待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む!   作:POTROT

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 はい。
 性癖に忠実に書けと言われたので書きました。


契約と災厄の狐

 先生になって、俺は幾つもの契約を結んで来た。

 常識的なものから悪意に満ち溢れたもの、そんなものに時に調印し、時にシュレッダーにかけつつ、様々な契約を結んで来た。

 そんな俺の先生としての最初の契約は、ワカモとの間に交わされたものであった。

 

 それはワカモのヘッドハンティングに成功した直後の事だ。

 シャーレの地下室に据え付けられたソファにワカモを座らせ、俺はその正面にあるデスクに座っていた。

 彼女と俺との間に結ぶ契約の、詳細な内容を決めるためだった。

 

「さて」

「はい」

 

 手元のパソコンがプリンターと接続した事を確認して椅子を回し、ワカモの方を見る。

 すると、まるで漫画のようにハートマークが浮かんでいるように見える瞳と目が合った。

 顔は真っ赤で薄らと汗が滲んでおり、その背後では尻尾がバタバタと荒ぶっている。

 見るからに、彼女は興奮していた。

 

「…………」

 

 まぁ、理由に関しては見当が付く。

 一目惚れをした相手と、鍵が閉め切られ、窓のひとつもない密室に、2人きり。

 そんなシチュエーションに、彼女は自らの高揚を抑える事が出来ないのだろう。

 俺としては、彼女に落ち着きを取り戻してほしいところではあるが……まぁ、そこまで話し合いに支障はないはず……むしろ、冷静な判断を失って貰っていた方が好都合まであるので、このまま話を進める事にする。

 

「……まぁ、何だ。これから、俺とお前で正式な契約を結ぶ事になるわけだが……何かそちらに要望はあるか。その……どんくらい報酬が欲しいとか、どんくらい休みたいとか」

「そんな! 要望などと!」

 

 俺が取り敢えずと言った風を装って質問すると、突然ガタリ、と立ち上がり、頰に手を当ててくねくねと体を捩り始めるワカモ。

 

「このような私の要望を聞いて頂けるなど……嗚呼、なんとお優しいのでしょう! このワカモ、嬉しさの余り昇天してしまいそうです……♡」

「そ、そうか……そりゃあ、良かった…………」

 

 曖昧に頷いて、湯呑みに注がれたお茶を啜る。

 ……うーん、何だろう。

 喜んでもらえる分には全然良いし、むしろ好都合でしかないのだが、この微妙に思えてしまう感じは。

 何かこう……様子見のつもりで放ったジャブがものの見事にクリーンヒットしてダウン取っちゃった、みたいな……呆気なさすぎて、素直に喜んで良いものか分からない、と言うか……そんな感じか。

 しかしまぁ、それでも好都合である事には変わりない。

 

「あー……で? あるのか? 無いのか?」

「……ああ、申し訳ございません。少々取り乱してしまいました。それで、私からの要望でございますが……」

「っ……」

 

 ワカモは少し目を閉じると、そのハート型になった瞳を真っ直ぐに俺へと向けた。

 その目に込められた意志のあまりの強さに、俺は気圧されてしまう。

 

()()()()()。それ以外には何一つとしてございませんわ」

 

 内心で冷や汗をかく俺に、はっきりと、力強く彼女はそう断言した。

 

「……あー、その、心は?」

「私にとって、あなた様のお側にいる事こそが至上の喜び。それ以上の報酬など無く、あなた様のお側に居られない時間など、私にとっては苦痛でしかありません。それ故に、でございます」

「…………そうか」

 

 纏わり付き、絡め取ろうとするような甘ったるい声で語られたそれに、俺はこくりと頷く。

 正直、これに関してはある程度想定はできていた答えだ。

 というか、むしろそう言ってくれないと困るとすら思っていた。

 こんな事、ワカモだからこそ頼める事だ。とてもでは無いが、ワカモ以外には到底頼めたものでは無い。実力的にも、精神的にもだ。

 

 まぁ、取り敢えず最低限のラインはパスした。

 ここからは如何に俺の理想に近づけられるかになる。

 

