魚雷ガールと田楽マンが苺プロを訪れた翌日、同事務所の会議室では再び新人アイドル達が集められていた。
部屋に設置されたホワイトボードにはプロジェクターによって『B小町作戦会議』の文字が投影されている。
会議には四人の他に、斉藤夫妻、更にビュティとヘッポコ丸がそれぞれパソコンの操作役と議事録担当の為参加しており、皆真剣な表情で壱護の最初の言葉を待っている。
自身の前に並ぶ四人の顔を見て、昨日の今日で再び召集を掛けた自身の決断が正しいものだったと壱護は確信する。
魚雷ガールとの対話を経て、各々感じ得るものが有ったのだろう。
今はまだ彼女からの言葉の全てを理解は出来ていないかもしれないが、全くもって上等である。
あのまま何も言われなかったとしたら、何かを感じ取る事すら無かったのだから。
そして、彼女達の中に湧き上がっているモノが有るのなら、それを汲み取ってやるのが自分達の仕事だ。
鉄は熱いうちに打て_である。
「皆、続けて集まってもらってすまないな。
今日から本格的に始動する新グループ『B小町』について会議を行う。
まずはグループの方針についてミヤコの方から説明するから、質問が有ればその都度聞いてくれ。
ビュティちゃん達も、気になった事が有れば遠慮せずにな。」
自身の言葉に頷く一同の様子を確認し、壱護がミヤコへと目線を向ける。
ここからはマネージャーである彼女の出番である。
ミヤコからビュティへと目配せが送られ、プロジェクターが次のスライドを映し出した。
「『B小町』では基本的に、曲毎にメインボーカルを定める方式を採用します。
当面、アイ以外の三人には、昨日聞かせてもらった各々が得意な曲と同じ曲調のものを担当してもらう予定よ。」
ミヤコの言葉に、彼女と壱護以外の全員が意外そうな顔をする。
所謂センター_グループの顔となるメンバーを明確にしないという事だと受け取れる発言故に。
そんな面々の意思を代表して四人の内の一人_高峯が挙手しミヤコへの問いを投げかける。
自分達が思った事は間違いないのか_と。
「あの、それってつまりセンターを置かないって事ですか?。」
「メンバー全員で歌う曲も用意する予定だから、そういった曲に関してはその限りではないけれど、ね。」
ミヤコからの返答は部分的な肯定。
その答えに元モデルの三人、高峯・渡辺・新野は彼女の言わんとする事を理解した。
各々に与えられたチャンスと、その結果によって勝ち取る立場。
つまりは自分達次第であると。
するとここで、ビュティがミヤコへと確認を行う。
残りの一人、アイはどうするのか_と。
「アイ、あなたにはデビューライブに向けて、全員で歌う曲のセンターを務められる様になって欲しいの。
あなたの担当曲は、本格的にレッスンを受けて向いている曲調が分かってから決めましょう。」
ビュティからの問いに、ミヤコはアイの置かれた現状を踏まえた現実的なプランを提示した。
彼女のこれまでの人生を考えれば致し方無いが、向いている曲調はおろか、自身の中で得意だと思える曲すら無い状態では話にならない。
ならば、付け焼き刃の担当曲を用意するより、元から全員で歌う曲の習熟を促す方が堅実である。
アイもまた、他の三人と比較した自分の立場を鑑み、騒ぎ立てる事はしない。
彼女とて必要な努力はする覚悟だが、然りとて三人とはそもそもの土台が違う事は重々承知していた。
「大丈夫だよ、アイちゃん。
私だってダンス以外は事務所でレッスン受けてからだし、一緒に頑張ろう!」
「そうそう。
私達三人も最初からアイドル志望で事務所に入った訳じゃないから。
だから気後れしなくてもオッケーだよ!。」
「まずは皆でデビューするとこまで頑張りましょ。
このやり方なら、ちゃんと全員にチャンスは回ってくるから!」
そんなアイの様子を見て、渡辺・新野・高峯の順にフォローが入る。
それは何もアイと芸能界へ入る前の自分を重ねただけではない。
渡辺個人が事務所所属前から習っていたダンスや三人のモデル業で培った姿勢の取り方こそアドバンテージと言えるが、歌唱力は所詮中学生のカラオケの域を出ないし、ダンスの振付等この場にいる誰も知らないのだ。
なればこそ、アイへと掛けた言葉は彼女達自身への戒めでもある。
彼女と自分達に思い上がれる程の差等無いのだ_と。
「仲間のフォローが即座に出来るのは良い心掛けね。
ただ、B小町のやり方も良い事ばかりじゃないの。
それこそ、見方によってはあなた達に必要以上にプレッシャーを掛けてしまう事になるのだけれど、どういう意味か分かるかしら?」
そんな三人の様子を褒めつつ、まるで辛い現実を伝える様なミヤコの言い回しに再び四人が訝しむ。
少なくとも、先の言葉を聞くに各々の担当曲という形でチャンスが巡ってくるのは間違い無い。
最初からセンターが固定され、他のメンバーにスポットライトが当たらないよりかは余程マシな様に思えるが。
すると思い当たる節が有ったのか、ビュティがおずおずと手を挙げる。
こういった現実的な視点に気付けるのは、四人と比較して数年ながらも人生経験が有る故か。
「もしかしてですけど、曲毎の人気がそのままメンバー毎の人気の指標になりやすいって事ですか?」
その言葉にミヤコが首肯で返した事で、四人もまた現状を理解する。
成程、曲毎の売上等の数字は覆しようが無い比較要素になってしまう。
それも各々の為に準備された曲であるが故に、言い訳の余地すら無くなってしまうのだ。
チャンスが与えられるという事は、それに伴う責任も増えるという事である。
そこで、打って変わって難しい顔をする四人を見かねたヘッポコ丸が、彼女達に自信を取り戻させる為に発言した。
ミヤコ達がこの案を提示したという事は、前例が有る筈だと。
「このやり方で上手くいった人達がいる訳ですよね?
