数日後の昼下がり、傲来市立学園の正門前はいつもより騒がしかった。
最初に異変に気づいたのは、校門近くでサボっていた不良グループだった。
「…なんだあれ?」
山車——いや、正確には派手な装飾を施した人力車のようなものが、ゆっくりと校門に向かって進んでくる。
引いているのは、褌一丁で筋肉質のチンピラたち。5人くらいいて、全員が汗だくになりながら「エイ! エイ!」と掛け声をかけて車を引いている。
その上に鎮座しているのは——レディ・ピーコック。
黒と金の派手な羽根飾りが背中から扇のように広がり、顔には濃いメイク、唇は真紅。長い睫毛をバサバサさせて、扇子を優雅にパタパタ。
だが、下半身は……やはり褌一丁。しかも、極彩色の孔雀模様がプリントされた特注品だ。
「ア~ラ~あらあら~♪ ここが噂の学園かしら~?」
オカマ口調が校庭に響き渡る。声量が尋常じゃない。
生徒たちがざわつく中、車が正門前でピタリと止まる。
レディ・ピーコックが優雅に立ち上がり、扇子で口元を隠しながら高らかに宣言。
「皆様ごきげんよう~! わたくし、レディ・ピーコックよぉ~!
この街の新しい『王様候補』として、今日はご挨拶に参りましたの~!」
チンピラの一人が息を切らしながら叫ぶ。
「頭! 着きましたぜ!」
「まあまあ、ゆっくりお休みなさいな~。あんたたち、よく頑張ったわよぉ~♥」
ピーコックがチンピラたちの頭をポンポン撫でると、彼らは照れくさそうに「へへっ」と笑う。
そこへ、ちょうど昼休みで校舎から出てきた悟空とルシアが、騒ぎに気づいて近づいてくる。
悟空は缶コーヒーを片手に、面倒くさそうに眉を寄せる。
「……なんだこのサーカス」
ルシアは目を丸くする。
「え、何あの人……? 孔雀?」
ピーコックが二人を視認すると、扇子をパチンと閉じて指を差す。
「あ~ら~! あなたが噂の金色のお猿さん? 花果悟空くんねぇ~?」
悟空はため息。
「誰だお前」
「失礼ねぇ~! わたくしはマガリ・ピーコック! この街の闇を優雅に支配するレディよぉ~!」
ピーコックがくるりと一回転。羽根がバサッと広がり、キラキラ光る。
「昇龍會のゴリラも、サザンクロスのヒョウも、もう古いわよぉ~。
これからはわたくしが、この街の頂点に立つの!
そのためには……まず、あなたみたいな『規格外』を片付けないとねぇ~♪」
悟空は缶を置いて、首を鳴らす。
「片付ける? 俺を?」
「ええ~そうよぉ~。あら、かわいい妹ちゃんも一緒? あらあら、来理人くんの妹さんよねぇ~?
お兄ちゃんには内緒で、わたくしと一緒に遊ばない? 楽しいこと、いっぱいしてあげるわよぉ~♥」
ルシアが即座に顔をしかめる。
「気持ち悪い。絶対イヤ」
「まあ~! ツンツンしちゃって可愛い~!」
ピーコックが扇子で顔を扇ぎながら、チンピラたちに目配せ。
「みなさ~ん! 準備はいいかしら~?」
褌チンピラたちが一斉に「オース!」と気合いを入れる。
するとピーコック自身の体が変化を始める。
背中の羽根が本物のように広がり、肌が虹色に輝き、瞳が真紅に燃える。
頭部に孔雀の冠のような角が生え、指先が鋭い爪に変わる。
マガリ・ピーコックの本気形態——優雅さと残虐さを兼ね備えた、毒々しい美しさ。
「さあ、悟空くん。わたくしとダンスを踊りましょうか~?
負けたら……あなた、わたくしの可愛いペットになってもらうわよぉ~♪」
悟空の瞳が金色に光る。
「ペット? 悪いな、俺は自由が好きでね」
悟空が一歩踏み出すと、空気がビリビリと震える。
黄金のオーラが体を包み、カブトムシの角が生え、尾がしなり、斉天大征の姿が現れる。
周囲の生徒たちが悲鳴を上げて後ずさる中、ルシアだけが少し離れて見守る。
「……また無茶する気でしょ」
ピーコックがクスクス笑う。
「素敵~! その金色、わたくしのお気に入りになりそう♪
さあ、始めましょうか~!」
チンピラたちが一斉に悟空に向かって突進。
だが悟空は軽く地面を蹴るだけで、衝撃波が彼らを吹き飛ばす。
褌チンピラたちが派手に転がり、山車がガタガタ揺れる。
ピーコックは扇子を振り上げ、虹色の羽根を無数に飛ばす。
それは鋭い刃のように悟空を襲う。
「羽根の嵐よぉ~!」
悟空は尾を振り回して羽根を払い、瞬時に間合いを詰める。
右の拳がピーコックの腹にめり込む。
ピーコックが吹き飛び、山車に激突。車体が木っ端微塵に砕ける。
「きゃあっ! なんて乱暴なのぉ~!」
だがピーコックはすぐに立ち上がり、唇を舐める。
「痛いわねぇ……でも、ゾクゾクしちゃう~♪
もっと、もっと激しくしてぇ~!」
再び突進。今度は爪を振りかざし、毒々しいオーラを纏った斬撃を連発。
悟空はそれを軽やかにかわし、カウンターの膝蹴りを顎に叩き込む。
ピーコックの頭が仰け反るが、すぐに反撃の蹴り。
二人の動きが速すぎて、周囲には残像しか見えない。
やがて——
悟空が低く呟く。
「遊んでる暇はねえんだよ」
金色のオーラが一気に爆発。
悟空の拳にエネルギーが集中し、巨大な衝撃波を纏った一撃を放つ。
「ブッ飛べ!」
校庭に巨大なクレーターが生まれ、ピーコックが吹き飛んで正門の壁に激突。
マガリ化が強制的に解け、元の派手なメイクの姿に戻る。
「……あら……負けちゃった……?」
ピーコックが膝をつきながら、扇子で口元を押さえる。
悟空はマガリ化を解き、息を吐く。
「次はおとなしくしてろよ。街を荒らすのは、もうたくさんだ」
ピーコックはクスクス笑いながら、ゆっくり立ち上がる。
「ふふっ……素敵な男ねぇ、あなた。
また遊びに来るわよ~? 次はもっと……本気で、ね♪」
チンピラたちに支えられながら、よろよろと去っていく。
去り際に振り返ってウインク。
「じゃあねぇ~、金色のお猿さん♥」
悟空は呆れたように頭をかく。
「……あいつ、何だったんだ」
ルシアが駆け寄ってきて、悟空の腕を掴む。
「もう! また無茶したでしょ! 怪我してない?」
悟空はニヤリと笑う。
「これくらい、へっちゃらだろ」
校庭に残されたクレーターと、壊れた山車の残骸。
生徒たちがスマホで写真を撮りまくり、SNSが一瞬で炎上し始める。
傲来市の噂は、また一つ大きくなった。
そして、闇の奥で——
誰かが静かに笑っていた。
「ピーコックがやられたか……
面白い。ますます、面白くなってきたな」
金色の猿を巡る戦いは、まだ始まったばかりだった。