推しのボ   作:モドラナイッチ

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 最初びっくりするかと思いますが、最初だけですのでどうか最後までお読みいただけますと幸いです。


奥義:84手掛かり

『お久しぶりです。

 あなたを一人にしてしまった事、20年も経っていきなり連絡をしてしまった事をまずは謝らせて下さい。m(_ _)m

 あなたが良い縁に恵まれた事、華やかな世界で活躍し続けてきた事、大変嬉しく思っておりました。(*´∀`*)

 あなたがアイドルになったと知った時は非常に驚きました。( ゚д゚)

 B小町の活躍を周りの人達が話題にする事が増えた時は、密かに誇らしく感じたものです。٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

 さて、今回私は長年の務めを終えた事であなたに連絡を取る事が出来ています。(`・ω・´)

 あなたから見れば何を今更となるでしょうし、面目次第もございません。(;´Д`A

 恥を忍んでこうして筆を取っているのは、偏にあなたとカミキさんにどうしても伝えなければならない事が有るからなのです。(´-ω-`)

 どの様な罵詈雑言を掛けても構いません、宮崎県高千穂_あなた達が家族となった場所で待っております。(つД`)ノ

 星野あゆみ』

 

「...何というか、凄い若いお母さんだね...。」

 

「最初は二行目の時点で破り捨ててやろうと思った。」

 

 手元の手紙を読み終えた感想を短く語った女性_ビュティに対し、手紙の差出人に対して気を遣う必要はないとばかりに冷たく語る女性_星野アイ。

 彼女達を含めた苺プロ一行は現在、空路にて手紙の中にあった宮崎県へと向かっている最中である。

 主たる目的は、アイの娘_ルビーが所属するB小町のPV撮影、並びに苺プロ所属タレントや関係者が出演した舞台『東京ブレイド』の慰安となっている。

 この為、一見すると苺プロの斉藤社長夫妻の厚意以外に、彼女達がこの宮崎行きに参加する理由は無い様に思えるが、それを覆すだけの要因たり得たのが先程ビュティが読んでいた手紙なのだ。

 

 アイとルビー、そして二人の家族であるヒカルとアクアの前に現れた『ツクヨミ』なる謎の少女。

 恐らくは少女が残していったのだろうその手紙の差出人、そしてその内容に対する端的な反応が先のアイの言葉に凝縮されている。

 尤も、彼女の反応を見たビュティにしてもオブラートに包まれた表現をしている事からも、決して彼女が自身の母に対する感情のみでこの様な態度を取っている訳ではない事が窺えよう。

 何しろ失踪してから20年もの間音沙汰が無かった所に来た手紙である。

 母が迎えに来ない_その事実に直面した直後の彼女の様子はビュティの記憶にも新しく、そこから長年に渡って積み重なった負の感情たるや察して余りあるものだ。

 そんな中で送られてきたのが、顔文字付きの手紙となれば読む気が失せてしまうのも無理からぬ事だろう。

 

『なんかこれ...、メールみたいだね。』

 

 そんな彼女を翻意させたのが、同じ手紙を読んだルビーの一言だった。

 成程言われて再度確認してみれば、その文字は手書きのものとは思えない程整っており、紙に印刷されたものと考えれば納得がいく。

 一つの違和感に気付くと、後は芋づる式であった。

 年齢を考えれば50代となっているだろう人物相応の丁寧な文章に顔文字を加える感性の齟齬。

 『長年の務め』や『自分やヒカルに伝えるべき事』という含みを感じる文言。

 そして、ヒカルとアクアの前にも現れたという少女が示した場所_『宮崎県高千穂』との一致。

 しかもそれが、丁度ルビー達が宮崎県を訪れる事に決まった直後に連続して起こったとなれば、無視を決め込むという選択肢は存在しなかった。

 

「成程ねぇ...。

 確かに、アイちゃんの事を把握出来てた感じなのに連絡しなかった...、いや、出来なかったの方が近いのかな...?」

 

