待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
ガチャガチャガチャ、と。
軽快なBGMが流れる中で、コントローラーを操作する音が、小さな部屋の中に響く。
「…………」
「…………」
部屋の中は、押し潰されるかのような緊張感が支配していた。
その緊張感の中心に座しているのは、二人のプレイヤー。
片方はYシャツ姿の大柄な男、もう片方は朱い髪に幾つもの小さな白いリボンを結び付けた、小柄な少女。
そんな対象的な二人が横に並び、鬼も射殺さんばかりの視線を画面に送りながら、目で追えないほどの速さで手元のコントローラーを動かし続ける様は、まさに異様の一言であった。
「…………」
「…………」
「…………」
そんな二人の後ろに据えられたソファーに腰掛けるのは、それぞれ実に特徴的な格好をした三人の少女達。
一人は緑色のラインが走る猫耳のようなヘッドフォンを着け、一人は床についてしまうほどに長い黒い髪を垂らし、もう一人はメイド服を纏い金色の髪をシニヨンでまとめている。
そんな彼女達も、まるで瞬きと呼吸以外の全てを忘れてしまったかの如く身動き一つせずに、ただただ画面の奥で起きている事を食い入るように見つめ続ける。
ガチャガチャガチャ。
コントローラーの音は鳴り止まない。
時に激しく、時に緩やかに、激しい緩急をつけながら、絶え間無く鳴り続ける。
「……あっ」
そんな中で、不意に誰かが声を上げた。
画面の中で向き合う、二人のキャラクター。
その片方が、明らかにその場面に即さない挙動を見せたのだ。
「ッ!」
その隙に一気に距離を詰めたもう一方のキャラクターが、正確無比かつ無慈悲な
画面上部のHPバーがみるみるうちに減って行く。
やられた側も正確無比な受け身と
「…………!」
画面中央上部の数字が示す残り時間は『10』。
現状維持のままあの数字が『0』になってしまえば、HPの残量差で負けてしまう。
一か八かに賭けるしかない。
そんな思いがコントローラーを動かし、キャラクターに無理な特攻を命じた。
しかし、互いに熟達した猛者同士、そのような軽率な行動が認められるわけもない。
特攻は軽く見切られ、躱されてしまい、空いた隙へと更なる
ただでさえ大きく減ったHPに、それを耐え切るだけの余地は無かった。
1ドットすら残さず、ゲージが削り切られる。
『K.O.!!』
派手な演出と共に、画面に表示されるのは決着の合図。
『YOU WIN』の文字が燦然と輝くリザルト画面に表示されるユーザーネームは、『UZQueen』。
「…………よし……!」
即ち、朱い髪の小柄な少女、
「………………ぐおぉ……」
それと同時に、俺の負けでもあった。
コントローラーを手放し、がっくりと項垂れる。
「…………」
コントローラーの音が止み、リザルト画面のBGMだけが流れる。
誰も彼もが口を開かない中、まず最初に響いたのは、拍手の音だった。
「すごいです! ユズが勝ちました! やはりUZQueenモードに入ったユズは最強です!」
手を叩き、満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに言うのは、ソファの真ん中に座っていた、黒い長髪の少女、
「いや、それもそうだけど……ユズと普通に戦える先生って……えぇ……?」
困惑の表情でどう反応したらいいのか困っているのは、緑色のラインの入った猫耳のようなヘッドフォンを着けた少女、
「負けてしまいましたね。さぞかし悔しい思いをしていらっしゃるのでしょう。ぜひ私の胸で泣いてくれてもいいのですよ?」
なんかよくわからん事を言ってるのは連れて来た
「いや〜…………負けた。強すぎ。勝てそうにもない」
トキを無視して、そんな事を嘯く。
現在地はミレニアムサイエンススクール。その部活の一つである、ゲーム開発部の部室だ。
勿論今日は平日であり、仕事もあるのだが、本日の当番であるユズは非常に外出が苦手であり、わざわざシャーレに来てもらうよりこちらから出向いた方が早いと言う事で、彼女が当番の日にはこうしてここまで遊びに来るのである。
勿論いつもはゲームなんてしないが、今回は仕事に余裕があるのでやってみた次第だ。
そんなわけで対戦してみた結果だが……いや、本当に強かった。
一応こちらも三分の一くらいまで体力を削ってはいるものの、この後に何回やってもこれより先に持っていける気がしない。
そのくらいの絶対的な実力差があった。
「い、いえ……その、先生もとても強かったです。すごく戦い甲斐がありました。ゲーム、お上手だったんですね」
「まぁ、
いや本当に。ゲームができる時間なんて全く無い。
1日16時間以上の労働をして減る量よりも増える量の方が多いってどう言う事なんですかね?
