仮想の鬼神、幻想の都に墜つ 作:じゅじゅじゅ
舞台設定は東方が基礎で、そこに呪術要素が絡んでいます。
今より遥か1000年前。平安時代と呼称される古代日本において――神秘や奇跡、そして怪異や『呪術』は空想の産物ではなく、実態ある脅威として常に人々の生活の間近に存在していた。
科学の存在しない時代。人々が自然や未知に対して向けていた「恐怖」や「敬意」といった感情は、時の流れによって姿形を変え、幾千もの神々や妖怪を産み出した――――正に『
そんな神秘全盛の時代において、最も多くの恐怖と畏敬を集め、ありとあらゆる存在から忌み嫌われた存在が居た。
――――それは怨霊では無く、
――――それは妖怪でも無く、
――――それは神ですら無い。
後の世において「呪いの王」と呼ばれる、実在したたった1人の
グズグズに崩れた右の相貌、4つの腕と瞳に2つの口を持つ異形の男。
――――その名も、両面宿儺。
◇◇◇◇◇◇◇
雲一つない広大な夜空の中、まるで宝石でも撒いたかのようにきらめく星々が、暗く濁った森林を明るく照らす。
青臭い深緑の匂いを鼻腔で感じながら、素肌を撫でる冷たい風に身を任せ、その男――両面宿儺は、闇夜に乗じて接近してきた強者の気配に、その顔面を邪悪に歪めた。
「フッ……今宵は居待月か。こうも綺麗な夜空には、尚のこと鏖殺が映えるだろうなぁ。……そうは思わんか?妖怪の小娘」
差し込んだ月明かりが、宿儺の前に2人の闖入者を照らし出す。月光を弾く美しい金髪を持った絶世の美少女たち。一見すれば、ただの人間の少女にしか見えない見た目でありながら、その片割れには見事なまでに輝く9つの狐の尾が生えていた。
僅かに幼さの残る顔立ちを緊張に歪めた少女たちが、その小さな身体から天変地異を幻視させる――低級の妖怪であれば卒倒するだろう――程の圧を溢すものの、宿儺は気にした様子もなく薄い笑みを浮かべる。
「…………初めまして、貴方が両面宿儺ね。私は境界を操る妖怪の賢者、八雲紫よ。こっちは私の式神の八雲藍。……奇襲を受けたにしては随分と余裕そうね?ちょっと危機感が足りて無いんじゃ無いかしら?」
「ケヒッヒヒッ!愉快だなぁ!!裏梅ごときを警戒して!この俺が1人になる様、わざわざ分断した貴様らに危機感だと?妖怪の分際で中々面白いではないか!!」
「ッッ貴様!」
宿儺の挑発に激昂し、飛び出そうとする藍を紫が手で制する。
「そう。死んでも同じ台詞が吐けるのなら褒めてあげたって良いわよ?」
「抜かせ。彼我の力量差など貴様自身、よく分かっているだろう?…………しかし紫、紫か。確か『この世に偏在するあらゆる境界を操る大妖怪』だったか?あの妖怪の重鎮が、九尾の妖狐を従えて襲撃してくるとはな。……都の人間ならまだしも、妖怪から恨まれる覚えなど無いが……まぁ、退屈凌ぎに丁度良い」
「勘違いしないで。別に私たちだって貴方の事が憎くて襲ってる訳じゃないのよ?……実際、お仲間の裏梅ちゃんだって私の能力で佐渡ヶ島まで飛ばしただけで無傷だもの」
はぁ、と大きな溜め息を吐いた紫は、心底嫌だという表情を隠しもせずに浮かべる。
「端的に言って、貴方1人で“恐怖”を集め過ぎなのよ。私たち妖怪や神霊にとって信仰や恐怖といった人間の感情は、個としての存在を維持していく為に必要不可欠なの。…………それが今や都はおろか、日本全土が貴方を恐れてる。このままじゃ、数年以内に数多くの低級妖怪や低級神が、恐怖や信仰を得られずに消滅してしまうわ」
「雑魚の理屈だな。所詮、有象無象。どうなろうが俺の知った事ではない。仮にその話が事実だとしても、諦めて“信仰”とやらを集めれば良いだろう」
「そうもいかないの。恐怖と信仰は密接な関係にあって……卓越した恐怖は、やがてそれを収める為の信仰へと変わる。自覚は無いでしょうけど、既に貴方だってそれなりに信仰されてるのよ?」
「全く興味が湧かんな…………それで、時間稼ぎはこの程度で良かったのか?」
