...。」

 

「ははは、鏑木ちゃんも今回ばかりは辛そうなのら!」

 

「中の仕事ばかりで体が鈍ってるんじゃないのかい?

 何をしてそうなったのか、深くは聞かないけどさ。」

 

 堅苦しい話が始まる前に_そんな気持ちから酒の注がれた杯を掲げ、すぐさま自身の体を襲った痛みに顔を歪める男性_鏑木。

 先晩バビロン界で繰り広げられた一騒ぎの記憶が嫌でも蘇る。

 結果的にB小町に遅れを取る事になってしまったが、鏑木自身が参加した影響か、はたまた行事の盛り上げに貢献したと認められた故かは定かではないが、『今ガチ』の件に関してはバビロン界側からのハレクラニに対する誤解は解けたとの一報は収穫と言えよう。

 その場にいなかった故に致し方ないが、あの苦労を知らずに他人事の様に笑う二人に対し、彼の視線が若干鋭いものとなってしまうのも無理からぬ事か。

 

「...薙刀が降ってくる様な事態を想定出来る方法が有るなら、是非ご教授願いたいけどね。」

 

(な...、薙刀? バビロン界ってそんな物騒なのら...?)

 

「ははは、鏑木ちゃんそれを言うなら『槍が降っても』でしょ!

 まあでも、肉体労働をしてまでって事は相当気難しいクライアントだったのかな?」

 

 鏑木がバビロン界を訪れたという情報のみを把握していた彼の盟友_田楽マンが彼の発言に表情を固くするも、普通の感覚であればもう一人の男性の様に慣用句の間違いだと考えるだろう。

 

「...まぁ、それなりにと言っておこうか。

 それより、僕らにお呼びが掛かったという事は、いよいよなんだろう...?」

 

 改めて杯を掲げる鏑木の表情が『いつものもの』へと戻る。

 即ち、自分や田楽マンが心待ちにしていたとある企画が発足する時が来たのだと確信した表情だ。

 それと同時、彼らのいる客室の襖が開かれ扉の方へと中にいる者達の視線が集中する。

 

「何だ、先に始めるって言うから急いで来たのにこれからだったのか...。

 気を遣わせちまったか?」

 

「全然。

 寧ろいいタイミングで来てくれたのら。

 どうせなら全員揃った状態で話した方がいいのら。」

 

 その男性_金田一に対し、田楽マンが歓迎の言葉と共に自身と対面する席を促す。

 丁度鏑木から話を促された男性の隣に座る形となったが、確かにこれから彼が話そうとする内容と金田一や劇団ララライが密接に関わっている故だった。

 酒を注文した金田一が席に着き、三人の視線が男性へと集中した事で、男性もまた鞄から書類を取り出しつつ口を開く。

 

「そんじゃ...、遂に決まりました!

 泣く子も黙る人気漫画『東京ブレイド』の舞台化企画‼︎」

 

 そう語る男性_雷田澄彰は何とも無邪気な笑顔を見せる。

 屋内であるにも関わらず着用したままのサングラスや、髪の分け目を境に綺麗に染められた黒と白の髪からは、ともすると軽薄な印象を見る者に与えるが、その手腕は正しくこの部屋にいる三人に認められるものであった。

 若干35歳にしてイベント運営会社『マジックフロー』の代表を務め、彼自身の趣味嗜好が影響しているのか、漫画やアニメ関連のイベントやメディアミックス企画を手広く手掛けている。

 そんな彼にとっての肝入りと言える企画こそ、人気漫画『東京ブレイド』の舞台化であった。

 

「予算もガッツリ取ってきたし、今回は派手にいくよー!

 ステージはプロジェクションマッピングを使用して原作の雰囲気を再現!

 裏方も良いとこ押さえておいた!」

 

「で、ララライの方も本格参戦って認識でいいんだね?」

 

「ああ、ウチの若いのにも2.5次元を経験させる良い機会だ。

 それに、お前のとこの2.5俳優から学べる事も多いだろうしな。」

 

「僕の方もバッチリなのら!

