仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 さてさて本誌も盛り上がってますね〜
 てなわけで、どうぞ
 



第十話 ドント・ルックバック・アット・ミー

 

 

 この世界に生きる誰もが、世界を変える力を持っている。

 

 

――――そんな言葉を鵜呑みにする人は少ない。むしろ欺瞞的な綺麗事だと考え、腹を立てる人すらいるかもしれない。

 

 なぜなら、人間が持つ才能には圧倒的な格差があり、育つ環境によっては「夢を抱く」ことすら罪になるからだ。

 

 例えば、大富豪の家系に生まれた子供に無限に近い可能性が与えられる一方で、貧困国の子供たちは明日を迎える事すら厳しい環境にいる。いや、仮に裕福な家庭に産まれたとしても、体質や先天的疾患を理由に夢を諦めざるを得ない子供だって大勢いる。

 

 

 人の命の価値は平等か――――通りでホームレスが死んで悲しむ者は居ないが、ハリウッドセレブが風邪を引けばSNSに心配の声が溢れるだろう。

 

 

 

 

 だが、この世にはたった一つの真実が存在する。

 それはどのような境遇の人間も、“みな同じ世界に生きている”という事だ。

 

 恵まれた者も、恵まれていない者も。支配者や宗教家、芸術家や病人、ニートに活動家にアスリートでさえ――――誰もがこの世界を大きく変えるだけの“チャンス”を持っている。

 

 持って生まれた“力”は違えど――この世界に生きているというだけで――()()()()()()世界を揺るがす可能性を、我々は既に手にしている。

 

 

 

 

 

 これはとある幻想の都に住む、ヒキニートで安月給で酒カスなコタツ記者が――――大きく世界を動かすまでのお話。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「うげぇ〜〜……昨日は飲み過ぎたぁ……」

 

 二日酔いで痛む頭を抑えながら、床に転がった空の酒瓶を蹴飛ばし――顔を洗いに洗面所まで歩いていく。

 時刻は午前4時30分。敬虔な修行僧や老人であれば起きている者も居るだろうが、ほとんどの生物や人妖が寝静まっている静寂の時間帯。

 

 それは此処、『妖怪の山』においても同様であり、着崩れしたパジャマにやさぐれた顔立ちの美少女――――姫海棠はたてを除いて、周囲に生き物の気配は無い。

 

 

 幻想郷における妖怪勢力の総本山――――通称『妖怪の山』。

 彼らは天魔を頂点に置き、その下に大天狗・鴉天狗・白狼天狗と続くように、天狗を中心とした妖怪たちによる中央集権的な統治を実現している。さらに、近年では守矢神社と呼ばれる新興勢力も幻想入りした事で、妖怪たちから集めた信仰を基にした新たな社会基盤すら出来つつあった。

 

 とはいえ、その実態は非常に豊かでのんびりとしたものである。力による上下関係と最低限の役割こそあるものの、そこに住まう誰もが自由であり、人間の様な仕事や法に縛られる事なく悠々自適に暮らしていた。

 

 仲間意識が強く、排他的ではあるものの――一つのコミュニティとして見れば、それなりに健全な組織。それが『妖怪の山』だった。

 

 

 その中でも、比較的上位に当たるカーストの妖怪――――鴉天狗には山の中に個人の屋敷が与えられ、主に情報通信業(とは言っても信憑性の低い、学校新聞レベルの個人メディア)としての仕事が与えられている。

 

 

 

 

 そんな鴉天狗の内の1人、()()()()()()()()新聞を作ると評判の、姫海棠はたてには致命的な欠点がある。

 それは究極の出不精、引きこもり気質とアルコール依存まっしぐらの酒好きであった。

 

 

 元々、それなりに優秀な天狗であると同時に人付き合いの苦手だった彼女は、最下級の仕事である哨戒任務からは早々に昇格して、在宅ワークが基本の新聞製造業に携わるようになった。しかしながら、それを契機に、彼女の持つ悪癖は悪化の一途を辿っていくことになる。

 今ではもっぱら、酒とつまみの買い出しか、書き上げた原稿を提出しに印刷所へ足を運ぶ以外――――趣味の可愛いもの集めのため、ごく稀に人里に降りてくる事もあるが――――人と関わる事はなく、部屋から出る事すらない。

 

 

 

「はぁ〜〜……まだ朝の四時かよ。今の時間じゃ酒屋さんも空いてないし……てか、原稿の締め切りって明後日までだっけ?やっば、まだ全然終わってないんだけど……」

 

 足で襖を開け、洗面所の鏡の前に立つ。

 鏡の中には女子高生の様な美しい肌艶の、10代後半といった見た目の美少女が写っているが――――その表情は、女子高生が浮かべてはいけない程にやさぐれている。死んだ魚のような目からは活力や生気といったものが一切感じられず、真一文字に固定された口角は微動だにしない。

 

 取材や交渉が命のジャーナリストという職業からは想像もつかないくらい、無気力で無愛想だったが――そんなものは()()にとって関係ない。

 