いつの間にか、数百にも及ぶ妖怪の軍勢が音も無く現れ、宿儺の四方を包囲していた。しかもそれは、ただ寄せ集めただけの雑兵などでは無い。一体一体が並の妖怪とは思えぬ程の力を漲らせ、宿儺の一挙手一投足を注視している。
そんな、およそ常人からすれば絶体絶命の状況下であるにも関わらず、宿儺の余裕は崩れない。
示威行為としての最後の策が失敗に終わったと悟った紫は、頭痛を抑える様に額に手を当て、縋る様な視線を宿儺に向ける。
「ね、ねぇ。別に私たちが戦う必要なんて無いと思わない?私達はただ貴方にも協力を……」
「御託はいい。俺に言う事を聞かせたいなら、無理矢理にでも首を縦に振らせてみろ。これは『縛り』だ。仮に貴様らが勝てたのなら、それがどんな要求であろうと従ってやる」
もう話は終わりだとばかりに、宿儺の全身から悍ましい程の呪力が溢れ出す。緊迫感が空間を満たし、妖怪達が一斉に臨戦態勢へと入る。
「はぁぁぁぁ…………もう!噂に違わぬ傍若無人っぷりね!!藍、行くわよ!こうなりゃ死ぬ気でやったるわ!!」
「はい!紫様!……おい、宿儺貴様!さっきから黙って見ていれば、紫様に生意気な口を!!終わったらたっぷりお説教してやるからな!!!」
こうして歴史上、最古にして最大の妖怪大戦が幕を開けた。
◇◇◇◇◇◇◇
帷が落ち、辺りに夜の気配が満ちる。およそ丸一日続いた妖怪軍団と宿儺との死闘により、昨日までの閑静な樹林地帯は見るも無惨な様相を晒していた。
豊かだった緑は見る陰もなく、地面は抉られ、至る所にぶち撒けられた妖怪達の臓物が据えるような悪臭を放っている。
この戦いの勝者である八雲紫は、満身創痍といった青い表情で――野晒しにされている
「貴方、本当に人間?いくら何でも強すぎじゃないかしら?はぁ……このドレス気に入ってたのに……………」
八雲紫の視線の先で
夥しい数の死体の山に、傷だらけの美少女。そして全身を拘束された異形の男という、地獄の様な状況において、場違いに明るい少女の声が鳴り響く。
「いや〜、久しぶりに紫から連絡が来たかと思えば『あの宿儺と戦わせてあげる』だって?こんなに強い人間と喧嘩したのは産まれて初めてだよ〜!!……もうほんっとに大・満・足!紫、ありがとね〜」
左目と右腕を欠損し、全身を走る痛々しい程の火傷すら大して気にした様子も無い、立派な2本の角を持つ幼女――――『鬼の四天王』の一角として恐れられる伊吹萃香は、満面の笑みを浮かべたまま荒れた大地に寝転がる。それを見た紫は、呆れた様な表情で溜め息を吐く。
「どうしてそんなに元気なのよ…………。同じくらい重症だったあの藍でさえ、今はスキマの中で半ベソかいてるのよ?」
「あっはっは!!
「大和……撫子………?乱暴狼藉じゃなくて?」
「どっちだって似た様なもんだろう?…………いや〜、それにしても本当に強かったねぇ。出来る事なら一対一でやり合いたかったんだけど……まぁ仕方ないか。よし、帰ったらあいつらにも自慢してやろー!っと」
パシャリという水音と共に、影を溶かして作った不定形の泥の塊の様な物が中空に浮かび上がる。しばらくすると、その中からオレンジ色の狩衣を身に纏い、不敵な笑みを携えた絶世の美女が現れた。
彼女こそがこの戦いにおける影のMVPであり、神としては唯一の参戦者――――『威風堂々たる神秘』こと秘神・
「聞け!見よ!語れ!私こそが後ろ戸の神であり、影の功労者であり、今宵あの宿儺を討ち果たすに至った究極の秘神!!皆の者、喝采して迎えるがいい!!」
溢れんばかりの自尊心と褒められ待ちの犬の様な期待感を込めた眼差しで紫を見つめてくる旧友に、戦闘予後とは別の疲労感を感じた紫は思わず頭を抑える。
(はぁ……大方、私と萃香だけで盛り上がってるのに嫉妬して出てきちゃったんでしょうね。……秘神の癖にやたらと目立ちたがりの自信家で、その上寂しがり屋ってどんだけ面倒くさい性格してるのよ………」
「ふむ。紫、紫よ。先程から心の声が漏れているぞ?……無論、究極の秘神たる私からすればその程度の軽口、聞き流してやっても良いのだが……少しだけ傷付いてしまうかもしれないぞ?……え?ていうか、紫ってずっと私の事面倒くさいと思ってたの?」
