待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む!   作:POTROT

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謎(笑)の刺客と奥の空

 シャーレの職場が圧倒的ブラックであることは既に周知の事実であるが、しかし週七勤務の休み無しであるのかと聞かれれば、それは否だ。

 一応、シャーレでは木曜日と日曜日が休みの日という事になっている。

 尤も、スケジュール的に休日となっているだけであり、俺も常駐組も当番の生徒も、そんなの関係ねぇとばかりにバリバリ仕事をしているわけであるが。

 

 当然、俺だって休めるのなら休みたいし、アイツらも休ませてやりたい。

 俺もアイツらも、身体的強度の差こそあるものの同じ人間だ。

 休み休みやっていかなければ、いずれ体にガタが来る。

 それこそ、いつぞやの俺がそうなったように。

 

 しかし、残念ながら仕事はこっちの都合に合わせてはくれない。

 毎日六時間の睡眠の間ですらとんでもない量の書類やら何やらが上がって来るのだ。

 一日も休んでしまおうものなら、もう次の日にはとんでもない事になっている。

 もはや書類の山なんて生易しいものではない。

 アレは既に一種の山脈だ。それもヒマラヤ級のだ。

 何なら発狂したくなるという点においては狂気山脈と言っても良いかもしれない。

 

 まぁ、兎にも角にも、俺が休みを取るというのはそれはそれは大変な事であり、俺に休日なんてものは存在しないし取りたくもない、と言う事である。

 だから本当にあのシロコとの約束が憂鬱で憂鬱で仕方がない。

 いやまぁ、いざホテルに行った時は、それはもうそんなこと忘れて思いっきりシロコと一緒に休んでやろうとは思っているが、こうしてスケジュール表を片手に街を歩いている時には、どうしても暗鬱な気分にならざるを得ないと言うものだろう。

 

「……はぁ……」

「どうかされましたか?」

 

 俺が溜息をつくと、後ろから心配そうな声がかかる。

 その声の主は、飛び出たエルフ耳が特徴の黒い髪に赤い眼鏡がよく映える彼女は、アビドス高校廃校対策委員会の一員にして本日の当番こと、奥空アヤネ。

 巧みなドローン操作による支援が得意な、アビドスの後方担当である。

 

「んや、何。気にすんな。ただちょっと仕事がめんどくせぇなと」

「ああ……そう言えば、見事に積み上がってましたね。書類が」

「しかもアレ、処理しても次の日には何事もなかったかのように再配置されてるからマジでやる気が湧かん」

「あ、あはは……が、頑張りましょう……」

「それしかないよなぁ……」

 

 そう言って、苦笑いを浮かべるアヤネ。

 ……ああ、癒される。昨日のあの大騒ぎで滅茶苦茶に疲弊した心と体が癒される。

 ええい、あのゲヘナヨコチチハミデヤンめ。あの後も事あるごとに俺を追い回しやがって。

 アイツが滅茶苦茶優秀と言うこともあってそれでも仕事は片付いたが、もう少しで俺の性癖が完全に破壊されるところだったぞ。

 トキが居なきゃ本当にどうなってた事か……

 

「…………ん?」

 

 そんな事を思っていると、ふと、ある事に気づく。

 くるりと振り向いて、アヤネを見てみれば、やはりそうだと俺は確信を得る。

 

「…………なぁ、アヤネぇ……」

「は、はい?」

「お前…………………偉いなぁ」

「え? …………ええと、どうされましたか? いきなり?」

「いや、お前はちゃんと服着てるなって」

 

 うん、本当に。

 あのイカれた服とは天と地ほどの差だ。

 横乳が出てないし。首輪もついてないし。手枷も無いし。

 まぁ、脚の露出度は多少アレだが、この程度ならまだ許容範囲だろう。

 うん、全くもって問題ナシ! 素晴らしい!

 

「はい………はい!?」

「いやー……本当に偉いよマジで。うん。制服だよな、それ?」

「え、ええ、まぁ、制服ですけど、制服ですけれども……! せ、先生!? 今の発言の意図は─────」

 

 

 ────キキィィィィィィッッ!!!!