 伊達に『犬(笑)』って言われてないのら! 言われてないのら...。」

 

 雷田の言葉を皮切りに、それぞれの得意分野からの人員の選別が滞りなく進んでいる事を各々が確認し合う。

 雷田の『派手に』との言葉通り、予想される規模に比例して必要な人員も通常の舞台と比較しても些か多くなっており、キャスティングの為に所謂『鏑木組』、劇団ララライ、そしてそれらでは賄えない範囲を田楽マンがカバーした形だ。

 最近、業界内の一部で『鏑木の犬(笑)』と揶揄されている事に田楽マンが渇いた笑いを浮かべているが、間違いなく彼の人脈もキャスティングにおける一助となっているだけに、そんな彼に労いとばかりに鏑木がジャーキーを差し出す。

 

 『東京ブレイド』_漫画家鮫島アビ子によって連載されており、漫画の単行本売上は累計5000万部を突破、アニメ化並びにアニメの映画化も大成功と、『国民的漫画作品』と呼んで差し支えない作品である。

 

「しかし、よく原作者の承諾を得られたもんだな...。

 アニメ化以上に拗れそうなもんだが、売れっ子だけに懐も深いのか...?」

 

「いんや、寧ろ逆。

 拘りが滅茶苦茶強いし、正直GOA君も相当苦労してるよ...。」

 

 そして作品の人気があるという事は、当然ながら完成度の高い作品という事でもあり、往々にしてそういった作品のクリエイターは強い拘りを持っているものだ。

 絵柄の雰囲気を近いものに出来るアニメ化ならいざ知らず、二次元と三次元の垣根を越え、絵ではなく実在の人間が動く事になる舞台化ともなれば、原作者が難色を示す事も考えられる。

 或いは人気作を生み出した故の余裕かと考えての金田一の発言であったが、その発言に残念そうに雷田が首を横に振った。

 案の定と言うべきか、作者たる鮫島と、この舞台の脚本を務めるGOAとの関係は緊張している。

 

「勿論、そんなのは別段珍しい事じゃない...。

 鮫島先生には『一度動いている所を見て貰えれば』とご理解をいただいているし、今回はちょっとした裏技を使わせて貰ったんだ。」

 

「裏技...?」

 

 脚本に不満を抱いているのだろう鮫島に『ご理解をいただいた』との言葉は何処となく含みを感じさせるが、雷田の言う『裏技』とやらには向かいの席から反応した鏑木とその隣に座る田楽マンも興味を抱く。

 一人杯に口を付ける金田一は特段の反応を見せないが、或いは何か事情を把握しているのだろうか。

 

「実は鮫島先生は、『今日あま』の吉祥寺先生のアシスタントだったらしくてね。

 あちらは...まあ良くも悪くもメディアミックスの経験が有るから、鮫島先生にちょいと口添えして貰ったのさ。」

 

「へぇ...、雷田君にそんなコネが有ったとは驚きだね...。」

 

「いや...、お前さんにとっても他人事じゃないぞ...。

 結果的にだが、あのドラマで高峯を使ったのが良い方向に働いた。」

 

 雷田の言う『裏技』の内容に、思わぬ名前が出てきた事を驚く鏑木だが、直後の金田一の言葉により合点がいった様な仕草を見せた。

 

「ああ、成程...。

 そう言えば、確か高峯君はGOA君から見れば姉弟子に当たるんだっけか。

 いやはや、世の中何がどう繋がるか分からないもんだ...。」

 

 鏑木が語った通り、高峯は劇団ララライでの演出の勉強と並行し、とある人物に対して脚本の弟子入りをしていたのだ。

 彼女の知り合いであるアフロの男性から紹介されたその人物は、成程金田一は勿論の事、鏑木等芸能界に幅広く人脈を持つ者ですら辿り着かぬ独自のネットワークによって繋がりを得たのだ。

 未だB小町としての活動も続けており、二足の草鞋となっていた彼女にとって、自身を快く受け入れてくれたその人物の存在は得難いものであったと言えよう。

 その人物と高峯との活動拠点が当時の若かりしGOAの地元であった故か、噂を聞き付けた彼がほぼ押しかけ同然で弟子入りしたという流れである。

 

