待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
トキからの連絡を受け、表へ出る。
日の眩しさに目を細めつつ、周囲を見渡してみれば、明らかに異質な集団が近くに立って居た。
C&Cのメイド服を着こんだゲーム部の面々だ。
「あ! 先生!」
その中で、真っ先に俺に気付いたのはモモイだった。
こちらを見つけるなりパッと明るい笑顔を浮かべた彼女が、長いスカートを煩わしそうにしつつ、てててと可愛らしい走り方でこちらへと向かって来る。
そうして俺の目の前まで来ると、衣装を見せつけるようにパッと腕を広げ、くるりと回る。
「じゃーん! メイド服だよ!」
「おー」
似合っている。それが俺の第一の感想だった。
いつものヘッドフォンを押し除けるようにして着けられたホワイトブリムはともかくとして、純白のエプロンや青鈍色のドレスは落ち着いたイメージがあり、本来ならば快活な彼女とは相反する物であるが、しかし彼女の快活さがすごいのか、或いはメイド服のパワーがすごいのか、不思議とその出来に違和感を感じない。
仕事が出来そうという雰囲気は一切皆無であるが、それでもメイドという事で十分に通せそうな仕上がりだった。
「どう? どう? 可愛いよね? 似合うでしょ?」
「おう。いやマジで似合っててビックリした」
「でしょぉ〜!!」
ぴょんぴょんと俺の周りを跳ね回り、これでもかとメイド服を見せつけて来るモモイに正直な感想を告げればと、彼女は得意満面に笑顔を浮かべた。
「はぁ、はぁ……! もう、お姉ちゃん、急に走らないで……! さっきまで動きにくいって散々文句言ってたのに……!」
そんな笑顔のモモイの後ろから、息を切らしたミドリが現れる。
うん、やはり双子ということもあって、彼女もモモイと同じく実に似合っている。
元々落ち着いたイメージがあるのもあって、モモイよりも幾分かは仕事が出来そうだ。
まぁ、と言ってもほぼ誤差の範囲ではあるが。
「ふっふーん! 先生に早く見てもらおうと思って!」
「おー、ミドリ。お前も良いな……うん、似合ってる似合ってる」
「えっ、あっ、有難う、ございます……えへへ……」
ミドリが浮かべるのは、ふにゃりとした笑顔。
モモイと似ているようで全く質の異なるその笑みに、同じ笑顔でここまで受ける雰囲気が違うとは、人の表情ってすごいんだな〜、という具合に軽く感動を覚えた。
「ほら! ユズもおいで!」
「あっ、う、うん……」
と、そんな下らないことに感動していると、オドオドとメイド服を着たユズが歩み出てきた。
「おぉ……!?」
あまりにも凄まじい似合い方に、つい声が漏れてしまう。
ユズが着ているメイド服はモモイとミドリの着ているものとは少々デザインが違って中のドレスが半袖になっており、それに加えて彼女の髪型がお団子ポニーテールに結われているものだから、普段纏っているどこか陰鬱な空気が完全に霧散し、むしろスポーティな雰囲気さえ感じられる。
若干猫背気味なのが残念ではあるものの、それにしても凄まじい変わり様で、同時に凄まじい似合い様だ。
「すごいなこれ……いや本当にすごいなこれ……俺ちょっとメイド服舐めてたかもしれん……」
「ね! すっごい似合ってるよね!」
「えっ、あっ、あうう……あ、あんまり、見ないでください……」
ゲームの立ち絵としてもうこの姿のユズの事は知っていたはずなのだが、実際に見てみるとあまりにも違いすぎる。
こんなものを見せつけられては俺のメイド服への認識を改めざるを得ないというものだ。
「よぉし! じゃあ次はアリス!」
「うぅ……は……はい! アリス、行きます!」
モモイが声高にアリスを呼べば、建物の陰からそんな宣言が聞こえて来る。
それから数秒ほどしてから、トキに手を引かれたアリスが恥ずかしそうに建物の陰から姿を現した。
……そういやトキはどこに行ったのかと思っていたが、アリスと一緒にいたのか。
しかし、アリスの様子が何だかおかしい。
普段はあれほど元気なアリスが、何だかしおらしくなってしまっている。
「……どういう状況だ? あれは?」
「えと……その、アリスちゃん、C&Cみたいな動きができない自分にはまだこの衣装は相応しくないって……ずっとあんな調子で……トキさんが何とかしてくれましたけど……」
「あー……なるほど」
そう言えばそうだった。そんなストーリーもあった。
まぁ、アリスの中でのメイドと言えばC&C……ミレニアム最強のエージェント部隊だ。
現実世界をRPGでラーニングしたアリスからしてみれば、まだメイド服を着るには『適正レベルが足りない』のだろう。
……身体能力のスペックと言うか、基本性能だけを見ればアリスの方が圧倒的に上ではあるのだが、まぁ、それを言うのは無粋というものだ。
「……う、うわぁーん……あ、アリスは似合っているのでしょうか……」
「似合ってる。似合ってるぞ。最高に似合ってる。流石はアリスだ」
不安そうに呟くアリスに、俺はそう声をかける。
実際、アリスのメイド服は最高に似合っている。
半袖のドレスに、フリルの多くあしらわれたエプロン。頭のヘッドブリムは勿論、手首のリストバンドまで、どれもが似合っている。
長い前髪ごと束ねたサイドテールも、実に似合っていて素晴らしい。
「……う……せ、先生……本当に、アリスは、アリスですか……? アリスは、メイド服を着ていても、アリスですか……?」
アリスの不安へに揺れる瞳が俺を捉えた。
俺はそれを強く見つめ返し、告げる。
「当然だな。お前はお前だ」
俺の言葉を聞くと、アリスは視線を少しずらし、ゲーム部の面々の方へ向ける。
「み、みんなは……」
「もちろん! アリスはアリスだよ!」
「とってもよく似合ってる!」
「うん、だから大丈夫」
「ッ……」
アリスが横にいたトキの方を見る。
トキは何も言わず、ただ小さく頷いた。
「……みんな……ありがとう、ございます……どんな姿も、アリスはアリスなのですね……!」
そう言って、アリスはいつものように胸を張った。
どうやら無事に自分を納得させることができたようだ。
「やったね! アリス!」
「偉いよ、アリスちゃん!」
「よく頑張ったね……アリスちゃん……」
パチパチパチ……と。
拍手がアリスへと送られる。
いやー、よかったよかった。素晴らしい。これにてハッピーエンド。
白亜の予告状、完!
