仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 ありがたや、ありがたや……久しぶりに小説情報開いたら評価上がっててほんま感謝やで

 読んでくれるだけでも嬉しいのに……モチベ上がったのでニ話くらい投稿したいんですが、今週は試験期間中なので、この一話で限界かも。

 前半が幕間で、後半はストーリーが少し進むよ




第九話 夜は短し語らえ乙女

 

【静かなる晩餐会】

 

 

 

 紅魔館の主要人物たちが一同に集まるいつもの――されど賑やかで楽しい夕食会が終わり、夜も更け始めた時分。宿儺はレミリアに私室へと招待され、紅魔館の複雑に入り組んだ廊下を歩いていた。

 やがて部屋の前に着き、相変わらずノックもせずに扉を開けるが――――初対面の時のようなみっともない姿をレミリアが見せる事は無かった。

 

 

「あら、もう来たのね。じゃあ、早速始めましょうか」

 

 手に持った赤ワインとグラスをテーブルの上に置き、妖艶な笑みを浮かべて手招きする。見た目からして、少女という年齢すら若い――幼女のようなレミリアが酒を片手に誘惑する姿は極めて背徳的で、そういった嗜好を持つ男性からすれば堪らない光景だろう。

 もっとも、実際にそういった行動を取れば、どれだけ悲惨な目に遭うかは想像に難くない。

 

 こじんまりとした卓上には、既に種々のチーズとオリーブの瓶漬けがおつまみとして用意されていた。だが、それらよりも一際目を惹く――――どろりとした赤い液体が、透明な瓶に詰められ置かれている。

 

 

「今日はとっておきのを開けちゃいましょう。ハンガリーに住む“17歳の処女”だそうよ」

 

 

 まるでワインの銘柄でも告げるように紹介された“ソレ”は人間の血液。とはいえ、幻想郷の――とりわけ紅き悪魔が住まう館において、違和感を感じるものは居ないだろう。

 実際、宿儺も気にした様子はなく――むしろ少し期待した様子で――レミリアの対面に着席する。

 

 

「やれやれ……八雲紫による“縛り”さえなければ、自分で獲りにいけるものを……つくづく忌々しい」

 

「ふふ……まぁ、そう言わないで。私はこの時間、嫌いじゃないわよ?」

 

 

 不満げにフンと鼻を鳴らしながら、宿儺は背もたれに重心を掛ける。

 しっかりとした生地が張られた、高級チェアの感触を背中越しに感じながら――卓上のグラスを手に取り、レミリアに目線を向けた。

 

 

紅魔館(ここ)は飯が美味い……その点に不足はないが……やはり不自由な身の上というのが慣れんな。人一人すら殺める事が出来んとは…………いや、止そう。酒が不味くなる」

 

 

 ネガティブな話を打ち切った宿儺は、グラスワインに人間の血を垂らす。手でゆっくりとグラスを回して、赤ワインと馴染ませながら香りを楽しむ。

 赤ワインと血を混ぜて楽しむやり方は、(レミリア曰く)高貴な吸血鬼の間では一般的なものらしく、レミリアに教わってからは宿儺もそれに倣って美酒と美食を楽しんでいた。

 

 

 自らの手で獲物(人間)を殺し、その肉と骨を味わう娯楽は奪われたが――嗜好品として気を紛らわせる事でそれなりの満足感を得ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアとの会話を弾ませながら、宿儺はそれなりに値の張るだろうワインをガブガブと水のように飲んでいく。

 一見するとさもしく、無礼にも思われるような態度だったが、ホストであるレミリアは嫌な顔ひとつせず――むしろ楽しげな様子で新しいワインを開けていく。

 

 

「あはは!全くパチュリーったら、相変わらずねぇ……まぁ、図書館に引きこもって自堕落な生活を続けてた罰よ、罰。私が晩酌に誘ったって、滅多に付き合わないんだから」

 

「笑い事ではない……というより、この館には頭のおかしい女が多過ぎる。十六夜咲夜もそうだ……」

 

