あるところに黄金の角を持つカブトムシの頭部を持った怪物がいた。
その怪物は時折、東源郷に生まれてくる怪物の力を宿した者たちに倣い、“マガリ”に分類された。
“マガリ”は悪魔をその身に宿すこと、つまり、身体に間借りさせていることに由来した。
その中でもデタラメに強かった怪物。
数多のマガリや人々は怪物を天に斉しき力で征服していくような様子から、
タイセイは他の一部のマガリのように人の姿になることをしなかったが、その強さと喧嘩を売るような真似をしなければ、手を出さない姿勢に憧れたマガリも少なくなかった。
タイセイはあるとき、姫と出会う。
穏やかな時間を過ごすも、タイセイに以前のままでいてもらいたいと願う勢力は姫を殺害した。
怒り狂ったタイセイは彼らを殺害するも、姫は当然戻ってこない。
いかに親しまれていた存在であれ、タイセイをそのままにしておけないと重く見た姫の父はタイセイをマガリや持てる武力で殺害した。
死した後、タイセイの魂と思われる金色の霊力は天に昇って消えていくのを見た人々もいたという。
伝説が残る市内では、彼にあやかってマガリの頂点に君臨する存在を斉天大征と呼ぶ。
「な〜んて、ロマンティックよね〜ん?お兄ちゃあん♡」
極彩色のクジャク模様が入った、褌姿で同じ装いのチンピラたちが支える椅子に座りながら、“せいてんたいせい”の絵本を閉じる。
レディ・ピーコックの羽毛を広げ、派手な模様を見せる姿に誰も非難の声を上げない。
そこはピーコックの兄である、“牛魔王”と呼ばれる男が所有するビルの一室だった。
牛魔王、またの名を“
本名を
筋骨隆々な弟同様、恵まれた巨躯を持つ。
レディ・ピーコックは絵本を優雅に閉じると、ゆっくりと立ち上がった。
筋骨隆々とした体躯が、極彩色のクジャク模様の褌一枚で覆われているだけだというのに、その姿はまるで芸術品のように輝いていた。
部屋の隅では、チンピラたちが息を潜め、彼女の次の行動を待っている。
牛魔王のビルは、表向きはただのオフィスビルだが、この一室は拷問と快楽が交錯する秘密の間だった。
「あらあら、
レディ・ピーコックは甘い声で囁きながら、部屋の中央に吊るされた男の方へ歩み寄った。
その男は昇龍會の構成員で、最近牛魔王の縄張りに手を出した愚か者。
両手両足を鎖で固定され、汗と血にまみれた体が震えている。
「彼女」は壁から一本の鞭を取った。
黒革の鞭は、彼女の巨躯にぴったりと収まり、まるで延長された腕のようにしなやかだ。
ピーコックはクジャクの羽毛を広げるように肩を回し、派手な模様を部屋中に見せびらかした。
「ふふん、悪い子は、お仕置きが必要よねぇ〜ん?」
鞭が空を切る音が響き、男の背中に赤い筋が走った。
男は悲鳴を上げたが、ピーコックはそれをBGMのように楽しむ。
「きゃあん♡ そんな声出されちゃうと、興奮しちゃうわよぉ〜ん!」
「彼女」の声は高くなり、筋骨隆々の体が熱を帯びて輝き始めた。
鞭をもう一度振り下ろす。パシッ! 男の体が痙攣し、血が飛び散る。
「お兄ちゃあん、見て見てぇ〜ん! この子、こんなに素直に反応しちゃってるわ♡」
部屋の奥で、牛魔王が巨躯をソファに沈め、静かに見守っていた。彼の体も弟同様に恵まれた筋肉で覆われ、平天大征の名に恥じない威圧感を放っている。
「ピーコック、ほどほどにしろ。情報が欲しいんだ。遊びじゃねえぞ」
牛魔王の声は低く、ドスの効いたものだったが、どこか妹(?)を甘やかすような響きがあった。
レディ・ピーコックは鞭を止めて、男の顎を指で持ち上げた。
興奮で頰が上気し、息が荒い。
「あら、お兄ちゃあんったら♡ わかってるわよぉん。でも、この子が昇龍會のボスの居場所を吐かないから、ちょっと熱が入っちゃったのよ〜ん!」
彼女は鞭をもう一度軽く振り、男の太ももに軽い一撃を加えた。男がうめき声を上げ、ようやく口を開いた。
「ゴーさんの居場所は……吐かねえ……」
ピーコックは満足げに笑い、鞭を投げ捨てて牛魔王の方へ振り向いた。
「ほらほら、お兄ちゃあん♡ 次は昇龍會に行く?タイセイみたいに、デタラメに強くなっちゃおうかしらん?」
彼女の目は輝き、拷問の余韻で体が震えていた。牛魔王はため息をつきながらも、微笑んだ。
「ああ、行こうぜ。
……それとな、坊主。
昇龍會のアジトなんて簡単に調べがつくんだ、坊主が黙ってようとな。
「まあ、アナタはア・タ・シの暇つぶしに付き合わされたってワケ♡
感謝なさ〜い?ンフ、褌姿も似合うわよ?」
牛魔王が床に伏せる男を片手で持ち上げると、ピーコックが
「可愛がってアゲル♡」
「ば、化け物……!」
男の弱々しい息遣いが、夜のビルの一室を彩っていた。