「じゃあ、そうだな。年中無休、賃金はD.U.の最低賃金でどうだ?」

「ええ、それで構いません。むしろ、もっと少なくしていただいても構わないのですよ?」

「俺の体面的に難しい。一応こんなんでも先生って事になってるからな……いや、先生だからこそ生徒に金を払うってのはあんまり良く無い事なのか……?」

 

 顎に指を当て、首を傾げる()()をする。

 

「んー……じゃあ、賃金なしの代わり、俺がお前の望むものを出来る限り提供するって形でどうだ。金が欲しければ金を、武器が欲しければ武器を、権限が欲しければ権限を。何ならずっと俺の側に居たいってんならシャーレに住み込みで働いてm」

「それに致しましょう! ええ、それしかありません!」

 

 そして、俺がワカモにとって都合の良い、と見せかけてあまりに滅茶苦茶な代案を出せば、ワカモはガタンとソファから立ち上がり、気持ち良いくらいに勢い良く食い付いた。

 

「それであれば例えお食事の時であろうとお休みの時であろうと、片時も離れずあなた様のお側に侍る事が叶いますし、虫を排除するのにも最適でしょう。ええ、まさに最適解というものです。それに、もしご要望でしたらお食事の用意から……と、伽まで! 私にお申し付けくだされば何にでも────」

「あー、OKOK。わかった、わかったから。そうする事にするから。だから落ち着け」

 

 とんでも無い事を言い始めたワカモを宥め、座らせる。

 ってか伽て。そんな事はさせんよ。いやまぁそれ以外の無茶振りは散々させる事になるんだろうけどさ。

 

「一応確認するが、本当にいいんだよな?」

「はい! 是非!!」

 

 ずい、とワカモがこちらに顔を寄せ、元気に肯定した。

 ……よしよしよし、順調だ。順調に俺の思い通りの形になって来ている。

 

 ……しかし、こうも順調に行って改めて思うが、やはり原作知識とは偉大だな。

 知っている、と言うだけで、それは計り知れないアドバンテージになる。

 今回だって、俺が彼女の人物像を知り、彼女の活躍を知っているからこそ、この場が成り立っているのだ。

 まぁ、原作知識があるからと言って実際原作通りに動かせるか、と言われれば首を捻らざるを得ないんだが……っといかんいかん。今はこちらに集中しなくては。

 

「えーっと、じゃあ……年中無休で、シャーレに住み込みで、欲しい物があったら俺がお前に与える。大まかな雇用形態はこんな感じでOK?」

 

 現代社会で言ったらブラックもブラック、超が3つは付くレベルでブラックである。

 しかし、ワカモにとってそんな事はどうでも良いらしい。

 

「……えぇ、異存はありません……あぁ……何と言う幸せ……」

 

 蕩けたようにそう言ったワカモは、もはや完全にトリップしていた。

 頬に手を当て、恍惚とした表情で明後日の方を向いている。

 呼べばすぐにでもこちらへと戻ってくるのだろうが、まぁ、まだこのまま浸らせておこう。

 

「…………それじゃあ、これをベースにして、細かいところ詰めていくかァ……」

 

 と、テーブルに置いたパソコンを弄る俺。

 その後は現実世界へと戻って来たワカモじっくりと時間をかけて契約の内容を作って行き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、出来たのがコレ……か」

「はい。もう、随分前のことになりますね」

 

 現在、俺とワカモはシャーレの地下室に訪れていた。

 目的としては、クラフトチェンバーを使ってナノマシンの改良と増産をするためだ。

 で、クラフトチェンバーを稼働させ、作業をさせている間、折角だからと言う感じでこの地下室の掃除を行う事になり、そんな最中でコレを見つけたのである。

 

「しっかしまァ懐かしいモンが……あ、ここ誤字ってる……」

「あら? ……あぁ、よく見れば確かにございますね。幾つか」

「…………うわキッッッッッッッッッツイ」

 

 うわぁ……う、うわぁ……何だこの……中学校時代に書いた自分の作文を読んでいる気分だ。

 未熟な頃の自分をまざまざと見せつけられるってこれどんな拷問だ。

 学校で厨二ノートを公開された■ ■(アイツ)ってこんな感じの気持ちだったんだろうか。

 ……いや、違うか。違うな、うん。色々と。

 

