待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む!   作:POTROT

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ワカモ大勝利編
■■(おれ)と災厄の狐


 狐坂ワカモと言う生徒は、俺にとって『特別』な生徒であると言わざるを得ない。

『先生』として、そう言う生徒がいる事はあまりよろしくない事だと理解はしているが、それでも彼女は俺にとっての『特別』なのだ。

 と言うのも、彼女は俺がこのキヴォトスを訪れてから……それこそ、着任初日から今日に至るまで、ずっと俺を支えてくれている、俺のパートナーとも言える生徒なのである。

 

 最初は賭けだった。

 と言うのも、彼女は原作のプロローグにおいてシャーレを占拠しており、シャーレを制圧した後に、地下室にて一対一で先生と遭遇するのだが、彼女が先生に一目惚れをすることで、何とか先生は事なきを得るのだ。

 だが、俺は先生では無くクソガキだ。もしかしたら俺には一目惚れをしてくれないかもしれない。出会った瞬間、問答無用で撃たれるかも知れない。そうなれば詰みだ、と。

 外見だけは何とか取り繕いつつも、内心は本当にビクビクとしながら俺は彼女と相対した。

 

「……よぉ、初めまして」

「あら……」

 

 ゆらり、とその仮面越しに視線がこちらへ向き、膝を屈したくなるような威圧感が叩きつけられた時は、本当に生きた心地がしなかった。

 当時はまだアロナバリアもナノマシンも無い。

 一発でも撃たれれば、簡単に死ねる。

 しかも相手はキヴォトス屈指の凶悪犯罪者と来た。

 俺はすぐにでも逃げ出したい気分だった。

 だが、ここで決めなければ死ぬ、と既に理解していた。だから、耐えた。

 

「……あら、あららら……!?」

 

 結果としては、今俺がここにいる事からも分かる通り、成功だった。

 彼女の動揺に、仮面の奥で真っ赤になってゆく顔が、容易に想像できた。

 そんな彼女の様子を見た俺は、ほっと胸を撫で下ろした。

 これでひとまず最初にして最大のピンチは回避できた、と。

 

 ……だがここで、つい欲が湧いてしまった。

 

「……し、しし、失礼致しました〜!!」

「ッ!」

「へぇっ!?」

 

 原作通り、俺の横を通り抜けて逃げようとする彼女を、俺は腕を壁に付ける事で防いだ。

 所謂、壁ドンの姿勢だ。

 

「なぁお前、ワカモで合ってるよな?」

「え、あ、あああああの、その……」

 

 俺はブルアカのプレイヤーとして、既にワカモの有能さと、愛の深さを知っていた。

 だからこそ、ここでワカモを確保出来るのではないか、確保できれば、この後のメインストーリー攻略が楽になるのではないか、と。そう思ってしまったのだ。

 

「ちょっとお前に話したい事があるんだが……今は少し都合が悪い。俺がいいと言うまで適当な場所に隠れて、待っていてくれないか?」

 

 そこまで言って、俺は自分の失敗を察した。

 俺がここで最重視すべきは、自分の命だったはずなのだ。

 既に勝つべき賭けには勝っていたのだ。わざわざ無駄なリスクを増やす必要は無いはずだった。

 今後の事も考えた上で、俺はここでワカモを見逃すべきだったのだ。

 

 顔と仮面とが触れ合いそうな距離。

 ワカモがその気になれば銃弾で俺の体に風穴を開ける事も、銃に付いた短剣で俺を刺し貫く事も容易く行える。

 最悪の可能性に、脂汗がじわりと額に滲む。

 

「は、はははははい! か、畏まりました〜っ!!」

 

 しかし、結果オーライと言うやつか。

 どうやら俺は人生で初めてのナンパに成功してしまったらしい。

 俺の拘束から飛び出したワカモは、掃除ロッカーの中へドタバタと駆け込んだ。

 