「向こうの状況は分からないけど、私だけじゃなくヒカルの事も書いてるからさ...。

 姫川さんの時みたいな事がまた起きたら大変だし、それで社長もおじさんや魚雷先生にも一緒に来てくれる様に頼んでくれたんだよね。」

 

 自身の推測に付け加える形で彼女が語った、B小町とも『東京ブレイド』とも無関係の面々が宮崎行きに同行している理由に納得するビュティ。

 現実としてこの手紙の差出人が本当に『星野あゆみ』なのか、ツクヨミとやらの正体すら不明な状況では、何かしらの悪意が含まれた行動と想定するのも自然な事だろう。

 何しろ過去の姫川愛梨の様に、実際に命を狙ってきた存在に直面したのだから、二度目が無いと何故言えるのだろうか。

 しかも先方が指定してきたのは『宮崎県高千穂』という場所のみであり、具体的に何時何処で何が起きるのかすら不明なのだ。

 

「そういう事だったんだね...。

 でも、こう言ったらなんだけど私も一緒に来て良かったのかな...。

 もし戦うとかってなっても全然役に立たないし...。」

 

 宮崎行きの目的にそぐわない存在が一行に含まれている理由に納得した様子のビュティだが、その中に自分が含まれている事を不思議に思った様だ。

 彼女が自ら語った通り荒事に関してはアイ達と同様無力であり、そのアイ達の精神的なサポートという意味でも、彼女の友人でもあるポコミや家族全員がいる状況でどれだけの意義があるのかは疑問である。

 日頃の職務の慰労としても、他にも苺プロに社員がいる中で彼女だけが特別視される理由にはならないだろう。

 そんな彼女にアイは何を言っているんだと言わんばかりの表情を見せるが。

 

「そんなの決まってるじゃん。

 お姉ちゃんなら何が起きてもツッコんでくれるからだよ。」

 

「何その理由⁉︎」

 

「くぅー、これこれ!」

 

「⁉︎」

 

 

 

「さて、私達はどうしよっか?」

 

 宮崎県高千穂_自然豊かな目的地へと到着した一行は三つのグループに分かれる事となった。

 一つ目は苺プロがこの地を訪れた主たる目的であるB小町のMV撮影へと参加する者達だ。

 メムの友人であり、今回の撮影とMV作製を担当する映像ディレクター_アネモネ・モネモネと共にB小町の面々、そして斉藤夫妻やアイがスタジオへと移動している。

 二つ目はボーボボ達とヒカルによる周辺の調査を行うグループである。

 かつての姫川の様な脅威となる存在の有無、そして謎の手紙の差出人である星野あゆみや謎の少女_ツクヨミの手掛かりを探るべく、近隣への聞き込みを行っている。

 そして残る三つ目、アクアと『東京ブレイド』慰安の名目で同行している黒川あかねの二人は、半ば取り残された状態となっていた。

 MV撮影の見学だけでは時間を持て余すのが実情であるが、かと言ってボーボボ達に同行するというのも部外者のあかねの存在から憚られる。

 そこでヒカルよりあかねのエスコートを任されたアクアだが、直近迄揃って出演していた舞台に加えて謎の出来事の頻発も重なり、到着後の予定を彼女と全く相談出来ていなかったのである。

 彼女も何となしにボーボボ達の動きに何かしらの事情があるのだろう事は察した様子だが、手持ち無沙汰なのは変わらない為に彼へと声を掛けたのだが。

 

「そうだな...。

 一応、荒立神社には後で全員で行く予定らしいが...。

 あかねは何処か行きたい場所はあるか?」

 

「うーん...、流石に遠くには行けないもんね...。

 さっきアネモネさんのスタッフの人が、近くで『LUUP』借りられるって話はしてたけど。」

 

 高千穂の観光名所の一つ_芸能の神とされる天鈿女命(アメノウズメノミコト)が祀られる荒立神社への参拝は全体の行動予定に組み込まれている故に、問われたアクアもすぐには候補が出ない様子だ。

 公共の電動キックボードの存在を考慮しても、現実的な行動範囲は限られるだろう。

 

「...じゃあ、少し遠いけど景色のいい場所に行くか。」

 