「ただ...、当時はアイドルとの掛け持ちだったのはあるにせよ、高峯君から見れば後輩に先を越された格好だ...。

 よく吉祥寺先生に繋げてくれたね...。」

 

「アイツは作品に真摯な人間だ。

 作品をより良くする為なら、自分を二の次に出来る強さを持ってる...。

 真面目過ぎて作品への思い入れが強くなり過ぎるのは似た者同士だがな。」

 

 とは言え、脚本家としての両者の立場は大きく水を開けてしまっているのが実情である。

 鏑木が語った通り、アイドル活動を続けていた高峯と最初から今の道を志してきたGOAとでは、努力に充てられる時間の絶対数に差が有ったのは紛れもない事実だ。

 今や売れっ子脚本家として活動を続けるGOAに対し、出遅れてしまった高峯が嫉妬の感情を抱いたとしても不思議ではないが、そんな低俗な発想を彼女の成長を見守ってきた金田一が否定する。

 成程、振り返ってみればB小町においても彼女個人がグループ間で最も人気を得た期間は非常に少ない。

 ファン数の平均の高さを考慮しても、順位的には久常ら追加メンバーの後塵を拝するケースも少なくなかったのだ。

 それでも彼女は決して不満を漏らさず、グループ全体の人気をリーダーとして優先し続けてきたのである。

 

「そうなると、その二人にとっての『先生』がどんな人なのか気になるのら!

 きっとその人も職人気質な人なのら!」

 

「...一応、俺もペンネームは教わったんだが未だに会った事は無くてな...。

 確か『ハンペン』って言ってたんだが、お前ら聞いた事あるか?」

 

「...えっ?」

 

「...いや、無いね...。

 十中八九インディーズの頃の名前なんだろうけど...。」

 

「...前にGOA君に名前の由来を聞いた時、『顎』って言ってたんだけど合点が入ったよ。

 ハンペンの材料、つまり鮫の顎から取ったって事か...。」

 

「...ち、因みに高峯ちゃんはどんな感じでその人を紹介されたのら...?」

 

 そうなると気になってくるのが、GOAや高峯を指導したという件の人物の素性だろう。

 弟子は師の背中を見て育つものであり、大なり小なり考え方や価値観が似通ったものとなる事を考えれば、自ずと二人を育てたというその人物の人柄も見えてくる。

 問題は、鏑木や雷田は勿論の事、比較的高峯との交流期間の長い金田一ですら対面の経験が無い事である。

 辛うじてペンネームなのだろう情報と、GOAの名前の由来に繋がりは出来たものの、肝心の本人の情報については変わらず闇の中だ。

 すると、この中で唯一その名に何か引っ掛かった様子の田楽マンが、そもそもの高峯と件の人物との接点の切っ掛けについて尋ねる。

 他の面々には、何故そんな事が気になるのか理解が及ばない様子だが、他に糸口が見つからない故か金田一が高峯から聞かされた情報を語り始めた。

 

「高峯が言うには、だが...。

 知り合いに相談したら、『脚本家って事はペンを握るんだから、名前にペンが付いてる奴に教わるのが一番だ』って事で紹介されたらしい。」

 

「何言ってんの⁉︎」

 

「それは凄いな...。

 そんな発想、今迄聞いた事も無いよ...。」

 

「当たり前なのら‼︎」

 

「『馬鹿と天才はなんとやら』とはよく言ったものだが...。

 そういう話を聞くと、自分がどれだけ型にはまった考えしか出来ていないかを実感させられるね...。」

 

「いや、何で皆こんな真面目に反応してんの⁉︎」

 

 金田一の語った経緯、そしてその意味不明な内容に対し至極真面目に考察を続ける三人にツッコまざるを得ない田楽マン。

 とは言え、現時点で既に一定の地位を確立しているGOA、そして脚本家デビュー作としては些か難題を振られた感が有りつつも原作者と上手く連携しドラマとして成立させてみせた高峯と、両者共にその才を発揮している事実を否定も出来ないのだろう。

 その『ハンペン』なる人物が自身の知る者と同一人物でない事を確認したい故か、それらしき執筆活動を行っている人物の心当たりが無いか尋ねるが。

 

