お読みいただく前に注意喚起をさせていただきます。
本話以降の内容にて、『推しの子』原作における大きな謎である『星の瞳』・『アクアとルビーの転生』について、拙作独自の考察と設定を踏まえた描写をさせていただきます。
そしてその中にも当然の様に『ボーボボ』要素を盛り込む予定です。
その為、『推しの子』の雰囲気を大事にしたい方にとっては不快に感じる可能性がございますので、苦手な方はブラウザバックを推奨させていただきます。
「寒...ブリ...寒...ブリ...。」
宮崎県高千穂を訪れて二日目を迎えた苺プロ及びボーボボ一行。
星野アイの母_星野あゆみからの手紙に対する考察によって手掛かりを掴んだアイの息子_アクアと黒川あかねとの情報共有を行った一同は、彼ら二人とボーボボの先導に従いとある場所を目指していた。
「寒...ブリ...寒...ブリ...。」
向かう先に何が待ち受けているかも分からない故に、一行の中でも荒事に適していない面々に対しては、ボーボボ達から旅館での待機も提示されたのだが、結果的には宮崎に来ている全員が参加している。
『おじさん、一緒に桃鉄やるって約束忘れてないわよね?
勝手にどっか行くなんて許さないから。』
『何を水臭い事を...。
日頃より苺プロ、そして星野家に世話になっている我ら師弟も同行させて貰うぞ。』
『地雷師匠?
私は出来れば危ない事は避けたいんですけど?』
それぞれ、アイの娘_ルビーが所属するB小町のメンバーである有馬かな、地雷ダンディ、メムの決意表明である。
苺プロの斉藤社長やB小町のマネージャーである新野に至っては、最早そういった改まった決意すら無かった。
最早厄介ごと等慣れていると言わんばかりに、壱護からの一言が有ったのみだ。
『何回も言わせんな。
幾らでもフォローしてやるっつったろ。』
「寒ブリ...寒ブリ...寒ブリ...。」
(何なのこれ...?)
そんな一行が進んでいるのが、アクアとルビーが産まれた宮崎総合病院から程近い所に有る小高い丘の坂道である。
手掛かりを掴んだらしいアクアがあかねと共に先導する中、一行の内の一人_ビュティは二人と共に先導しているボーボボ、より正確に言えば彼が手に持っている代物にげんなりとした様子だ。
彼が持つ竿の様に見える長い棒の先には、手足を縛られ布で目隠しをされた首領パッチが吊されているのだ。
先程からぶつぶつと呟かれている謎の言葉然り、例によって例の如くの彼らの奇行でしかないのだが、それを内心ですら無視出来ないのは最早彼女の身体に染みついた習性なのだろうか。
「寒ブリ寒ブリ寒ブリ寒ブリ。
カンブリア宮殿‼︎
カンブリア宮殿‼︎」
「反応がどんどん近くなってやがる...。
どうやらアクアの見立てが当たってたみたいだな...。」
「それレーダーだったの⁉︎」
レーダーに扮しているらしいバカが強い反応を示して程なく、一行の目に古びた一軒家が映った。
単純に築年数が経過しているというだけでなく、長年人が住んでおらず全く手入れがされていない様に見える空き家の表札に、一部の者達にとって見覚えのある文字が刻まれている。
「『雨宮』...。
アクア...、まさかここは...。」
「ええ、ご想像通りここは雨宮吾郎の_」
「カンブリア宮殿‼︎
カンブリア宮殿‼︎」
「うるせぇーー‼︎‼︎」
「カンブホァ‼︎‼︎」
表札に刻まれた『雨宮』の文字、この場所へと案内したのがアクアという事実から、彼の前世を知る一部の面々にとっては自然な思考の流れだったのだろう。
彼と共に先頭を歩いていたボーボボが確認を取れば、アクアもすぐさま自身の前世にしてこの空き家に住んでいた雨宮吾郎の名を出しつつこの場へと案内した理由を語ろうとするが、彼の言葉はレーダーの騒音によって遮られてしまった。
ボーボボの鉄拳によって騒音の源が旧雨宮邸の扉に叩きつけられると、その衝撃に驚いたのか数羽の烏が飛び立ち、黒い尾羽が舞い踊る。
「やれやれ、騒々しい事だね...。
空き家とは言え、もう少し丁重に扱っても罰は当たらないよ。」
烏の姿が見えなくなったのと時を同じくして、一行に対して声が掛けられる。
「⁉︎ いつの間に...。」
「この子が例の...。」
その少女_ツクヨミはまるで最初からそこにいたかの様に縁側に腰掛け、一行に対して笑みを向けていた。
突然現れた_そんな星野家の話に半信半疑となっていたボーボボや壱護達が警戒心を露わにする中、アクアは彼女の出現によって己の推測が正しかったのだと確信する。
「お前が出てきたって事は...。
やはりこの家の近くに有るんだな?