「……うふふっ」

 

 などと、頭を振って下らない考えを吹き飛ばしていると、不意に隣にいたワカモが笑う。

 

「……なんで笑った?」

「ふふ、いえ、ただ……色々あったな、と」

 

 俺がジト目でそう聞くと、ワカモは懐かしそうな目で契約書を撫でた。

 そんなワカモに釣られ、俺も再び契約書に目を落とす。

 

「…………まぁ、そうだなぁ……」

 

 本当に、本当に色々あった。

 メインストーリーは勿論、イベントストーリーに、ゲームでは語られなかった様々な物語。

 数多の物語があった。数多の喜劇があった。数多の悲劇があった。

 星の数程の想いがあった。星の数程の願いがあった。星の数程の正義があった。

 

 俺は、俺たちは、それらと向き合いながら進んで来た。

 時に利用され、時に拒絶され、時に裏切られつつも、しっかりと、着実に、確実に。

 足を引き摺りながら。地面を這いずりながら。

 そして、ここまで来た。

 

 その間に、どれだけ俺は変わったのだろう。

 その間に、どれだけワカモは変わったのだろう。

 分からない。分からないが、互いに大きく変わったと言うのは間違い無いだろう。

 少なくとも、この契約を大きく改定する必要があると感じる程度には。

 

「ワカモ」

「ええ。お茶を用意して参ります」

 

 尻尾を振りながら階段を登り、扉の奥へと消えて行くワカモを尻目にPCを起動して、契約書のテンプレートを画面に呼び出し、取り敢えず書けるところを書いておく。

 そうして大体書ける部分が埋まった所に、お盆に湯呑みを乗せたワカモが戻って来た。

 

「どうぞ」

「ん」

 

 ワカモはデスクに湯呑みをコトリと置くと、俺の後ろに位置取った。

 

「さーて、さてさてさてさてさて。んじゃあ作って行くわけだが……ま、タイトルはシンプルに『雇用契約書』で良いだろ。味気無ぇけど」

「おや、『終身』はお付けになって下さらないのですか?」

「そりゃあお前が卒業してからだ。そっちは契約書じゃなくて別の書類になるんだろうがな」

 

 まぁ、書いたところでキヴォトスじゃどこに提出すれば良いのか全く分からんがな!!

 

「────ふふっ。ええ、そうでした。私とした事が、すっかり失念しておりました。ええ、ええ。そうでした。そうでしたとも。であれば、『終身』はまだ要りませんね」

「そう言うこった……っと。さて前文は……まぁ、雇用契約だし、『■ ■(おれ)は以下の条件で雇用契約を締結します』……だな」

 

 カタカタ、と指を動かし、文字を入力して行く。

 ブラインドタッチにも慣れたものだ。書類仕事では基本ペンを使っているが、パソコンとキーボードもよく使うので、仕事に忙殺されているうちに、いつの間にか身に付いていた。

 

「開始は締結した瞬間から。期限は卒業まで。就業場所は……あー……」

「私の居るべき場所は、常にあなた様のお側にございます。それ以外の何処にそのような場所がございましょうか? 否。そう、断じて否です」

「……まぁ、それもそうか」

 

 俺からの頼みでD.U.内を飛び回ることが多いので、そう書いて良いものか少し迷ったが、よくよく考えれば一日の半分以上は俺のすぐ近くにいるのだ。

 であれば彼女の言う通り、俺の側と書いた方が適切だろう。

 

「で、従事すべき業務の内容…………は、俺の付きび────」

「パートナー、にございます♡」

「…………ほぉん?」

 

 成程? 面白い事を言ってくれるじゃあないか。

 そんな事を思ってちら、と横目で見てみれば、ワカモの期待に満ちた眼差しが俺にビシビシと突き刺さっていた。

 そして少し時間を置いて、しゅるり、と尻尾が俺の体に巻き付いて来る。

 ……ああ、クソ。コイツめ、すっかり『おねだり』の仕方が上手になりやがって。

 

「あー、わかったわかった。パートナーな。うん、パートナー……。お前これ絶対に外では言うなよ。大惨事になるからな?」

「ええ、勿論承知の上です♡」

 