 

 

「へぇー...、これは確かに凄い景色だね...。」

 

「条件が合えば雲海を見られる場所なんだ。

 こういうのは都会じゃまず味わえないからな。」

 

 国見ヶ丘_高千穂の景勝地の一つとして知られる場所からの光景に息を呑むあかね。

 彼女の背後から声を掛けたアクアが語った通り、気象条件次第ではあるが早朝に雲海を見られる場所として有名である。

 二人が訪れた時間帯での観測は不可能である故に、代わりにアクアは飲み物と共にスマートフォンに雲海が発生している画像を表示させ、彼女へと差し出した。

 

「ありがとう。

 うわぁ...、綺麗...。

 アクア君、詳しいんだね?」

 

「ポコミさんが元々こっちに住んでたんだ。

 それで、色々教わってな。

 早朝に連れて来れたら良かったんだが...。」

 

「気にしないでよ。

 こんなに綺麗な景色が見られたのは本当に嬉しいし...。

 それに、ボーボボさん達が動いてるのもアクア君と何か関係があるんでしょ?」

 

 雲海が見られる条件を把握しているにも関わらず、敢えてアクアがこの時間帯を選んだ理由。

 それは、この宮崎にいる期間中何時『事』が起きるのかが分からなかった事、そしてあかねと話をする為に人気の少ないだろう場所を選んだ故であった。

 彼女の察しの良さに苦笑しつつベンチに座る事を促すと、彼は静かに口を開く。

 

「唐突だが、あかねはオカルトとか神話みたいなのって興味あるか?

 例えば、魂の存在とか...。」

 

「本当に唐突だね...。

 うーん...、御伽噺とかの中には実は本当の出来事も混じってるんじゃないかとかは思うけど、魂かぁ...。」

 

「例えばだが、前にやってた『魚雷ガールさん』とか。

 ああいう実在の人物を演じた時に、何かが降りてくる様な感覚を感じたりするのかと思ってさ。」

 

 自ら話を促したものの、この内容は彼女にも予想出来なかったのだろう。

 面食らった様子で眉間に皺を寄せたその姿に、余りにも問いが漠然とし過ぎたものだったと感じたアクアも、判断材料として彼女が過去に行った憑依型演技に際して、黒川あかねとしてのものとは別の精神的物質の存在を感じたのかを問う。

 

「あくまで私の場合だけど...。

 役の人格を作るのは、真っ白な紙に情報をどんどん書き足していく感じかなぁ。」

 

「ゲームのキャラクリエイトみたいなもんか...。

 やっぱ、そうなるよな...。」

 

 自らの手法が、あくまで演じる対象への分析と考察、そこから足りない部分を『設定』としてとして肉付けしていくものであり、所謂霊的なものではないと語ったあかねだが、対するアクアの『やっぱり』という言い方を訝しむ。

 事実、彼女の演技のスタイルが今に始まったものでない事は彼も承知している筈であり、彼自身先の問いに対しての返答を予想出来ていたという事だろう。

 こんな場所に来てまでアイデンティティの相談を受ける可能性が頭をよぎり、微妙なものへと変化した彼女の表情を受け、アクアもすぐさま言葉を続ける。

 

「すまん、変な質問した自覚はある...。

 それこそ、ボーボボさん達が動いてるのと関係はしてるんだが...。」

 

 一応の恋人関係であるとは言え、無関係の相手にどこまで話をしたものかと言い淀むアクア。

 仮に宮崎では何も起こらなかったとして、後日独自に真実の一端に迫ったあかねの身に危険が及ぶ可能性はある。

 少なくとも、それを実現出来てしまいかねない明晰な頭脳を持つ人物であるのは間違いないのだ。

 先の迂遠な問いも、極力彼女の関与を避けつつ考察の一助になればとの思いからではあったのだが、返ってきたのは彼自身にすら想定出来る回答であった。

 すると、目を閉じ思案していた彼の首に腕が回され、それまでの寒気からは考えられない温もりが彼を包み込む。

 

「そういう全部自分で背負い込もうとする所...。

 君はあんまり私の事言えないと思うけどなぁ。」

 

「...誰かに見られたらどうすんだよ。」

 

「誰もいない所を選んだんでしょ?

