待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
初対面は、実に衝撃的だった。
私達がいつまで経っても動こうとしない連邦生徒会に痺れを切らし、連邦生徒会長へ直接へ文句を言いに行ったあの時。
七神リンに連れられてやって来た先生と、私達は初めて出会った。
「えーと、どうも……初めまして。俺が先生です」
私達は、信じられなかった。
この目の前にいる、私たちと殆ど変わらない歳の男子が連邦生徒会長から選ばれた『先生』で。
目が飛び出るほどの権限を持つことになる人材である、と言う事が。
先生と言う職業には、大人が就く。
当然だろう。先生とは即ち、先を生きる者。
生徒を導く、模範的な大人である事が求められるからだ。
だが、この目の前にいる自称『先生』はどうだろう。
私達と変わらない年頃の、思春期真っ只中の、ただの子供ではないか。
この子供の一体どこに模範的な大人である要素があると言うのか?
確かにリン行政官の説明にあった『先生』は、一般的な先生の範疇から外れていると言える。
しかし、だからと言って、そのような大役が、こんな子供に務まるとも思えない。
既に失踪した連邦生徒会長が直々に指名したと言う話もおかしい。
彼の着任は、何かの手違いなのではないのだろうか?
その疑念は、不良達に占領されたシャーレの部室を取り戻しに行くにあたり、さらに加速する。
怯えていたのだ。みっともなく。もはや清々しいくらいに。
呼吸は酷く浅く、過呼吸気味で、脂汗はダラダラと流れ、足はガクガクと震えている。
何を聞いても大丈夫だと返すばかりで、まともな会話もままならない。
おかげで正義実現委員会の副委員長が抱えて運ぶことになり、道中においては完全な荷物以外の何物でも無かった。
ワカモ、クルセイダー戦車との戦闘において取った指揮は見事の一言だったし、サンクトゥムタワーの権限を取り戻すことにも成功して、最低限の能力こそ示したものの、それは私達の中に生まれた不信感を拭うには至らなかった。
やはり彼が、どうしようもなく子供だったからだ。
しかし、そんな不信感は思いの外あっさりと拭われる事になる。
彼への印象が変わり始めたのは、いつからの事だったか。
彼が様々な場所で問題を解決して回っていると聞いた時だっただろうか。
形だけとは言え当番として顔を出しに来て、彼の仕事する様を見た時だっただろうか。
彼が廃校寸前のアビドス高校を救ったと言う話を聞いた時だっただろうか。
それとも、彼が過労で倒れたと聞いた時だっただろうか。
やはり彼は、どうしようもなく子供だった。
そして彼も、それを痛いほどに理解していた。
「まぁ……何だ。俺は確かにクソガキだが、クソガキなりに先生でありたいんだよ。お前らの」
だから彼は必死だった。
突然降って湧いた大人としての責務と、先生としての義務。
それらを全うするために、大人では無くとも、大人のようであろうとしていた。
子供なりに模範的であろうとしていた。頼られる存在であろうとしていた。
その事がわかると、それが何だか面白くて、微笑ましくて、そして何より苛立たしかった。
余計な事を考えて己のうちに溜め込み、無茶をしすぎてしまった彼に対してもそうだし、彼をそこまで追い込んでしまった自分たちに対してもそうだった。
そこから、きちんと当番制が行われるようになり、彼と一緒に仕事をする機会が生まれ、同時に彼との関わりが増えて、私達は段々と彼の事を理解し始めた。
彼の好きなもの、彼の嫌いなもの、彼の出来ること、彼の出来ないこと、彼の日常生活、彼のクセ、彼の過去、彼の人生観……
仕事の合間に彼と話しているうちに、ふとした偶然からそんな事を知って。
当番の回数を重ねて、その度に知る事が増えていって。
知れば知るほど、どんどん知りたくなって。
いつしか、当番の日がひどく待ち遠しく感じられるようになって。
気付いたら、彼自身の事がとても気がかりになって……
そんな中で、あんなに格好いい姿を見せつけられた。
キヴォトスのために。私達のために。
自らの危険も顧みず、迫り来る『恐怖』に吠えて。打ち勝って見せた。
もう駄目だった。
自分を誤魔化す事が出来なかった。
自分は彼の事が好きなのだと。どうしようもなく異性として好いているのだと。
一度そうなってしまえば、後はもう想いが、願望が溢れて止まらなかった。
今すぐにでも彼にこの想いを伝えたくて仕方がなかった。
だが、結局行動には移す事が出来なかった。
彼が必死に『先生』であろうとしている事を、理解してしまっていたからだった。
もしここで私達が想いを伝えても、彼はきっと『先生』としてそれを断ってしまう。
そう確信できていたからだった。
だから、今まで胸の内に秘めたままにして来た。
心のうちで願いつつ、半ば諦めていた。
だが。
「事情が変わったんだ!!」
そうだ。事情が変わったのだ。
彼は先生だが、やはりどうしようもなく子供。
そう言うのに目がない、思春期真っ盛りの男の子。
そんな彼が、私達の事を意識してくれている。
異性として、そう言う目で見てくれている。
彼はまだ耐えているようだが、あと一押し。もう一押しだ。
あともう一押しで、彼は堕ちるのだ。
好きで好きで好きで好きで、たまらなかった人が。
欲して欲して欲して欲して、やまなかった人が。
あとたったの一押しで、容易く、簡単に、軽々と堕とせる。
やる事はもう、決まっていた。
次回からはお察しの通りアビドス編。
ワカモはもうちょい後。