待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
「おい先生、来てやったぞ!」
午前八時半。
シャーレの始業時間になると同時に執務室のドアがバンと開かれ、ズカズカと一人の生徒が入室し、そのまま俺の方へ向かって歩いて来るので、それに対して俺は手を突き出し、いつものを一つ。
「おう。最初に言っておくが、あんまり俺に近づくなよ。俺の性癖が歪むからな」
「ああ、わかっ………………は?」
────さて唐突だが、銀鏡イオリと言う生徒をご存知であろうか。
一応言っておくが苗字の読みは『ぎんかがみ』ではなく『しろみ』である。
ゲヘナ風紀委員会に所属する、褐色の肌とツインテールの銀髪が特徴的な二年生だ。
さて、そんな彼女であるが、原作においてその立場は……まぁ、『被害者』である。
初登場時では上司からの命令に従った結果、独断行動だと責任転嫁される。
次回登場時には原作先生に冗談で足舐めを要求した結果、マジで舐められる。
絆ストーリーでは穴に落ちた所を原作先生に激写されたり、小学校の卒業アルバムを原作先生に裏ルートで入手されたり、原作先生にナチュラルにストーカーされたり、水着になった時には原作先生に足をセメントで固められた上で写真を撮られまくったりと……
そんな具合で、最初のやつはともかく、主に原作先生によってかなり酷い目に遭っている。それもかなりキモい方向に。
プレイしていた当時、原作先生のあまりのキモさに俺は思わずドン引きしていた。
たぶん他のプレイヤー方もドン引きしていたと思う。
何故ならイオリに接する先生のキモさが、明らかに尋常ではなかったからだ。
だが、それにも関わらず、原作先生はイオリから一定の信頼を得られている……どころか、なんなら全幅の信頼を置かれているまであった。
つまり、原作先生の変態行動は銀鏡イオリと言う生徒にとって、これ以上無いくらいのパーフェクトコミュニケーションだったと言える。
その行動をトレースすれば、イオリとの信頼関係を築く事はそう難しくないと言う事だ。
しかし、このキヴォトスにおける『先生』は、原作先生ではなく俺である。
原作先生のような度胸も勇気も変態性も持ち合わせていない、ただのクソガキである。
だから俺はイオリに関して、原作通りに進めるか否かと悩みに悩んだ。
最初の足舐めはまだいい。あれに関しては向こうから言い出してきたことだし、ストーリーにも関係がかなりある上、プライドを捨てれば何とかなる。
だがその後が無理だった。
主要キャラ達との信頼関係の構築は特に重要な事項だと分かってはいたが、そんな事をする勇気も度胸も変態性も俺には足りなかったのだ。
しかし、原作通りには出来ないにしても、やはり信頼関係の構築はせねばならない。
そうなると、別のアプローチを考える必要があった。
で、当時だいぶ頭をやられていた俺は、こんな方法を思い付く。
その名も、友情大作戦。
同年代であるという事を最大限に利用して友人としてイオリに接し、違う方向性での信頼関係を築き上げると言う、頭悪い上に最悪の作戦であった。
今の俺だったら一も二もなく却下している所だが、しかし頭をやられていた当時の俺にそんな冷静な判断力はなく、実際に作戦を開始してしまう。
そしてその結果だが────
なんと大成功であった。
今までに培ったコミュ
当時の俺はあまりの呆気なさに若干の不安を覚えつつも、結果オーライとしてイオリをその状態で放置。
その後のストーリーを順調に進めて、無事に最終編をクリアし、今に至るわけだ。
つまるところ、今のイオリは俺と滅茶苦茶仲が良い状態。
それに対して俺は今、先生としての立場のため、生徒たちから距離を取らなくてはならない。
さて、そんな状態で俺が彼女と距離を取ろうとしたらどうするか。
「……何だ、いきなり変なこと言って? ああ、もしかして、私に構って欲しいのか? 全く、お前はいっつも変なところで意地張るよな」
「いや違うんだよなぁ!?」
自分で勝手に納得して、警告を無視し、再び俺に向かって進み始めた。
何と言うことだろう。普段からこう言うノリで接していたせいで、今回のガチの警告もいつものノリの一つだと勘違いされてしまった。
これはまずい。本当にまずい。
このままではイオリに性癖を破壊されてしまう。
俺は何とかイオリから距離を取るべく立ち上がり、机を挟んでイオリと反対方向になるように動く。
