【完結】タイセイに告ぐ!   作:ふくつのこころ

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運命と出会うナイト

 幻想と科学が重なる世界、東源郷。

 そんな世界で人智を超えた力を操る存在、マガリと呼ばれる者と人間が暮らしている。

 

 マガリ。

 

 それは、突如として変異した共生寄生体(パラサメイト)によって人体の機能が大幅に上昇し、何らかのモチーフとなる姿を持った異形に変異する。

 このウイルスは宿主の存在なくして生きられないため、寄生されている者達を示す名称としてマガリと呼ばれるようになった。

地域ごとによって呼び名が変わり、我が国では妖とも呼ばれている。

 特に強大な力を持っていた、大マガリと呼ばれていた斉天大征(セイテンタイセイ)が八百年前に死亡したのをきっかけに年号・大征(たいせい)が始まった。

 

 大征八百年。

 

 ここ、傲来市(ごうらいし)はそんなセイテンタイセイを祀る神社の一つが存在する地方都市である。

 

「良かったのか?理人(リヒト)

「うん?何が?」

 

 剃り込みに豹のモチーフの入ったピアスをした少年、柚木恭平(ゆずききょうへい)は金髪を一本に結わえた三つ編みと垂れ目が特徴的な長身の相方でチームのヘッド・来理人(らいりひと)に尋ねる。

 彼らはこの町にある、二大半グレグループの一つ、サザンクロスのヘッドとその右腕だった。

 サザンクロスのシンボルはイニシャルである、SCのスプレーアートのようなデザインが入ったものでそれは二人の上着にしっかりと描かれていた。

 二人は呑気な会話をしているが、理人は根城の旧校舎にかちこんできた不良の襟首を掴んで持ち上げながら、ニッコリと恭平の方に向き直る。

 

「ほら、お前の妹だよ。あの子、一人にして大丈夫なのか?」

「あー、ルシアね?」

 

 理人は掴んでいた不良を投げ飛ばす(・・・・・・・・)と、サザンクロスのヘッドにだけ許される席であるシーツを敷いたソファに横になり、頭の後ろで手を組みながら理人はあくびをする。

 地元の二大グループの一つ、サザンクロスのヘッドの妹である以上、手を出すような輩はおそらくいないだろう。

そんな輩は愚か者か、バケモノ(・・・・)の二種類しかいないと踏んではいるが、どんな場合も想定する必要があると恭平は考えていた。

 

「大丈夫じゃない?それとも、気になるなら、恭平が張り付いておく?」

「いや、まあ、そういうのじゃあないんだが……」

 

 相方がニヤニヤしながら恭平に言うと、恭平は肩を竦めながら、近くにあったパイプ椅子を引っ張ってきて腰を下ろした。

 

「どこかの物好きでもない限り、理人の妹に手を出す奴はいねえだろうけどよ」

「だっろ~?恭平!」

 

 相棒の不服ながらも納得した様子に理人は満足げに笑い、自らの手で失神させた不良を手下たちに命じ、運ばせた。

 

 ところ変わって、夜の市内の山岳部の斉天大征神社。

 

「ちはや、本当に行くのか?」

「なーに言ってんのよ、ルシア!!ここで度胸試しくらいしておきなさいって!ルシアの兄貴、サザンのヘッドなんでしょ?」

「兄貴は関係ねえだろ?なぁ、帰ろうぜ?」

 

 白のリボンタイに黒のボウタイニットセーターとショートパンツ、さらにタイツにブーツといった姿の金髪の少女。

その傍らには、制服のブラウスの第一と第二ボタンを外し、スカートの丈も短くした上にダッフルコートを羽織ったギャル風の少女がいる。

それぞれ、金髪の少女が来ルシア、ギャル風の少女を桂木ちはやという。

 ちはやがルシアの背中を押しながら、境内へと入っていく。

 ルシアはちはやの押しの強いところは嫌いではないのだが、問答無用なところは少し改善してほしくもあった。

 

「ここまで来ておいて、帰るってないでしょ?いざとなったら、ルシアは兄貴呼べばいいんだから」

「こういうので兄貴を頼りたくないんだって」

「でも、複数いれば大丈夫でしょ?」

 

 ちはやは自分とルシアを指差しながら笑う。

 それでは複数ではないのではないか、と二人きりの自分たちにルシアは釣られて笑ってしまった。

 時刻は午後十一時、適当に兄には遅くなるとだけ伝えてあるのと放任主義な兄は妹の帰りが遅くなることはあまりないだろう。

 兄の昔からの相棒はどうも過保護になりがちなようだが、ルシアだってもう十五歳である。

 兄貴でもなければ、肝心な時にいない男(・・・・・・・・・)の言うことなんて聞きたくなかった。

 所詮、御伽噺(うそっぱち)のような話なのだから、適当に済ませて帰ってやろうと思った矢先のことだった。

 

 この夜、来ルシアは運命(・・)に出会う。

 

「ちはや、あのさ。

ここでオレたちが肝試しすんのに誰か呼んではいないんだよな?」

「うん?ここで肝試しすんのはあたしたちだけだよ?ルシア。……あ、もしかして怖気づいた?可愛いじゃん、ルシアこのこの~!!」

 

 神社の鳥居を背にちはやがルシアを小突くが、ルシアにはちはやの後ろにいる影が見えていた。

 何かを手にしているように見える、その人影は人付き合いの上手い少女が連れてきた賑やかし(・・・・)要員ではないかと思った。

 