「お待たせしました、先生……何か、ありましたか?」

「……いや、何も?」

 

 尻尾の毛が多少はみ出していたが、あの程度なら気付かれないだろうと、遅れてやって来たリンちゃんに俺はそう言った。

 そして、シッテムの箱の起動に、アロナとの対面やサンクトゥムタワーの権限を連邦生徒会に移して、リンちゃんに一通りシャーレの紹介を済ませてもらった後。

 連邦生徒会本部へ帰るリンちゃんと、シャーレ奪還に協力してくれた初期組の四人を見送って、俺はワカモの待っている地下室まで戻って来た。

 

「すまん、待たせたか」

「……いえ、滅相もありませんわ。おかげで、幾分か落ち着く事もできました」

「あー、そうか? それなら良いんだが……」

 

 ロッカーから恐る恐ると出て来たワカモは、既に狐の仮面を外していた。

 美しく整った相貌をほんのりと朱色に染めて、熱のこもった視線をこちらへと向けている。

 落ち着いた、と言う彼女の言葉に、大丈夫だよな? 気の迷いだと断じてないよな? と一抹の不安が心によぎるが、幸いにも今はアロナバリアがある。

 そう考えれば、先程よりかは余裕が持てると言うものだった。

 

「まずは……何だ。有難うワカモ。俺の話を────」

「嗚呼!!」

「ッ!?」

 

 ワカモがいきなり大きな声を上げたので、俺は思わず後退りしてしまう。

 しかし、ワカモの様子を見てみるに、怒ったわけではなさそうだ。

 それどころか、何とも嬉しそうに頬に手を当ててくねくねしている。

 

「私めに『有難う』などと! 何と勿体ないお言葉を……!」

「あー、うん。喜ぶのは良いんだが……話して良いか……?」

「……ああ、申し訳ありません。嬉しさのあまり、お話の邪魔をしてしまいました……どうぞ、続きをお願いします」

 

 ……成程、これは面倒だな……

 原作の時点で既に分かっていた事だったが、やはり実際にこうして話してみるとよく分かる。

 しかし、こうも好意を表に出してくれると言うのは、かなり助かる。

 これで彼女が自身の好意を一時の気の迷いだと断じていない事は証明された。

 

「その……何だ、単刀直入に言うとだな。お前に俺の護衛……もとい、付き人を頼みたいんだが……どうだ? きちんと報酬は払うし、休日だって設ける……」

 

 ふと、そこまで言って、俺はワカモの様子が変わっている事に気付いた。

 何やら俯いて、プルプルと震えているのだ。表情は前髪で隠れていてよく見えない。

 怒ってはいない、と信じたいが……

 

「……嫌、だったか?」

「めめめ滅相もありませんっ!!」

 

 俺がそう聞くと、慌てたようにワカモが叫んだ。

 

「是非! 是非ともこの私めをあなた様の御側付きに!! 報酬も休暇も要りません!! 24時間365日四六時中! この私があなた様をお守り致します! ですので是非! 是非!!」

 

 そして、俺の足に縋り付くようにしてそう懇願してくる。

 本来なら多分嬉しい事なのだろうが、正直俺はドン引きしていた。いくら一目惚れとは言え、初対面の────出会って、と言うか、会話してまだ数分も経っていない相手に、ここまでするか? と。

 しかし、ワカモと言うキヴォトス最高級の戦力を確保出来るのは確かに喜ばしい事だ。

 

「あー……うん、元よりそうするつもりだったし……まぁ、末長くよろしくと言う事で」

「っ!! ……はい、これからよろしくお願いいたしますわ、あなた様♡」

 

 がっしりと、俺達は手を繋いだ。

 

「嗚呼!! あなた様に手を握っていただけるなど!! 何と言う幸せ!! このワカモ、今後一切この手を洗わないと誓います!!」

「いや普通に洗ってくれ。手くらいいつでも握ってやるから……」

 

