待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む!   作:POTROT

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白亜の予告状 その5

 俺がアキラとの協力関係を取り付けた翌日。

 つまりオークション最終日であり、白亜の予告状のストーリーもいよいよ大詰めになる。

 そんな中で俺はというと、ものの見事にだらけ切っていた。

 

「あ"あ"〜……」

 

 ここの護衛をするにあたって貸し与えられた部屋のソファにだらりと座り込み、膝の上に乗せたユズをわしゃわしゃしながら、ただただ時間が過ぎるのを待つ。

 ちなみに何故ユズなのかと言うと、ユズの髪はヒナやイロハのようにふわふわしているが、しかしその二人とは違って柔らかいだけではなく、ツヤとハリがあるので触っていて飽が来ず、ずっと触っていられるので、時間潰しには最適だからである。

 キャンプでいう焚き木のようなものだ。本当にずっと飽きない。

 

「あ、あうあうあうあう…………」

 

 ユズから湯気が出ているが、別に気にすることはない。

 これは単にユズが温まってきている証拠である。

 火にかけているやかんが湯気を吹くのと同じようなものだ。

 

 それと他のメンバーであるが、モモイは俺の足元でゲームをして、ミドリは俺の方に寄りかかって寝て、アリスはメイド勇者の修行をして、トキはずっと俺の髪を弄くり回して……まぁ、各々が各々のやり方で暇を潰していると言った具合だ。

 

 この時間に何の生産性もあったものでは無いが、しかしこういう時間も大切だ。

 現在進行形でシャーレに溜まり続けているであろう仕事や、この後に待ち受けているであろう数々の後処理の事をずっと考えていては、それこそ精神がやられてしまう。

 こうして何も考えず、ただただ待つだけの時間を過ごすことで己の精神を安定させるのだ。

 断じて現実逃避などでは無い。そう、決して。決して現実逃避などでは無い。いいね?

 

「…………そう言えばさぁ、先生」

 

 そうして、いよいよユズの体温が温いを超えて熱いになり始めた頃。

 ふと、ゲーム機を弄りながら、モモイが口を開いた。

 

「ユウカが当番に行ったあたりからやけに機嫌いいんだけど、先生何か知らない?」

「あ、そう言えばそうでした! そうなんです、最近、ユウカが変なんです! ずっと上機嫌で、鼻歌を歌ったり、何だか不吉な笑みを浮かべたりしていました! 不気味です! 先生、ユウカは何かの状態異常にかかってしまったのでしょうか?」

「あ? あー……」

 

 ユズの髪を弄る手を止める。

 いやまぁ、心当たりはあると言うか、多分俺が原因と言うか……

 恐らく俺がユウカに性癖が破壊されるから近寄るな、と言った件だと思うが……

 

「えーっと、まず、何故俺に聞いた?」

「先生が一番知ってそうだからです! ユウカがあんな事になるなんて、ユウカからの好感度がカンストしている先生が原因としか考えられません!」

「しかもおかしくなり始めたのが、ちょうどシャーレに当番に行った後くらいだからさ。だから今度会った時に聞いてみよーって思ってて……」

「今の今まで忘れていたと」

「うん」

 

 そうかぁ……まぁうん、そうかぁ……そうだよなぁ……う〜ん、さて、どうするか。

 あの件を最初から最後まで馬鹿正直に言うわけにもいかない。

 ゲーム部の連中に……と言うか、アリスに変なことを教えるのは色々と問題がある。

 ここは適当にはぐらかすとしよう。

 

「ノアは何か言っていたか?」

「え? いや、うーん……」

「少なくともアリスは聞いていません! ですが、大体何を言うかは想像がつきます!」

「だよな。つまりそう言う事だ」

 

 アリスの言葉に同意し、そして結論付ける。

 あのユウカちゃん全肯定マシーンの事だ。聞いたところで『ユウカちゃんの機嫌が良さそうならそれでいいんじゃないでしょうか』とか言うに決まっている。

 だからこの話はこれでおしまい。ユウカの機嫌が良いのならそれで良いのだ。

 

「なるほど、そう言う事なのですね!」

「う〜ん……そうなのかなぁ?」

 

 アリスはスッキリとした表情で頷くが、しかしモモイは納得がいかないようで首を傾げる。

 ……思いの外、頭の回るやつだ。アリスのように大人しく納得しておけば良いものを。

 だが良い。俺とて第二の矢を用意していないわけではないのだ。

 

「ユウカの機嫌が良いんだろ? 予算の増額を頼めば気前よく引き受けてくれるんじゃないか?」

「あっ、そうかも! 帰ったら早速頼みにいかなくちゃ!」

 