 ...それに、私達一応彼氏彼女だし。

 君は初めて会った時から私に寄り添ってくれたんだから、私だって何かを抱えてる君の隣にいてあげたいって思ってもいいよね?」

 

 公共の場で抱き締められている事を自覚したアクアだが、抵抗する材料は呆気なく潰されてしまった。

 甘えるな、彼女を巻き込むな、お前は自分の手で彼女を守れるのか_頭の中で数多の言葉が響く。

 成程、仮に危機に晒されたとて自分はボーボボ達の様な戦う術を持たない一般人だ。

 その身を挺して彼女を庇ったところで、怪我で済めば重畳、自分が前世に続いて死の危機に瀕するならまだしも彼女諸共となってしまう可能性とて否定出来ない。

 彼女の事を大切に思っているのなら取るべき行動は一つの筈だ。

 

「うるせぇよ...。」

 

 彼女の背中へと回された手と共に絞り出された台詞は、彼女の言葉に対してのものか、それとも心中の言葉に対するものか。

 それはアクア自身にしか分からない事である。

 

 

 

「真の意味で母を得られなかった哀れな魂...かぁ。

 普通に考えるなら、母親を亡くしたかネグレクトって事になるとは思うけど...。」

 

 自分に寄り添う_そう言ってくれたあかねに、アクアは先日のツクヨミとの邂逅、そこで掛けられた言葉について語ると同時に、母からメッセージアプリによって送付して貰った手紙の内容を開示した。

 それに対する彼女の考察を、今度は彼も黙って聞き続ける。

 彼ら星野家一同も手紙の内容や先のツクヨミの言葉について話し合い、あかねの語ったそれと同じ予想を立てる所迄は行き着いたのだ。

 少なくない家庭内暴力を振るわれた記憶に加え、母が失踪し育児放棄されたとしか言えないアイ_

 劇団ララライに所属した段階、即ち小学生の段階で両親が行方不明であり最低限の生活費が何時の間にか残されているのみという状況だったと言うヒカル_

 家族から遠く離れた宮崎の地で一人難病と戦い続ける事を強いられ、結果的にその死の瞬間にすら家族と離れ離れとなってしまったルビーの前世である天童寺さりな_

 そして自身を産んだ母は出産直後に他界し、両親の顔を知らず、育ての親となった母方の祖父母とも決して良い関係とは言えなかった彼の前世である雨宮吾郎_

 互いに初めて明かした各々の過去について考えれば、成程『真の意味で母を得られなかった』という条件に合致する様に思える。

 

 しかしそこで一同が疑問符を浮かべたのが、その言葉が発せられたタイミングであった。

 ツクヨミがその言葉を発した際にアクアとヒカルが話題に出していた人物_上原大輝もまた、母親が歪んだ感情を暴走させた結果、様々な人物に悪意を振り撒いた経験から一見すると『真の母を得られなかった』と映る。

 しかしながら大輝本人や夫の清十郎曰く、後の凶行は兎も角として事が発覚する迄も、その後の入院中の大輝に対する態度にしても子供に対する愛情を持っていた事は感じ取れたのだと言う。

 事実、彼女が異形となった際にも二人やヒカルを『愛する者達』と呼んでいた事からも、その感覚が間違っていたとは言い難いだろう。

 その上で先の自分達への評価を振り返ってみるとどうだろう。

 アイの母は形はどうあれ、少なくとも彼女の動向を確認していた事が手紙から窺える。

 ヒカルの両親は姿こそ見せなかったものの、『生活費を渡す』という形で最低限の養育の意思を見せていたとも捉えられよう。

 さりなの両親に関してはその真意が不明ではあるものの、彼女が死を迎えるその時迄入院費を払い続けただけでなく、B小町のグッズ購入やライブへの参加等彼女の希望を叶えようとしていたのも事実であり、娘を愛していたが故に彼女が死へと近付いていく事に向き合えなかったとも考えられるか。