「...ヒントになるかは分からんが、『脚本なんて書いた事無いしやり方も知らん』って言われたらしいぞ。」

 

「いやそれ、ヒントじゃなくて答えだろ⁉︎」

 

「師事している期間、その先生はGOA君達に自身の書いた本を絶対に見せようとしなかったそうでね...。

 『お主らに教えられる事等何一つ無い』が口癖だったそうだ。

 一生精進の身である事を体現してたんだと思う...。」

 

「そんな大それた意味じゃないのら‼︎

 ただ本当の事言ってるだけなのら‼︎」

 

「教えを授けるだけでなく、時には弟子から学び成長し続ける_か...。

 その流派の真髄と言うべきものが、高峯君やGOA君の中に脈々と受け継がれていってるんだね...。」

 

「流派も何も、それ実質二人共独学だろ⁉︎

 いや確かにそれはそれで凄いけども‼︎」

 

 夜が更けていく中、男達の笑い声と犬の鳴き声が木霊する。

 大掛かりな仕事となれば、当然トラブルも付いて回るだろう。

 だから今だけは、先の事を忘れ酒に酔うのだ。

 

 

 

 舞台『東京ブレイド』、スタッフ顔合わせ当日。

 集合場所として指定されているスタジオに向かう二人が会話を交わしている。

 

「『劇団ララライ』って硬派なイメージだったけれど、よくもまぁ2.5受けたわよね。」

 

「半分は俺達の様に外部から集めたキャストってのもあるだろうが...。

 ハレクラニさんの意向も無視は出来ないんだろう...。

 まぁ、そう緊張しなくていいと思うぞ。」

 

「緊張なんてしてな...。」

 

 自身の前を歩きつつ、劇団ララライが従来のイメージとは異なる2.5次元舞台への参加を決めた事を感慨深げに話す少女_有馬かなに対し、全キャスト陣の構成や劇団と懇意にしている『スポンサー』の存在が影響しているとの考察を語る少年_星野アクア。

 二人はそれぞれ、主人公勢力『新宿クラスタ』に所属する『つるぎ』役、敵対勢力『渋谷クラスタ』に所属する『刀鬼』役としてこの舞台に参加するのだ。

 いくら顔合わせ当日と言えど、百戦錬磨の彼女に対しての軽口のつもりでの発言だったのだが、それに対する返答と共に彼女の歩みが止まってしまった。

 丁度曲がり角であった故に、自身には見えない範囲を視野に入れた途端の出来事である為か、壁の向こう側にどんな光景が広がっているのかが気になるところだが。

 

「やばいよボボ子‼︎

 この子死んじゃったんじゃないの‼︎⁉︎」

 

「落ち着きなパチ美。」

 

「何してんのこの人達⁉︎」

 

 視線を向けた先では、倒れ伏す少年の側で焦った様子を見せる額に「スケ」の文字が刻まれた首領パッチ、同じく「スケ」の文字を額に刻み所謂かつてのスケ番の様な格好のボーボボが、例によって例の如く奇行を繰り広げていた。

 よく目を凝らせば、彼らの間で倒れている少年は二人が「今日あま」で共演した鳴嶋メルトの様だが。

 

「この事は二人だけの秘密だよ。

 バラしたらアンタもタダじゃおかないからね。」

 

「やばいよ‼︎

 警察に自首しようよ‼︎」

 

「アタイに意見するんじゃないわよ。」

 

(格好は兎も角、展開はシリアス系...なのか?)