施設か何かの入口が...。」
「アクア...、それってどういう事?」
彼の言葉を受けて尚、ツクヨミは変わらず笑みを浮かべるのみだが、彼の口振りや自分達をこの場へと連れてきた真意を、他の面々を代表してアイが問い掛ける。
「まず、手紙から分かる事をもう一度整理してみて欲しい。
俺達にとってのお婆さんが把握しているのは、『母さんと父さんが結婚、もしくは恋人以上の関係にある事』、『母さんがアイドルとしてB小町というグループで活動している事』、そして『母さんが妊娠し、この高千穂で出産した事』だと読み取れる。」
「うん、それは昨日アクアが説明してくれたよね...。」
「ああ...。
その上で、これ以前に全く音沙汰が無かった事を踏まえると、お婆さんはさっき言った様な断片的な情報しか得られず、かつ今いる場所からの移動すら困難だった。
事務所にすら手紙が来てないって事は、ネットすら繋がっていないか或いは精々テレビ位しか無い環境なのかもしれないな...。」
「そうか...、だから書いてある情報が飛び飛びというか、古い印象を受けたんだね...。」
「...メディアに露出されてる部分しか知る方法が無いとしたら、二人の関係は兎も角、何で出産の事を...。
いや待てよ...、そうかだからせんせの!」
自身の『祖母が置かれている現状』についての考えを聞き、手紙から感じた違和感に納得した様子を見せる面々の中、ポコミが導き出した答えに笑みと共に首肯を返すアクア。
「情報源となったのが、『B小町のファンであり、妊娠した星野アイの担当医』だった。
この家の元住人_雨宮吾郎の私物や独り言から情報を得ていたと考えれば...。」
そこで手を叩く音が響く。
よくぞそこまで辿り着いたと言わんばかりのツクヨミの仕草に、自然と一同の視線が集まるが。
「そこまで自分の口で話したからには、この先で両親だけでなく君達兄妹の秘密が明かされるのも承知の上なんだろうね?」
彼女の不敵な笑みにも、アクアの表情は揺るがない。
それは祖母の『伝えねばならない事』が自分達兄妹の転生に関係しており、話を進めれば自ずと周囲に秘密が発覚すると考えている故だった。
自身に寄り添い、正面から向き合ってくれると語ったあかね_
妹の夢への道を共に歩んでくれているB小町の面々_
今日に至る迄自分達家族を支え続けてくれた苺プロの面々_
危険が及ぶ可能性を承知の上でこの場に居合わせる事を選んでくれた人々に対する彼の誠意であり、前世の頃より変わらぬ彼の生真面目さ故の決断である。
そんな彼が己の決意を語ろうとしたタイミングで、一人の女性が代わりに口を開いた。
「私達が今日迄アイちゃん達と過ごした時間は、絶対に嘘なんかじゃない。
例え、アクア君とルビーちゃんにどんな秘密が有ったって、私達は四人の味方...、だからこの場にいるんだよ。」
「ほう...。」
「ビュティさん...、皆も...。」
「ハイハイ、ご立派なお言葉でござんすねー。
『あっ、そうですか』って感じですが。」
「...。」
「あーれーーー_」
その女性_ビュティの強い意思表示、そしてその言葉に首肯で続く他の面々に、ツクヨミも、アクアもこの場にいる人間の絆の強さを感じ取った様に感嘆する。
余計な戯言をほざいたバカは彼女の振るったバットによって遠く彼方へと弾き飛ばされた為、これで心置きなく話を進める事が出来るだろう。
ところで、この出来事から数秒後に阿蘇山の火口付近で謎の物体の落着が観測されたらしいが、何か関係があるのだろうか。
「お騒がせしました。
ツクヨミさん、で良いのかな?
