「マジか!?あの転校生、サザンのアタマに勝ったって本当か!?」
「はい。ゴーさん、どうしましょう?」
腕章をつけた不良が清光の言葉に驚けば、ウルフカットの少年・清光は偵察内容を報告する。
報告を受けた、座布団で胡座をかく赤鬼を思わせる腕の男は静かなまま。
市立傲来学園内のサザンクロスの根城がある、旧校舎の反対側の実習棟一階。
三部屋の和室を貫いた部屋はサザンクロスと対をなす昇龍會のアジトがある。
サザンクロスヘッド、
転校生の少年は同じマガリであるとはいえ、あの軽快にアクロバットな動きを見せるマガリ・レオパルドである来理人と対等に渡り合って見せたのだと言う。
「どうします?ゴーさん!」
「……」
赤鬼を思わせる腕をした男こそ、昇り龍をエンブレムにした
昇龍會の首領であり、漢の中の漢と言われる彼。
サザンクロスがヘッドの来理人のカリスマに従っているとするならば、昇龍會は久瀬の強さと漢気に惚れての集まりであった。
構成員の言葉に久瀬は思案する。
寡黙な久瀬の言葉の続きを構成員達は固唾を飲んで待つ。
「連れて来い」
久瀬がアジトに招くようにと伝える、多くの場合は理由は一つしかない。
「ゴ、ゴーさんが!!!」
「その転校生と、」
「一騎打ちだぁぁぁ!!」
昇龍會の面々は久瀬の言葉に思わず目を輝かせ、感激する。
久瀬が話題に上がった見知らぬ人間を連れてくるように言う、その理由とは。
気になった相手の力量を測る、タイマン勝負だった。
一方、その頃。
「でも、意外だよな」
「何が?」
ルシアは悟空を連れ、ハンバーガーショップに訪れていた。
理人に因縁つけられた迷惑料がこれで済むとは思っていない、と言うのが誠実な彼女らしいと思った。
脅威の六十重ねのハンバーガーパティを誇る、通称・六十奏バーガーにかぶりつく悟空をルシアはまじまじと眺める。
「こんな人間らしいとは思わなかった」
「そうか?」
「うん。兄貴も、昇龍會のアタマ張ってるヤツも、って言うか、知ってるマガリってみんな喧嘩好きだから。
アンタみたいな感じのやつ、初めてなんだ」
「どれだけ物騒なんだよ……」
少し感慨深そうな様子のルシアの言葉に悟空が漏らすと、悟空の反応にくすくす笑った。
「良かったら、連絡先交換しねえ?」
「おう」
ルシアと悟空は携帯電話を取り出し、連絡先を交換する。
悟空にとってはなんでもないようなことだったのだが、ルシアはどこか嬉しそうだったので、悟空はその様子をまじまじと見つめた。
「な、なんだよ?……ええと、ゴクウでいい?」
ルシアのイントネーションに悟空は人身御供みたいな言い方だなと内心思ったが、口にはしなかった。
自意識過剰になるかもしれないが、自分と仲良くなって嬉しいというような反応を見せてられるのは悪い気はしない。
「ルシアの兄貴みたいな呼び方をするんなら、ゴックンって呼んでも構わねえけど」
「さすがにそうは呼ばねえかなぁ……。やっぱり、兄貴にそう呼ばれるの嫌だったんだ?」
「別に友達でもねえしなぁ」
「すげえ嫌そうな顔してる」
悟空が顔を顰めていると、ルシアはくすくす笑ってフライドポテトを手に取る。
悟空は転入する前を思い出してみても、ここまでの反応は早々ない。
そんな感慨深いような心境でいると、店内に
しかし、そういう時に限って
「花果悟空はお前か?」
「大勢で来るなよ、邪魔になるだろ」
昇龍會のメンバーの一人がルシアと悟空のいるテーブルの方へとやってくると、悟空は顔を顰めながら、冷たく返す。
「昇龍會の久瀬豪太郎は知っているか?あの人がお前を呼んでいる、お前に対して一騎打ちを申し込まれた」
「サザンクロスと張り合ってるチーム、だよな?なんでそこのアタマが?」
「おい、ゴーさんの挑戦を断るってのか!?」
悟空が心底面倒くさそうにハンバーガーに噛り付くと、周りを囲んだ他の昇龍會のメンバーの一人が悟空の手をはたき落とす。
悟空はテーブルから落ちたハンバーガーを見つめた後、はたき落としたメンバーを真っ直ぐ見つめる。