……とはならないんだな、これが。
と言うわけで早速移動したのは依頼人の所有するお屋敷。
地理的に言えばミレニアム自治区の中でもトリニティ寄りの方で、まだ周辺の土地の整備が行き届いていない田舎にあたる場所であり、交通の便は決して良いとは言えない、と言う程度だ。
で、まぁそんな立地ということもあってか……
「……デケェな」
「はい。総床面積はシャーレの5倍以上かと」
普通に屋敷が大きい。
目測だと横に50m、縦に15m、奥には70mといった所か。
窓の配置から鑑みるに4階建で、中央にはでっかいホール……と。
ここまで来るともはや屋敷というよりは宮殿とかそちらの類だな。
「ひ、ひぇぇ……」
「アッ! ユズが倒れました!」
さて、このサイズ感をどう表現したものだろうか。
上から見れば大体サッカーコートにこの屋敷がギリギリ入り切るくらいで……高さで言うとマンション5、6階程度、あるいは
そんなわけで信じられないくらい広い屋敷なわけだが、庭もとんでもなく広い。
広めの校庭くらいには広い上にしっかりと整備が行き届いているし、ちゃんと駐車場とかも備えられている。
金をかけていますよ〜と言うのがこれでもかと伝わって来る。
いくらこの辺りの地価が安いとは言え、これほどの屋敷と庭を作るには最低でも50億円は必要だろう。
…………今の俺からしたら端金だな。
おっといけない。金銭感覚がまたも狂いつつある。
ただでさえ最近は一千万が高いとすら思えなくなってしまったのだ。
未だ残る庶民の金銭感覚を大事にせねば。
「────ようこそ、皆様。お待ちしておりました」
と、そんな風に屋敷の大きさに戦慄していた所に声がかかる。
依頼主のパグ犬だ。
「約束の刻限通りにお越しいただけるとは……感謝申し上げます」
慇懃に頭を下げるパグ犬。
……俺がこの世界に来てからもうだいぶ長いが、未だにデフォルメもされていないリアルな動物が高そうなスーツをキメて二足歩行しながら挨拶するとか違和感しかない。
骨格的にもだいぶ無理があるだろう、それ。
いやまぁそうなってるもんはそうなってるんだから仕方ないんだけどさ。
「……さて、アンタが依頼主だな。知っての通りだが俺はシャーレの先生をやっている者だ」
「ええ、勿論存じ上げておりますとも。犬猿の仲を通り越して不倶戴天の敵同士であるゲヘナとトリニティの交友を取り持ち、かの滅びからキヴォトスを救った英雄の名を知らぬ者など、このキヴォトスには誰も居ないことでしょう」
「ああ、そうだろうな」
良い意味でも悪い意味でも、な。
「……で、だ。早速依頼の詳細な内容を聞かせてもらいたいんだが」
「はい。実は私、美術商というものを営んでおりまして……コレクターから買い取った商品を管理し、オークションを通して再度流通させる……所謂、セカンダリーというものでございますね」
「ふむ、怪盗か」
「正しくその通りでございます。流石は着任初日でかの災厄の狐、狐坂ワカモを破ったシャーレの先生」
パグ犬がその短い首で目一杯大きく頷く。
「……せ、先生ぇ……話が急すぎて追いつけないよぉ……!?」
そこへ、俺の腰目掛けてモモイが突っ込んで来た。
……まぁ、こっちは事前知識アリで全部知った上で話してるからな。仕方ないだろう。
「簡単に言えば、この人の美術品が七囚人の『慈愛の怪盗』に狙われているから、その怪盗から美術品を守って欲しい、と言う話だ、これは」
「ええ。一言一句、その通りでございます」
「ええ!? き、聞いてないよ!?」
当然だ。言っていないんだから。
「まぁ問題ない。俺が居るからな」
「はい、私も居ますので」
ちなみにワカモはここには居ない。
アイツには色々なことを任せているからな。以前みたいに俺につきっきり、と言うのは無理だ。
「おぉ! これは頼もしい!」
「わぁ、流石は
はっはっは。そう褒めるでない、はっはっは。
それとアリス。マジでそのルビはやめろ。俺は不正なんぞしてねぇ。
「せっ、先生! ちょっとこっち来て!」
「ん?」
モモイに腕を引かれ、ミドリ、ユズと共に少し離れた位置へと移動する。
「どうした」
「どうしたもこうしたも……知ってたの!?」
「ん? ……まぁ、大体な?」
「どっ、どうして教えてくれなかったんですか……!?」