続きをお願いします。」
(今の行動に眉一つ動かさない...、彼女然りここにいる全員相応の覚悟と見て良いだろうね。)
「承知した。
では皆、中に入ろうか。」
(家の中...? 時間的な条件が合ってないのか?)
バットで生物を殴り飛ばす_普通であれば目を背けるなり顔を顰めるなりの反応が見られるだろう行為の後でも平然としているビュティや他の面々。
これを一同の覚悟の強さ故であると好意的に解釈したツクヨミに促され、全員が旧雨宮邸の中へと足を踏み入れる。
バカの奇行に対する制裁が見慣れたものとなってしまっていただけなのだが、結果的に全員が真剣な表情でい続けたのが功を奏した様だ。
とは言え、雨宮邸内へと招き入れられた事に関しては、全員の頭に疑問符が浮かんでいるというのが実情であろう。
先のアクアの話を前提にするなら、近辺の捜索を促されるなら兎も角空き家の中で事態が動くとは考え難い。
或いは日光の角度等、特殊な条件が含まれている故に、それを知るツクヨミがその時が来る迄の一時を屋内で過ごそうと考えたのだろうか。
「全員入った様だね。
では、星野アイ。
『門』を開ける為には、君の言葉が必要だ。
君が幼い頃、母と共に暮らしていた時、最も耳にした言葉が鍵となるだろう。」
「あの人が...、お母さんが言ってた事...。」
「アイ...、辛いなら代わりに俺が...。」
「必要なのは『彼女の言葉』だと言った筈だよ。
星野あゆみと血が繋がった彼女のね。」
「くっ...‼︎」
「人の辛い過去を自分で思い出させようとは...、趣味の悪いガキだな...。」
全員が雨宮邸内へ入った事を確認したツクヨミが、アイに対し道を開く為の条件を提示するが、その内容に彼女の過去を知る面々は表情を歪める。
娘を捨てた事実のみならず、彼女自身が強く感じていたと言う恐怖感からも、彼女が母に対して強い忌避感を感じている事は察して余りある。
そんな状況で当時の彼女が最も耳にした言葉と言われれば、自身への罵倒、現実への絶望、見知らぬ男に対する執着_少なくとも聞いていて気分の良い内容は連想出来ないだろう。
少しでも彼女の負担を減らそうと慮ったボーボボの提案を退ける様に、かつてヒカルの辛い過去を映像として垣間見た破天荒に至っては嫌悪感を隠そうともしていない。
尤も、当のツクヨミはと言えば『あくまで必要だからそう言っているだけ』と言わんばかりの態度で、過去を振り返っているアイに視線を送り続けている。
果たして、何かしらの言葉に思い至った様子のアイに全員の視線が集まるが。
「あの人が毎日言ってた事...、これしかないと思う...。
『浜崎あゆみになりたい』。」
「何それ⁉︎」
アイの語った言葉に真っ先にツッコんだビュティを初め、その内容に唖然とする一同だが、その反応とは裏腹に事態は大きく動き出した。
キーワード_文字通り扉を開く鍵となったかの様にアイの言葉が雨宮邸に吸い込まれると、家の各所から光が発せられ始めたのだ。
古びた空き家から一転、まるでSF作品の基地の様に変形してしまった家の中には何かしらの転送装置を思わせる機械が出現した。
「あ...あぁ...、家が...。」
「っていうか何これ⁉︎
さっきの現実逃避の言葉で何がどうなってこうなんの⁉︎」
「久方振りだのう...、お主ら。」
「お前は⁉︎」
かつての自宅が謎の変貌を遂げてしまい愕然とするアクアを他所に、予想だに出来なかった事態の発生にはツッコんだビュティらボーボボの仲間達ですら目を丸くしていた。
ツクヨミの『門』という表現から、雨宮邸の床に地下通路が有る、彼女の不可思議な力によって何かしらの力場を発生させる等が連想された中で、家そのものに手が加えられていたとは予想出来なかったのだろう。
そんな場所で、一部の者達に聞き覚えの有る声が一同の耳に届いた事が更に困惑を深める事になる。
「ハ、ハンペン⁉︎
