待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
ガサガサとレジ袋の音を立て、商店街の雑踏の中を歩く。
袋の中身に詰め込まれたのは、コピー機のインクカートリッジ。
シャーレに置いてあるストックが少なくなって来たので、早めに補充しておかねばと思い、当番と一緒に家電量販店へと赴いていたのだ。
……え? 別に通販でも良いだろって?
仕方ないだろレシートが無いとしょっちゅう経費申請を忘れるんだから。
「いやー、助かった。ありがとうな」
「いえ、これも当番として当然の務めですので」
俺の隣を、同じようにレジ袋を持って歩く少女に感謝を伝えると、彼女はまるで何でも無いことのように答える。
そんな彼女こそが本日の当番。ゲヘナ学園の風紀委員会所属、風紀委員会有数のブレーキ役こと、火宮チナツだ。
「で? 風紀委員会は最近どうなんだ? 正義実現委員会の方はかなり楽になったみたいだが」
「そうですね……言われてみれば、確かにかなり楽になったかも知れません。エデン条約に加えて、先のあの事件ですから。流石のゲヘナ生と言えど、かなり疲れてしまったようです。騒動の数が減ったので、出動の機会もかなり減りました」
「あー……やっぱりそっちもそんな感じか……」
大変だったもんなぁ……最終編の時は。
俺も何回死にかけた事か……
「ただ、書類に関しては
「あー……ね?」
そう言って困ったように微笑むチナツ。
ちなみに
立ち位置的には風紀委員会の上部組織にあたる。
ただ、ゲヘナ内での影響力は圧倒的に風紀委員会の方が強く、それ故か風紀委員会は
俺としては何とか止めさせてやりたいところだが、
「大丈夫? ヒナちゃんまたシナってない?」
「ああ、はい。今のところは。むしろ出動が減って書類作業に集中できる分、前よりもかなり楽だそうです」
「マジで? すげーなヒナちゃん。流石だわ」
ヒナちゃんと言うのは、風紀委員長の空崎ヒナの事だ。
キヴォトス最強の一角に数えられる彼女は、ゲヘナ学園内で最も強く、最も恐れられ、最も影響力があり、最も
故に彼女は
「ってか、そうなると今度の当番はヒナちゃん来れるのかね」
「そうですね。この分であれば、大丈夫かと」
「ほうほう。そうかそうか」
と言うのも、先の話にもあった通り、ヒナちゃんはたまにデスマーチを強要されるので、それが当番と重なると当番が難しく、代理を立てる事がかなりの頻度であるのだ。
なので、彼女と会う事自体は結構あるのだが、彼女の当番はかなり貴重だ。
「いやー良かった良かった……お」
俺が安堵感に浸っていると、ふと中華料理店の看板が目に映る。
……そう言えば、今は昼時か。意識してみれば、腹もだいぶ減っている。
腕時計を見てみれば、もう既に昼の一時だ。
「チナツ。あそこの飯屋入ろうぜ。俺が奢るから」
「ああ、はい。……しかし、奢りというのは……」
「気にすんな気にすんな。逆に金が余りすぎて使い道に困ってるんだ、俺は」
いやマジでこれ本当に。
ゲームだったらまだ色んなところに使い道があるのだが、現実の場合、マジで使い道が無い。
別に寄付とかしてもいいんだが、シャーレの先生として下手な事が出来ないので、結局使えず仕舞いでいる。
「はぁ……でしたら、ご相伴に与らせていただきます」
「おう、そうしとけ。……すんませーん! 二人なんですけどー!」
「はーい! お好きな席へどうぞー!」
暖簾をくぐってガラガラと扉を開き、店の中へ。
内装はかなりいい感じだ。なんかこう……中華の感じがよく出ている。
適当な2人がけの席を探して座り、レジ袋を置いて対面に座る。
「こちら、お冷です」
「はーい」
メニューをパラパラと捲りつつ、運ばれて来た冷水を口へ。
うむ、うまい。ひとまず水は美食研究会ラインを突破しているな。
ちなみに美食研究会と言うのは、まぁ、読んで字の如くである。
活動内容としては食と味についての探究であり、美食への道を阻害するものは破壊する。
不味い料理を出すレストランなんかは容赦なく爆破する。
で、そんな美食研究会の基準において、この水は問題ないラインだという事だ。