「え?今日はあたしたちだけだよ?」

「じゃあ、アレって。───え?」

 

 ルシアが言いかける前に鳥居が両断された(・・・・・)

 

「やばいやばい、早く行こう!?ちはや!」

「待って、記憶に焼き付けるから!」

 

 ルシアがちはやの手を引くと、ちはやはよく見ようとじたばたする。

 ルシアはその異形の正体をなんとなくではあるが、掴んではいた。

 ルシアにとって身近な人物(・・)が持っている力を知っていたため、ちはやほど興奮することがなかったのである。

それでも、ちはやを連れて逃げようと思ったのはルシアにとってちはやは友人だったのだ。

 無理矢理にでも、手を引いて走り出す。

 石段を駆け下りていっても、先ほど鳥居を両断した異形、蟷螂のような怪物が追ってくる。

 通常の人間より少し大きめのサイズ感でありながらも、蟷螂を無理矢理、人間の形に押し込んだような異形の姿。

 一番の特徴は、人間の叫ぶ顔らしいものが胸に生えていることだった。

 

「ねえ、ルシア!アレって、タイセイ伝説に関係あると思う?」

「オレ、そういう報われねえ恋の話とか好きじゃねえの」

 

 走っているのに目を輝かせている、ちはやにルシアはため息をつく。

 傲来市に伝わる、セイテンタイセイ伝説は異形の怪物と人間の物語である。

 誰よりも強いセイテンタイセイと呼ばれる、金色の角を持つ昆虫の怪物が隻眼の姫武将と出会い、やがて恋に落ちる。

しかし、その結末はセイテンタイセイが殺戮の末、殺害されたことで嘆き悲しんだ姫武将が来世で結ばれようと自害する悲恋の物語だった。

 

「ルシアは本当、」

 

 ちはやが笑って言いかけたあたりでその手に持っている携帯電話を鎌が切り裂き、ちはやの身体を切り裂いた。

 

「ちはや?ちはやっ!!」

 

 体勢を崩した、ちはやに寄り添うが、蟷螂の異形はすぐ近くにいた。

 ルシアはその異形の怪物を、その名前を知っている。

 

 マガリ。

 

 共生生命体に寄生されているものを示す名前であり、『間借りする先がなければ生きられない』生態を持つ微小の生命体に寄生されているものを示す。

 

「ちはやに何すんだっ!この虫野郎!」

 

 ルシアは涙を流しながらも、キッと精一杯、気丈に振る舞いながら、ちはやを庇う。

せめて、ちはやだけは守ってみせると理性を失っている怪物の前から一歩も退くことなく。

 振り下ろされるであろう、鎌に目を瞑りつつ、ちはやの傷口をハンカチで出血が止まらないのを止血しようとする。

 ハンカチが赤く染まり、ルシアの手を汚しても気にせずに。

 

(もしも、伝説が本当なら。

 オレとちはやのことくらい、助けることをしてよ)

 

 次の瞬間、何かが叩きつけられたことで鈍い音がする。

 

「セイテン、タイセイ……?」

 

 それは、カブトムシのような姿をした怪人だった。

 鎧を着こんだような姿と引き締まった両手足、そしてなによりも目に付くのはカブトムシのY字になっている角の部分が金色になっていること。

 奇しくも、その姿は伝説に登場するセイテンタイセイに瓜二つであり、おそらくカブトムシの怪人も蟷螂と同様の存在なのだろう。

 まさに金角のセイテンタイセイと言える存在。

 

 角の先端がY字の部分が金色になっている、カブトムシに酷似した鎧を纏ったような怪人は動かない。

蟷螂の怪人と一定の距離を保っていれば、蟷螂が両手の鎌を振り回すと、真空波が飛び交って辺りの木を切り刻む。

 カブトムシの怪人はそれを意に介さず、デタラメな方向から来る鎌を鎧で覆われた左脛で受け止め、左脚を軸に外見からは想像できないほどに軽快な動きで右脚の蹴りを叩き込んだ。

蟷螂の方はカブトムシの方ほどに防御力があるわけではなかったのか、ダメージが入って動きが鈍ってきたのが見える。

 

「変な姿に変身して!わけわかんねえよ。なんなんだ、一体、お前は!」

 

 ハンカチで止血した友人の隣でルシアが叫ぶ。

カブトムシの怪人は続いた蟷螂の怪人の攻撃を回避し、ついでとばかりに鎌を手刀で破壊する。

蟷螂の怪人に視認できるほどにハッキリと現れたオーラを右脚に纏い、今度は力一杯に胸に蹴りを入れたかと思えば、蟷螂はその姿が消滅してしまった。

 

「通りすがりの悪魔さ。

そろそろ、人が来る頃だろう。じゃあな」

「ま、待って!」

 

 ルシアたちから距離を取ったまま、少し考えるそぶりを見せた後、自らを悪魔だと称したカブトムシの怪人。

 自らを悪魔と称する割にはルシア達を見下す様子が見受けられず、“似たような存在”である兄を知っているルシアからすれば、寂しげにも見えた。

 救急車の音が近づけば、ルシアは立ち去ろうとする彼を呼び止める。

 

「オレはルシア、来ルシア。

また礼させてくれよ、話聞きたい」

「この俺様の?また会えたらな」

 

 表情が窺えないようなカブトムシの顔からも一目で驚いた様子だとルシアにはわかる。

悪魔だと名乗ったカブトムシの怪人は、そのまま飛び去るように姿を消す。

 

 この夜、来ルシアは運命に出会った。

 

 

 

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