 

 両者の台詞から、サスペンス系統の寸劇なのかと連想していくアクア。

 不可解な事象を無理にでも理解しようと努めるのは彼の美徳でもあるが、前世の頃よりこっち彼らの言動を解析しようとしても無駄に疲労するだけだといつになったら気付くのだろうか。

 するとここで、状況を更にカオスなものとする第三の刺客が登場する。

 

「関東スケ番連合の頂点に立つスケ番グループ『昇天天使(エクスタシー)』のヘッド_ボボ子。

 そんなボボ子のやり方についていけなくなっている自分に苛立ちを覚えるパチ美であった...。」

 

(上原君まで何してんの⁉︎)

 

 そこにナレーターとして現れた人物こそ、アクア達にとっても既知の間柄であり共にサイバー都市を訪れた上原大輝その人であった。

 年齢を重ねると共にその才を発揮し始めた彼は、今や帝国演劇賞最優秀男優賞等数々の賞を受賞する程に成長を遂げているのだ。

 端的に言えば、本来こんな変人達の奇行に混ざっていていい存在ではないのである。

 しかしながら、そんなアクア達の気持ちを他所に彼らの寸劇は場面転換を迎え、パチ美とやらが自室にいる所から始まる様だ。

 

「はー...、まずい事になったわ。

 あの子の霊とか出ないかしら...、心配だわ...。

 ...あら、ボボ子からだわ。

 集会の誘いかしら? もしもし。」

 

『パチ美助けて‼︎‼︎

 助け...ぎゃああああああ_。」

 

「ボボ子‼︎⁉︎

 どうしたのボボ子‼︎⁉︎」

 

 パチ美のスマートフォンが示すボボ子からの着信。

 その内容、そして友人の悲鳴と断末魔に震えが止まらなくなる。

 彼女を襲った者の正体は?

 ボボ子は生きているのか?

 もし、自分の所にもその何某がやって来たら?

 そんな答えてくれる者等いる筈もない疑問と不安に苛まれるパチ美の部屋が突如として開かれる。

 

「誰‼︎⁉︎」

 

「ト・コ・ロ・テ・ン。

 ト・コ・ロ・テ・ン。」

 

「きゃああああ、頭光ってるーー‼︎‼︎」

 

(また変なのが増えたーー‼︎‼︎)

 

 怯えるパチ美の下に襲来したのは、何故かロボットに扮したところ天の助であった。

 展開を考えるに、このロボットがボボ子を襲ったのだろうか。

 するとここで物語は急展開を迎え、何故かロボットの様な体へと変貌したボボ子がパチ美を助けんと駆け付けると、『エナジーバスター』なる武装によって天の助を破壊してしまった。

 

「大丈夫、パチ美?」

 

「ボボ子‼︎⁉︎

 アナタ、ロボットだったの‼︎⁉︎」

 

「説明は後よ。

 ギャラット軍が攻めてくるわ。」

 

「こうして最初の危機は去った...。

 だかしかし、この後強大な宇宙戦争に巻き込まれていく事をパチ美はまだ知らない。」

 

「次回、エナジーバスター第二話『星の声』。

 キミは宇宙を体験する。」

 

「絶対見ろよな‼︎‼︎」

 

「まだ続ける気なの⁉︎

 こんなのに尺取り過ぎだろ‼︎‼︎」

 

 

 

「『キザミ』役を務めさせていただきます。

 ソニックステージ所属、鳴嶋メルトです。

 よろしくお願いします。」

 

 自身の横で丁寧に頭を下げ、周囲の共演者やスタッフに挨拶を行う鳴嶋メルトの姿に、『今日あま』での一件が荒療治とはいえ良い方向に転がった事を内心で喜ぶかな。

 当時の彼の態度たるや、掛ける言葉も見つからない状態だったが、あれから一年も経っていない現状でその演技力が如何程のものかは兎も角、少なくとも仕事に対する姿勢を改善しようと思える様にはなったのだろう。

 そんな後輩に続いて、彼女達も挨拶を始める。

 

「『つるぎ』役を務めさせていただきます。

 苺プロ所属、有馬かなです。」

 

「同じく苺プロ所属、星野アクア。

 『刀鬼』役を務めさせていただきます。」

 

「おっ、じゃあ次は僕の番だね。

 マジックフロー代表の雷田です。

 一応、この公演の総合責任者って事になるからよろしく。

 で、こっちが演出家の金ちゃんね。」

 

「金田一敏郎だ。

 見知った顔も多いが、よろしく頼む。」

 

 二人がメルトに続いた事で、彼らの隣に陣取っていた雷田がこれ幸いにと各面々の紹介を始めていく。

 最初に紹介された金田一はキャスト陣を見渡し、一部の面々のキャスティングに思うところが有る様子だが。

 

