待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む! 作:POTROT
「先生。私と一緒にライディングに行こう」
「まぁ一旦落ち着けって」
シャーレの執務室に入室して開口一番にそうぶっ放したのは、本日の当番ことアビドス高等学校対策委員会の砂狼シロコ。
ブルアカのアプリアイコンも務めており、ユーザーからの人気も高い。
まさにブルアカの顔とも言える生徒である。
そんな生徒がスポーツウェアを着て、鼻息を荒くしながら扉の前に仁王立ちしていた。
これはいけない。シロコは見た目で言えば正統派ケモミミ美少女だが、その内面……と言うか、価値観やら発想やらがものの見事にぶっ飛んでいる。
どれくらいかと言えば、借金の返済方法として、綿密に計画された銀行強盗のプレゼンを大真面目に始めるくらいだ。
だから彼女に流されてしまうと、気付いた時にはとんでもない事になっている可能性が十分に考えられる。
適当に相槌を打って言質でも取られたら、それこそ本当にマズい。
こう言う時には冷静に。まずは詳細を確認する事が大切なのだ。
「いいか? いいな? とりあえず一旦座れって。な?」
「ん。わかった。座る」
こくりと頷き、無言で机を迂回してこちらの方へ歩いてくるシロコ。
「まぁ待てって」
「……?」
俺は椅子に座ったまま静止のサインを出す。
するとシロコはピタリと止まりこそしたものの、何故自分が止められたのか理解していないような顔で首を傾げる。
「言われた通り、座るだけ」
「どこに座るつもりだった?」
「膝」
「誰の」
「ここには私と先生しかいないけど?」
「いやわかってるよンな事は」
まぁ、予想は出来ていたが……やはりこうなるか。
このシロコという生徒、原作……と言うか、公式でもかなりそうなのだが、割とストレートに好意をぶつけて来て、すぐに距離を詰めようとして来る。
わかりやすい分にはいいのだが、そう距離を詰められると今の俺にはだいぶマズい。
「……普通にそこの椅子に座ってくれ。女の子が男の上に易々と座るモンじゃない」
「ん。私は一向に構わない」
「俺が構うんだからぁあぁあ待て
「…………先生がそこまで言うなら仕方ない」
ズンズンとこっちに向かって来るシロコを必死に押し留め、なんとか向かいの椅子に座らせる。
危なかった。後もう少しで先生として死ぬところだった。
「はぁ……で? 何だっていきなりそんなこと言い出したんだ?」
椅子にかけ直し、スーツを直して対面にちょこんと座ったシロコに向き合う。
すると、シロコは俺の目をジッと見つめながら淡々と答え始めた。
「前の件で、先生はすごく頑張った」
「……まぁ、そうだな」
前の件、と言うのはつまり、最終編の時の事だろう。
「そして私も、先生と一緒にすごく頑張った」
「うん、そうだなぁ」
最終編の、その最後の最後、プレナパテス決戦。
プレ先と『恐怖』に転じたシロコ、それと向こうのアロナに対峙したのは、こちらも俺とシロコ、そしてアロナの三人だった。
三人が三人、持てる力の全部で以て戦って、そんで勝った。
あ、勿論だが『大人のカード』は使っている。
向こうもそれを持っているのだ。使わねば勝てるわけもない。
ただ、原作とは全く違う変な効果ではあるが。
そう、なんか知らんが、俺が『大人のカード』を使うと、俺が大人でないからバグったのか、とにかく効果が原作と異なるのだ。
しかも代償も殆ど発生しない。いや本当に。
しばらくとんでもない筋肉痛になったり、結構な期間『大人のカード』を再使用出来なくなったりと、痛いっちゃあ痛いのだが、なんか想像してたのよりよっぽど軽い。
いやまぁ、何が起こってるかわからないので多用はしないが。
まぁ、兎にも角にも俺とシロコとアロナで決戦は勝ち抜いたわけだ。
「そう。だから私たちはご褒美を貰っていい。いや、貰うべき」
シロコが自信満々にそう言う。
