待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
はい、そんなこんなあってシャーレに戻ってまいりましたクソガキです。
いやー……良い休暇だったわ。
うん、行く前は割と戦々恐々としてたけど、行ってみると割りかし楽しいモンだね。
シロコも変なことせず本当に俺を休ませてくれたし。
常駐組にもいい休暇になったろ。
うん、今後はこう言う日を作ってもいいかも知れん。
何なら他の生徒を連れて行っても……いや駄目だな。事案になる。
だがまぁ、そうだな。常駐組の慰安旅行くらいはやっても良さそうだな。
いつも頑張ってもらってるし、そんくらいならやってもいいだろ。
「ささささささっ!」
「…………っと、来たか」
小さく聞こえる効果音(セルフ)に、視線を戻す。
どうやら、本日の当番が到着したらしい。
接近が死ぬほどわかりやすいのは忍者としてどうなんだ、とは思うが、こう言う時には有難い。
「さささささっ!」
声がどんどん近づいて来る。
それに対して俺はあくまで自然体。適度にリラックスして待ち構える。
そして────
「主殿っ! イズナが参りまし……あれ?」
バンと扉を開き、バッチリとポーズを取った少女の声が、尻すぼみに小さくなってゆく。
彼女の名は久田イズナ。百鬼夜行連合学園の忍術研究部と言う、半分公式の非公式部活動に所属する、狐耳とふわふわな尻尾が特徴的な1年生だ。
キヴォトス最強の忍者を目指している彼女は、頭のスペックこそまぁ、残念と言わざるを得ないレベルではあるものの、俺への忠誠心と身体能力は超一級。
あらゆる忍術をフィジカルによって再現可能で、様々な場面で俺を助けてくれる、頼れる生徒である。
そんなイズナはまるで何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回して、こてんと首を傾げる。
「居ませんね……いつもはこの時間にはおられるはずなのですが……主殿ー!? どちらにいらっしゃられますかー!?」
「…………ッ」
執務室の中を右往左往、ゴミ箱の蓋を開けたり、電子レンジの蓋を開けたりと、ありとあらゆる場所に俺を探すイズナに、俺は必死に笑いを堪える。
「主殿ー? ……本当にいらっしゃられないのでしょうか? でしたら……とうっ!」
執務室の壁にささっと近寄り、何やら布を自分の前に広げるイズナ。
布には執務室の壁が印刷されており、どうやら正面から見れば擬態できる構造になっているようだった。
「忍法、隠れ身の術……!」
「ッ! ……ッ! ッ!」
あまりにも自信満々に技名を宣うイズナに、俺は腹が捩れる思いだった。
しかし、ここで笑って仕舞えば今までの努力が無駄になってしまう。
ここは耐えろ! 耐えるんだ、俺……!
「……………」
ふぅ、危ない危ない。何とか笑わずに耐えることができた。
さて、それでは失礼しますよ……っと。
「えへっ、えへへへっ、主殿、驚いてくださるでしょうか!」
布の裏で、そんな可愛い事を言っているイズナへと、足音を殺して近づいて行く。
そろり、そろりと、ゆっくり進んでいけば、俺の靴に仕込まれたクラフトチェンバー製特殊シートによって俺の足音は完全に0になる。
0であれば、イズナの狐耳による高い聴覚でも俺の足音を拾うことはできない。
「主殿〜♪ あっるじどの〜♪ えへへっ」
イズナが謎の歌を歌っているうちに、遂にイズナの真横へと移動が完了する。
俺は最後の最後まで油断することなく、ゆっくりと、慎重に腕を持ち上げて────
「わっ!」
「きゃんっ!?」
甲高い叫び声をあげたイズナが尻餅をつきそうになるので、その前にナノマシンで支えてやろうとするが、その前にボフリと音を立てて、尻尾がクッション代わりになって着地した。
……相変わらずモフモフでいいな、それ。
まぁそんな事言うとワカモが色々とエグい事になるから言わんが。
「うう、び、びっくりしました……って、ああ主殿っ!? い、いつの間にそこに!?」
「おはようイズナ」
「はい、おはようございます! ……ではなく!?」
慌てた表情のイズナに挨拶をしてやれば、イズナは元気な笑顔で挨拶を返し、すぐにまた慌てた表情に戻ってガバリと立ち上がる。
「ブフッ、ハッハハハハハハハハハハハハ!!」
そのあまりの可愛さと面白さに、散々耐えてきた俺の笑いの防波堤は決壊した。
ああ面白い。マジで面白い。ちゃんと準備していた甲斐があった。
……って、あ、ヤバい。これ駄目だ。あまりにも綺麗に決まりすぎてツボに入ってるわこれ。
あーもう駄目だこれ。
「───ッ!! ──────ッ!!!!