順位付けにしても、極端な話全員が平均以上の売上を出せているなら、それだけレベルの高いグループって事になりますし。」
「理想を言えば、そういう事になるのだけれどね...。
丁度良いから、先に成功例の一つを見せましょうか。」
歯切れの悪い返答をしつつ、ビュティにスライドのページを指定するミヤコ。
ページにはURLが貼り付けされており、このリンクの先にある『成功例』がどういった者達なのか固唾を飲む面々。
その様子を確認し、先駆者の動画が再生される。
『愛とお肌の輝き守る!』
『ちょっとお転婆フレッシュ娘!』
『マジカルビタミン戦士』
『胃液ガールズ見参‼︎』
(凄いのが来たー⁉︎)
「そういえばこの人達、子供の頃CMでよく見た気がする...。」
「そんなに凄い人達だったんだ...。
後で曲聴いてみようかな...。」
登場した者達の余りのインパクトに三人が圧倒される中、感じた既視感の正体を探るべくアイがビュティ達へ視線を送るも、二人が目を合わせようとしない事実に諸々の事情を察する。
『胃液ガールズ』
イチゴプリンセス、レモンプリンセス、メロン子を名乗る謎の三人組によるグループである。
メンバーの強烈なビジュアルと、それに負けない中毒性のある楽曲から人気を博したものの、当人達による『熟れすぎたから種からやり直す』という謎のコメントを最後に活動を休止している。
そんな彼らの楽曲の一つ『逆流性触胴縁』のMVを鑑賞し終えた所で、ミヤコが再び話し始めた。
「このやり方が良い結果ばかりを生む訳じゃないのは何となく分かってもらえたかしら。
それこそ、さっきヘッポコ丸君が言ってくれた理想的な結果を目指すには、メンバー全員に強烈な個性が必要なのよ...。」
その言葉に同意する様に高峯が語り出す。
一見すると全員に公平に思える方法が上手くいかない事が多いのは、この点に有るのだ_と。
「なまじチャンスが与えられたから、結果が出なくても文句も言えずにグループ脱退...なんてのがざらだって事ですね...。」
「脱退で済んだら、まだマシな方ね...。
酷い所だと、他のメンバーに嫉妬してギスギスした挙句空中分解_なんて話も有るわ。
センターって言う分かりやすく贔屓されてる人間が居ない分、感情の持っていき方が分からなくなるのかもね。」
そんな高峯の考察を補足するミヤコの言葉に、四人は揃って渋い表情だ。
ミヤコの言う『プレッシャー』の意味を理解した様である。
結局の所、どの様なやり方にせよ相対評価からは逃れられないのが、人気稼業の実情なのだ。
パン、と手を叩き空気を変えるべく立ち上がったのは壱護だ。
マネージャーとして良い事も悪い事も伝えるのがミヤコの役目なら、グループとして目標への意思を統一し押し進めていくのが彼の役目である。
「厳しい事が有るのは事実だ。
どんなやり方にせよ、上手くいく奴といかない奴が出てくるのはアイドルに限った話じゃない。
それでも俺達は、皆ならやれると思って話してる。
さっき高峯も言ってたが、今はデビュー戦の事を考える段階だ。
先の事はその時になったら幾らでもフォローしてやる。」
その言葉に四人も気持ちを入れ直す。
そもそも自分達は何も成し遂げていない身だ。
先の事はその時になったら_全くもってその通りである。
『デビューライブ成功』
芸能界全体から見れば極々小さな目標に向け、『B小町』が始動した。
漸くB小町始動まで来る事が出来ました。
小説『45510』でも、結成当初のメンバーの仲は良好であったとの描写が有るので、創設メンバー各キャラの口調はその辺をイメージしております。
渡辺(めいめい)がダンスを習っていたというのは、原作のさりなちゃんのセリフから膨らませた設定です。
また、『一番星のスピカ』にて始動からたった3ヶ月の時点(恐らくもっと前から)でアイが不動のセンターとなり、他メンバーからの嫌がらせが発生していると考えると、そもそも始動時点で他のメンバーとアイに大きな差は無かったのでは_と考え本話の描写をさせていただきました。