 

 ────とまぁ、これが俺達の出会い、と言うやつなのだろう。

 今思えばかなり危ない橋を渡っていたが、これのおかげで今の俺があると言うものだ。

 それこそ、結果オーライと言うものだろう。

 

 さて、それからは本当に色々な事をワカモと一緒にこなして来た。

 と言うか、初期シャーレはほぼほぼ俺とワカモで回していたと言っても過言ではない。

 俺は書類仕事と各校からの要望を処理し、その間にワカモには陰から俺の護衛をしてもらったり、裏で色々動いて貰ったりと、アビドス編の後に俺が過労でぶっ倒れるまで、そう言う形でシャーレを動かしていた。

 

 ……ああ、そう言えば、俺がぶっ倒れた時のワカモは本当に取り乱していたな。

 

「申し訳ございません……申し訳ございません……っ、いつもあなた様をお守りすると言っておきながら、この体たらく……! あなた様のお身体を間近で見ていたにも関わらず、このような兆候には気付けず、更には……更には、肝心な時にお側を離れているなどと……ッ!!」

 

 夜の病室。車の往来も収まり、すっかり静かになった闇の中。

 俺の寝るベッドの前に体を投げ出して、ワカモはひたすらに謝罪を繰り返す。

 そのすっかり腫れてしまった目からは涙がとめどなく溢れ、髪はボサボサに荒れている。

 

「到底、到底許されるべき事ではありません……罰を……どうか、この愚かな私めに罰を下さい……どのような罰でも喜んで受け入れます……ですから……どうか……どうか……」

 

 私を、嫌いにならないでください……

 必死の懇願が、病室の闇の中に溶けて消える。

 

「…………馬鹿(ヴァカ)め」

「ッ…………!」

 

 ワカモの体がビクリと震えた。

 

「俺が、お前の事を嫌いになる? そんな事有り得るわけがねぇだろうが。むしろお前が俺のことを嫌いにならなかったか、ずっと心配だったわこっちは」

 

 そうだ。この件は単なる俺の意地が招いた事態だ。

 ワカモは以前から俺の仕事を手伝おうとしてくれていた。

 そしてそれを全て突っぱねたのは俺であり、つまるところ俺の自業自得でしかない。

 この体たらく、ワカモに見限られたとしても、何ら不思議ではないと言うものだ。

 

「そ、そんな事は絶対に! 絶対に有り得ません! わ、私があなた様を、そんな……!」

 

 だが、ワカモは俺のことを見限らなかった。

 それどころか、現に自分に非があると己を責めてすらいる。

 

「つまり同じ事だ、ワカモ。お前が俺のことを嫌うわけが無いように、俺がお前の事を嫌う事も無い。俺はお前の事を、他の誰よりも信用してるんだ。だから安心しろ」

「…………ッ!」

「ッ、……」

 

 感極まったのか、ギュウッ、と、俺の体が軋みそうな程に強く俺を抱き締めるワカモ。

 あまりの強さに思わず声が出そうになってしまうが、どうにかそれを抑えて、俺もワカモを抱き返す。

 

「……有難う、ございます……!」

「こっちの台詞だ……ったく」

 

 

 ────この後、当番制が機能し始めてからは、ワカモは裏方に回る事が多くなった。

 面倒事を先んじて排除してもらったり、立場を利用してマッチポンプを仕掛けさせてもらったりと、まぁ色々だ。

 ワカモが俺の食事を作り始めるようになったのも、確かこの頃だったか。

 俺と一緒にいる時間が減った分の埋め合わせ、と言う事らしい。

 何にせよ、今でも有り難く食べさせてもらっている。

 

 

 

 さて、この時点で既にワカモは俺にとって『特別』な生徒であると十分に言えるのであるが、しかしやはり、ワカモが俺にとって、明確な『特別』になった一番の要因は、エデン条約編の前の一件だろう。