 

 

 不意に、俺たちの隣に一台の車が急停車した。

 次の瞬間、車窓の奥でマズルフラッシュが閃き、ガラスを突き破った銃弾が殺到する。

 俺が咄嗟にアヤネを庇うと、ドドドドドッ、と音を立て、俺のスーツに無数の穴が空いた。

 

「…………ッ!?」

「よしッ!!」

 

 状況を理解したアヤネの顔が真っ青に染まる。

 穴だらけになった車窓から覗くロボット共の顔が喜色に染まり……そして、すぐに驚愕に歪む。

 

「…………馬鹿なッ!?」

馬鹿(ヴァカ)はテメェらだ、馬鹿(ヴァカ)め。良い加減学習しろと何度言えば解る?」

 

 ノーダメージ。

 キヴォトス人、それこそ、ヘイローを持った生徒ですら耐え切れないような銃弾の雨嵐を確かに受けたにも関わらず、俺は二本足で立っていた。

 

 穴だらけになった俺のスーツから滲み出すのは、真っ赤な血ではなく、銀色の何か。

 それはうごうごと流動し、スーツに空いた穴へ集まると、スーツは即座に穴など最初から無かったかのように修復される。

 

「…………く、クソッ!!?」

 

 ロボット共は再び俺を撃とうとするが、既に弾倉にあった弾は俺へと撃ち尽くした後。

 誰の銃もカチ、カチと虚しく音を鳴らすのみだ。

 

「は、発車ッ! 発車しろッ!?」

 

 ギュルルとタイヤが回り、車はあっという間に遠ざかって行く。

 あっちの方は……何だったか。まぁ、何でも良い。

 D.U.内である以上、どこへ行っても手は届く。

 

「……適当に処理しておけ」

『かしこまりました、あなた様♡』

 

 パッパッとスーツを払い、乱れた部分を整える。

 

「さて、んじゃあ帰るか」

「…………」

「……おーい?」

「…………」

「アヤネさーん」

 

 ……返事がない。

 目を見開き、口を大きく開いたままに固まっている。

 

「ちょっとー」

「………………な」

「な?」

「何ですか!? 今のは!?」

「うおッ!?」

 

 俺に掴み掛かろうとしたアヤネの手を、後ろにバッと飛んで避ける。

 

「何なんですか!? 何だったんですか!? 先生!? 先生!!?」

 

 グルグルに渦を巻いた目でこちらに駆け寄るアヤネ。

 マズい。これは完全に冷静さを失っている。

 

 アヤネはブルーアーカイブでも屈指の正統派美少女だ。

 性癖を破壊する要素は少ないが、その破壊力は一級品。

 このまま接近を許してしまえば、俺が社会的に死んでしまう!

 

「落ち着け! 落ち着けアヤネ! 冷静になれ! ちょっ、やめろ! 落ち着け! 深呼吸! 深呼吸しろ深呼吸! はい吸って!」

「すぅ〜………………落ち着きました」

「いや早ぇなぁオイ」

 

 たった一回吸っただけで、一瞬で錯乱状態から冷静に戻ったアヤネ。

 何とも素晴らしい切り替え速度だ。

 流石はアビドスの後方支援担当、と言ったところか。

 

「それで……ええと、まず始めからお聞きしましょうか。先程のあの方達は?」

「どこぞの企業の雇った暗殺グループだな。まぁ、雑魚だ」

 

 カイザーをD.U.から追放して以来、こう言う手合いは本当に増えた。

 カイザーとつるんで、或いは独自に後ろめたい事をしていた連中が危機感を覚えたのか、こうして事あるごとに俺を殺そうとしに来るわけである。

 だがしかし、銃撃にほんの少しの神秘も恐怖も込められてない以上、俺にとっては何の脅威にもなり得ない、と言うのが現状だ。

 

「……では、その……撃たれた時に出たアレは?」

「ナノテクだ。良いだろ」

 