「あら?でも、とっくに胃袋は掴まれてるんじゃない?……この幻想郷において、咲夜以上に洋食の腕が立つ人間は居ないのよ?」

 

「……厄介極まりないな」

 

 

 苦渋を舐めたような表情の宿儺に、もはや堪えられないといった様子で、レミリアがますます大笑いする。

 しかし、ここまで笑われて尚、宿儺に気分を害したような様子は見えない。

 

 

 他者を顧みず、享楽的で加虐性の塊のようなレミリアは、元より宿儺と性格面での相性が良かった。

 

 しかしそれ以上に、レミリアは妹の性格を矯正してくれた宿儺に感謝の念を抱いていたし、彼の持つ“純粋で圧倒的な強さ”に一妖怪としてリスペクトを送っている。こういった心情から、宿儺に対して“親しみを込めて笑う”事はあれど“嘲笑する”事はない。

 むしろ仮に宿儺を嘲笑するような者が現れれば、レミリアこそそれを許さないだろう。

 

 一方の宿儺も、レミリアが持つ能力の有用さを認めている。その上で、性格面や“食の趣味”において意気投合した事から、こういった対等とも言える会話を許していた。

 

 

 利害の一致から生まれた「奇妙な友人関係」。まさにそんな言葉が、レミリアと宿儺の今の関係性を表すにはピッタリだろう。

 

 

 

 

 

 酔いが回り、くだらない会話をひとしきり楽しんだところで、レミリアは大人の――これからの展望に関わる真面目な話を切り出す。

 

 

「ねぇ、ところでこれからの予定は?…………私はてっきり、調べ物が終わったらすぐに屋敷の外へ散策にいくものかと思ったんだけど……いえ、いつまで居ても良いのよ?賑やかになるし、フランだって喜ぶから。

 

…………どうせお金なんて、いくらあったって幻想郷じゃあ使い道ないもの。貴方1人くらい養ったところで、どうとでもなるわ」

 

 

「……おい。なぜ俺が養われる前提で話を進める?…………一つ誤算が生じた」

 

「誤算?」

 

 純粋な疑問から――首をこてんと傾げ、宿儺に目線を送る。

 対する宿儺は、その相貌に苛立ちや不満――――そして何より多大な()()を滲ませながらレミリアの問いに答える。

 

 

「この幻想郷では、思いの外、妖怪共が徒党を組んでいてな。一つ一つの勢力が、各々の政治的思惑によって動いている…………俺が生きた時代、妖怪はもっと自由だった……今の妖怪は弱さゆえに群れ、人間社会の真似事に明け暮れている」

 

「……耳の痛い話ね。でも、それの何が問題なのかしら?」

 

「早い話、動く事が出来んのだ……強引な手段で俺が他の勢力に干渉した場合。まぁ、まず間違いなく争いが生じるだろう……そうなれば意図せずに“縛り”を破るというリスクが急増する。膠着が続けばその手段も検討するが……今はまだいい」

 

「…………ねぇ、それって“強引な手段”を取らなければ良いだけじゃないの?」

 

「俺より弱い組織の長に、頭を下げて回れと?……それなら死んだ方がマシだ」

 

 

 あまりにも宿儺らしい返答にレミリアは苦笑する。とはいえ、レミリアも彼と同じ立場なら――身内が危険に晒されるような状況でもない限り――プライドの高い幻想郷の重鎮たちに頭を下げ、助力を乞うなどという真似はしないだろう。

 しかも、宿儺が求めるのは『縛りの抜け道を見つけ、八雲紫と決闘する手段』である。レミリアでさえ見当もつかない難題が、そう簡単に解決するとは思えない。

 

 

「確かに。今の幻想郷で、どこの勢力にも属さない雑魚妖怪相手に聞き込みしたところで、役に立ちそうにないものね」

 

「まぁ、あの幻想郷縁起自体、編纂者の独断と偏見が多分に含まれた内容だった……どの道、全てを鵜呑みにするのは危険だろう。少し待てば裏梅も受肉する。それを待つのも悪くない。…………また、数は少ないが――――俺の存在を知る大妖怪が、向こうからコンタクトを取ってくる可能性もある……ゆえに、今は『待ち』一択だ」

