待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
『百夜堂の看板娘』
自治区内を歩いていれば、必ず誰かが彼女を讃える声が耳に入るだろう。
彼女は百鬼夜行に知らぬ者が居ない程にまでその名を轟かせ、そして多くの者たちから好感を持たれているのである。
彼女がそれを可能とするのは、単に彼女の『可愛さ』故だろう。
彼女の計算し尽くされた『可愛さ』は、老若男女を問わずに人を虜へと変える。
彼女が道を歩けば同じ道を行く者達の視線は自然と彼女の方へ向き、彼女が立ち止まればその場に人だかりが生まれ、彼女を目当てにしていようがしていまいが、百夜堂へと訪れた者を漏れなく従順なリピーターへと変貌させる。
ここで特筆すべきは、彼女達の虜になった者達の『治安の良さ』だろう。
キヴォトスの中でも特に治安の良い方である百鬼夜行の人間であると言う事もあるが、それ以上に彼ら彼女らは、『百夜堂の看板娘』を一つのコンテンツではなく、今を生きる一人の少女だと認識する。
故に、自然と『彼女を困らせるようなことはしてはいけない』、『彼女を悲しませるようなことはしてはいけない』と言った、暗黙の了解のようなものが生まれるのだ。
ファン同士の結束が、更なる治安の改善を百鬼夜行にもたらすのである。
「いや本当にすごいよなお前。どうやったらそんなに上手くいくんだよマジで」
「えへへ……って、も、もう! やめてよ先生! 恥ずかしいじゃない……!」
そう言って耳を真っ赤にして顔を隠すのは、本日の当番。先程から紹介していた『百夜堂の看板娘』にして、フィーナの所属するお祭り運営委員会の委員長、
「ほら、今は仕事に集中、集中! 私との話は、終わった後にいつでも出来るでしょ!?」
「おう」
そう言って俺に仕事を促してくる彼女。
そんな彼女であるが、実は俺が本気で尊敬している生徒の一人なのだ。
何なら、ブルーアーカイブと言うゲームの中で、最も尊敬している生徒とすら言える。
そして俺自身が『先生』となった現在では、俺とトップクラスに仲の良い生徒の一人だ。
と言うのも、彼女はいわゆる『努力の人』なのだ。
百夜堂の看板娘として、日々『可愛さ』を追求しながら接客業を続け、同時にお祭り運営委員長として、大人達との事務的な交渉や書類仕事をこなす。
それを何の文句も言わずこなす姿に、ゲームとしてのブルーアーカイブをプレイしていた俺は、深い尊敬の念を抱いたのだ。
で、そんな彼女と仲良くなった理由であるが、簡単に言ってしまえば『シンパシー』である。
俺と彼女には、似通っている部分が幾つかあるのだ。
百鬼夜行のアイドル的存在、『百夜堂の看板娘』として在ろうと、本来の自分を抑えて努力するシズコ。
キヴォトスにいる全ての生徒の味方、『シャーレの先生』として在ろうと、本来の自分を封じて努力する俺。
皆の期待に応えようと、学生の身にして過労で倒れる程に働かなければならなかったシズコ。
生徒に頼られようとして、身の丈に余る仕事量にぶっ倒れた俺。
お祭り実行委員長として、祭り好きの百鬼夜行人達の期待を一身に背負うシズコ。
シャーレの先生として、キヴォトス人達の命を一身に背負う俺。
……とまぁこのように、スケールにかなり大きな違いこそあれど、俺と彼女は苦労している点にかなり共通点がある。
その辺りでかなり話が合い、それでしかも同年代と来た。
そんな事もあって、割とすぐに俺と彼女は仲良くなったわけだ。
今になってはもうすっかり違いに気兼ねなく接し合える、良い友人枠だ。
服装もちゃんとしているので、性癖が歪むこともない。
スカートの丈も比較的良心的である。いや本当に素晴らしい。
「────そう言えば、先生」
「ん?」
時間は移ってお昼休憩。
俺がいつも通りにコンビニ弁当を突いていると、持ち込んだおにぎりを食べていたシズコが、ふと何かを思い出したらしい。
「フィーナの事なんだけどさ、最近になって……って言うかシャーレに当番に行ってから、なんかやけに上等でぶかぶかなスーツを羽織るようになったんだけど、アレ、先生のよね?」
「んお? あぁー……そうだな」
そう言えば、当番が終わった後、フィーナが欲しいと言ったのでそのままあげたのだったか。
まぁ、ヤクザと言えばスーツみたいなところもあるからな。
気に入っているようなら何よりだが。
「……一応聞いておくんだけど、アレ、いくらしたの?」
「あー……あんまり覚えてねぇな。まぁでもあの中に入ってるのは少なくとも5000万はするぞ」
「……はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
シズコがガタリと立ち上がって叫ぶ。
「ちょっ、ご、5000万!? なんでそんな高級品をポンと渡しちゃうの!? 金銭感覚は大丈夫なの!?」
「大丈夫だけどダメ」
「どっち!?」
