待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
私は大人が嫌いだ。
大人は、私達を騙す。
大人は、私達から搾取する。
大人は、私達の大切な物を全て奪っていく。
結局のところ、アイツらは自分の利益の事しか目に映っていないのだ。
一部の連中は、あたかも私達の事を見ているかのように振る舞うが、アイツらが見ているのは私達じゃない。私達を通したその先にある、自分の利益だ。
だから、それが利益につながるのならば、アイツらは平気で私達のことを裏切る。
平気で私達のことを騙す。平気で私達から搾取する。
そして、平気で私達を殺す。
最終的にその行為は社会のため、世界のためと正当化され、それに従わなかったならば私達は不良や世間知らず、異端児、或いは出来損ないのレッテルを貼られる。
だから私は、大人が嫌いなのだ。
……しかし、私は大人の代わりが子供に務まるなどと思えるほど、驕ってはいなかった。
大人だって、いつかは私達と同じ子供だった。
私達と同じように学校へ通い、私達と同じように勉強して、その先で大人になった。
大人とはつまり、成長した私達なのだ。
だから大人は、私達が決定的に持ち合わせない物を持っている。
だから私達がどれだけ背伸びしようと、大人に取って変わる事は出来ない。
何故なら、私達には足りないものが多すぎるから。
「やぁやぁ初めまして、ホシノ君。俺がシャーレの先生だ。よろしく」
そう理解していたからこそ、私はあの時、『終わった』と思った。
整えられた髪、ピシッと着こまれたスーツ、成熟した体。
パッと見はまるで大人のようであるが、後頭部の寝癖が、捻れたネクタイが、幼さが未だ残る顔立ちが、未熟さを醸し出している。
「……まぁ、流石に判るか。そうだ。俺はお前の一つ下。そこのシロコやノノミと同年代だ」
絶望に沈みゆく気持ちを覆い隠し、それとなく聞いてみれば、やはりそうだった。
外れていて欲しかった。私の勘違いであって欲しかった。
だが、彼は子供だった。
しかもよりにもよって、私よりも年下と来た。
「だがまぁ安心してくれ。俺がシャーレの先生と言うのは本当だし、それだけの権限もキチンと持っている。見ての通りのクソガキだが、誠心誠意、全力で、それこそ命を懸けてでも、君達の学校に今迫っている問題を解決する事を誓おう」
その言葉を聞いて、私は身体中の血液がにわかに煮え立つような感覚を覚えた。
私達がどれだけ長い月日をかけてもどうにもならなかったと思っているんだ。
こんな子供に、そんな事が出来るわけがないだろう。
そんなあまりにも理不尽すぎる怒りに、私は駆られた。
ふざけるなと叫んでやりたい。
今すぐにでも銃を引っ張り出して、帰れと突きつけてやりたい。
そんな衝動が私を襲う。
「……うへ〜……頼もしいなぁ〜」
だが、幸運な事に私は理解していた。
私達が極限まで追い詰められていると言う事を。
この目の前にいる先生こそが、残された数少ない希望の一つであると言う事を。
だからこそ、私は我慢する事ができた。
結果として、その我慢は私の想像の何倍もの大きさの実を結んだ。
彼は大人では無かったが、『先生』ではあったのだ。
『ホシノ、そこ突っ込め』
彼のおかげで、直後に襲撃してきたヘルメット団は撃退された。
「仕事は仕事なんだな? だったら容赦しなくて良いって事だ。と言うわけでシロコ、ファイア」
便利屋68と彼女たちの雇った傭兵たちも一瞬で片付いた。
「お前らの目的が何だかは至極どうでも良いが、とっととお帰り願おうか。生憎だが、俺は他の学校にマウントを取るためのトロフィーじゃない」
ゲヘナの風紀委員会すら退ける事だってできた。
「さて、それじゃあガサ入れだ。令状はないが、まぁ誤差だな」
カイザーの思惑を暴くこともできたのも、銀行強盗の成功も、どれも彼のおかげだ。