 

 

 

「なるほどねぇ…………あ!そう言えば、あなたの従者(?)の裏梅って子、料理が上手いんでしょう?受肉が終わったらウチの咲夜と競わせてみましょうよ!平安時代の美食とやらに、私も興味があったの!」

 

「ほぅ……ケヒッ、悪くないな。では、負けた方には罰を与えるとしよう」

 

「あなた、ウチの咲夜が負けるとでも?裏梅ちゃんには悪いけど、黄泉がえり早々に痛い目を見てもらうわ!」

 

 真面目な話はなりを潜め、再び友人同士のくだらないやり取りに興じる。

 時計の針が午後11時を回る中――悪鬼たちの笑い声が、不気味な真紅の館に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 日付けが変わり、真夜中に差し掛かりそうな時間帯。既に宴は終わり、宿儺は自室へと戻っていた。

 ひと段落がついたのち、レミリアは咲夜を呼んで部屋の後片付けを任せ――彼女に一日の業務の終了を言い渡す。

 

 

 とはいえレミリアからすれば、まだまだ一日は続いていくわけで――紅茶を楽しみながら宿儺との会話を回想していた。

 

(遠回しにウチに残らないか聞いてみたけれど、その気はなさそうね…………いえ、『養われる』のが嫌なだけで、あれで案外乗り気なのかしら?)

 

 

 既に1人の友人(ニート)であるパチュリーを飼っているレミリアにとって、養う人数が1人2人増えるという程度は何の問題もない。むしろ、妹やその他の住人にポジティブな影響を与えている現状を鑑みれば、『お金を払ってでも居て欲しい』と思うのは自然だった。

 何より――――本人が聞けば憤るだろうが――――フラン相手に傷一つ付けられず圧勝出来るほどの強者が、紅魔館一同と懇意にしているという状況は、政治的に大きな切り札となる。

 

 そういった考えから、宿儺と晩酌を楽しむ際には、それとなく「屋敷に残らないか」と提案をし続けていた。

 

(私としても気が合うし、彼の周りでは()()()()()が起きやすいから、屋敷に残って欲しいんだけど……まぁ、焦る必要もないわね。…………それよりも)

 

 数十分前まで目の前で談笑していた、彼の立ち振る舞いを幻視する。

 自信に満ち溢れた表情に、圧倒的な力を内包した肉体。腹の前でゴツゴツとした2本の腕を組みながら、非道な話題で邪悪な笑みを浮かべていた彼はまさしく――――

 

(なんて言うかこう……『悪のカリスマ』って感じがしてたわね!!威厳(?)みたいなのも溢れてたし…………ふっふっふ……アレを見て学べば、この私が()()()()()()になる日も近いわ!彼にはカリスマ学の先駆者として、私の教材になって貰うんだから!)

 

 

 私室で楽しそうに1人笑いを浮かべるレミリア・スカーレット。

 彼女の夜はまだ始まったばかりだ。 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館に滞在して、10日が経ったある朝。

 宿儺はかつてない程に腹を立て、不快感を露わにしていた。彼の肉体から立ち昇る荒々しい怒気は、すれ違う妖精メイドたちを怯えさせ――日頃は宿儺を揶揄う事に躊躇しない咲夜でさえ、ボケの頻度を減らすほどだった。

 そんな宿儺は額に青筋を浮かべながらも、心の中で愚痴を吐く。

 

 

(チッ……忌々しい。何者かがこの俺を“監視”しているな…………屋敷の周囲を確認したが、それらしい気配は無かった。加えて妖力や魔力の残穢すら感じ取れないとなれば……考えられるのは『能力』か)

 

 現在、宿儺は展延を維持することで能力による干渉を防いでいるが――一瞬でも展延を解除すると、すぐさま監視するような視線を感じる。早朝からずっとこの調子であり、肝心の下手人は見当すら付かないという状態で、彼のストレスは臨界点を迎えていた。

 

(何が目的だ?俺とコンタクトを取りたいのなら、既に行動に出ているハズ……敵対するにしても、俺を警戒させる意図が分からん。……友好が目的というのは絶対にありえないな)