まだこの段階では爆破されないだろう。
まぁ、そんな事はさておき。何を食うか……
ふむ……そうだな。
「……よし、決めた」
「あ、先生も決まりましたか。……すみませーん!」
「はーい!」
パタパタと、厨房からロボ頭の店員が飛び出して来る。
毎度思うのだが、コイツは生命体なのだろうか。それとも機械なのだろうか。
生命体にしてはメカメカし過ぎるし、機械にしては人間味が有り過ぎている気がするんだよな。
……まぁ、深く考えないようにするか。
「ご注文伺います!」
「麻婆豆腐一つ」
「私は炒飯を」
「えーと……以上かな?」
「はい」
「かしこまりました! 少々お待ち下さい!」
パタパタと、今度は厨房の方に走って行くロボ頭の店員。
「……ふぅ」
ふと、チナツを見る。
…………うん。うんうん。成程成程。
「……あの、先生? 私に何か……?」
「いや、まともな格好してるなって」
「え?」
「ん?」
「……ああ、その、すみません。詳しくお話を聞かせていただいて大丈夫ですか?」
ずり落ちた眼鏡を直しつつ、そう聞いて来るチナツ。
……ふむ、流石に唐突すぎたか。
「いやさ。キヴォトスってさ、奇抜な格好してる生徒、多いじゃん?」
「……まぁ、そうですね」
「でさ。俺って16じゃん? 思春期真っ只中の高校生なわけじゃん?」
「はい」
「最近、俺気付いたんだよ。コイツらの格好、思春期男子高校生には刺激が強いなってさ」
「……えぇと、具体的には?」
「筆頭はキミんとこのナンバー2なんだけど」
「……………………………………」
俺がそう言うと、沈痛な面持ちで俯くチナツ。
そう、ゲヘナ風紀委員会のナンバー2の服装は、まぁヤバい。
詳細に関しては省くが、とにかくヤバ過ぎる服を着ているのだ。
「違うんです」
「何が」
「いやその……アコ行政官のアレは……その……」
この通り、庇おうにも庇いきれない程にヤバい服なのである。
「まぁ、あの辺に比べるとチナツってまともな格好してるなって。スカートちゃんとしてるし。赤いけどタイツと手袋して肌隠してるし……いや赤はどうなんだ……?」
そう、チナツのタイツと手袋は赤い。
びっくりするほどに真っ赤で、だいぶ珍しい色をしている。
しかし、それがチナツの魅力を損なわせる事はなく、むしろ引き立てており───
あれ? もしかしてこれって結構ヤバい?
どうだこれ。性癖……壊れそうだな、これ。
うん、多分壊れるなこれ。まずいやつだなこれ。
「すまんチナツ。意識したらちょっとヤバいかもしれん」
「へ?」
「いや、その赤タイツと手袋、俺の性癖を破壊する可能性がある。俺が変態教師になる可能性があるから、あんまり俺にそれを見せないでくれると助かる」
「……べ、別に私としてはそれで構わないのですが……」
「俺が構う」
いやホントマジで。
「そ、そうですよね。……えーと、手袋、外しましょうか……?」
「いや待て。外すのなら俺が見ていないうちに……ああ、今から目を閉じるから、その間にやってくれ。外している様を見たら破壊されてしまう可能性がある」
「は、はい、それでは……」
「お待たせしましたー! 麻婆豆腐と炒飯になりまーす!」
俺が目を閉じ、チナツが手袋を外そうとしたその時、丁度最高の……いや、最悪の? タイミングで店員が料理を持って来た。
「…………」
「…………」
俺もチナツも、何も言えずに無言が続く。
「…………とりあえず、外しちゃってくれ」
「あ、はい……はい、外しました」
「よし……じゃあ食うか」
「はい……」
そのまま俺たちは何とも言えない空気のまま料理を完食し、会計を済ませて店を出る。
その後はシャーレに戻り、微妙な雰囲気のままに仕事をして、そのまま帰る時間になった。
「……あー、何。今日はすまんかったな。色々と」
「いっ、いえいえ。その……私としては、とても有意義な一日でしたので……」
「そうか……なら良いんだが……まぁ、風紀委員会の仕事、頑張ってくれ」
「はい、では失礼します」
チナツは最後に一礼して、学園の方へ帰って行く。
……………………よし、今日はもう寝よう。
はい、卑しい女でした。