待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
金は基本的に万能である。
現代において、金に買えないものはまず無いだろう。
よく愛だの時間だのが金で買えないものとして挙がるが、逆に言えばそれ以外は金で買える。
偉大なる先人方がそういう風になるよう、社会を作ったからだ。
さて、そんな金であるが、現代には金にまつわる、このような言葉がある。
いわゆる、『金は天下の回りもの』と言うものだ。
これは即ち、金は一箇所に留まっておらず、金がない者の手にもいつか金は舞い込んでくるし、金がある者の手からはいつか金がなくなっていくと言う、つまり金に限定した栄枯盛衰を表す諺だ。
そんな諺を俺が知ったのは、俺が中一の時。
どこぞの本にそう書かれていたのを読み、意味をネットで調べて学んだのだ。
ちなみに、当時の俺の感想は『そんなわけ無ぇだろ
いや、だってそうだろう。金なんてシステムを作って、今まで継続してきたのは有力者、つまり金を持っている連中だ。
そんな有力者達が、自分がいつか破滅するかもしれないシステムなんぞ作るわけがない。
金は金のあるやつに集まるし、金のない奴には集まらないように出来ているのだ。
民衆が暴力に訴えられた過去ならばともかく、現代ならばそれは尚更。
転落人生なんて言葉があるが、そんなのが起こるのは精々が中流。
本当の上流は、転落しないように金に物を言わせて手すりを作るのだ。
んで、そんな手すりの中にいきなり貧民が登り上がってしまうと、こうなる。
「う、うごごごご……か、金ってこれ以上どう使えばいいんだぁ…………ッ!?」
執務室のデスクに突っ伏した俺の手に握られるのは、俺の口座の通帳。
その預金残高、日本円にして約1兆円。
16歳の学生が個人で持って良いレベルの資産ではないと言うのはわかっているが、金の方から俺に舞い込んでくるのだ。
何故常駐組もアリスクもRABBITも、稼いだそばから俺の口座に入金する?
何故ゲマ連中は小遣い感覚で億を入金する?
何故連邦生徒会は事あるごとに俺の給料を上げる?
おかしくないか?
「ええいッ……気の利いた使い道が思いつかん……ッ!」
俺としては早急にこれを片付けたいところなのだが、元貧民である俺からすれば、金持ちの金の使い方などサッパリ分からん。
SRT再建に1000億くらいは使えたとしても、残り9000億である。
わかりやすい高級品にしても、高級車は免許持ってないから買えないし、貴金属類は買ったらいつの間にか指輪に改造されてるのが怖すぎて買えないし、土地とか建物も下手すれば俺がカイザーの二の舞になりかねんから買えない。
株も投資もただでさえ素人な上に無駄に影響力がデカい俺がやった場合、なんか市場が変な事になりそうだから出来ない。
一応スーツやら腕時計やら、買えるものは何億とか何千万とかのを使っているが、その程度だと増える方が圧倒的に早すぎて無理だ。
ああ、着任初期の数万円のスーツを買うのにすら必死こいていた時代がもはや懐かしい……
「別に、そこまで焦る必要はないのではないですか〜?」
対面から、のほほんとした声でそう言うのは、本日の当番。
アビドス高校対策委員会のメンバー、十六夜ノノミである。
そんなベージュの髪とエメラルドの瞳が特徴的な彼女は、9億の借金すら一発でどうにでも出来てしまうような、ゴールドカード保持者。
俺と同様に金が余っている彼女であるからこそ、俺もこんな愚痴を吐けるのだ。
「ゆっくり、じっくりと使っていけば良いじゃないですか。時間はまだまだ、たっぷりあるんですから⭐︎」
「……まぁ、それもそうなんだがなぁ……」
事実、最終編が終わった今、時間は割と余り余っている。
まだあっちこっちでゴタゴタが起きていたりするが、まぁ、平和だ。
「ぬぅむ……しかしなぁ……俺が今後死なないって保証も、外の世界に帰らないって保証も無くてなぁ……」
「…………」
だが、俺の場合、この二つの可能性が常に付き纏って来る。
俺はカルバノグ2章以降の話を知らん。
この先、とんでもない重要な分岐があったとしても、原作知識がない俺には気付けない可能性がある。
それこそ、デカグラマトンなんかがその筆頭だろう。
あの辺は確実にヤバい。
今でこそ平和に過ごせているが、まだまだ完全に気を緩ませて良いと言うわけではないのだ。
「………………もう、先生! 冗談でもそう言う事は言っちゃダメですよ!」