 

 イライラが募っていくものの、現状では対処のしようがないため、仕方なく日課を遂行するべく大図書館へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 大図書館に入って数十秒後。装丁を眺めながら「さぁ、どの本を手に取ろうか」と迷う暇すらなく――――紫色の塊が、土下座をしながら宿儺の足元にスライディングしてくる。

 

「お、お、おはよう……ございます!宿儺……様!今日はどういった本をお探し?……でしょうか。ご用があれば、この下賤なワタクシめになんなりとお申し付けください。ふへへへ……」

 

 数日前、自らが仕込んだ自白剤によって盛大に恥を晒したパチュリー・ノーレッジ。彼女はあれ以来、こうして卑屈な笑みを浮かべながら下僕のように振る舞う事で、ことあるごとに宿儺のご機嫌を取ろうとしている。

 宿儺としては頼んだ覚えもなく、別に弱みを使って彼女を脅す気もないのだが――――都合が良いので放置していた。

 

 いつも通り、適当にコキ使おうとして――ふと、宿儺の脳裏にある考えが過ぎる。

 

 

「……そうだな。まずは東北地方の民間伝承に関して……いや、待て。貴様、“術”の解析は得意か?」

 

「……はぇ?…………えっと、得意じゃないけどある程度なら出来るわよ?……それがどうしたの?」

 

 

 素っ頓狂な声を上げ、アホ面を晒すパチュリーを見下ろしながら――宿儺は酷薄な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

「確かに。本当になんらかの術が掛かってるわね……いえ、むしろ私としてはそれを防いでいるアナタの技術の方に興味があるんだけど……ちょ、ちょっと!真面目にやってるんだから、そんなに睨まないでよ!」

 

 大図書館の一角、普段は魔法実験を行なっている場所を使って、宿儺はパチュリーによる鑑定を受けていた。

 複数の鑑定魔法や探知魔法を用いて、「どんな術が掛けられたか」「誰が掛けたのか」を特定している真っ最中である。ただ、術の特定にはそれなりに時間がかかるという事で、こうして雑談(?)を交えながら互いに向かい合って過ごしていた。

 

 

「うん。あなたの言う通り、これは『能力』で間違いなさそうね…………紅魔館には簡易的だけど私の魔法で防諜対策が仕掛けられてるの。それをすり抜けてこれだけ遠距離から行使出来るとなれば、それはもう『能力』しかあり得ないわ」

 

「……千里眼のようなものか?」

 

「いいえ、それはまだ分からないわ……あと数分で結果が出るから、少し待っててくれるかしら」

 

 

 しばしの間、沈黙が場を支配する。壁に立て掛けられた古時計の、カチコチという音のみが耳に入る。奇妙な緊張感が走る中、七曜の魔法使いは表情一つ変える事なく緻密な魔法操作をこなしていく。

 やがて額に汗をかいたパチュリーが、顔をハンカチで拭いながら――真剣な表情を宿儺に向けた。

 

 

「……結果が出たわ。場所は『妖怪の山』、能力は『念写』ね……悪いんだけど、それ以上の情報は分からないわ」

 

 

「良い。むしろ上出来だ……ここから先は俺が行こう」

 

 

 密閉された大図書館の中で一陣の風が吹く。

 

 否――――宿儺が意図的に抑えていた気配が解放され、力の奔流によって万物が押し返されるような()()()()()()が生じていた。初めて感じる「本物の宿儺」に、パチュリーは冷や汗をかきながら無意識に後ずさる。

 

 対する当の本人は――先程まで面に出ていた怒りの感情は霧散し――凶相とも呼べるような、歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「ククククク……そうか、そうか。()()()()()

 

 

 縛られていた悪鬼に“大義名分”が与えられ――――たった今、幻想郷の均衡が崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 






 次回、妖怪の山事変?

 ひとくち裏話
 この後、宿儺は“術の解析”の報酬として、領域展延に関する情報を口外禁止の縛り付きで、パチュリーに(ゴネられて)話しました。




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