 

 と言うのも、だ。

 知っての通り、エデン条約編はガチの綱渡りだ。

 疑心暗鬼による、勘違いとボタンの掛け違いの連鎖。

 憎悪、信念、後悔、好意、意地……それぞれの思いを抱えた登場人物達の感情が複雑に絡み合い、紡がれた細い糸を伝って辿り着ける、奇跡のようなハッピーエンドの物語。

 だが、それは俺の行動一つで容易く崩壊する。

 ほんの些細なミスであっても、それが詰みに直結し得るのだ。

 俺が取ることの出来る全ての選択肢において、最善のものを選び続けられなければ、その時点で全てが終わると言って良い。

 キヴォトスは崩壊し、多くの生徒が死に、俺も死ぬ。

 

 それ故に、当時の俺の心的負担は凄まじいの一言だった。

 眠れない夜は何日も続いたし、ナギサに呼ばれて補習授業部の顧問に就任した日の夜なんか、ストレスで何も胃が物を受け入れず、何度も吐いた。

 当時の俺は、本当の本当に追い込まれていたのだ。

 当然、そんな俺を見逃すワカモでは無い。

 

「……あなた様」

「ハッ、ハッ……ワ、ワカモ、ワカモか、ハッ、ああ、クソッ……」

 

 シャーレの自室のデスクで頭を抱え、過呼吸気味になりつつある息を何とか治めようと格闘している俺の元へ、ワカモは音も無く現れた。

 寝巻きを着て、素顔を晒した彼女。その顔に浮かんでいる表情は、酷く険しい。

 

「し、心配、させたか? ハッ、いや、すまん。すぐに、すぐにきっと、良くな────」

「ッ!」

 

 俺が言葉を言い切る前に、彼女は俺を自分の胸に抱き寄せ、そのままベッドへと倒れ込んだ。

 

「……?」

 

 あまりにも唐突すぎるそれに、俺は何をされたのか理解できなかった。

 視界が塞がれていて、何も見えない。

 ただ、柔らかく、いい匂いのするものに包まれている、と言うことだけは分かった。

 

「私の心臓の音を聴きながら、ゆっくりと息を吐いてください。さぁ、いち、に、さん……」

 

 ワカモの声が聞こえて、俺はようやく自分がワカモの胸に抱かれていることに気づいた。

 普段だったならばここで慌てでもするのだろうが、生憎とその時の俺にそんな余裕はなかった。

 ただ言われるがままに、トクン、トクンと鼓動する心臓の音を聴きながら、息を吐く。

 そうすれば、驚くほど容易く正常なリズムを取り戻す事ができた。

 

「……有難うワカモ。助かった」

「…………ッ」

「……ワカモ……?」

 

 俺はワカモから離れようとする。

 しかし、ワカモの腕が俺を捕まえたまま離さない。

 

「おい……?」

「私では……力不足でしょうか?」

 

  か細く、消えいってしまいそうな声がした。

 

「……え?」

「あなた様がここ最近……いえ、私と出逢ってからずっと、何かに苛まれておられる事は存じていたつもりです。……私と話している時も、あなた様の心は私には無い。あなた様の心はずっとそこにあり、ずっと苦しんでおられます」

 

 その通りだった。

 俺の心は、常に今後のストーリーにあった。

 ワカモの言う通り、彼女と会話をしている時にも、俺は今後のストーリーについてずっと考えていた。

 

「私では、力不足でしょうか……ッ!? 私は、それが何であるか、ずっとあなた様に話していただきたかった……ッ! そうすれば、きっとあなた様の負担を些細ながらも減らせると、あなた様に真に寄り添い、支える事ができると、そう思っておりました……ッ!」

 

 ワカモの声が、痛々しいまでに震える。

 

「しかし、あなた様は遂にこのような事態になってしまわれるまで、私に何も話しては下さらなかった!! そしてこれからも、あなた様は一人でそれを背負って行かれるつもりだった!!」

