待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
ワカモの矯正局脱獄に便乗した七人の凶悪犯、『七囚人』の一人。二つ名は『慈愛の怪盗』。
主な犯罪内容は窃盗、並びに強盗、ないし強盗傷害。
標的は主に高価とされる芸術品であり、今までに何十度も犯行に及んでいる。
また、怪盗の名前の通り、あらかじめ予告状を送り付けるなど極めて特異な行動が目立つ。
☆現在、先生達がいらっしゃる場所は私たちの追っている美術的な盗品が集まっているとされている場所です。恐らく彼女の狙いはその芸術品の内のどれか──私共は『時計王の冠』だと睨んでおりますが──でしょう。盗品のリストは下に添付します。
『慈愛の怪盗』は我々も交戦経験が無く、未知数の相手です。どうかお気をつけて下さい。
「……まぁ、こんなものか」
アカネから送られて来たメールを閉じ、一人呟く。
あの後。セリナによって意識を刈り取られ、翌朝になって目を覚ました俺は、屋敷の方へと移動しながら、C&Cと連絡を取ることにした。
これは俺が動くにあたっての事務的な報告の一環であり、不自然な点の辻褄合わせの一環でもあり、また、C&Cによる意図せぬ介入を防ぐための予防でもある。
邪魔者扱いをするようで、真面目に働いている彼女らにはとても申し訳ない気持ちもあるが、原作とは違ってトキがC&Cではなくシャーレに籍を置いているという現状において、C&Cの介入時期が予測できないのだ。
想定と異なったタイミングであの制御が難しいのか簡単なのかよくわからない過剰戦力が急に現れられては、どんな不都合が起こるかわからない。
そう言うわけで誠に残念ながら、彼女らには『慈愛の怪盗が来るらしいけど、こっちでなんとかするよ〜』的なニュアンスのメールを送り、フェードアウトしていただいた。
これで想定できる不確定要素は排除できたはずだ。
そして現在に話を戻すが、今は屋敷で行われている、オークションの参加者を招いたパーティの真っ最中である。
見るからに高級そうな服に身を包んだ動物達やロボット達が料理やドリンクに舌鼓を打ち、その間を縫うようにメイド服のゲーム部員達があくせくと駆けずり回っている。
たまに転びかけたり客にぶつかりそうになったりと、危なっかしい場面はいくらか見られるが、トキによる指導の賜物か、なんとか頑張れているようだ。
ちなみにトキ本人はと言うと早すぎてもう動きが捉えきれない。流石はシャーレの雑務をほぼ一人で担当しているスーパーメイドと言ったところか。
「……さて」
メイド達の活躍を見るのもそこそこに、今度は客人達に注目を向ける。
実際のゲームでは到底気付きようのなかった事であるが、こうして見てみると、この場には思いの外有名人が多い。
キヴォトス有数の資産家を始め、ブラックマーケットでそこそこの力を持っているグループの人間、どこぞの物流会社の社長、ワイルドハントの品を取り扱ってる美術商、トリニティの何とかというブランドの社長……
調べようと思って調べなければわからないようなマイナーな人物から、どこかでチラッと聞いたことのあるような著名人まで、キヴォトスのどこかで経済を担う富豪達が集まっているわけだ。
……で、ここに居るって時点でコイツらの殆ど全員が犯罪者ってことになるわけだが。
流石はキヴォトスと言うか何と言うか。
何でどいつもこいつも犯罪に手を染めたがるんですかね。
ヴァルキューレが半ば機能不全起こして、こういった輩に対して何も出来なかったって言うのもあるんだろうけどさぁ。
それにしたって堂々としすぎと言うものではないのか。何故顔を隠さんのだ。何故代理人に来させんのだ。普通に捕まるぞ。
いやまぁ、今から顔を隠そうが代理人を連れて来ようが、証拠はもうバッチリ押さえちゃったから言い逃れは出来ないんだけれども。
「はぁ〜……」
近いうちにコイツらを全員しょっぴいて、その穴埋めをしなければならない。
そう考えるだけで、心労で溜息が出る。
別に『こっちは証拠握ってるんだぞ? わかってるな?』的な感じで脅してもいいと言えばいいのだが、やぶれかぶれになった連中が俺ごと道連れにしようと『先生に脅された!!』と叫び回る、なんて事態が起きないとも限らない。