「いやまぁ、俺が居るし」
実際、俺の存在の影響力ってバカデカいからなぁ……
それにゲーム部は俺の指揮下に入った時の恩恵もデカいし。
俺の指揮下にさえあればこの四人だけでも真正面からC&Cに勝てるぞ。
まぁ、相当厳しい戦いにはなるだろうが。
「うぅ……反論できない……!」
「せ、先生はちゃんと最初から最後まで手伝ってくれるの!?」
「おう。元よりそのつもりだぞ」
アキラとの交流は確実にしておきたい。
そしてあわよくばちゃんと連絡できるパスも用意しておきたい。
今の常駐組連中がそうだが、フリーに動かせる有効な駒はそれだけで強い。
将棋で言うところの振り飛車のようなものだ。
まぁ、彼女もそうなってくれるとは限らないが、しかし彼女に関しては戦闘以外に明確な強い点が存在している。彼女を逃すのはあまりにも惜しい。
これから先、俺は原作知識なしの状態でストーリーを駆け抜けて行かなければならない。
使える駒は確保する。そうしなければ俺が死に、キヴォトスは滅ぶ。
つまりそう言うことだ。
「…………わかった……この仕事、受けてみよう!」
「う、うん!」
「や、やるしかない……やろう!」
どうやら覚悟は決まったらしい。
決意を新たに、三人は顔を見合わせると、依頼人の方へと戻ろうとして────
「光よ!」
そのタイミングでアリスが思いっ切りビーム砲をぶっ放し、岩を木っ端微塵に粉砕した。
「どうですか!? これがアリスの新しい必殺技です!」
「流石です、アリス。これで、実力の証明は十分かと」
……あー、そう言えば実力の証明なんてのもあったな。うん……
■
さて、それからなんやかんやあって、正式にC&Cとして依頼を受け、屋敷の警護にあたることが決定し、屋敷の中を案内してもらったり、慈愛の怪盗から届いた予告状を解読したりと色々あった。
ちなみに予告状とは『一日に22回、向き合う二人の旅人。正確な二人。計り知れない20。そして半歩。月の届かない場所、アンティキティラの裏側。一度も授与された事の無い、贅沢であるが不遇な剣のもとへ伺います』と言うもの。
見るからに難解な予告状であるが、しかしUZQeenモードに入ったユズのおかげで『20時半に何かを奪いに来る』と言うことがわかり、依頼人はそれに対してとある叙任式の絵がその『何か』だと我々に3日間にわたる警護を求めた。
……まぁ、実際は叙任式の絵とは違うんですけどね。
勿論俺は最初から最後まで全部知っていたわけだが、わからないフリで通させてもらった。
そうしないと色々面倒なことになるし、一網打尽に出来なくなるのも嫌だからだ。
とまぁ、そんなこんなあって現在時刻はおおよそ24時。
「さて、トキ。それじゃあ俺はシャーレに帰るので、あとは頼んだ」
「はい、どうかごゆっくりお休みください」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってよ!? 今回の件が終わるまで一緒にいてくれるんじゃ無いの!?」
俺の台詞に反応して、モモイが叫ぶ。
…うん。確かに言った。確かに俺は今回の件が終わるまで一緒にいるとは言ったが……
「ごめんなさい。先生には休める時には休んでいただかないといけないんです」
あー……来てしまった。お迎えが。
「!?」
「えっ……今……えっ!?」
「まさか、今のが『瞬間移動』なのでしょうか!? アリス、初めて見ました!」
「そ、そんなわけが……って、そうじゃなくて!」
ゲーム部が銃を取り出し、セリナを狙おうとするが、俺はそれを手で制す。
「安心しろ。明日朝起きたらすぐにこっちに来るから」
そうして、俺の意識は暗転した。
はい。久々です。
活動報告の方には載っけたんですが、俺ってばこれから受験勉強とかで鬼忙しくなるので、更新は死ぬほど遅くなります。すんません。
高評価いっぱい貰えたらもしかしたらちょっとだけ頻度が速くなる……かも(露骨な催促)
ワカモ大勝利編
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作れ。
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作るな。