 当然と言わんばかりに、ニコリと微笑んでそう言ったワカモに、はぁ、とため息を吐く。

 いや、確かに当然と言えば当然である。彼女は本当に長い間俺と共にいるのだ。

 俺を取り巻く人間関係に詳しくて順当であるし、むしろ第三者の視点から見ている都合上、俺以上に詳しかったとしても何ら不思議ではない。

 

「はぁ……で、労働時間は0時から0時。休日は無し。賃金も無し。しかし代わりに衣食住と、必要な物を所望する権利…………」

 

 相変わらずの超ブラック条件だ。

 勿論法律的に見れば間違いなくアウトだが、しかしそんなのは関係ない。

 こちとら超法規的機関である。使える権限を使って何が悪いと言う話だ。

 いやまぁ悪いから『職権濫用』なんて罪があるのだが、この際それについては考えないことにする。

 

 ……しかし、これだと前の内容と変わらんな。

 もうちょっと捻りを加え……あ、そうだ。

 

「それと俺の愛と信頼を提供、っと」

 

 軽い気持ちでそんな事を嘯き、入力する。

 本当に軽い気持ちだった。深い意味も理由もなく、ただ何か付け足したいな、なんて考えの下に取り敢えず書き足したのである。

 

 しかしワカモにとって、この一文は非常に強い意味を持つモノだったらしい。

 

「おや、そうして明文化なされると言うことは……」

 

 ワカモの白く、美しい手が後ろから伸び、俺の首に回される。

 そして、ゆっくりと俺に顔を近づけると……

 

「つまり、今まで以上のモノをいただけると言うことでよろしいので?」

 

 今にも蕩けてしまいそうな声で囁いた。

 

「…………」

 

 ぞくり、と。

 俺の心の内にある、『何か』が湧き立つ。

 

「………………ははっ」

「ッ!?」

 

 乾いた笑いが出ると同時にワカモの拘束から抜け出して、ワカモの両手を掴み、ワカモを上から覗き込むように立つ。

 

「そう言うお前はどうなんだ? 今以上が欲しいのか?」

 

 湧いて来たのは『対抗心』だった。

 こちらがいきなりの事でびっくりさせられたのだ。であれば、やり返すのが筋であろう。

 そんな理不尽な考えの下に、こうして反転攻勢に出たのである。

 俺の予想では、こうすればワカモは顔を真っ赤にして……

 

「……ええ、勿論」

「……へぇ」

 

 何……だと……?

 コイツ、まさか全く効いていないのか……?

 何とか取り繕った鉄面皮の下で、俺は静かに戦慄する。

 

「……じゃあ、言ってみるといい。お前は俺にどれ程の信頼を望む? どれ程の愛を────」

 

 望む? そう聞こうとした口が塞がれた。

 一瞬だった。一瞬で手が振り解かれ、一瞬で腕を首に回され、そして、俺がそれに気付こうとする瞬間には、既にワカモは一連の行動を終えていた。

 

「……ふふっ♡ このくらい、が妥当かと♡」

 

 呆然とする俺に、幸せそうな表情のワカモが口を押さえながらそう言った。

 

「……………………………はい」

 

 俺は完全敗北を認めた。

 

 

 その後、契約書はワカモの主導で書き進められ、俺は大人しくそれに従うしか無かった。

 言われるがままに指を動かしつつ、将来の事が心配になる俺であった。




 ワカモ(大勝利のすがた)
 
 圧倒的にして他の追随を全く許さない程の大勝利を収めたワカモ。
 原作とは比べ物にならない程に落ち着きがあり、また温厚。
 それは(ひとえ)に自分こそが先生にとっての特別であると言う自覚があるからこそ。
 また、先生の必死の教育により、良識が十全にインプットされているので、問題を起こす事はまず無い。
 時折、先生から貰った小箱を愛おしそうに撫でている。

 ゲーム的に言えば勿論限界まで強化されているし、絆ランクは余裕の100。
 その上に大勝利ブーストがかかっているので、先生の指揮下に無くとも、ビナーくらいなら単騎で攻略可能。
 先生の指揮下にあればワカモ(総力戦)の即死効果がデフォルトで付く。
 誰がここまで強くなれと?
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