俺は『先生』として、誠実かつ中立かつ公平のイメージを保たねばならない。悪い噂が立つような真似は出来る限り控えるべきだ。
で、そう考えると、やっぱり全員しょっぴいてその穴埋めをしなきゃいけないわけなのだが……
「……はぁ〜……」
……やめよう。もうこの件について考えるのは後にしよう。3日後くらいの俺が何とかしてくれるはずだ。
「…………む」
と、そんな事を考えていた時。
ふっと会場から電気が消え、辺りが真っ暗になった。
どうやら、ようやくお出ましのようだ。
「な、何が起きているんだ! 電気が全部消えた!」
「一体何が起きているのですか? 明太郎さん? 説明をお願いします!」
突然の停電に、会場にいた客達が色めき立つ。
「お、落ち着いてください! 皆様! どうかご安心を、停電は一時的なものですから、すぐに復旧を────」
「────いえ、そうはさせませんよ」
瞬間。シン、と会場が静まり返った。
パグ犬の依頼主の声に被せるように響いた玲瓏な声が、人々の一切を黙らせた。
「………だ、誰だ……!?」
焦るパグ犬の問いが、静寂の中に響いた。
それに対して声の主は何も答えず、ただキィと音を立てて扉が開かれる。
「ある者は、こう言いました────『価値ある物は、その手に収めてこそだ』と。たとえ人目に触れぬまま……何年、何十年と経過し────いつしか人々から忘れ去られようとも」
芝居掛かった口調で、声の主は暗闇の中に言葉を紡ぐ。
「しかし、それは本当に正しいのでしょうか? 芸術品とは、広く知られてこそその価値を証明できるのでは?」
声の主が問いかける。
その口調には、自身の考えに対する絶対的な自信が浮かんでいた。
「っ、ま、まさか────」
「ある者は、私を盗人だと蔑み────そしてある者は、私を咎人と罵る」
気付けば、既に俺の隣にはトキが立っており、モード2となって臨戦体制に入っている。
「人は生まれながらにして名を持つわけではありません。呼び名とは、他者から与えられるもの」
ゲーム部の面々は、未だに客達と一緒に辺りを見回している。
ユズだけは部屋の隅で段ボールの中に隠れているようだが。
「故に、私は────その名を受け入れました」
声がした。すぐ近く、この会場の奥の方にある、階段の踊り場。
バッと、全員が一斉にそちらを向いた。
「そう、我が名は────」
瞬間、停電が復旧し、会場内に灯りが戻った。
暗闇に慣れた目がいきなり明かりに晒され、眩しさに目を細めながら声がした場所の方を見る。
「────『慈愛の怪盗』」
薄桃色の髪に、猫のような耳、純白のマントを羽織り、その下には純白のブラウスとズボン。
目元をマスクで覆い、上から下まで白で包んだ彼女が、ライトを浴びて煌びやかに輝いていた。
「……」
あまりにも堂々とした立ち振る舞いと、そのどこか現実離れした雰囲気に俺が思わず呆けていると、彼女は素早く身を翻して屋敷の奥へと入って行く。
……失態だな。しばらく戦場から離れていて、気が緩んだか。
「追え」
「畏まりました」
ひとまずトキに先行させて、俺は客達の方──正確には、その中程にいるゲーム部の面々の方へ走る。
「お前ら、準備しろ! 行くぞ!」
「うえっ、あっ、先生!? 本当にアレと戦うの!? なんかアイツ怖いんだけど!」
「何を今更。あんなもん、アレに比べりゃあ可愛いもんだろうがよ」
「そうだけどさぁ!?」
ピッと天を指し示してやれば、泣きべそをかきながらモモイが叫ぶ。
そうだ。ゲーム部の面々もあの最終決戦へと参加し、それでいて一定以上の戦果を挙げている。
アリスに至ってはMVPだ。
今更この程度、どうって事ないと言うものだろう。
「緊急クエスト、開始です! さぁユズ、隠れてないで、早く出て来てください!」
「わ、わかってるよぅ……」
「せ、先生、作戦はあるんですか……?」
「とにかく突っ込んで捕まえる。これしかない」
「脳筋じゃん!?」
実際これしか無いのだから仕方がない。
正直な事を話せば変に策を弄した結果、万一にも本当に捕まえてしまうような事があれば色々面倒なことになるので、脳筋の方が都合がいいってだけなのであるが。