いやまぁ原作のそれよりも色々な面に手を出してるから業務量が増えてはいるが、それにしても何だって原作先生はあんなに生徒達と交流する時間も遊ぶ時間もあるんだ? おかしくないか?
「それじゃあ、いつもゲームやってるのにだいぶブランクのある先生に負ける私達って……」
と、そんな事を考えていたら、何やらミドリが落ち込んでいる。
ユズと戦う前にアリスとモモイと、ついでにトキも一緒にまとめてボコボコにしたのが、今の情報を知った事で効いてきたようだ。
ちなみに、この場にいないモモイは『修行に行ってくる!』とか言って飛び出してしまった。
多分今頃どこかのゲーセンで遊んでいるのだろう。
「大丈夫です、ミドリ! これからレベルアップすればきっと勝てます! 相手は
「先生のルビおかしくねぇかオイ」
「先生のステータスを加味しなくとも、パッシブスキルで味方全体にステータス5倍かつデメリット無しは、常識的に考えてどんなゲームでもゲームバランスを著しく損なってしまうぶっ壊れです! 異論は認めません!」
……いやまぁ、確かに味方生徒のステータスを超向上させる効果があるのは否定はしないが……デメリットはちゃんとあるぞ?
使いすぎると俺の顔の穴という穴から血が吹き出すっていうデメリットが。
「大丈夫ですご主人様。例えご主人様がぶっ壊れどころか違法チーターであったとしても、私はずっとご主人様の味方ですので」
「……お前はさっきから何を言っているんだ」
「何とはまたご冗談を。もしや先程の敗北でいじけていらっしゃるのですか? 仕方がありませんね。そんなご主人様にはパーフェクトメイド・トキちゃんの膝枕をして差しあげましょう。そのまま寝てくれても構いませんよ」
「いや、しないが……」
なんかいつにも増して言動が面白いことになってやがるなこの面白メイド。
何だ? もしかして根に持ってるのか?
さっき俺が大人気なくパーフェクトで完勝したことを根に持ってるのか?
だって仕方がないだろうが、お前が「パーフェクトメイドはゲームもパーフェクトです。ぜひ遠慮なくかかってきて下さい」って言ったんだから。
「あっ、で、では、私でよければ私の膝を────」
「ちょっとみんな! 大変だよ!?」
バン、と。部室のドアを勢いよく開けて、モモイが飛び込んで来た。
ミドリの格好の緑色の部分をピンク色にした、ポケモンで言う色違いのような感じの少女だ。
ちなみにミドリとは双子の姉妹で、モモイの方が姉である。
「大変! 大へっ!?」
足元のコードに引っかかり、倒れそうになる。
が、いつの間にか動いていたトキに支えられて事なきを得た。
「っと……これ! これ見て!」
そして、トキに支えられた態勢のまま俺に何やら封筒を差し出して来る。
受け取って封を剥がし、中身を見てみれば、何やら住所が記入された紙片が一枚入っているのみ。
「……こりゃあ一体、何だ?」
「そ、それがね……」
そうしてモモイが語ったのは、ゲームセンターで格ゲーを楽しんでいたところ、何故かC&C────Cleaning&Clearing、ミレニアムの特殊エージェント部隊────の
「………!」
その話を聞いて、俺はすぐにピンと来た。
これはイベントストーリー、『白亜の予告状』のプロローグだ。
成程、このタイミングで発生したか。実に丁度いい。
今からであれば丁度向こう三日間はゲーム部の当番だからな。変な事にならずに済む。
「お姉ちゃん……」
「な、何……?」
「何でうちが、C&Cの依頼を受けなきゃいけないの!? ちゃんと『人違いです』って言った!?」
「アリス、わかりました! モモイが新しいクエストを受けたのですね!」
「そ、それじゃあ、外に、出ないと、いけない……?」
などと俺が人知れずそんな事を考えている間にミドリは怒り、ユズは絶望していた。
ミドリはまぁ平常運転だし、アリスもいつも通りだが、ユズの絶望度合いがすごい。
顔が真っ青だ。
「ううっ……どうしよう……!? ごめんね、みんな……! あの時、私がはっきり断っていれば……うわーん!」
みんなの様子を見て、モモイが泣いてしまっ……おい待て俺のシャツで涙を拭くな洟を付けるな! 着替えは……無い事もないが面倒臭いんだから!