……だが、それだけの恩を受けておきながら、私は彼の事を信じきる事は出来なかった。
ノノミちゃんも、シロコちゃんも、アヤネちゃんも、セリカちゃんでさえ彼の事を信頼していた中、私だけは彼を疑い続けなくてはならないと、変な意地を張り続けた。
だから、また大人に騙された。
「ど、どうして……どうしてアビドスを、街を攻撃するんだ!!?」
アビドス砂漠に建てられたカイザーPMC基地。
そこに乗り込んだ結果課せられてしまった、圧倒的すぎる利子をどうにかするため、私は誰にも相談することなく、黒服との契約を交わした。
その結果が、これだった。
黒服に見せられたモニターの奥に広がるのは、カイザーの兵士によって破壊されてゆく街。
黒服は私の退学により、アビドスが無くなったからだ、と言った。
私は黒服を呪った。カイザーを呪った。
そしてそれ以上に、私の馬鹿さ加減を呪った。
皆のためと思ってやった事が、皆を苦しませる結果となってしまった。
大人の悪意が、それ以上に私の無知が、アビドスと後輩達がカイザーの手に落ちると言う結果を招いた。
今回の件で、先生も無能の烙印を押されてしまう事だろう。
私はただ絶望した。牢の中で失われただろうモノに謝罪することしかできなかった。
だが。
「おい」
耳が痛くなるほどの騒音に気が付いて。
目の前から差し込む光に顔を上げてみると、先生が立っていた。
その隣には、可愛い後輩達も並んでいる。
「帰るぞ」
拘束を解かれ、腕を引かれて光の方へ。
「…………っ」
何も失われていなかった。
後輩達が、先生が、全部守ってくれた。
アビドスの街も、アビドスの校舎も、ところどころに傷は目立つけれど、それでも何も失われていなかった。
「……本当に、
「ハンッ、お前が俺の事を信頼して無かったのはバレバレだったがな。クソガキにゃあクソガキのやり方があるって事だ」
呆然とする私に、先生はそんな事を言う。
今でこそ割とすごい事を言われたとわかるが、生憎とその時の私はそれどころでは無かった。
今この目の前に広がる光景が、どうしても信じられなかった。
「それよりも、そら、お前ら」
先生が私の後ろを指で示す。
私が後ろを振り返ってみると、後輩達が横一列に並んでいた。
「お、おかえりっ! 先輩!」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!」
「おかえりなさい、です!」
「おかえり、ホシノ先輩」
後輩達が口々に私を出迎えてくれる。
セリカちゃんの頬が赤く染まっている。アヤネちゃんは目を嬉しそうに細めている。ノノミちゃんは満面の笑みだ。シロコちゃんも、わかりにくいが薄く笑っているのが見える。
対策委員会だ。
いつもの、普段通りの、何も変わらない対策委員会だ。
多少は傷が目立つものの、それだけでしかない。
私達の日常が、確かにそこにあった。
しかしここまでされても、私はまだ、どうにも実感が湧かなかった。
これは都合のいい夢を見ているだけなんじゃないかと、思えてならなかった。
「おかえり、だ。ホシノ」
隣を向くと、先生が柔和な笑みを浮かべている。
「…………これ、本当に夢じゃない…よね?」
「当然に決まっているだろう……で、時にホシノ。何か言う事は?」
「へ? 何か言う事って……え、もしかして、そう言う事?」
「ああ。ほら、さっさと言え」
「うへ……も〜、仕方ないなぁ〜……────」
ただいま、みんな。
みんなが駆け寄り、私に抱きつく。
柔らかくて、あったかい感触にもみくちゃにされて。
なんだかとっても幸せな気分になって。
少し離れた場所に居る先生と目が合って、やっと『救われたんだな』と思えた。
ウチのアビドスはこう言う感じで終わりました。
3章はこっちで百花繚乱やった後……つまりやるかは未定ってこと。
そんなわけで次回はおじさんです。