 アリスに少しナノマシンを分けてもらって、クラフトチェンバーやらゲマトリア脅威の技術やらでコネコネした結果出来上がった、攻守兼備で生命維持、物質補完が可能とか言う、アイアンマン:マーク50並の化物性能の俺専用武装である。

 流石に防御力単体で見ればアロナバリアの方が数段上だが、それでも滅茶苦茶だ。

 

「ナノテク……ああ、そう言えば、あの時纏っていたのも?」

「ああ、コイツだ」

 

 これが完成したのは、最終編の直前。

 もとより最終編での使用を目的として開発をしていたので、何とか間に合ったと言う形だ。

 最終編は正直、コイツのおかげでどうにかなった感じがあったりする。

 コイツが無ければ死んでいた場面が、一体何度あったことか……

 

 ちなみに、あの時というのは流星になって落ちてきた時だ。

 コイツがシッテムの箱にへばりついて生き残ってくれたおかげで、マジでヤバい部分は見られずに済んだのだ。本当に、色々な意味で大恩人である。

 

「成程、そうでしたか……ええと、で、本当に大丈夫ですか? 何ともありませんか?」

「見ての通りだが」

 

 それはもう全くのノーダメージだ。

 

「あ、はい……え、ええと、では、先ほど言っていた、私の服がどうのと言うのは……」

「ん? ……ああ、その話な。言葉通りだ」

「いえその、言葉通りに受け取っても少々分からないというか……何と言うか……」

「いや、昨日の当番がゲヘナ風紀委員の行政官でな」

「ああ…………」

 

 俺がそう言うと、アヤネは納得したようにこくこくと頷く。

 流石はアコ、と言ったところか。名前を出すだけでこうも容易く納得されるとは。

 いや本当にマジで反省した方がいいと思う。

 

「昨日のアイツのインパクトがヤバすぎてな。改めてお前を見て、まともだなぁと」

「ええと……その……はい……」

「あ、だがあんまり俺のそばに近寄るなよ。お前は正統派美少女だからな。好きになる」

「ああ、はい…………え?」

 

 再びシャーレに向けて歩き出すと、2歩目でアヤネがピシリと固まってしまう。

 

「どうした」

「え? ど、え? ど、どうしたのは先生と言うか……あれ?」

「何だ」

「いえその、好きになる、と言うのは……」

「言葉通りの意味だが。お前は正統派美少女だからな。あんまり近づかれると思春期男子高校生の俺には可愛すぎて好きになる。だから近づくな。いいな?」

「ッ!?」

 

 ボンっ、と真っ赤に染まるアヤネ。

 ……真っ青になったり真っ赤になったりと、感情表現豊かだな、コイツ。

 

「し、しかし、その……前までは……」

「事情が変わった。あの件が終わってからな」

「事情が変わったって……え?」

 

 何かに思い至ったように目を見開き、口元に手を当て、恐る恐ると言ったようにこちらを見て口を開くアヤネ。

 

「あの、もしかしてそれ、セリカちゃんとかノノミ先輩とかにも……」

「似たようなことは言ったな」

「………シロコ、先輩には……」

「……………言った気がする」

 

 確か言った……うん、言ったはず。

 キヴォトス一周旅行が云々とか言ってるあたりの時に言った。

 

「……………ッ」

 

 アヤネの顔が再び真っ青に染まる。

 いや本当に感情表現豊かだなコイツ。信号機もかくやというレベルだ。

 

「……………そ、その……え、ええと……あ、あまり、そのようなその……ええと……」

「……? まぁいい。とにかくシャーレに戻るぞ」

「えっ、あっ、せ、先生!? い、いけません、このままでは先生が……いやでも、むしろこのままの方が……うう……

 

 なんか後ろの方でアヤネがごちゃごちゃ言っているが、まぁ、後で聞けばいいだろう。

 さて、まずはさっさと今日の仕事を片付けなくては。

 




 ついに二年生に進化した男、筆者マッ!!
 ……来年には成人っていう実感が全く湧かねぇ……
 
 ※ なんか一部チナツになっているところがあった事をここに謝罪するぜ!!
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