待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む!   作:POTROT

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将来像とおもしろ社長

 さて、前にも話した通りであるが、俺はプレナパテス先生を下し、最終編をクリアした。

 その結果、常にメインストーリーの攻略に割かれていた脳内キャパシティに余裕ができ、生徒の体型やら格好やらが気になってしまうようになったわけである。

 

 しかし、何も気になるようになったのは生徒のことだけではない。

 思春期とは何もただ体が成熟し、性欲が芽生えるだけの期間ではないのだ。

 思考が、そして心が、自分でも追い付けないほど急速に成長し、それに戸惑いつつ、必死に悩み、行動し、適応して、確固とした自己を形成するための期間でもある。

 

 俺だって、少し前までは自己形成の真っ最中だった。

 しかし俺は最終編と言う大きすぎる壁を前に、俺自身を『先生』と言う予め用意されていた型に押し込み、未成熟(クソガキ)ながらに『先生』であろうとした。

 俺自身の欲求、俺自身の将来像、そして、俺自身の幸せ。

 それら全てに見て見ぬふりを突き通し、ただ『先生』であるべくして行動して来たわけだ。

 そんな俺に、昨日のホシノの言葉は酷く響いた。

 

 幸せ。

 他の誰でもない、俺自身の幸せ。

 それは一体、どうすれば良いのだろうか。

 

 先生としての幸せ、つまり生徒の幸せが俺の幸せなのかと考えれば、クソガキの俺が仕事に忙殺される現状は辛い、常に命を狙われ続けるのは嫌だと喚く。

 しかし、クソガキの俺……本来の俺としての幸せを探そうとすれば、先生としての俺が生徒を放っておくのか、生徒を不幸にするつもりかと騒ぐ。

 

 二律背反、と言うやつだ。

 どちらの俺の幸せをとっても、もう片方の俺が不幸になってしまう。

 

「そこんとこどうすれば良いと思うよ、アルちゃん」

「いきなり私に聞かれてもわかんないわよ!?」

 

 机をバンと叩きながら椅子を蹴って立ち上がり、叫ぶのは本日の当番。

 ゲヘナ学園所属にして便利屋68の社長、UNWELCOME SCHOOLの申し子、ブルアカ最強のギャグ&オチ担当、理不尽な殺意の矛先、ブルアカ屈指の癒し枠、白目が最も似合う女こと、陸八魔アルちゃんである。

 

「いや、その、私に相談してくれるのは嬉しいのだけれど、もっとこう、そう言うのは別の……ほら、然るべきところってのがあるんじゃないの? ね?」

 

 そんなアルちゃんが冷や汗をかきながら、あわあわと身振り手振りで俺を諭そうとする。

 うむ、見ていてすごく癒される。流石はブルアカ屈指の癒し枠。

 

「まぁ良いじゃん別に。聞くだけならタダなんだし」

「え、えぇ……? それはそうだけれども……急にそんなこと言われても困るわよ……でも……うーん……そうねぇ……」

 

 なんやかんや言いつつ、しっかりとアルちゃんは悩んでくれる。

 こう言うところアルちゃんのマジで良いところだと思う。

 うん、やっぱりアルちゃんアウトロー向いてないよ。

 いやまぁ便利屋として俺の敵を取り除いてくれるのはマジで有難いんだけれども。

 

「……まず最初に聞きたいんだけど、先生はこれからも先生を続けるの? それともどこかのタイミングで辞めるの?」

「分からん」

 

 俺はノータイムで即答する。

 いや、このへんに関してはマジで分からんのだ。

 

「まず辞め方が分からんし、辞められるのかどうかすら分からん。ってか辞めたところでどうすりゃ良いのかも分からん。もしかしたらどっかのタイミングで用無しって言われて放逐されるかも知れんし、お前らが卒業した後も死ぬまで先生をやるハメになるかも知れん」

 

 いや本当にどうなるんだろうなこれ。

 新しい連邦生徒会長が立ったらシャーレが解体になって……みたいな感じになるんだろうか。

 だが、リンちゃんやアユムに聞いても分からないとしか言われないし、肝心のアロナだって何も言ってくれない。

 本当の本当にわからない、と言うのが現状だ。

 

「えぇ……? 何よそれ……? どうしてそんな事になってるのよ……?」

 