何故お前がこんな所に⁉︎」
装置の前で堂々とした立ち姿を披露している者こそ、旧毛狩り隊Aブロック基地隊長_ハンペンであったのだ。
元はツルリーナ3世世代の人物であり、他の隊長と同様3世の復活に先んじてコールドスリープから目覚め、現代に姿を現している。
見た目こそその名の通りハンペンに顔が付いているとしか言えない謎の物体なのだが、その実力たるや真拳を使わず己の拳と技のみで3世世代の3世、ランバダと並ぶ三大権力者となった実力者なのだ。
彼が用意した『おでんデスマッチ』での戦いにてボーボボ達と激闘を繰り広げ、かつて鳴嶋メルト達の前に登場したボーボボと天の助の融合体_天ボボの力によって敗れている。
その後、裏マルハーゲ帝国との戦いにおける一時的な共闘を経て、最終的にはボーボボ達と3世の最終決戦に参加する形で彼らの仲間となった。
その後は、自身の研鑽の傍ら何故か脚本の師として自らに教えを請うてきた高峯らの面倒を見る生活を送っていたのだが、そんな彼がこの場所にいる理由に注目が集まる。
「うむ...、わしはツクヨミ殿の紹介によってこの地を任されているのだが...。
まずはここが何の為の場所かを説明せねばなるまい。」
その言葉と共に天を指差したハンペン曰く、彼の横に有る装置は一行の見立て通りとある場所と繋がる転送装置であるらしい。
「ボーボボよ、この装置はお主の兄_ベベベーベ・ベーベベとも関係しているものなのだ。」
「ベーベベ兄さんが⁉︎」
「左様。
この装置の行き先は月であり、月で務めを果たすべく選ばれた者達を送り届ける為のものだ。
この装置によって月へと向かった者達は皆兎の姿となる。
もう分かったであろう?
月で兎がついているものと言えばハンペン、そしてわしは『全国ハンペン行脚』の最中、名産地の一つであるここ_長崎県にて長崎ハンペン作りに勤しむ者達を見守る事をツクヨミ殿に依頼されたのだ。」
「月で兎がついてるって言ったら餅だし、そもそもここ宮崎だよ‼︎」
「...。」
「この場所_旧雨宮邸が建っていた場所は人目も付かず、見晴らしも良い。
月との連絡拠点に丁度いい場所でね。
雨宮吾郎の死後、空き家となったこの場所を改造したんだよ。」
「お前さっき『空き家でも丁重に扱え』つってたよな‼︎
何、人ん家勝手に改造してんだよ‼︎⁉︎」
ビュティとアクアが騒ぎ立てる中、一体何が問題なのかと言わんばかりにハンペンとツクヨミが肩をすくめるが、彼らの話と装置にアイとヒカルは考え込む仕草を見せている。
「...どうした二人共?」
「...僕達、この装置を知ってるかもしれません...。」
「...えっ⁉︎」
「前に私、『昔月にいた』って言った事有ったよね。
ほら、事務所に初めてメムちゃんが来た時。」
謎の装置への既視感_突拍子が無く思えるヒカルの言葉にアイが補足情報を加えた。
他の面々がその時の事を思い返してみれば、確かにそんな発言が彼女からされていた様なされていない様な、そんなさらりと流されてしまう程度に印象に残らない些細な出来事に何人かが思い至る。
「...あれ冗談じゃなかったの⁉︎」
「えっ、私冗談だなんて一言も言ってないよ⁉︎」
「いや、普通本当の事だなんて思わねえよ‼︎」
確かに、彼女はその発言を冗談だとは一言も言っていないが、常識的に考えれば真面に受け取られないだろう内容である事に加え、彼女の側も今の今迄何故自分が月にいたと思うのかが理解出来ていなかったのだ。
彼女自身、普通に考えれば人間が月で生きていける筈がないどころか、そもそも辿り着く事すら現実的でない事は百も承知である。
しかし、冗談、或いは妄想と切って捨てるには自身の中の感覚は余りにもリアリティが有り、あの場で試しにと口に出したのだ。
「じゃあ何か。
お前やヒカル君は昔月で...、兎になってハンペンだか餅だかついてたってのか...?