 そして吾郎にとっての祖父母、特に祖父とは互いに良好な関係だったとは言えないだろうが、そもそもが父親が不明な上に母_祖父にとっての愛娘は出産直後に他界しているともなれば、良い感情を抱けない事にも理解は及ぶ。

 逆に言えば、その様な相手でも大学生になる迄面倒を見たという事であり、保護者としての責任は果たしたと言えよう。

 

「カミキさんとアイさんの話を聞く限り、アクア君達にとっての祖父母の行動に二人が愛情を感じられたかは疑問だけど、そうなると二人と上原さんを同列に語っているのが気になるね...。

 最低限の義務...、一方通行の感情...、それでいてアイさんの殺人未遂事件の時には何もアクションが無かった...、いや手紙の内容から考えると『動けなかった』とするのが正解?

 そして『真の意味での母』という言い方...。」

 

 対するあかねも、アクアから伝えられた両親の過去との関連を探るべく、そしてデリケートな内容を明かす事を決心してくれた彼からの信頼に応えるべく分析を進める。

 着目すべきはそれぞれの視点による評価の剥離だろう。

 アイの母に関しては自身の考えが相手に全く伝わっていなかった事実から評価が難しいが、ヒカルの両親が自らの手でか代理の者を用意してかは兎も角、生活費を用意していたのは事実である。

 仮にヒカルの両親がアイの母と同様、彼を気に掛けていながらも何らかの理由によって直接連絡が取れない状況に置かれていたとすれば、彼の両親が自分達の愛情を示す方法が『生活費を工面してやる事』しか無かったとも考えられよう。

 手紙に書かれていたという『務め』との文言が双方に関わっていたとすれば、かの『星野アイ殺人未遂事件』の折ですら、アイとヒカルそれぞれに今回の様な連絡が無かった事とも繋がる。

 そして件の謎の少女の口振りから、彼女は客観的に互いが抱いている感情を観察出来る立場にあり、情報の整理と共に同じ立場_どちらにも肩入れしないフラットな視点から感情のズレを評価すれば、自ずと答えは見えてくる。

 

「『母』を母性として捉えるなら、『真の母を得られなかった哀れな魂』って言うのは、『本来受ける筈の無償の愛を感じ取れなかった人』...って事になるんじゃないかな...。」

 

「『愛を感じ取れなかった』か...、成程な...。」

 

 あかねが下した評価を吟味し、感嘆するアクア。

 聞いてしまえば、何故自分達がそこに辿り着かなかったのかが不思議に思えるが、そう簡単に理屈で割り切れる程当事者の感情は簡単なものではなかったという事だろう。

 成程、両親の過去を想像すれば例え相手が愛情を持っていたと語ったとて、そんな筈はないと否定したくなるのも無理はない。

 さりなにしても、思い返せば彼女は自分の前で実家や両親の事を話さなかったし、それは幼いながらに自身の境遇や親に対しての諦め、そこからの反動で自分やポコミに対する感情を大きくしていた故だったのかもしれない。

 加えてこの三人迄なら、百歩譲って相手側に愛情が有った事を理解は出来るが、雨宮吾郎という『そもそも母の顔すら知らない存在』が含まれていた事も、あかねが語った評価に彼らが到達する事を妨げてしまったのだ。

 本来受ける筈のものを感じられず、孤独な状態で育つしかなかった子を『哀れな魂』と評する_腹立たしい程に見事な寸評と言える。

 

「...それにしても、何で高千穂なんだろうね...?」

 

「えっ?」

 

 あかねがポツリと零した言葉に思わず怪訝な表情を見せてしまうアクア。

 既に事の経緯を説明したにも関わらず、今更そこに疑問を感じた理由が読めない故の反応なのだ。

 ツクヨミにせよ、アイの母にせよ、相手が『自分達星野家が家族となった地』としてこの地をしているからこその宮崎訪問なのである。

 事実、自分達兄妹が誕生したのがこの地の宮崎県総合病院であるのだから、特段違和感を感じる事のない表現であると思えるのだが。

 

「だって、アクア君達が宮崎で産まれたって事公表されてないでしょ?