いつぞやの銀行強盗を提案した時と全く同じ顔だ。
正直嫌な予感しかしない。
「……そうかぁ?」
「うん、そう。そうに違いない」
力強く頷くシロコ。
綺麗に澄んだ、曇りなき眼だ。心の底からそうだと確信している。
そして何が何でも『ご褒美』を受け取らせると言う圧を感じる。
怖い。
「……ま、まぁ、そうだったとして、だ。それがどうライディングと繋がる?」
「ん、よくぞ聞いてくれた」
待っていましたと言わんばかりに、テキパキとした動きで持ってきていたリュックから何かを取り出して、机の上に広げる。
「こりゃあ……キヴォトスの地図か?」
「そう。そして、これを見て」
シロコが指差した先を覗き込んでみると、何やら赤い線で何かが書かれている。
所々には赤い節があり、それを辿ってみると……
「……おい、まさかこれ」
「その通り。二人のキヴォトス一ヶ月旅。大丈夫。せっかくの
「一ミリも安心出来ねぇわ
椅子を蹴って立ち上がり、臨戦態勢に入る。
それに対してシロコは眉を顰め、首を傾げて口を開いた。
「どうして? どこからどう見ても完璧なプラン」
「いやそうじゃねぇよ! そこじゃあねぇよ!? もっとこう、さぁ! 他に注意するところは沢山あるだろうが!?」
「え?……ああ、雨の日だったら延長する」
「違ぁぁぁぁぁう!!?」
バァン、と思わず台パンをかましてしまう。
しかし、その痛みで幾分か冷静になる事ができた。
ああクソ、こう言うところがクソガキなんだよなぁ……まぁいい。
「いいか? いいな? シロコ。俺は先生であると同時に、16歳の高校生だ。つまりお前と同年代。いいな?」
「勿論知ってる。誕生日は私の三日後」
「いやうん。そうなんだが。まぁ今はそう言う話じゃない。いいか? つまり俺は思春期真っ盛りの男子高校生なんだ」
「ん。それも知ってる」
コクリ、と頷くシロコ。
「で、だ。そんな俺とお前が一ヶ月間も二人っきりで、ホテルに泊まりながら旅をするとか、そうなると先生としての業務が滞って他方に迷惑がかかってしまうし、もしかしたらそう言う間違いが起こらないって事もないわけだ」
「……………ふむ」
シロコが顎に指を当てて何かを考え始める。
……頼むから良い方に考え直してくれマジで。
「お前が俺の事を好いてくれていると言うのはわかるが、俺は先生だ。立場ってモンがある。お前はマジで可愛いんだし、もしかしたら俺の理性がぶっ飛ぶ可能性も」
「ん。私は一向に構わない。むしろ望むところ」
「そう言う事じゃねぇんだよな
「大丈夫。きちんとするべき物はする。安心して襲ってほしい」
「だから違ぇんだよなああああああああああああああ!!?」
絶叫である。
「いいか!? 俺は先生だ 立場がある! 同意の下でも襲っちゃ駄目! 犯罪! OK!?」
「大丈夫。バレなきゃ犯罪じゃない」
「ア°ァァァァァァァァァァァァァァァァ!?」
クソ! 駄目だ! コイツ馬鹿強ぇ! このままだと押し切られる!
さっさと断る方向に話を持っていかねば!!
俺の性癖が……それ以前に俺の先生としての立場がァ!?
「とにかく! せっかくプランしてくれて悪いが、俺は旅行には行けん! そう言うのじゃない、一日二日で出来るのとかだったら今度幾らでも付き合ってやるから!」
「ん、その言葉が聞きたかった」
「だから今は諦め……へ?」
シロコがゴソゴソとリュックを探り、取り出したのは一枚の紙片。
「ホテルの一泊二日ペアチケット。福引で当てたから、一緒に泊まろう。……今度は本当に安心して。別にそう言う事を狙ってるわけじゃない。本当にただの休暇」
「え、は」
「生徒に嘘はつかない……そうでしょ?」
「………………………ッ」
ガクリ、と膝を突く。
「……ば、馬鹿なァ……ッ!!」
……ど、ドアインザフェイス……だとぉ……?
や、やられた………………ッ!!
…………くぅッ、生徒に、嘘はつかない…………予定を、空けておかねば…………ッ!