んで、流れからするとお前のお袋さんが今月にいるって...?
んな馬鹿な話有るかよ...。」
「...⁉︎
装置が光り始めたよ⁉︎」
とは言え、幾ら長年に渡って共に働き彼女が学生の頃から面倒を見てきた故の信頼関係を持ってしても、壱護の様な反応を示すのが普通であろう。
百歩譲ってこれが平時から常識はずれな言動が見られるボーボボ達であれば或いはと思わせられるが、少なくとも今日迄普通の人間として接してきたアイやヒカル、そして同じく普通の人間であろうアイの母がそんな場所で生きていけるとは思えない。
そのボーボボ達ですら宇宙空間への移動と活動は容易ではなく、先程話に出たベーベベとの戦いでも、ボーボボと魚雷ガールは月へと降り立っているがその際には二人も剣道の防具型の宇宙服を着用している。
仮にその問題が兎に変貌する事で解決するとしても、月での餅つきなりハンペン製作なりが何に作用するのか全く想像出来ないのが実情だろう。
装置を目にして月にいた事を思い出したのだろうアイとヒカルも、実際に月で何をしていたのか、そもそも何故月に行く事になったのかについては思い出せない様子であり口を噤んでしまう。
果たして、件の装置が初めて動きを見せ事態の進展に期待が掛かるが。
「...!
あ...、あぁ...。」
「久しぶりね...、アイ。
大きく...、いえ、大人になったと言うべきかしら。」
「...そう言うあなたは...、昔と余り変わらないんだね...。」
(この方がアイのお母様...、随分若く見えるわね...。)
その女性_星野あゆみの登場、そして彼女の姿に一同は息を呑む。
年齢を考えれば50代を過ぎている筈の彼女の姿は、娘から見ても時間の経過が緩く感じられ、日頃よりアンチエイジングに余念がないミヤコから見ても同様であったのだ。
「...失礼、星野あゆみさんでお間違いないでしょうか?
私、アイさんが所属する株式会社苺プロダクションの社長を務めております斉藤壱護と申します。
...あなたが失踪中、月にいる間に娘さんの身元保証人となる為、養子縁組の手続きをさせていただきました。」
「...あなたがアイのいる事務所の...。
芸能活動以外の部分もお世話になっていたなんて、何とお礼を申し上げれば良いか...。」
アイとあゆみとの間に立つ様に前に出た壱護が、彼女が『星野あゆみ』である事の確認と共に自己紹介を行う。
アイを気遣う為だけでなく、敢えて彼女と娘の会話を邪魔する形で立った者に対してどの様な反応を示すのかを見極める目的が有った。
彼からすれば、アイから聞かされていた彼女の娘に対する所業の一端が垣間見えようものなら、例えツクヨミが何と言おうと彼女とアイとの直接の会話を許さない腹積りだったのだ。
尤も、それに対するあゆみのとても娘を捨てたとは思えない殊勝な返答に、毒気を抜かれてしまった感があるが。
「随分と殊勝な態度じゃねぇか。
20年も月にいりゃ、娘の大切さが分かったか?」
「ちょっ...、おじさん、何もそんな言い方しなくても!