 私も初めて聞いたし、関係者しか知らない筈の事をアイさんのお母さんが知ってるのって、何か理由があるんじゃないかな?

 手紙の内容を見ても、お母さんはアイさんの動向を一般的に発表されている程度か、或いはそれ以下の断片的な情報しか手に入れられなかった可能性が高いでしょ?

 何しろアイさんの事件の時ですらこういう手紙が来なかったんだから、具体的な住所は勿論だけど苺プロ所属って事すら知らなかったんだよ、きっと。」

 

 彼女の語った内容に、アクアは頭を鈍器で殴られた様な感覚に陥った。

 手紙とツクヨミとの邂逅から、自分達は無意識に彼女達を勝手に結び付けており、アイの母は星野家の住所やアイの現状をツクヨミによって教わっていたか、彼女と同様にそれらを把握出来る立場にあると考えていた。

 しかし手紙の内容をよく見てみれば、確かにあかねの言う通り彼女が把握している情報はあくまで一般的なファンのそれと同程度であるとも読める上に、自分達兄妹については言及していないのだ。

 何より、仮にアイ個人の居所が分からなかったとしても、アイドルになっていた事を把握しているのなら事務所宛に手紙を送るという手段も取れたであろうに、現実にはその様な動きも見られていない。

 

「つまり、俺達が勝手に『向こうがツクヨミと同じ位何もかも把握してる』と思ってただけだったって事か...。」

 

「そもそも、そのツクヨミって子との関係だって分かってないんでしょ?

 仮にそっちが私達の常識じゃ測れない存在だったとしても、それと同じって決め付けるのは早計だと思う。

 それに、カミキさんのご両親が同じ状況だったとして、そっちが生活費を渡してきてたのも、『居場所を把握してたんじゃなく、自分達も住んでた場所だから』って考えれば...。」

 

「そこに父さんが...、息子が住んでいる筈...か。」

 

「うん...。

 だから、この高千穂に『アイさんがB小町だって知っていて、かつアイさんとカミキさんとの間に子供が出来た事を知ってる人』がいて、その人自身かその近くに手掛かりが有るんじゃないかと思うんだけど...。

 そんなのポコミさん位しか思い付かないんだよねぇ...。」

 

 あかねが『アイの母の情報源』について予測を語るが、彼女自身その考えを信用し切れずにいた。

 そんな都合のいい存在がいる筈がない_と。

 真っ先に思い付いた女性_ポコミ然り、アイ達の秘密を知っているという事はそれだけ彼女達と近しい関係だったと言える。

 では、そんな人物が無闇矢鱈に情報を漏らすかと問われれば否と答えるしかない。

 アイ自身も苺プロ側も情報の管理には細心の注意を払っていたであろうし、医療従事者にも守秘義務が存在する。

 またアイの母が、娘がアイドルである事を認知したのは、手紙の内容からして一般的なB小町の知名度が高くなった時期と然程変わらないだろう事が窺える為に、仮に高千穂の病院で自分の娘と同年代の少女が妊娠したという情報を得たとしても、それがテレビ画面に映る娘と同じ人物だと普通は考えられないだろう。

 逆にそれ程アイに近しい情報提供者がいるという説は、彼女自身や苺プロが手掛かりすら掴めていない実情から矛盾してしまう。

 そもそも自分の推測が全く見当違いのものなのでは_そんな思いから眉根を寄せるあかねだったが、隣に座る人物は何故か何かを掴んだかの様な涼やかな笑顔を見せた。

 

「...どうしたの?

 まさか、思い当たる人がいる...?」

 

「ああ、あかねのおかげでな。

 よく知ってるドルオタの家に、手掛かりが有るかもしれない。」

 

 優しげな笑顔、自身の頭を撫でる手_あかねが見たその光景は、かつてこの地のとある病院でよく見られたものであった。




 今回は考察回なのでギャグ少なめです。
 登場させてみると、ビュティさんとあかねちゃんって便利なキャラだなと思うのと同時に筆者の頭の悪さが顕著に...。
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