「ワ、カモ……」

 

 ここからワカモの表情は見えない。だが、きっと彼女は泣いている事だろう。

 ワカモの悲痛な慟哭は続く。

 

「私では、私では力不足なのでしょうか!? 私では、あなた様に真に寄り添う事はできないのでしょうか!? あなた様の、ほんの些細な支えにもなれないのでしょうか……っ!?」

「…………」

 

 そんな事はない、と言ってやりたかった。

 だが、言えなかった。

 事実、ストーリーと言う未来を知っているのは、俺一人だけなのだから。

 

「お願いします、お聞かせください……あなた様を苛まれるそれの正体を……絶対に公言しないと約束しましょう……確実に墓場まで抱えて行くと誓いましょう……ですから……どうか……」

「…………俺、は…………」

 

 天秤が揺らぐ。

 

「お願いします……お願いします……ほんの少し、ほんの少しだけで良いのです……私は、本当にほんの細やかなものでもあなた様の支えになりたいのです……」

「………………おれ、は………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てを話した。

 ブルーアーカイブと言うゲームの事、メインストーリーの事、滅びが近づいてきている事、それら全てを話した。

 当然、俺がワカモの好意を利用した事もだ。

 

「……ははっ、最低だよな……お前が……お前が俺の事を好きになってくれたって分かって……お前が俺の事を盲信してくれるって知ってて……お前の事を利用したんだ、俺は……」

「ッ…………!」

 

 ワカモの体が震える。

 俺を抱きしめる力が強まり、ドクドクと心臓の鼓動が速く、そして強くなるのがわかった。

 このまま締め殺されるのだろうか、と。そう思った。

 

「嗚呼……嗚呼……っ!!」

 

 自分の想いを利用されたのだ。そうしても、無理はない。

 

 

 

 

 

 ()()()()()……っ!!!

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 そう思っていたからこそ、俺は自分の耳を疑った。

 

「これほど……これほど嬉しい事がありましょうか……! あなた様が、私を、私の愛を、知ってくださっていた! 信じてくださっていた!! これがなんと、なんと喜ばしいことか……!!」

「……いや、もっと他に言う事は……もっと大事な事があるだろ……?」

「いえ! そのようなものはございません! 私にとって重要なのは、ただあなた様が私の愛を信じてくださっていたと言う、ただ一点のみ!! 嗚呼、嗚呼! このワカモ、その事実だけで達してしまいそうです……!」

「それはやめろ?」

「ああん、そんなご無体な……」

 

 思わず素に戻ってそう言う。

 

「…………あ?」

 

 そして、俺は自分が泣いていた事に気づいた。

 ぐしと拭うが、涙は滂沱と流れて止まらない。

 

「……ふふっ、ええ、どうぞ、私の胸の中で……」

「……あー…………クソ…………」

 

 泣いた。本当に泣いた。

 惨めったらしく、キヴォトスに来て初めて誰かの胸で泣いた。

 

 思えば、キヴォトスに来てから、俺はただひたすらに『先生(クソガキ)』として動き続けて来た。

 故に、たとえ『先生(クソガキ)』としての俺が認められても、それは『未熟だが未熟なりに頑張っている俺』が認められているのであって、きっと『■■(おれ)』では、『青春の物語(ブルーアーカイブ)を知っている、別世界の学生としての『■■(おれ)』』では無いのだ。

 

 だから、初めて『■■(おれ)』を『■■(おれ)』として認めてもらえて、愛してもらえて、俺は本当に嬉しかった。

 それこそ、救われたとすら思った。

 そんな事があったからこそ、ワカモは俺にとって明確な『特別』になったわけだ。

 