 アルちゃんがガチでドン引きしている。

 ちなみに、どうしてこんな事になってるのかに関しては俺の方が聞きたい。

 おいマジでどうなってるんだアロナ。何で答えてくれないんだアロナ。

 答えるのは別にプラナでも良いんだぞ。だから教えてくれ早く。

 

「まぁ、取り敢えず先生って事で考えてみてくれよ。俺が先生を続けたとして、俺が幸せになるにはどうするか」

「そ、そうね……例えば……うーん……いっぱい寝る……とか?」

「ふぅむ……」

 

 いっぱい寝る……か。

 ワカモのおかげで質こそ良くなったものの、それでも確かに常に睡眠不足だからなぁ……

 睡眠不足を解消すると言う観点で見れば、幸せと言えなくもない……が。

 

「なんか俺の求めてるのと違うんだよなぁ……」

「そうよね……私も言っててそう思ったわ……」

 

 そう言う刹那的な幸せは違うのだ。

 もっとこう……持続的? と言うんだろうか? 言語化が難しいが、とにかくそういう幸せだ。

 

「うーん……趣味を見つける、とかどうかしら?」

「趣味……と、言えるかどうかはわからんが筋トレはしてるな」

「あら、してたの?」

「おう。毎朝20分間だ」

 

 朝起きて、朝食を食って、顔洗って、筋トレして、プロテイン飲んで、シャワー浴びる。

 これが俺のモーニングルーティーンだ。

 

 ちなみに朝食はワカモが用意している。和洋折衷で栄養バランスも完璧。流石だと感服せざるを得ない。

 そして安全面を考慮して、筋トレはサオリに付き合って貰っている。

 ウチの器具は最新式ではあるが、やはり誰かはすぐ近くにいたほうがいいし、誰かが近くで見ていると言う状況の方が俺は頑張れるのだ。

 

「じゃあ別のにしましょう。そうね……でも他だと……やっぱり結婚とかそう言う話になるのかしら……?」

「結婚……」

 

 成程、結婚。

 結婚……かぁ…………うん、良い案ではあるだろう。パートナーと共に日々を暮らし、愛を育み、子を育てる。理想的だ。

 確かに俺の親も、子が無事に育つのはこれ以上ない幸せだと言っていた。

 まぁ、そんな子である俺は、巣立ちの前に何処かへ姿を眩ましてしまった、親不孝ものであるのだが。

 

 何にせよ、結婚は『幸せ』の代名詞的なものと言えるだろう。

 だが。仮に俺が本当に結婚するとして、差し迫った問題が一つ。

 

「……普通にヤバいだろ、それ」

「間違いなく大惨事でしょうね」

 

 流石の俺とてそこまでクソボケではない。

 俺が特定の生徒達から、それはそれはとんでもない大きさと量の矢印を向けられていると言うことには気付いている。

 こんな状況でもし俺が結婚するだなんて言い出してみろ。銃弾と爆弾と隕石が降るぞ。

 

「まぁ、取り敢えずこの案は無しだな」

「ええ、そうね。やめておきましょう」

「だが随分と惜しいな。アルちゃんと結婚すりゃあ将来はすげー幸せそうだが」

 

 うん、なんか思い浮かべようとすれば滅茶苦茶ありありとアルちゃんとの生活が思い浮かんでくる。

 前の世界のネットからもずっと言われてた事だが、絶対アルちゃんは良い嫁になる。

 

「ふふっ、当然ね」

「おう」

 

 髪をファサリと払い、本当にさも当然かのように答えるアルちゃん。

 そして悠然とした表情のまま椅子にもたれかかると、そのまま動かなくなった。

 

「……止まったな」

「……………………」

「おーい、アルちゃーん」

「……………………」

 

 呼びかけてみるが、反応はなし。

 うん、これは完全にフリーズしてる。きっとアルちゃんの脳内はあの表情をしたアルちゃんに、大音量のUNWELCOME SCHOOLが流れている事だろう。

 んで、そろそろ…………

 

「なっ、ななな、何言ってるのぉーーー!!?」

 

 ほら来た。

 アルちゃんが白目を剥いて、天井まで飛んでいきそうな勢いで椅子から立ち上がる。

 