「今回、金ちゃんのアシスタントをしてくれる高峯さん。」

 

「若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします。」

 

「脚本家で、顎で使われてるGOAさん。」

 

「何その紹介⁉︎」

 

「2.5と女性経験豊富な鴨志田朔夜くん。」

 

「よろ...、今なんか変な情報入ってませんでした?」

 

 そのままの流れで雷田が三人の人物を紹介していく。

 期せずしてアクア達三人と再び同じ作品に参加する事となった高峯は、今回演出家となる金田一や脚本家のGOA等とキャスト陣との間に立つ事を期待されている。

 どうしても厳格な立場を保たざるを得ない金田一に代わり、キャストが抱える脚本や演出への悩みや疑問を吸い出す事を求められての参加だ。

 或いは同門のGOAに対する配慮も含まれているだろうか。

 その二人に次いで紹介されたのが、アクア達所謂『鏑木組』であり、このキャスト陣の中でも随一の2.5舞台経験を誇る鴨志田である。

 それらの作品の経験に乏しいララライの面々の刺激にもなるだろうとの期待から鏑木によって紹介された人材だが、心なしか女性キャストから距離を置かれてしまった様だ。

 

「こっからがララライの役者さんだね。

 まず、メガネマン。」

 

「みたのりおです。」

 

「白髪じゃなくて銀髪って言わないと怒る化野めいさん。」

 

「いや別にそんなんで怒んないですけど⁉︎」

 

「顔が半分しか映ってない吉冨こゆきさん。」

 

「どういう事⁉︎」

 

「黒子のバスケに似た様なキャラがいた気がする林原キイロ君。」

 

「とうとう関係無い作品の名前出したよ⁉︎」

 

「ゲッターに乗ってそうな人。」

 

「...船戸竜馬だから、ですか?

 あの、せめて名前位は...。」

 

「黒川あかねさん。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「何であかねだけ普通⁉︎」

 

「そして、この舞台の主演を務めるコンタクトが怖い上原大輝君。」

 

「メガネの御心のままに。」

 

 総勢七人ものキャストを一気に紹介した事もあり、一度息を整える雷田。

 彼の紹介に一部以外の者達は納得がいかない様子だが、それ以上に自分達の後に控える者達の存在感に口を噤んでしまった。

 

「んで次からがハジケ組の人達ね。」

 

「ボッ刀斎役、ボボボーボ・ボーボボだ。

 よろしくな。」

 

刀鹿(バカ)役のパチ美です‼︎」

 

天槍(テンゾウ)役のところ天の助だ。

 廊下に置いてある心太は俺からの差し入れだから、遠慮せずに食ってくれよな。」

 

「情報屋『渡り鳥』役の破天荒だ。

 おやびん共々、よろしく頼むぜ。」

 

 ハジケ組なる謎の勢力の自己紹介に押し黙る周囲の面々。

 それは彼らの異様さに慄いただけではない。

 彼らの隣、丁度最後の挨拶をする人物が、ララライの面々にとっても『鏑木組』の一部の者にとってもよく見知った顔である故に。

 決して叫んだ訳ではない、しかしよく通る声でその人物は自身の名を高らかに宣言した。

 

「『鍔鬼(つばき)』役を務めさせていただきます。

 カミキ ヒカルです。

 皆さん、よろしくお願いします。」




 実は連載当初から、アクアとヒカルが『東京ブレイド』で共演ってネタは考えてたんですが、こんなに長くかかるとは思ってもみませんでした...。

 6/6追記 雷田さんによるGOAさんの紹介シーンにて原文「脚本家で顎で使われてる_」の部分は「脚本家で」ではなく「脚本家に」では、という誤字報告をいただきました。
 ただ、あくまで「脚本家を務める人で、皆に顎で使われてるよ」というニュアンスのつもりでいた為、原文の「脚本家で」の後に読点を入れさせていただきました。
 ご報告して下さり、誠にありがとうございます。
 今後とも、誤字や読み難い点については遠慮なくご連絡いただけましたら幸いです。
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