待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
もうもうと立ち上る湯気の中から、黄金色の麺を満たした
それを一度、二度と。力強い音を立てて振るって水気を落とした後は、器に満たされた狐色のスープの中へ。
そこへチャーシュー、メンマ、卵と。すかさずトッピングが載せられる。
最後に海苔を一枚そっと添えれば、そこに生まれたのは一つの完成された芸術。
その名も、『柴関ラーメン』。
美しい金と茶のコントラストから湯気を立ち上らせ、
しかし、席に座った俺は、ひたすらに不動を貫く。
目をその一杯に釘付けにされ、口の中に溢れ出す涎を抑えて、ただその時が来るまでひたすらに耐える。
そして、ついにその時は来る────
「へいお待ち!!」
「待ってましたァ!!」
ドン、と器が目の前に置かれた瞬間、割り箸を取って二つに割り、親指と掌の間へ。
そして、パァンと音を立て、食材への感謝、柴大将への感謝、そして敬意を込めて合掌。
「いただきまァす!!」
「おあがりよォ!」
箸を持ち直し、スープの中へ。
麺をひと束掴み取り、口に含んで一気に吸い上げる!
瞬間、口の中に広がるのは、麺とスープによって奏でられる、何とも言い表し難い喜び!
しっかりと熟成されたであろう麺は確かなコシがあると同時につるりと滑らかで、醤油スープの絶妙な塩加減と馥郁たる香りはその旨さを更に引き立てている!!
旨いッ!! 旨すぎるぅッ!!
あまりにも完成し尽くされたその味わいに、俺の箸はもう止まらない!
瞬く間にトッピングと麺が俺の胃袋の中へと収められる!
だがしかし、俺の胃は! 肉体は! 更なる食事を望んでいるッ!
「大将ォ!!」
「あいよォ!!」
すっかり寂しくなってしまったスープの海に投下されるのは、黄金色に輝く第二の太陽!!
それ即ち、替え玉である!!
これには俺の内臓たちもスタンディングオベーションを隠せない!!
内臓筋をこれでもかと蠕動させ、一瞬で先程のラーメンを消化!!
十秒も満たない間に空腹状態へ移行! 腹の虫は大合唱!!
たまらず麺へと箸を伸ばす!!
「うおおおおおッ! 旨い! 旨いぞォォォォォッ!!」
鬼に金棒、虎に翼、空腹状態に柴関ラーメン!!
食事を欲する体に、最強の麺が染み渡る!!
至福ッ!!
なんたる至福ッ!!
最高の『美味』がいつまでも、無限に続くという、至福ッッ!!!
「ッ……!?」
だがしかし、麺は有限……ッ!!
麺の喰らい尽くされた器に伸ばした箸は、虚しくスープを掴むのみ……ッ!!
だが、まだだ!
まだ俺のバトルフェイスは、終了していない!!
「……大将ォッ!!」
「そらお待ちッ!!」
新たに現れるのは第三の太陽!!
替え玉、もう一丁であるッ!!
そう! 俺の今の手持ちは5万円!!
そして、替え玉の値段は300円!!
柴関ラーメンが580円であるからして、俺は残り100回以上替え玉が可能なのだ!