「ん? ああ、すまんすまん。だがまぁ、そう言うこともあってな。あんまり金は残しておきたくねぇんだわ、俺」
まぁ、どうせ死んでもリンちゃんかアオイあたりがどうにかしてくれるだろうが。
あの二人なら普段からこのくらいの額には触れてるだろうし、大丈夫だろ。
「……ああいや、あの二人に変な事させるんなら、ゲマ連中に頼んでも良いな。アイツらなら上手いこと市場にばら撒いてくれ……」
「もう!!」
「うおっ!?」
突然、対面からノノミがこちらへ手を伸ばして来たので、俺は慌てて後方へと下がる。
「どうしてもやめないって言うのなら、その口、私が塞いじゃいます⭐︎」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!? 待て待て待て待て待て!?」
そう言って机を周り、こちらの方へと走って来るノノミ。
俺は即座に椅子を蹴って逃走を開始する。
「待ちません! 私の心を悲しませた罰です!」
「だああああああッッ!? 待て
ノノミが走る事で、否が応にも暴力的なまでに揺れるそれが俺の視界に映り込む。
アレはマズい。本当にマズい。俺の理性がゴリゴリ削られてゆく。
このままアレを見続けてしまえば、俺の性癖が死ぬのも時間の問題だろう。
しかし、何とか視線を逸らそうにも、そうすればそうするで今度は捕まってしまいそうになる。
「くっ!!」
こうなって仕舞えば最後の手段だ。
俺は執務室から脱出し、男子トイレの中に駆け込む。
「あ! もう、先生、卑怯です!」
「うるせぇ
「少しくらい良いじゃないですか! 最近はあまりアビドスにも来てくださらないですし、私、寂しかったんですから!」
「いや知るかァ!! だからって追いかけて来るんじゃねぇ!? 俺の性癖がぶっ壊れても良いのかオイお前!?」
「良い子ですから、早く出て来てくださ…………え?」
扉の前に居たノノミが急に静かになる。
よし、今のうちだ。
「いいか!? お前に自覚が有るか無いかは知らんがなぁ! お前の体は俺みたいな思春期男子高校生には刺激が強すぎるんだ! だからそんな、あんまり俺に密着しようとするんじゃねぇ! お前声も良いし顔も可愛いし滅茶苦茶優しいし! 俺の性癖が歪むんだよ!」
トイレの中から、思いっきりノノミに向けて叫んでやった。
そう、ノノミはマジでヤバい。
色々デカいし、可愛いし、声も良いし、優しいしと、男が好きな要素しかなくてヤバい。
身長が160センチくらいなのも丁度良くてなおヤバい。
それで膝枕だの耳掻きだのと、平気で誘ってくるのだからダメだ。
気を抜いたら本当に好きになりそうだから怖い。
「いいか? わかったかノノミ?」
「…………」
「…………おい、ノノミ?」
「…………」
扉越しに返事を求めるが、いつまで経っても返ってこない。
もしかして、俺の言葉にショックを受けてしまったか、と扉を開けようとした、その瞬間。
「────うふふっ♡」
バッ、と手を引っ込めた。
全身の肌が粟立ち、思わずシッテムの箱に手を伸ばしかけてしまう。
「わかりました、先生。今後しばらくは、先生にはあんまり近づかないようにしますね〜⭐︎」
「……あ、ああ。わかってくれたか、ノノミ。おかげで助かった」
念の為最大限警戒しつつ、扉を開ける。
するとノノミは、何をするでも無く、いつもの柔和な笑みを浮かべてそこに立っていた。
「あー……何。それじゃあ、頼むな?」
「はい!」
踵を返し、執務室の方へ。
「……楽しみに、しててくださいね〜♡」
すると、後ろからそんな事が聞こえて来た。
振り返ってみると、やはりいつもの柔和な笑みを浮かべたノノミ。
「……………何をだ?」
「うふふ♡ それもお楽しみ、です♡」
ノノミは人差し指を唇に当て、ウィンクしながらそんな事を言う。
…………………うん、もう既に嫌な予感しかしない。
〜クソガキ先生の主な収入源〜
①先生としての給料。
②各部活の担当顧問としての給料。(ゲーム部、補習授業部等)
③防衛室顧問兼臨時室長としての給料。
④エンジェル24のオーナーとしての給料。
⑤カフェの経営者としての給料。
⑥キヴォトス全土の店舗の『シャーレ認定』マーク更新費。
⑦シャーレ/先生関連商品のロイヤリティ。
⑧D.U.内の不良生徒の受け入れ先の会社の社長としての給料(を受け取っている常駐組に勝手に貢がれる金)
⑨アリウススクワッド(が、稼いだのを勝手に貢がれる金)
⑩RABBIT小隊(が、稼いだのを勝手に貢がれる金)
11ゲマトリアからの小遣い。
12カイザーからの賠償金。