「あ、主殿っ!?」
ガクン、と膝を突いてしまう俺。
そんな俺に心配したイズナが駆け寄って来るが、ツボに入ってしまった俺はしばらく帰って来ることができない。
「──────ッ!!」
ってこれヤバい。マジでヤバい。笑いすぎて腹筋が死ぬ。
「────ひーっ、ひーっ……あー……」
「だ、大丈夫ですか!? 主殿!?」
1分ほど経って、ようやく俺は戻って来ることができた。
いやー、マジで笑った。こんだけ笑ったの向こうの世界で見たイッ◯Q以来じゃないかこれ。
っと、まず最初はイズナのフォローか。
「いやー、悪いなぁイズナ。いきなり驚かせちまって」
「い、いえいえ! イズナは大丈夫です、主殿! そ、そんな事より主殿! 先程のは一体どのような忍術をお使いになられたのでしょうか!?」
「ふっふっふ……聞きたいかね」
「はい!!」
俺が腕を組んでそう問うてみれば、イズナは目をキラキラと輝かせて俺を見上げる。
「いいだろう、教えてしんぜようではないか……」
「お願いします、主殿!」
「うむ。いいかイズナ。お前は先程まで、隠れ身の術を使用していたな?」
「はい!」
目を瞑り、腕を組んだまま、数歩ほどイズナから距離を取る。
そして、足を肩幅に開きつつイズナへと向き直り、腕組みを解いて────
「であれば話は早い……これは、隠れ身の術を超えた隠れ身の術……即ち!! 『真・隠れ身の術』ッ!!」
「おおっ!?」
カッ、と目を見開き、印を結べば、ドロン、と音を立てて俺の姿が透明化する。
「どうだ! これぞ『真・隠れ身の術』なり!」
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
パチパチパチパチ、と、精一杯の拍手を透明な俺に送るイズナ。
いやまぁ忍術でも何でもなく、ただの光学迷彩なんだけどねこれ。
でもなんか悪戯に流用できそうだったんでやっちゃいました。
……あ、流石に駄目な事には使わないぞ? 盗みとか覗きとか。
盗むなんてくだらないことするくらいなら少しでも金を消費したいし、覗いたら性癖が歪む。
軽犯罪ごときに使っても俺に良い事が一個も無いんだわ。重犯罪もしないけど。
「流石です、主殿!」
「ふっふっふ……イズナよ、修行を続ければ、お主もいつか習得出来ようぞ。精進するが良い……」
「はい! わかりました主殿!」
「うむ。……よし、じゃあ仕事するか。溜まってんだよね二日休んでたから」
「お任せください! イズナ、頑張ります!」
シュバっと、素早い身のこなしで椅子に座り、早速仕事を始めるイズナ。
うむ、素直なのは実にいい事だ。
さて、それでは俺も仕事を始めよう。
まずは……ええと、何コレ。
『休暇中の出来事について報告書の作成』ぃ……?
今回のに関しちゃ俺のプライベートなんですけど……?
いやまぁ分かるぞ? うん。まぁ、俺ってば現キヴォトスで最重要人物の自覚あるし。連邦生徒会としては俺の動向を知っておきたいってのは分かる。
でもさぁ……リンちゃんさぁ……休暇くらい自由にしても良いじゃん……皇族でもねぇんだからさぁ……いや報告書は書くけど。
……ってかこれ機密文書扱いじゃねぇか面倒臭ぇ。
ええと、封筒はこの段で……トップシークレットの判ってどの段に入れたっけ……
「あ、主殿、主殿」
「おん? どうしたイズナ」
「この書類の、この部分なのですが……」
書類にわからないところがあったのか、イズナが椅子から立ち上がり、書類を持ってトタトタとこちらへ────
「ちょっと止まってくれイズナ」
「はい?」
突如、俺の危機察知センサーが発動し、慌ててイズナをその場に止めると、俺はキョトンとした顔のイズナをよくよく観察してみる。
セーラー服の上から片肌脱ぎ着られた花柄の着物に、そこから覗く肩と、腕に巻かれたサポーター。
そしてかなり短いスカートから見える健康的な大腿の片方にはクナイを挟んだホルスターが着けられ、もう片方の足には網タイツが穿かれている。
「…………ううむ」
これは……性癖は……歪むか?
どうなんだ? いやまぁぶっちゃけホルスターとか網タイツとか、すっげぇ良いと思うし、眩しい肩とか薬指と中指の空いた手袋とか帯を巻く事で強調された胸に何も思わないってわけではないが……
でもなんか歪みそうなんだよなぁ……イズナって普通に正統派美少女だし、狐要素も最高だしなぁ……うーむ……
「……あ、主殿? イズナがどうかしましたか……?」
「ん、ああ、いや……何でもない。気にするな」
……うん、大丈夫だ。
イズナはきっと大丈夫だ。歪まない。俺の性癖はもってくれる。
「はい! ではここなのですが────」
「いやちょっとすまんもう一回待ってくれるか?」
「?」
イズナが近づこうとしたところであることに気づいた俺が、再び慌てて止めると、イズナはコテンと首を傾げる。
「ッスゥ─────」
……うぅぅぅぅん、アイシャドウ……アイシャドウかぁ……
これは……うーん……うぅぅぅぅん………
クソ、まずい。揺らいでいる。だいぶ揺らいでいるぞ。
ここは一旦メンタルリセットを挟まなければ。
「……なぁ、イズナぁ……」
「はい、主殿!」
「…………俺の事ぉ……どんな奴だと思う……?」
「はい! 主殿はとても素敵なお方です! とても優しくて、格好良くて、お強くて、イズナの知らない事もいっぱい知っていて、まさにキヴォトスの光とも呼べる────」
「あー……そんくらいで十分だ」
ノンストップで俺を褒め称え続けるイズナを手で制する。
「よろしいのですか? まだまだありますが」
「いや、全部言ってるとだいぶ時間かかるだろ。ありがとうイズナ。マジで助かった」
おかげで目ぇ覚めたわ。
そうだよな。イズナで性癖が歪むわけねぇもんな。
どうかしてたよ俺、本当に。
「んで? 聞きたいとこはどこだ?」
「ええとですね、それはこちらの────」
この後、イズナと和気藹々と仕事を終えた。
イズナは相変わらず可愛いと言う事がわかった。
俺がイズナに「近寄るな!」って言いたくないからこうした。勿論だが異論は受け付けない。
次回は……まぁ、修行部の誰かか、ワカモか……リンちゃんあたりにしても良いかも。
ま、書くときの俺の気分次第やね。
白亜の予告状やっていい?
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やっていい。
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やるな。
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そんな事より百花繚乱やれ。