待て、それ以上近付くな! 俺の性癖が歪む!   作:POTROT

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雨と便利屋の課長

 書類の一枚を片付けて、ふと窓を見やる。

 すると窓の外に広がっていたのは、薄暗い一面の曇り空。

 黒々とした分厚い雲がびっしりと空を覆っており、今にも雨が降り出しそうだ。

 

「こりゃあ……降るかねぇ」

「…………そうだね。降りそうかも」

 

 俺の呟きに同意を返したのは、向かいの椅子に座る本日の当番。

 ゲヘナが誇る問題児集団が一つ、便利屋68(シックスティーエイト)の課長兼常識人こと、鬼方カヨコである。

 

「どうする? 今日は早めに帰るか?」

「いや、いいよ。仕事、忙しいんでしょ?」

「そりゃあそうだがなぁ……」

 

 正義実現委員会と風紀委員会が楽になっても、シャーレの仕事量は未だ据え置きだ。

 それどころか最終編の時に起こったゴタゴタで、更に増えたまである。

 借りられるのならば猫の手も借りたい気分だ。

 

 でもこう言うこと言うとどこからともなく災厄の狐が出てくるから言わない。

 アイツ、格好も体もヤバいから突然出て来られるとかなりまずいのだ。

 あまりの破壊力に一瞬で性癖をスムージーにされる。

 それだけは、それだけは絶対に避けねばならない。

 だから当番の皆には頑張ってもらう必要があるわけである……が。

 

「……便利屋はどうなんだ?」

 

 便利屋68はゲヘナ生徒四人によって構成された非公認の会社、もとい違法部活だ。

『金を貰えばなんでもする』をモットーに、ゲヘナ内外問わず活動している。

 その悪名はかなり高く、そっち方面の人達からかなり依頼も舞い込んでくるのだが……社長の資金繰りが最悪過ぎて、基本的に貧乏である。

 なので出来ればより多くの依頼を受けて稼ぎたいはずなのだが、そのうちの一人をここにずっと留めておくとそれも難しい。

 出来る事なら今日中には返してやりたいところなのだが……

 

「大丈夫。便利屋も最近は仕事少ないし。一週間くらい私が戻れなくても何とかなる」

「そうか? だったらまぁ、良いんだがなぁ……あ」

「…………降って来ちゃったね。雨」

 

 再び窓の方を見てみると、既に窓の外は大雨であった。

 土砂降りと言うやつだ。

 帰れない事もないのだろうが、流石にこの状況で生徒一人を放り出すと言うのは気が引ける。

 

「……送るか?」

「いいよ。降っちゃったら仕方ないし、今日は泊まってく」

 

 書類に目を落としたまま、カヨコはさらりとそう答える。

 

「OK。部屋は適当に決めておいてくれ。便利屋には一報入れとけよ」

「わかってる」

 

 実際にシャーレに勤めて知ったのだが、シャーレの居住スペースは割と広い。

 スケジュールのシャーレ居住区で見えた部分とは別に、2フロアくらいが居住スペースだ。

 なのでこうやって、気軽に生徒を泊めていけるわけである。

 ……いやまぁ、俺も住んでるから、そこまで気軽に生徒を泊める事はないが。

 

「…………」

「…………」

 

 そこから、互いに無言の時間が続く。

 カヨコも俺も何も話さず、雨が窓を叩く音を聞き流しながらひたすらに書類を処理してゆく。

 とは言っても、今日は各学校からの要望をチェックして、認定か却下かを決めるだけだが。

 

 さて、次のは……ええと、何これ。

 山海経からの要望……色々複雑に書いてるが、要するにただの臨床実験か? 

 で……肝心の薬が……大人になる霊薬? これ出したの絶対サヤだろ。

 もうテメェの薬は絶対飲まねぇからな。却下だ却下。

 

 んで……あれ? これゲーム部からだな。

 いやお前らは普通にモモトークでいいだろ……何だってこんな面倒な……

 ……ってただの挑戦状(遊びの誘い)じゃねぇか! 却下だ馬鹿(ヴァカ)! 

 オイ! これ出したのモモイだろ! しっかり手綱握っとけよミドリィ!