「とにかく行くぞ! 時間は奴の味方だと思え!」
「ああちょっと先生ッ…………ああもう、わかったよっ! いくよ、みんな!」
ゲーム部の面々を置き去りに、先程アキラが逃げていった方……今では戦闘音が聞こえる方へと走る。
ナノマシンを使ってスパイダーマンの要領で階段をショートカットし、戦場へと足を踏み入れれば、どうやら勝負はトキが圧倒的に優勢らしい。
無傷かつ余裕そうなトキに対して、アキラの方は無傷でこそあるものの明らかに余裕が無い。
……まずいなこれ。すぐに勝っちゃうぞこれ。
「トキ!」
「!」
名前を呼べば、トキはすぐに俺の側まで戻って来る。
そうして膝立ちになり、アキラに対して銃を構えながら、静止した。
「あー……初めましてだ」
「……ええ、初めまして、シャーレの先生。お噂はかねがね聞き及んでおりましたが────」
一呼吸を置き、アキラは乱れた息を整える。
その動作さえ、どこか優雅さと気品のようなものを感じた。
ナギサとかあの辺に感じるものと似たような具合だ。それほど育ちがいいと言う事だろうか。
そう言うふうに感心していると、再びアキラの目がマスク越しに俺に向けられる。
「まさか、これ程であられるとは」
「まぁ、必要に迫られたからな」
最終編は勿論、デカグラマトンだとかゲマトリアだとか、未知のストーリーだとか。
そしてこれもその必要の内の一つだったはずなのだが……些か過剰すぎたらしい。
保有する戦力が強すぎてしまうと言うのも考えものだ。
……今回の件は程よく戦ってアキラを逃せと予めトキに伝えていなかった俺のミスでしかないのだが。
「成程……しかし、解せませんね。噂に聞くあの先生が、なぜ銅田に協力を?」
「ああ、それは────」
「────追いついたッ!」
俺がアキラの問いに答えようとすると、俺をアキラから守るようにゲーム部の四人が並び立つ。
うぅむ、若干タイミングが悪かったな。まぁどうせこの場では伝えられない想定だったから、別に構いはしないが。
「ではゲーム部諸君、作戦開始だ」
「「「「おー!」」」」
「ッ……ここは、一時撤退とさせていただきましょう……!」
俺が空間にウィンドウを開き、ゲーム部に対して号令を下すと、流石にあまりにも分が悪すぎると判断したのか、アキラはすぐに煙幕弾を使用する。
ボンと小さな破裂音と共に一瞬で煙が充満し、俺たちの視界は10センチ先すら全く見えない程にまで狭まってしまう。
「ま、待てーッ!!」
「逃しません!!」
ゲーム部は煙の中へ向けて滅茶苦茶に発砲するが、それで有効打を与えられるはずもなし。
それぞれがワンマガジンを打ち終え、若干ではあるが視界が開けて来た頃、もう既に慈愛の怪盗の姿は完全に消え去っていた。
「そこまでだ! 慈愛の怪盗め! この屋敷に足を踏み入れたからには……おや?」
少し遅れて、けたたましい足音と共に、パグ犬とその配下であろうガード兵達がやって来る。
「既に撃退した。が、まだ近くに潜伏しているはずだ。すぐに警備を散開させ、周辺警備に当たらせることをお勧めする」
「あ、は、はい、分かりました……お前たち、聞いていたな! すぐに辺りの警備を!」
パグ犬が命令を下すと、ガード兵どもは言われた通りに動き出す。
「お前らも周囲の警戒を。あとトキ、お前は
「畏まりました」
恭しくお辞儀をするトキを横目に、俺は踵を返して屋敷の玄関の方へ。
「あの、先生? その、先生は……」
「すまん、ちょっと用事ができた。すぐに戻る予定だが、それまでに慈愛の怪盗が見つかったら無線で呼んでくれ」
「わ、わかりました……」
さて。今のところは、順調だ。
あとはアキラ次第になるだろうが……何にせよ、行動は早いに越した事はない。
覚え切れる気が全くしませんわ!(鉄壁)
ちなみに白亜の予告状はあと2回くらいで終わりますわ!!
ワカモ大勝利編
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作れ。
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作るな。