……いやまぁ、流石にそんなに食えるわけでもないのだが。
だいたい腹八分目、替え玉五つ分で今回はフィニッシュである。
「ふぅ……食った食った」
コップに注がれた冷水をぐいっと呷る。
ラーメンによって熱された体に、心地良い冷たさがすぅっと沁みる。
「いやぁ、相変わらずいい食いっぷりだったなぁ! シャーレの先生!」
カウンターの向こうでガハハと豪快に笑うのは、原作通りアビドス編で店舗を爆破されたが、それでも立ち直って、屋台で再スタートした我らが柴大将。
「いや、いくら何でも食べ過ぎじゃない? 太っても知らないわよ?」
そんな柴大将の隣で呆れたような視線をこちらに送るのは、頭に生えた猫耳が特徴的な少女。
本日の当番にして、アビドス高校対策委員会所属、黒見セリカである。
そんな彼女は柴関ラーメンでバイトをしており、今日はバイトがあると言う事で、当番を早上がりしようとしたところに俺が便乗。
そして久々の柴関ラーメンを、しっかりと堪能した言うわけだ。
「
逆に痩せるのは全力でお断りする。
ただでさえシャーレは普段からハードワークなのだ。
ヒョロっちい体じゃあやってられん。すぐに倒れてしまう。
「ええ……何よそれ……」
しかしまぁ、女子からすればその感覚は信じられないものか。
セリカが顔を歪め、思いっきりドン引きしている。
「男は太いのがカッコいいんだよ。それとも何だセリカ。お前はムキムキな俺より、ヒョロヒョロな俺の方がカッコいいってのか」
「……い、いやそれはその……た、確かにがっしりしてる方がカッコいいけど……!」
真っ赤に染まった顔を伏せ、恥ずかしそうに答えるセリカ。
そんなセリカの様子を見て、ふぅむ、と唸る柴大将。
「……どうだい、先生? ムキムキの素、もう一杯いっとくかい?」
「いいや、今日は帰りがあるんでな。これで遠慮しておこう」
「ああ、そうか。いくら食っても帰りの電車でゲロっちまったら世話ねぇわな!」
はっはっは、と二人して笑う俺と大将。
「……じゃあ、どうなのよ」
「あん? 何だって?」
顔を俯かせたままのセリカが、何やら言っている。
俺が笑うのをやめて耳を傾けると、セリカはバッと顔を上げ、叫んだ。
「じゃあ! 先生は太い女と細い女! どっちが好きなのよ!!」
「……はぁ!?」
「おーおー……こりゃあ……」
驚愕する俺。ニヤニヤとし出す大将。
「えぇ……いやぁ……えぇ……?」
答えあぐねる俺。
いきなりどっちが好きと言われても困ると言うものだ。
俺はユウカやハスミのような太さも、カヨコのような細さも魅力的に思えてしまう。
どっちと言われても、明確に答えを出すことが出来ない。
「……やっぱり、ノノミ先輩みたいなのがいいの?」
「ああいや、まぁその……魅力的……魅力的ではあると思うが!」
「やっぱりああ言う大きいのが好みなの……? 私みたいなのは興味ないの……!? 私の事は嫌いなの……ッ!?」
「いや違う! それは違うぞセリカ!」
若干涙目になりながらカウンター越しに俺に言い募るセリカから、体を逸らしつつ答える。
「いいか!? お前は十分魅力的だ! 可愛いし! 努力家な所に好感が持てるし! 仲間思いだし! 脚とか滅茶苦茶綺麗だし!」
「おうおうおうおうおう! いいねいいねぇ!」
「…………ッ」
セリカの顔が更に真っ赤に染まる。
「あの……なんかもう、少し間違えたらそう言う目でお前を見ちまいそうになるくらい魅力的だから!」
「おおおおおおおお!」
「へ!?」
セリカの顔が驚愕に歪む。
「安心……はしないで欲しいが! 本当にそうなりそうだからあんまり俺に近づかないで欲しいが!」
「もっとだ! もっと行け先生!」
「へぇ!? えぇ!?」
セリカが挙動不審になり始める。
「とにかく! 俺がお前を嫌うわけがないし、興味がないわけもないんだよッ!!」
「よぉく言ったぁ!!」
「はぇ、あ、あああああああああああああああああああああ!?」
俺がそう指を突きつけると、叫びながらどこかへ走り去ってしまうセリカ。
「……あ、やべ。やっちまった」
「いいや、いい。いいねぇ、先生。やっぱりアンタ、漢だよ」
腕を組みながら、うんうんと頷く大将。
「そうかねぇ……ってか、追いかけねぇと……」
「ああいや、そっとしといてやんな。今は。今日は帰って、今度会うときにでもしっかり話してやれ」
「ああ……大将が言うなら、そうさせてもらうが……」
ポケットから財布を取り出し、代金をカウンターの上へ。
ガタリと席を立ち上がり、スーツを直す。
「じゃあ、また」
「おう、毎度!」
軽く手を上げ、夜の街へ。
……しかし、今度会うとき、ねぇ……
アビドス近くの学校に出向く事があったら、ついでに寄っておくかぁ……
ちなみにマジで食っても食っても腹が減ります。(16歳スポーツマン並感)