 

 ふぅ……で、こっちが……知らん学校だな。

 どこだ……えーと……ああ、百鬼夜行の方の学校なのか。結構遠いな。

 要請が……ヘルメット団の退治と。

 よし、アリスクあたりに何とかさせよう。後で連絡送っとこ。

 

「……あ」

「ん?」

 

 そんな具合に次々と書類を整理していると、不意にカヨコが声を上げる。

 

「どうした。何かあったか?」

「うん、この書類なんだけど……」

 

 書類に何かがあったらしく、それを俺に見せようと立ち上がり、机を回ってこちらへと歩いて来るカヨコ。

 それに対して俺は即座に腕を持ち上げ、そして通告した。

 

「ああ待て、それ以上近づくな。俺の性癖が歪む」

「…………え?」

 

 呆気に取られた。

 まさにそんな表情でピシッと固まるカヨコ。

 ひらりと書類が手から落ち、遠くの方へと静かに滑ってゆく。

 

「……すまん。唐突だったのはわかる。わかるが、一旦。一旦座ってくれ。頼む」

「あ……うん。わかった……」

 

 俺がゲンドウポーズでそう告げると、カヨコは訝しげな表情を浮かべつつ、言われたままにストンと椅子に座る。

 

「……えーと、座ったけど……何だったの、今のは?」

「…………いいか? カヨコ。まず俺はお前より年下だ。2つな」

「うん、そうだね」

「つまり俺は16歳。健全なる思春期男子高校生なわけだ。いいな?」

「…………ええと、つまり……」

「そんな俺にとって、お前はあまりにも刺激的過ぎるんだ。俺の性癖を破壊する可能性がある」

「そう……なんだ…………」

 

 カヨコは静かにそれだけ呟くと静かに瞑目し、そのまま天を仰ぐ。

 長い沈黙が訪れる。

 俺はカヨコから目を離す事ができず、ただじっとカヨコを見つめていた。

 

「そう……………………なんだぁ…………」

 

 そして永劫にも思える時間の後、先の言葉を繰り返すようにカヨコが言葉を発した。

 その声色は先程のものが凪に立てられた一つの波紋のような様であったとするのならば、今度は真っ赤なマグマがふつふつと煮え滾る様のようで、何かを強く噛み締めるようだった。

 そこに込められた感情のあまりの強さに、ヒヤリと俺の背筋が凍える。

 

「……失望したか? だがすまない。今言っておくべき事だと判断したんだ。俺は……」

「ううん。違う。そうじゃない。そうじゃないよ、先生」

 

 俺の言葉を遮り、徐に首を横に振るカヨコ。

 

「失望なんてしてない。むしろ年相応なところが見れて、安心してるくらい。でもいきなり過ぎてびっくりはしたかも」

「……事情が変わったんだ」

「そうなんだ…………ねぇ、先生」

「なんだ」

「先生は、私のどこにそう言うのを感じたの?」

 

 ふい、と。

 明後日の方向を向きながらそう聞いて来るカヨコ。

 

「……言わなきゃ駄目か?」

「そう言うわけじゃないけど……ただ、気になって」

「………………どこって聞かれても困るんだよな。カヨコってなんか……全体的にこう……色気がすごいんだよな」

 

 そう。そうなのだ。

 カヨコはなんか色気がすごい。

 ハスミのような爆発するような色気ではなく、艶っぽさと言うか、淑やかさと言うか。

 そう言う類の酔ってしまうような色気だ。

 

「声がすごい澄んでて綺麗。肌もマジで雪みたいに白くて透き通ってる。脚スラっとしてる。首元とか本当に目が吸い込まれる……」

「……私、顔が怖いってよく言われるよ?」

「まぁ確かに怖いくらいに美人だなとは俺も思うが……」

「胸とか……お尻だって、他の子達に比べて全然無い」

「そこがすごい色気を出してるんだよなぁ……有るよりなんかこう……艶やかさみたいなのがさぁ……」

 

 改めて言葉にしてみると、本当にカヨコって色々すごいな。

 何一つ無駄がないと言うか、どれもが自分の持つ色気を最大限に引き立ててると言うか……

 うん、駄目だ。やっぱり性癖が歪みまくる。

 

「……へぇ……そうなんだ……ふぅん……」

「な、なぁ、もういいだろ? これ以上はもう色々キツい。さっさと仕事に戻ろうぜ」

「……あぁ、うん……」

 

 カヨコが曖昧に頷くので、とりあえず俺は仕事を再開する。

 そしてそのまま途中で一度夕飯を取りつつ仕事を続け、気付けば時刻は夜中の十二時。

 机に置かれたスマホからアラームが鳴る。

 

「んお……じゃあ今日の仕事は終わり、だな。寝るか」

「うん、そうだね」

 

 ガタリと席を立ち、カヨコと一緒に執務室を出てガチャリと施錠する。

 

「……私は先生なら、いつでも歓迎だから」

 

 そんな中、背後からカヨコが爆弾を放り投げて来た。

 俺が鍵を持ったままフリーズしていると、じゃ、と言ってそのままカヨコは階段を下に降りてゆく。

 

「………………………馬鹿(ヴァカ)め」

 

 俺はポケットに鍵を突っ込み、自室へと階段を上って行った。




テスト期間の息抜きに執筆する男、筆者マッ!

……湿度が高過ぎて全然ギャグ調に出来ねぇんですけど(困惑)
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