 そう言いながらモモイはバッと立ち上がり、その拍子に誤操作をしてしまったのかゲーム画面を覗き込んで悲鳴を上げる。

 ……ヨシ、何はともあれ、これで誤魔化せたな。

 モモイが単純で助かった。

 

「先生?」

「あっ」

 

 俺が胸を撫で下ろしたその瞬間、真隣から声がした。

 ギギギと軋む音を立てながら横を向けば、そこにいたのは目の座っているミドリ。

 才羽姉妹の単純じゃない方が、いつの間にかその目を覚ましていた。

 

「……おはよう、いつの間に起きてたのか」

「はい、今起きました」

 

 ずい、と。

 ミドリが俺に顔を寄せる。

 目は依然座ったままだ。

 怖い。本当に怖い。

 表情こそ変えていないものの、あまりの恐怖に額から冷や汗が流れる。

 

「詳しいお話を、お願いします」

 

 絶対に言い逃れするなよ、と。

 ミドリの目が言外に俺に訴えかけていた。

 

「あー……その、何だ、その……何……あー……その、な? は、ははは……」

「先生?」

「アッハイ」

 

 ずい、と。ミドリのまん丸に開かれた目に覗き込まれる。

 もうこれ以上はぐらかす事は許されないと直感で理解させられ、俺はついに諦める事にした。

 しかし、やはりこんな事を大声で言うわけにもいかない。

 せめて被害を最小限に抑える必要があった。

 

「ミドリ、耳貸せ」

「……はい、どうぞ」

 

 そうしてミドリが俺に向けて耳を差し出すので、俺はミドリの耳元でユウカとの間にあった一部始終を包み隠さず伝えた。

 

「………………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」

「やっぱりこうなったか……」

 

 ボンっ、と。

 真っ赤になったミドリが、爆発音を立てて気絶する。

 ミドリはゲーム部の中では断トツでしっとりとしているが、こう言うところはまだ初心なのだろう。

 

「伝えてよかったのですか?」

「ミドリのことだ。みだりに他人に言いふらしたりはしないだろう」

 

 どちらかと言えばミドリはむっつりタイプである。

 モモイやアリスのような広範囲スピーカーとは違い、胸の内に秘密として取っておいてくれるはずである。

 

「……作戦が開始する前に起きてくれればいいんだがねぇ」

 

 ミドリを寝かせながら、そう呟く。

 

 

 ■

 

 

 結局のところこの心配は杞憂であり、俺のところに通知が来る1時間前にはもうミドリは意識を取り戻していた。

 まだ若干顔は赤く、こちらの事をチラチラと見ているようであったが、作戦に支障は無い。

 

「先生、まだ?」

「もう来る」

 

 人気の無いホールで、俺達は彼女の到着を待つ。

 そうして数分も待てば、入り口の方からコツコツと足音が響いて来た。

 本日の主役、清澄アキラの登場である。

 

「慈愛の怪盗……ッ!」

「また来たの!?」

 

 その姿を認めた瞬間、生徒達はすぐさま戦闘態勢に入るが、しかし発砲し出す前に俺が先頭に立って射線を遮る。

 ニコリ、と。仮面の下でアキラが微笑んだ。

 

「こんばんは、先生。今宵も素敵な夜ですね」

「ああ、そうだな。だが、これからもっといい夜になる」

「ええ、きっとそうなってくれる事でしょう」

 

 そんな風に俺とアキラは会話を交わし、その様を生徒達は驚いた様子で見つめる。

 

「……成程、いつの間に仲間に引き込んだのです? 女誑しのご主人様」

 

 真っ先に状況を理解したのは、流石と言うべきかトキであった。

 しかし本当に人聞きが悪いぞ女誑しなど。

 いやまぁ自覚はあるけれども。

 

「…………えっと? まだ状況が飲み込めてないんだけど……」

「今から彼女と協力して美術品を盗み出すんだ。安心しろ。どうせ全部盗品だから盗んだところで犯罪にはならんぞ」

「ちょっ、ちょっと!? いきなりそんな事を言われても急展開すぎてわかんないよ!?」

「テイルズ・サガ・クロニクルよりはマシ」

「うぐっ!?」

 

 俺の台詞にモモイが撃沈する。

 実際、あのゲームのシナリオは残念ながらクソと言わざるを得ない。

 ファンタジーと現代とSFを行ったり来たり飛んだりする、前と後の緩いつながりしかない急展開の連続は、熱を出した時に見る悪夢を連想させた程だ。

 もう二度とやりたくない。

 

「アリス知ってます! 敵キャラが味方になる展開です! リオ会長やネル先輩と一緒です!」

「ん、まぁだいたいそんな感じだな」

 

