翌朝七時三十分。
自室でアラームの音とともに赤毛と金色の瞳をした少年は目覚まし時計を平手で破壊して止めた後に布団に潜り込んだ。
少年のその膂力で目覚まし時計がバラバラになり、小さなガラクタの山が一つ仕上がる。
「あと十分……」
ありきたりな理由で再度眠りにつこうとすると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「朝だよ、小猿くん!素晴らしい朝が来たんだとも」
扉を開いたのは、襟にネコ科の動物の刺繍が入ったオーダーメイドのスーツを着た初老の銀髪碧眼のイギリス人男性。
目覚まし時計が破壊されている様に双眸を細め、呆れたようにため息をついた。
その後、ちりとりと小さな箒を手に戻って来れば、手早く掃き取った。
適当なゴミ袋に目覚まし時計だったものを入れ、ベッドで眠る少年が被る毛布を剥がす。
「まだ寝るって言っただろ!」
「昨日、こっそりとマガリと戦って疲れたのはどこの誰だったかな?」
「ゲッ、なんで知ってるんだよ。カラバ侯爵!」
「私には全てお見通しさ、小猿くん」
カラバ侯爵と呼ばれた男は少年の言葉にイタズラっぽく笑って返す。
「で、きちんとやれたのかい?」
「やれた。でも変なんだ、トドメをさした時にただ消えてしまっただけで。
マガリは実体があるものだろう?」
「私が思うに、そのマガリの能力だろうと見た」
身を起こした少年はまんまとカラバ侯爵の策略にハマり、蜜のように甘い二度寝を阻止されたことと合わせ、彼が昨夜に怪人に変異して戦った蟷螂の怪人の最期を伝える。
マガリとは、他の生物無しでは存在し得ない生命体を宿した者を呼ぶ。
さらにマガリは個体によってはモチーフの生物の特徴以外に固有の能力を持つことがあり、カラバ侯爵はそのケースを疑った。
「目撃者はいなかったろうね?」
「あー、まあ?」
男が着替える場には居合わせたくない、と露骨な嫌悪感と少年への朝の準備の催促を遠回しにすれば、部屋を出ようとドアノブに手をかける。
少年がハンガーにかけていた制服を取り、寝間着のシャツを脱いで割れた腹筋が露わとなる。
「なんだね、要領を得ないな。
いつも言っているだろう、悟空。
君には美学というものを分かっていないと。
おおかた、見つかったんだろう?そういう場合はわかるね?」
「だから、美学なんて知らねえよ。……確かにバレちまったけど」
少年、悟空は寝間着を脱いだ後にお気に入りのブランドのシャツを着て学ランを羽織る。
カラバ侯爵が遠回しに確実に見つけ出せ、という意味を含んだ言葉に悟空はそっぽを向いた。
「まぁ良い。少なくとも、私の顔がバレたわけじゃあない。
そのマガリは確実に仕留めるのが君への課題だ。
レディなら優しく、嗅ぎ回る犬にはお仕置きを、というのを忘れないようにしてくれよ?私は先に朝食を摂る」
と、カラバ侯爵はリビングに向かって行った。
「面倒だな」
新しい学校への転入前日の夜、なんとなく胸騒ぎがする方向に向かって行ったことで面倒な課題ができてしまったことで悟空はため息をついた。
その後、準備を済ませた後に悟空は転入先の市立傲来学園へと登校した。
道中、傲来の校章が胸ポケットにあることが珍しいのか、悟空はかなりの注目を集めていた。
校門をくぐると、SCのシンボルが入った上着や登り龍の腕章をつけた生徒がちらほら見える。
「何かのチームか?まぁ良いか」
「ああ、いたいた。
君が
「そうだけど。誰?」
下駄箱に向かおうとする悟空を呼び止めたのは、眼鏡をかけた中年男性だった。
「僕はこの学校の教師、
君の担任になる。
サザンクロスと
特に君が喧嘩とか好きじゃないんなら、近づかないのを勧めるよ。
ボスがマガリだって噂でさ。案内するよ、職員玄関から入ってくれ」
「ウッス」
来栖は頼りなさげな笑みを浮かべるも、その周りをSCのシンボルを入れた上着を着る生徒に囲まれる。
「よう、くるくる来栖よお?ヘッドがマガリで何が悪いんだ?」
「ミズチくん!?ぼ、僕は別に悪く言ったわけじゃないよ!?
本当だ!そうだろ、花果くん!」
剃り込みを入れた鮮やかな青髪の背が高い少年が来栖の胸倉を掴むと、来栖は悟空に助けを求める。
八百年前に凶悪なマガリが死亡したが、現在のこの国の政治はマガリの議員による鬼人党が握っており、それを傘に着たマガリもいれば、マガリの力にあやかる、
「先生はんなこと言ってねえよ、セーンパイ?」
「見ねえ顔だな?テメェ」
来栖の胸倉を掴んだまま、ミズチは眉間に皺を寄せながら悟空を睨む。
「転入してきたからなぁ、そりゃあそうだろ。
先生は俺に説明しようとしただけだぜ?なのに、それが終わるまで待てねえなんてのは、しつけなってねぇなぁ?
「上等だ!猿野郎!目にもの見せてやるよ!」
悟空の煽りにブチッと何かが切れた気がした、ミズチが拳を振りかぶると、その手は別の手に止められる。
「やめなよ、ミズチ。
転入生くんもそれまで!良いね?」
「アーダイト、テメェ……」
「アーダイト?」
「うん、僕はユーウェイン。ユーウェイン・アーダイト。君と同じ学年だよ、花果くん。
ミズチもね」
背が高い昇り龍の腕章をつけた少年、ユーウェインがミズチの拳を受け止める。
ミズチはユーウェインの言葉に引き下がると、悪態を吐いて「次はねえからな。テメェもアーダイトもブッ殺す」と去って行った。
「ありがとう、アーダイトくん」
「なんてことないですよ、来栖先生」
来栖がユーウェインに頭をぺこぺこ下げると、悟空は来栖がミズチに因縁を付けられる理由がわかった気がした。
「よろしくね、花果くん?」
「おう」
ユーウェインが手を差し出すと、悟空はその手を取り、握手した。
どうやら、色々はじまりそうだと悟空は思った。