ずっとここにいたんなら、この人...お婆ちゃんにだって何か事情があったんだろうし...!」
「ルビー...、確かにお前の言う通りなのかもな...。
せめて話を聞いてから言うべきだってのが道理なんだろう...。」
「...。」
「だがよ...、理屈じゃねぇんだ...。
あの日...、捨てられたって分かった時のアイの顔を考えたら『ただの事情』じゃ済ませらんねえんだ。」
「ルビーさん...、この子に無理に同意しろとは言わない...。
でも気持ちは分かってあげて欲しいギョラ...。
一人にさせられてしまった事を理解した子供達の顔は、先生でも未だに慣れないものギョラ...。」
続いたボーボボの剣呑な態度には、事情も聞いていない段階で悪態が過ぎるとルビーからあゆみに対する擁護が入る。
平時では見られない様な彼の怒気に魚雷ガールが二人の間を取り持つが、こればかりは両者の経験と考え方の違い故に致し方ない状況と言えるだろう。
ボーボボにしろ魚雷ガールにしろ、悲しみと虚無感を施設にいる子供達の表情から感じ取ったのは何もアイが初めてではない。
これがまだ病気や事故等で親を亡くしたというのであれば、子供達の方にもある程度の年齢から理解やある種の諦めが見えてくる故に前へと進む為のサポートもしやすいのだが、親に捨てられたとならば事情が異なる。
感情の好悪はどうあれ、共にいるという選択を勝手に放棄された子供の事を思えば何ともやるせなくなってしまうのだ。
当時のアイはボーボボに対し、『自分は母親にとって何だったのか』と己の存在理由を問う発言をしていた。
成程、彼女からすれば勝手にこの世に産んだ挙句、養育を放棄したのだから、そんな思考に至ってしまうのも当然であろう。
一方のルビーもあゆみを擁護する発言こそしたものの、それは決して母の過去に対し何も感じていないという事ではない。
祖母の態度や月にいた理由如何によっては、どの様な罵倒を受けるのも当然だろうと考えてはいるのだ。
ただ一方で、彼女はその前世での経験から『人が他人から距離を取る』のには相応の理由があるとも感じている。
長年の闘病生活において、かつての彼女の肉親は殆ど姿を見せず、その理由を推測出来る程度には精神的余裕を持ってしまっていた故に。
当時の彼女が抱えていた病魔について少しでも調べれば、天童寺さりなの両親が娘の将来について全く希望を持てなかったのも理解出来る。
無論、かつての病状について彼女自身が調べたのはルビーとして新たな生を得てからだったが、病院の大人達の態度から何となしに察せられるものが有ったのだ。
加えて彼女の場合、アイと同じく親に見放されたと言っても直接的な悪意を浴びせられた訳ではない事も大きいか。
『難病』という逆の立場になれば自分も同じ振舞いをしてしまうかもしれないと思わせる条件故に、彼女は無意識に自分に引け目を感じてしまっていたのかもしれない。
「...あなたは...、顔立ちからしてアイの子かしら。
本当にそっくりね...。
...それにそっちの男の子も...。
そう...、神木さん達の務めが終わらないのは、あなた達二人も『そう』だからなのね...。」
「両親を知ってるんですか⁉︎」
「ええ、勿論ですカミキ ヒカルさん。
あなたのご両親も私と同じくずっと月にいましたから...。」
「そん...な...。」
(成程...、だから母さんだけじゃなく父さんにも...。)
行方不明の両親が月にいた_そんな事実に愕然とするヒカルだが、その隣で彼を支えるアクアはどこか納得した様な表情を見せた。
あゆみからの手紙にアイだけでなくヒカルについての言及が有ったのは呼び出す理由が同じであるから_この点は容易に想像出来たものの、その内容に全く見当がつかなかったのがこの場を訪れる迄の実情であった。
二人が共通して持つ秘密と言えば、真っ先に思い浮かぶのは『子供達の転生問題』だろうが、それならば手紙の中にハッキリと『子供について』と書き記すだろう。
加えてあゆみが、その二人の子供達に対して意味深な言葉を呟いた事からも、星野家の何らかの共通点が月にいた理由と密接に関わっているのだと考えられる。
相変わらず超然とした態度でい続けているツクヨミの存在も加味すれば、或いは人類の常識から外れた理由が隠されているのかもしれない。
「アイ...、それにカミキさんも...。
不思議に思った事は無かったかしら?