「あ、あなあああ貴方、自分が何言ってるかわかってるの!?」

「分かってるよンな事。でも仕方ねぇだろ想像できちゃうモンは想像できちゃうんだから」

「できちゃったの!?」

「いや、だってお前と居ると楽しいし……なんかお前と結婚したら将来もずっとこんな感じで楽しくやってんだろうなーって。な?」

「『な?』じゃないわよ!?」

 

 手をワナワナと震えさせながら叫ぶアルちゃん。

 うーん、やっぱり楽しい。これだよこれ。アルちゃんはこうでなくちゃ。

 

「そう深刻に捉える事じゃねぇよ。ただの俺の想像なんだから」

「そうなのだけど! そうなのだけど発言の内容があまりにアレと言うか何と言うかそのあのえっと……!」

「あ、言ってなかったから今言っておくが、お前は顔面の良さとスタイルの良さが天元突破してるから、そのスリットの入ったスカートで近寄られると俺の性癖が歪む。あんまり近づくなよ」

「何また爆弾投下してるのよー!?」

 

 そう叫び、オロオロと辺りを見渡し始め、挙動不審になるアルちゃん。

 もしかして、盗聴器とか隠しカメラを探しているのだろうか。

 

「今のが聞かれてないかどうか心配なら気にしなくて良いぞ。この部屋の防御は最強だから」

「え、ええ……? 本当に……?」

ミレニアムの天才ども(ヴェリタスとかコユキとか)が音を上げるくらい」

「ホントに最強じゃない!!」

 

 これぞ安心と信頼のアロプラセキュリティ。盗聴器も隠しカメラも仕掛けられるけどデータは絶対にシャットアウトされるし位置も特定できる。

 ちなみに地下室にはこれの倍近い性能のセキュリティが待ってるので、まず突破は無理だ。

 

「そんなわけで安心しろ。ここの会話は俺の護衛くらいにしか聞こえてない」

「そうね、これで一安心……じゃなくて!!」

「えぇ……?」

「いや、『えぇ……?』って…………あ」

「?」

 

 ふと、何かに気付いたように、アルちゃんがハッとする。

 

「……も、もしかしてだけど先生、カヨコとかムツキに同じような事言ったりした?」

 

 ふむ、アルちゃんもちゃんと社員の様子に気づいていたか。

 やはりアルちゃんは良い社長だな。金の使い方が本当に下手すぎる事を除けば。

 

「おう。カヨコにはな。ムツキには言ってない」

「……………え、えぇぇぇ……」

 

 俺が答えると、アルちゃんがまるで頭痛を抑えるかのように頭を抑える。

 はて、その二人の関連で便利屋の方で何かあったりしたのだろうか。

 

「……先生」

「おう、どうした」

「さっきの幸福がどうのって話に戻るのだけれど。悪い事は言わないから、幸せな生活を送りたいならその言動はやめておいた方がいいわ。その言動は貴方を……いえ、どっちなのかしら。これも一つの幸福の形なのかしら?」

「あ?」

「とにかく、あまりいまみたいな事を他の子達に言っちゃダメよ。取り返しがつかなくなってからじゃ遅いんだから」

「ああ、まぁ……一応覚えておくが……」

 

 何でそんなこと言うんだ? これが関係あるのか?

 これを続けてて取り返しがつかなくなる状況ってのはあるのか……?

 いやだがしかし、アルちゃんの言う事はたまに正確に的を射ているものがある。

 この言葉を覚えておいて、損はないだろう。

 

「……ところで、参考までに聞いておきたいんだけど……せ、性癖がどうのって今までに言ったのは何人くらい……なのかしら?」

「え?」

 

 あー……何人くらいだろ。

 初期組の四人に、風紀委員に、アビドスに……ええと……

 

「10人くらいかな?」

「………………」

「うん、大体10人くらいだと思うぞ」

「……じゃ…………」

「え? 何て?」

もう……遅れじゃ……のよ……」

「ん?」

 

 全然聞き取れん。

 一体何だって────

 

 

 

 

 

 

「もう、手遅れじゃないのよぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!?」「ええええええええええええええええええええええええ!!?」

 

 

 

 

 

 その後、色々としっちゃかめっちゃかになったが、仕事は終わった。

 何が手遅れなのかは最後まで教えてくれなかった。




先日17歳を迎えた男、筆者マッ!

匿名設定は浜で死にました。
それと関係ない事ですがアユムにはちょっと特殊な思い入れがあります。(ヒント:筆者の本名)
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