 ただ、今回の場合は味方になってもお約束の弱体化はしないが。

 ステータスは敵だった時のまま、俺の指揮下に入る事でぶっ壊れレベルの強化が入っている。

 

「えぇ……だ、大丈夫なんですか……?」

「ご安心ください、私と先生は今や協力関係にあります。彼が私を支援してくださる限り、私はあなた方の味方です」

「つまりそう言う事だ。あまり深い事は考えなくていいぞ」

 

 そう言って仕掛けを動かし、隠し通路を出現させる。

 この先に悪党どもがひしめいているはずだ。

 

「さぁ、行くぞ」

「では先鋒は私が」

「頼む」

 

 トキに先行させ、隠し通路を進んで行く。

 そうして数十秒も歩くと段々と明かりが見え始め、そしてちょうど1分ほどで闇オークションの会場に出た。

 

「うえっ!?」

「こ、ここは……」

「待って、あれは……明太郎さん!?」

「騙されてたんだよ、俺達は」

 

 会場には予想通りに多くの客がひしめき、そして壇上には依頼主の姿。

 そして周囲には数十人の警備兵達。

 

「さぁ、制圧するぞ。まずはあの司会からだ」

「了解」

 

 俺が指示を出し終えるや否や、トキがするりと席の合間を駆けて行き、そして壇上に居た依頼主を昏倒させた。2秒にも満たない早業であった。

 あまりにも突然の出来事に、客達と警備兵達は一瞬呆けてしまう。

 その間に、俺は次々と指示を飛ばして行く。

 

「モモイ、ミドリ、ユズは制圧射撃。出来るだけ警備兵を狙え」

「「「りょっ、了解!!」」」

「アリス、後ろの出入り口を壊してから警備兵を各個撃破。手前からでいい」

「はい、分かりました!」

「アキラは美術品……時計王の冠を」

「お任せください」

「トキ! 客人どもに避難誘導をして差し上げるといい!」

「承りました」

 

 各々が俺の指示を受けて、動き出す。

 倒れた依頼主とトキに気を取られ呆けていた警備兵や客達は、背後から迫る脅威に気付けず、その銃弾を受けて次々と倒れ伏して行く。

 そんな中でも倒れなかった警備兵はこちらに銃を向け、気絶しなかった客人達は我先にと避難経路から逃げて行く。

 まぁ、そんな警備兵達も圧倒的暴力の前にすぐに倒れ、客人達は避難経路の先で出待ちしているウチの人員に捕獲されるのだが。

 

「アキラ、どうだ」

 

 通信機に向けて話しかける。

 

『はい、時計王の冠、確保いたしました』

「じゃあそのまま離脱しろ。他の美術品は纏めて指定の座標に置いておく。後で取りに来てくれ」

『ありがとうございます。それでは、またいつか』

「ああ。今後ともよろしく。頼りにしているぞ」

 

 プツリと、通信が切れる。

 そして再び会場の方を見れば、もう完全に制圧は完了していた。

 

「よし、作戦終了。帰るぞ、お前ら」

 

 

 

 

 

「はぁーあ……疲れた……本当に疲れたよ……」

「うん……本当……」

「あうぅ……」

 

 あれから犯人どもをヴァルキューレに送ったりなんだりと諸々の後始末を終え、俺達はミレニアムへの帰路に就いていた。

 シャーレの用意した車の中で、モモイやミドリ、ユズは完全にグロッキー状態。

 もう指一本動かせないほどに疲労困憊です、と。態度と表情で語っていた。

 

「先生、先生! アリスはちゃんとメイドになれたでしょうか!」

 

 そんな3人とは対照的にまだまだ元気なのがアリス。

 まぁ機械の体なので当然と言えば当然であるのだが。

 

「おー、アリスは立派なメイドだったぞ。まぁまだトキに比べりゃヒヨッコだが」

「ですがそれも仕方ありません。私はメイドはメイドでもパーフェクトメイドなので。しかし確かに見事な身のこなしでした。メイド見習いから普通のメイドに昇格です」

「やりました! アリス、パーフェクトメイドに認めて貰えました!」

 

 そんな風にはしゃぎ回るアリスをから視線を外し、俺は車窓から風景を眺める。

 ……さて、これからまた仕事漬けの日々だ。頑張らなければな。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

『今後ともよろしく。頼りにしているぞ』

「……ふふっ」

 

 録音機から流れる声に、朱の差した頬が緩む。

 

「ええ、今後ともお任せください、先生」

 

 囁くような呟きは、夜の風に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

白亜の予告状、完。




はい、お久しぶりです。他の作品の投稿してました。
ちなみに「犯罪王の黒くて青い春」を書いてたのは俺です。

ワカモ大勝利編

  • 作れ。
  • 作るな。
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