 ……で、それからはまぁ、ワカモに俺の弱みを見せる事が多くなった。

 政治やら権力やら利権絡みの件に突っ込んで疲れた時には尻尾を使わせてもらったり、最終編の前は不安になっているところを励ましてもらったり、最終編が終わった後は悪夢を見ないように同衾してもらうようになったりと、メンタル関連で色々と助けてもらうようになったのだ。

 

 だから俺がワカモに……生徒達にそう言う魅力を感じ始めた時は、本当にどうすれば良いか困った。

 

 狐坂ワカモと言う生徒は、それはもう魅力的だ。

 顔良し、スタイル良し、声良しと三拍子揃った素体の良さに加え、能力も非常に優秀で、俺の事を心身共に長い間支えてくれるだけの器量の良さを待ち合わせ、それでいて俺の事を好きと公言して憚らない。

 好きになる要素しか無いと言うものだ。

 最早俺の理性が削り切れるのは時間の問題だった。

 

 故に、俺は彼女を遠ざける必要があった。

 だが、彼女はその時には既に俺の日常生活をどうしようもないくらいに侵蝕していたのだ。

 依存とまではいかないにしても、彼女無しの生活というものは、正直かなり俺にとって厳しいものだったし、何より彼女が全力で嫌がった。

 

 だから、俺は相当な無理を彼女に頼む事にした。

 それは『現状の生活を維持しつつ、その上で最大限俺の視界に映らないようにする』事。

 関白宣言もびっくりなレベルの無茶振りだ。

 しかし、それでも彼女は嫌な顔一つせず、それどころか喜んでそれを受け入れ、今日までずっと遂行してくれている。

 

 彼女の献身には、ひたすらに頭が下がるばかりだ。

 反対に、俺の情け無さには腹が立つばかり。

 せめてもの礼として幾つかの贈り物を贈ったりしたりしてはいるが、そんな事で到底足りるなどとは思えない。

 

 だから、俺は───────

 

 

 

 

 

 

「ワカモ」

「……はい、何かございましたか、あなた様?」

 

 暗い自室の中。

 覚悟を決めて彼女の名を呼べば、彼女は音も無く部屋の隅に現れた。

 

「……ワカモ」

 

 ポケットに手を突っ込む。

 

「これを…………お前にやる」

 

 そして、ワカモの手に、()()()()()()をポンと置いた。

 

「…………ッ!? あ、あなた様ッ!? こ、これは……ッ!?」

 

 ワカモが酷く取り乱した様子で俺と小箱を交互に見る。

 当然だ、それを送ったと言う事は、()()()()()()()()であり、俺もそのつもりで送ったのだから。

 だが、俺は先生だ。ハッキリとそう伝えてやる事はできない。

 だから、俺はこう言う抜け道を用意した。

 

「いいか、ワカモ。よく聞け。……間違っても、その箱を開けるんじゃないぞ。それは俺が今最大限できる、今まで、そしてこれからの感謝、そして『約束』の証だ」

 

 だから、と。ワカモを指差す。

 

「もし……もしその時が来たら、俺がその箱を開けてやる」

 

 それがどれくらい後になるかはわからない。

 だが、いつかは絶対にそうする。

 

「……その、何だ。今まで有難う。今後とも宜しく……ってやつだ」

 

 そう言って、俺は頭を下げた。

 後は、返事を貰うだけだ。

 

 心臓が早打つ。

 額に汗が滲む。

 拒絶されたらどうするか、なんて思いが脳裏に過ぎる。

 しかし、彼女ならきっと受け入れてくれるはずだ。

 半ば祈るようにして、その時を待つ。

 

 

「…………………はいっ、喜んで……!」

 

 

 感極まったような、震える声が耳朶を打つ。

 斯くして、俺の人生最初の告白は成功したのだった。




 面白いかどうかは知らん!
 前の話との矛盾点があるかも知れんが、それも知らん!!
 俺はただワカモへの『好き』をここに詰めた!!
 感想を書け! 評価を付けろ! これが俺の愛の形だ!!
 
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