「はぁ……とりあえず、トキさん。これは大丈夫なんですか?」
「大丈夫か大丈夫でないかと聞かれても、判断はしかねます。今の私はC&Cではありませんし、以前もC&Cであったとは言えほぼリオ様の護衛で、先輩方と行動を共にする機会もあまりありませんでしたので」
まぁ、2章のエピローグでこっちに引っこ抜いたからな。仕方ない。
「そ、そうですか……じゃあ、先生はどうですか……?」
「ん? いいんじゃないか? 受けても。C&Cはメンバー全員がシャーレ部員だし。シャーレ部員もC&Cみたいなもんだろ」
「そ、それは暴論な気が……」
「ダイジョーブダイジョーブ。やるんだったら俺もついてってやるから」
と、俺がそう言ってやると、モモイとミドリの顔がパッと明るくなる。
ユズの顔色も幾分かは良くなったようだ。
「あっ、そ、それなら……!」
「先生が手伝ってくれるの!? だったら楽勝だよ!」
「う、うぅ……せ、先生が、居るなら……」
「やりました! みんなでお手伝いクエストです!」
と、そんなやる気になって来たゲーム開発部をよそに、トキが一礼して部室を出ようとする。
「……何しに行くんだ?」
「いえ、C&Cとして依頼を受けたのなら、メイド服を用意しなければ、と」
……ああ、そう言えばそうだったな。
ゲーム開発部がメイド服を着るんだった。
「メイド服!?」
「いいじゃん! みんなで着ようよ!」
「最強職、メイドの装備です! アリス、興味があります!」
「め、メイド服なんて……」
うむ、こちらの反応は悪くない。問題なく着てくれるだろう。
約一名は除くが。
「……まぁ、そう言うわけだ。頼む」
「お任せ下さい、ご主人様」
と、そう言ってトキは部室から出ていった。
……ってかそうだ。普通に進めてたらトキがバニー服を着てたんだ。
危ねぇ危ねぇ。あの凄まじい露出と覚悟のバニー服だと、たとえトキであっても俺の性癖が危ぶまれるところだった。
「……さて、俺も色々と調べなきゃいけないし……仕事も片付けなきゃな。ユズ、行くぞ。ミドリ、トキが戻って来たら連絡をくれ」
「あ、は、はい……」
「わかりました」
これから三日間、あまり仕事に手をつけられなくなるからな。
出来る時にしっかりとやっておかねば。
今回のイベントの気合の入り用がエグすぎたので初投稿です。
ええい、その格好は何だオマエら……!
クソっ……許せねぇ……! ぐちゃぐちゃにしてやる……! 絶対にオマエらの情緒も性癖もぐちゃぐちゃにしてやるからな……! 覚悟しやがれ……!!
特にマリー!!!(ここ重要)
ワカモ大勝利編
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作れ。
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作るな。