面倒くさい友人の頭を撫でながら機械的に慰めの言葉をかけていると、とうとう耐えかねた宿儺が不機嫌そうに声を上げる。
「おい。いつまでこんな茶番を見せ続けるつもりだ?多くの犠牲を払ってまでこの俺に膝をつかせたのだ。何かさせたい事があるのだろう?『縛り』でもある以上、二言はない。
――――同族の仇として、辱めてから殺すもよし。
――――奴隷の様にこき使うもよし。
…………貴様らの好きにしろ」
話は終わりだとでも言いたげにぶ然とした表情を浮かべる宿儺に、紫は少しだけ面を食らいながらも居住いを正す。
「……妖怪たちを殺した事なら別に気にしなくて良いわよ?私たち妖怪は貴方……はどうか分からないけれど、人間とは違って同族意識も薄いのよ。知り合いでも無いなら余計に気にしないわ。それに私たち4人を除けば、ここに来ていた妖怪たちなんて全て生まれたばかりの低級だもの。
…………仮に参戦していなくても、いずれは貴方の影響による恐怖不足で消滅してたでしょうね」
そんな紫の一言に、宿儺は初めて驚きに目を見開いた。
「あれが低級だと?全てがそれなりの大妖怪……モノによっては俺の『解』に耐えられる個体も居たのだぞ?」
初めて見せた宿儺の驚きの表情に、紫が返答するよりも早く――我が意を得たりと穏岐奈が機嫌良く声を上げる。
「そう!それこそが私の能力!人呼んで『あらゆるものの背中に扉を作る程度の能力』だ!私が許可した存在のみ、出入りを可能とする“後戸の国”という独自の領域を支配するだけでなく、“生物が持つ潜在能力を爆発的に増幅させる”事すら可能なのだ!!…………数百にも上る妖怪たちにバフをかけ続けるのがしんど過ぎて、3回ほどゲロ吐きかけたのだが……………うむ、私は吐かなかったぞ!!」
「はぁ…………まぁ、そういう事よ。それにはっきり言って、私たちは貴方に勝てたとは思ってないわ。……強化した低級妖怪と萃香の分身・数々の呪具やマジックアイテムを捨て駒にした挙句、私と藍と本体の萃香の3人で後詰めをしてさえ倒しきれなかったんだから。その上、藍と萃香は瀕死の重症、私と穏岐奈だってガス欠寸前、それ以外は全滅だもの。……正直、何か一つでも掛け違いがあれば、勝っていたのは貴方だったでしょうに」
「…………たらればの話など無意味だ。結果として俺が敗け、貴様らが勝利した。それだけの話だ」
「……この時代の呪術師って、何でこうも戦闘民族みたいな発想で殺伐としてる訳?妖怪たちですらもっと気楽に生きてるわよ?……全くもう」
額に寄ったシワを指で揉みほぐしながら、宿儺を真正面から見据える。
「両面宿儺、これから貴方を一時的に封印します。封印と言っても結界術や封印術ではなく……私の『境界を操る程度の能力』によって、貴方の魂と肉体の境界を操作し、貴方が持つ20本の指に魂を詰め込んだ後、肉体から分離させます。これは言うなれば、貴方自身の呪物化と言えるでしょう。
…………遠い未来、私が作り上げた世界において、必ず貴方を受肉させます。
そこで『その世界のルールを遵守して生きる事』。これが『縛り』です」
「勝手にしろ。敗北した俺は死体も同然。死体をどうしようが貴様の勝手だ」
この日、突如として日本全土を恐怖に陥れていた「呪いの王」が姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇
幾星霜もの月日が流れる。いくつもの国が新しく興きては滅びてを繰り返し、多くの伝承が失伝し、また多くの神話が新たに生まれ…………急速な科学の発展により、ありとあらゆる神秘が否定された。
そして現代、賢者たちによって作り上げられた仮想の楽園に、今まさに1人の鬼神が蘇ろうとしていた。
宿儺ファンの皆さんごめんなさい〜!
宿儺君がそのまま幻想郷に行っちゃったら、殺伐としたR-18G作品になっちゃうんで、ゆかりんに一度負けて『縛り』としてルールを守って貰います。
また、基本的に呪術キャラは原作通りにしていくつもりですが、シリアスに寄り過ぎない為にも東方キャラははっちゃけ気味です。