『何故、他人は自分に惹きつけられるのか?』って...。」
「それは...、自分で言うのもなんですが外見と能力ではないのですか?」
答えたヒカルが訝しんだ表情なのも無理からぬ事だろう。
少なくともこの場にいる者_芸能界に関わる人間が同じ質問をされれば、同じ答えを出すだろう事が容易に想像出来る故に。
すると質問の意図が読めない様子の一同に、あゆみが現れて以降沈黙を保っていた者が口を開いた。
「本当にそれだけなのかな?
君達がしているだろう努力は、果たして他者と決定的に隔絶していると言えるかい?
外見だって、芸能界なら君達に比肩するものを備えている存在は決して珍しくはないだろう?」
「...それは...確かにそうかもしれないけど...。」
(言われてみれば、私何でママを初めて見た時に『売れる』って思ったんだろう...。)
ツクヨミの言葉に一同が反論出来ないのは、各々の中で彼女の言葉に思い至る節がある故だった。
トレーニングの環境が一律であるB小町のメンバーを差別化する要素が各々の得意分野となっていた訳だが、寧ろアイは良く言えばマルチタレント、悪く言えば技術的な面ではどの分野でも特筆したものを持たない存在だった筈だが、事実として彼女はグループのセンターを長年務めている。
無論、アイ自身もレッスンとは別に自主練習に取り組んではいたが、それらの環境や量が他のメンバーと比較にならないものだったのかと言われると首を傾げざるを得ないだろう。
容姿にしても、個人の嗜好に依るとは言えヒカルが直近の舞台で共演した者達にも美男美女が揃っていた。
中には鳴嶋メルトの様に、『華のある外見だから』と番組プロデューサーに言わせてしまう者が存在するのだから、アイやヒカルのそれがどれだけ優れているとしても絶対無比ではない事の証明と言えよう。
寧ろ、話を聞いていたルビーの内心の独白然り、二人が本格的な芸能活動を開始する前から良くも悪くも他者を魅了してきた事に着目すべきなのかもしれない。
「異常な程に他者を惹きつけ、心酔させる。
所謂カリスマ性と言えば分かりやすいかな?
生まれながらにその資質を持つ者は、皆ある特徴的な目をしていたと言う。」
「目...?」
「そうさ、昔から言うだろう?
目は口ほどに物を言うって。
その目に魅入られた者は、目の持ち主を絶対の正義であると考える...、例えどんな嘘を吐いてもそれを信じ込ませてしまうのさ。」
「...アイが言ってた『嘘吐きの目』ってやつか...。」
ツクヨミの言うカリスマ性、或いは魔性とも言い換えられるだろうか。
成程、嘘_虚構の姿を最大限魅力的に見せてきたのが伝説的アイドルであったアイであり、今も一流の役者として活躍するヒカルであると考えれば、二人はかつてのアイが言う所の『自分も他人も騙す嘘吐きの目』によって自らの魅力をファンに信じ込ませていたと言える。
本音が言えない事に苦しむ自分自身すらも『これが正しい事』なのだと信じ込ませる事で。
「太古の神々から伝わるその力を私達はこう読んでいる。
『星の瞳』とね。」
次話で星の瞳について深掘りしていこうと思います。
因みに本当は本話の内にもっと触れる予定だったんですが、ハンペンに尺を割き過ぎたかもしれない...。