「お前らのボスは連れて来いって言った相手が何か食ってるときにはたき落とすのを許すような奴なのか?礼儀知らず過ぎるだろ。連絡先出せよ、電話かけてやる。
あと、落ちたそれ。拾えよ、そのままにするな」
「ゴーさんの用事が先だ!来てもらうぞ、花果!」
「ルシア、これ食えると思うか?」
メンバーの中に見知った顔である清光を見つけると、誰も落ちたハンバーガーを拾わわないことに心底気分を悪くしたような表情で悟空は落ちたハンバーガーを拾う。
「う、うーん。オレはおすすめしねえかなぁ……、別にそれオレの奢りなんだし、気にしなくていいぜ?」
「勿体ねえだろ」
突然、自分が振られたことでルシアは驚いたような反応をするも、悟空はそのままハンバーガーに「せっかくだから食う」と噛り付いた。
未だに誰も悟空に自分たちのボスの連絡先を出そうとしないため、悟空は清光に手を差し出す。
「電話貸してくれねえか?」
「は、はぁ!?なんでお前なんかに!!」
「いや、お前らが俺様とルシアを囲んでるから、お帰りしてもらおうと思って」
人差し指と中指で挑発するようなジェスチャーをする悟空に心底、清光は気分が悪かった。
しかし、清光がサザンクロスのアジトでヘッド・来理人がマガリ・レオパルドに変身した姿に対し、マガリの姿に変身し、渡り合ったうえで勝利したのは事実である。
おそらく、この場にいる誰よりも喧嘩が強いのは花果悟空であることには間違いないだろう。
自分たちのボスの要求よりも食事を優先させたい、悟空のことは気に入らないが、筋を通す漢である久瀬がこの状況を知れば、清光たちをよく思わず、説教することは目に見えている。
清光は不服なまま、悟空に久瀬の電話番号にかけたうえで携帯電話を差し出した。
「もしもし、アンタが昇龍會のアタマの?」
『……久瀬豪太郎だ。おおかた、ウチのところの奴らがお前に対して迷惑でもかけたのか?』
「人が飯食ってるところに押し寄せてくるのは、何とか言ってやってくれよ。
奢ってもらってるメシとはいえ、まずくなっちまうからよ」
周囲の昇龍會のメンバーは本当に久瀬に言いつけた、といった表情をするものの、久瀬の声が聞こえてくるのでスピーカーにしているのだろう。
いまここで大声を出せば、久瀬の言うように自分たちが悟空に迷惑をかけたのが久瀬の方にも伝わってしまう。
『迷惑をかけたのであれば、謝罪はしよう。
だが来理人、サザンクロスのヘッドを倒した花果の実力には俺にも興味がある。ぜひとも、俺と一戦交えてもらえないか?』
久瀬の言葉はどこか弾んでいるようにも聞こえる。
サザンクロスのヘッド同様、理性で抑え込んでいるように思えるが、相当な喧嘩好きらしい。
「タイマンのお誘いか?それなら、せめて明後日か明日にしてもらえると助かる。どういうつながりか知らねえけど、今日はもう店じまいでよ」
『万全の状態でなければ、お前の本当の実力を見ることはできないからな。その条件は飲もう。周りにいる昇龍會の構成員よ、一人の漢として俺は花果に勝負を挑む。それは、了承済みだ。くれぐれも、失礼な真似をするなよ?
昇龍會の漢たるもの、』
「「「男気、貫くべし!!!」」」
悟空の返答にそうしてもらえると助かる、とばかりに電話越しに久瀬は息をついた。
そのあとに久瀬の言葉に続いた、昇龍會のメンバーへの号令は見事にハマった。
『では、明日だ。ウチの連中を迎えに行かせよう。逃げるなよ、花果悟空』
「俺様が逃げるかよ」
悟空が久瀬の言葉にニヤッと笑って返すと、久瀬は電話を切った。
清光たちは何か言いたげな顔をしていたが、久瀬が電話越しに迷惑をかけるなというのであれば、これ以上は何かすることはできないとして帰って行った。
「久瀬とタイマンするのか?」
ルシアが心配そうな表情でフライドポテトを摘まめば、悟空はプラスチックのカップに満ちたコーラを煽り、明るく笑い返す。
「向こうのアタマがスジ通すんなら、俺様もそれ守らないとカッコ悪いからな」