いや、本当にそうとしか言えない。
(金銭感覚自体は割と)大丈夫だけど(今のままの金銭感覚で行くと)ダメ。
つまりそう言う事である。
「えーと……つまり?」
「お前、俺が貧乏だった頃を知ってるだろ?」
「まぁ、そうね。数万円のスーツを買うのにも苦労してる、みたいな話は聞いたけど……」
「いやなぁ……その時の貧乏性が残ってるってのもあるが、金の使い道が無くて、金が有り余りすぎてなぁ……どうにかこうにか消費しないとダメなんだわ。近々ボランティア的な組織を立ち上げるつもりなんだが、それでも全然金が余る」
「いくらくらい?」
「一兆近く」
どれだけ金を使おうと思っても、まず予算が10億にすら届かない。
なんかこの辺の金銭感覚はだいぶ麻痺してきているのだが、普通なら10億と言う金額は何人もの人間が働かずとも一生遊んで暮らせるだけの金なのだ。
家など余裕で20軒以上立つし、マンションだって10階建のものを二つくらい作れてしまう。
一兆など、多少のボランティア程度でどうにかなる額じゃなかったのだ。
「うわぁ……」
シンプルにドン引きするのやめて欲しい。
いや確かにえげつない額だけれども。
「えぇ……? 何よそれ……成り上がりってレベルじゃないわよ……?」
「そう思うよな、俺もそう思う。もう本当にどうすれば良いかわからん」
「う、うーん……取り敢えず寄付って形で各校に配ってみたら? 1000万ずつくらい。それで結構消費できるんじゃない?」
「いやぁ、そうしても良かったんだが、ここってキヴォトスだからなぁ……大人達の悪事に利用される未来しか見えん」
「あー……」
思わず納得してしまうシズコ。
キヴォトスとはつまり、そう言う土地なのである。
「だから金を金のまま配るってのは避けたいわけだ。……まぁ、それ以外の使い道が未だ思いつかんが、しばらくすれば気の利いたのも思いつくだろ」
「そうだと良いわね」
「ああ。ところでシズコ。最近百夜堂はどうなんだ」
「急に話が飛んだわね……」
ズズ、とお茶を一飲みしてから、シズコは答える。
「やっぱりシャーレ認定マークとシャーレ部員の効果がえげつないわね。あの事件の後から更に客足が増えて、そろそろ私一人だと捌ききれなくなっちゃいそう」
あの事件、と言うのは最終編の事だろう。
シャーレの影響力が本格的にキヴォトス全体に広まったきっかけは、あの後だ。
で、そんな影響力が強まったシャーレの部員にして百鬼夜行の有名人が従業員をしている百夜堂に、ただでさえ多かったのに更に多くの人が来るようになった、と。
……いや、それを一人で全部対応しているシズコもえげつねぇな……というか。
「休みはきちんと取ってるな?」
俺もシズコも、両方とも過労でぶっ倒れたクチだ。
互いに休養の大切さはよくわかっている。
「勿論、取ってるわよ。また倒れたら、色んな人に迷惑かけることになっちゃうんだから」
「そうか……じゃあ、変なのに目を付けられたりは?」
「無いですよ〜……たまに脅迫状が来る以外は」
「え、ダメじゃん」
脅迫状ってお前。
普通にアウト以外の何者でも無いんだけど。
「いや、そうでも無いわよ? ただ店を爆破してやるー、とか。従業員を攫うー、とか、そんなのばっかり。先生もよくもらうでしょ?」
「一日あたり5、6通のペースで」
「つまりそう言う事よ。わかるでしょ?」
「まぁ……」
正直、わかってしまう自分が恨めしい。
こう言うところでシンパシーを感じたくなかった。
いや、そうなのだ。脅迫状が来たところで、どうせその書面に書かれた内容のことは起きないのだ。
本気で爆破するつもりならわざわざ『爆破する』なんて事言わないし、本気で攫うつもりなら『今から攫います』なんて事は言わない。ただバレるリスクが高まるだけだ。
本当にやるのにわざわざ通告するのは、それこそ怪盗くらいのものである。
「……あ、そういやまだアキラと会ってねぇな……」
白亜の予告状は時系列的には最終編の前くらいだったと思うが……うぅむ……
「まぁ、何とかなるか」
どうせここから先は手探りで進んでいかなければならないのだ。
イレギュラーの一つや二つが起きても、冷静に対処しなくてはならないと言うもの。
本格的にまずい事になっても、やろうと思えばどうにでもできるはずだ。
そのために、今まで散々用意してきたのだから。
「…………何か物騒なこと考えてるわね?」
「いや? 何も?」
「ふぅ〜ん……まぁ、そう言うことにしておいてア・ゲ・ル⭐︎」
「うわきっつ」
「なんでよ〜っ!?」
嗚呼、まだ平和だ。
シロコテラー、実装! シロコテラー、実装! シロコテラー、実装!!(烈海王)
シロコテラーが相手なら、
……それはそれとして、ウチのキヴォトスだとどう転んでもホシノがああなりそうもないんだよなぁ……どう考えても先生が爆破を耐え切っちゃうんだよなぁ……どうしよっかなぁ……
ワカモ大勝利編
-
作れ。
-
作るな。