「やっぱり私に構って欲しかったんだな。全く……仕事も溜まってるんだろ? 構ってやるから、ちゃんと仕事するんだぞ?」
「だから違うって言ってんだよなぁぁぁッッ!?」
ぐるぐると、机の周りを走り出す。
しかし流石は風紀委員。足がべらぼうに速く、扉から抜け出してトイレに向かう暇も、言葉でイオリを説得する暇もない。
俺はどうすることもできず、ただひたすらにずっとぐるぐると机の周りを回る。
「……はぁ、はぁ……」
そして、そのままおおよそ十分が経った頃、ようやくイオリの動きが止まる。
「おい先生! 捕まりたいんならさっさと捕まれ! 仕事ができないだろ!」
「だから違うって言ってんだろうが! 俺に近づくんじゃねぇ、性癖が歪む!?」
「……せ、性癖ッ!? どど、どう言うことだ!? 説明しろ!?」
ようやく俺の警告が本気だと言うことに気付いたイオリが、バンと机を叩く。
それに対して俺も机を叩き、指を突きつけて告げてやる。
「いいか!? お前はなぁ! あまりにも蠱惑的が過ぎるんだよ!? わかるな!?」
「は、こ、蠱惑的ッ……!?」
「なんだその褐色の肌は!! 何だその健康的な脚は!! 何だそのハイヒールは!? 蠱惑的が過ぎるわ!!」
「なっ……おっ、お前、私をいつもそんな目で見てたのか!? 私の足を舐めた時も!?」
「その時はそれどころじゃ無かったわ
いや本当にイオリの脚はヤバい。
褐色の肌と程よく脂肪と筋肉の付いた質感がマジでエロ過ぎる。
実際に触った時なんかマジで手に吸い付くみたいだった。
まぁ、その時はそれどころじゃ無かったから、うわぁすげぇくらいにしか思っていなかったが。
「それにだ!! お前俺と距離が近過ぎるし肌見せることに躊躇が無さ過ぎるんだよ! 何だ俺に背中の包帯巻けって!! 目の前で服脱がれた時の俺の気持ち考えたことあるか!?」
そう、俺も絆ストーリーとは違う形で、イオリの包帯を巻いたことがあるのだ。
いやまぁその時もやっぱり余裕がない時期だったから、綺麗な背中してるなーくらいにしか思わなかったが。
だが今思い出したらマジでヤバい。死ぬ。先生的に死ぬ。
「うっ……せ、生徒に欲情するって……は、恥ずかしくないのか!?」
顔を真っ赤にしてこちらを睨み付け、話題を逸らすようにバンバンと叩きながら俺を糾弾するイオリ。
「
「ぐ、ぐっ……! し、仕方ないだろ!! 背中には手が届かないんだ! 前はしっかり隠したし、その程度なら水着の時にも見ただろ!?」
「あぁそうだ! その水着も問題だァ!! 露出面積が大き過ぎるんだよなァオイ!! 何だアレは!? もうほぼ裸じゃねぇか! 目線のやり場に困りまくったわ!!」
そう。イオリは水着がマジでヤバい。
なんかもうそっちのビデオの撮影くらいにしか使わねぇんじゃねぇの? みたいな。
隠さなきゃいけないところ以外が殆ど隠されていない、少なくとも高校生が外で着ていい水着では無かった。
泳ぎの練習に付き合った時なんか本当に見えそうになって、慌てて目を逸らさなきゃマジでまずかった。
「お前何なんだよ!? 籠絡か!? 俺を籠絡しに来てるのか!?」
「なッ、何を言ってるんだ!? どっちかって言うと籠絡したのは先生の方じゃ……って違う! 私はそんなのじゃない!」
「まぁこの際何でもいい! とにかく今後は俺にあんまり近づくんじゃない! 俺の性癖が破壊されて、大変な事になるからな!!」
そう言ってビシリとイオリを指差す。
「〜〜ッ!! ……わ、わかったよ……」
「よォし、それでいい。それじゃあ早速仕事に入ろう」
するとイオリは何か言いたげにしていたものの、最終的に閉口して大人しくなった。
よし、これで一安心だ。俺はスーツを整え、椅子に座る。
「……なぁ」
そして書類の一枚を取り、仕事を始めようとしたところで、席に座りながらイオリが口を開いた。
「なんだ?」
「今回みたいな事、あんまり他の生徒にはするなよ? 私だったからよかったけど、他だったら襲われても知らないからな」
「ああ。わかってる」
そういえば、同じような事をユウカにも言われたなぁ……
でも正直、アロナと常駐組がいるから割と大丈夫なんだよなぁ……
まぁ、いつでも救助を呼べるようにはしておくか……
ちなみに、その後の業務はつつがなく終わった。
イオリが帰り際にものすごく不安そうな顔をしていたのが気になったが、まぁ大丈夫だろう。
さて、それじゃあもう俺は寝るとするか。
イオリの水着、よく審査通ったなと思いました。