 可愛らしいクマの模様が入ったコップを手に取り、蛇口をひねって水を出す。

 朝と言うには早すぎる気もするが、はたての一日はここから始まった。

 

 

 

 

 顔を洗い、歯を磨き。シャワーを浴びて、一通り身綺麗になったはたては、眉間に皺を寄せながら居間に置かれた仕事用のデスクへと向き合っていた。

 

「うぅ〜ん。記事に出来るような、インパクトのあるスクープがないなぁ……強いて言えば『リグル・ナイトバグ、飲食店にて再び衛生問題を引き起こす』ってトコかぁ?いや、でもアイツが衛生的に終わってるのはいつもの事だし……」

 

 鉛筆の角で頭を掻きながら、目の前の白紙を睨み付ける。

 しかしながら、待てど暮らせど一面を飾るに相応しいニュースが思い付かない。いっそのこと過去に掲載したニュースをもう一度掘り返すか、それともありもしないニュースを捏造でもするかと悩んでいると、ふと最近(酒屋の主人から)聞いた興味深い話を思い出す。

 

 

 なんでも今より10日ほど前、魔法の森近くにて圧倒的な力を感じさせる存在が確認されたらしい。

 この世界において隔絶した力を持った『超越者』とも呼ばれる存在は――数少ないものの――複数確認されている。はたて自身、相対した経験はないが、数々の文献や伝承も残っているし、なにより月に住まう住人たちが“そう”であるとされている。

 

 もちろん、そういった存在が突如として現れるだけでも大スクープなのだが、何より興味深いのは「その気配を察知した天狗の上層部が、かつてないほどに取り乱した」というのだ。実際、箝口令が出されたとの噂もある。

 しかしながら、そんな上層部の混乱を嘲笑うかの様に、その存在は忽然と姿を消したという。

 

 

「上の連中がビビるだけの()()()…………仮に箝口令が事実だとすれば、出版そのものが出来なくなるだろうけど……調べてみる価値はあるか?」

 

 かつてない大スクープの予感を感じたはたては、二つ折りにされた薄型の端末――世に言うガラケーを懐から取り出し、早速()()を開始する。

 

 

 

 姫海棠はたての能力『念写をする程度の能力』は、妖力によって生成されたガラケー型の端末に、任意の画像を念写出来る能力である。

 念写を行う際には条件があり、「いくつかのキーワード」を端末に入力して()()する必要がある。キーワードの量や正確さによって出力される画像の精度に差が生じるものの、逆に言えばたったこれだけの条件で、はたては過去(最大で1年前)から現在に至るまでのありとあらゆる風景・情報を100%確実に入手することが出来る。

 

 

 これこそが彼女の真骨頂であり、彼女が担当する新聞「花果子念報」のクオリティを保証してきた、とっておきの裏技でもあった。

 

 

 実際に、彼女の発行する花果子念報の愛読者からは「記事は酷いが内容や写真に不思議な魅力がある(?)」と評され、発行部数で鎬を削る『文々。新聞』の(自称)ライバル射命丸文からも「情報の鮮度はない癖に、写真だけはピューリッツァー賞」と認められている。

 

 これら2つの新聞は、一部妖怪たちから「幻想郷クセ強二大新聞」と呼ばれ、どちらも記事の内容が酷いという点では共通しているものの――――情報の速さにおいて他の追随を許さない『文々。新聞』、絶対にスクープの瞬間を撮り逃さない『花果子念報』として、互いに「一芸に秀でた新聞」と認知され愛されていた。

 

 

 

 早速端末を開いたはたては、ブラウザの検索欄のような場所に思い付いたキーワードを羅列していく。

 

「えーと……『10日前』……『魔法の森』……『強者』……『一部天狗と面識アリ』……っと、とりあえずはこんなトコかな?」

 

 感覚として、2つ以上のキーワードが入っていればそれなりに解像度の高い画像が出力される為、はたては入力を中断し検索ボタンを押す。数秒後、端末にある一枚の画像が出力される。

 

「これは……男?」

 

 写し出されたのは、写真越しでさえ邪悪さを感じさせる異形の男。ただでさえ男性の少ない幻想郷において、ここまで身体的に大きな特徴を抱える強者というのは聞いた事がない。

 

「4つの腕に2つの口、全身には黒い刺青かぁ……書庫を漁れば何か分かんだろうけど、今の時間じゃ空いてないし。いや、そもそも酒類が持ち込み禁止な時点で死んでも行きたくないけど……あれ?この画面端に写ってるのって、もしかして夜雀庵?」

 

 画像を拡大してみると、確かに赤い提灯には夜雀庵の文字が刻まれていた。

 辺り一面が鬱蒼とした森に囲まれていたお陰か、人工的な灯りが一際異彩を放っている。

 

「ビンゴ!!コイツは10日前に幻想郷に来訪して、確かに夜雀庵に行ったんだ!!……ふっふっふっ、面白くなってきたじゃねーの……!」

 

 対象を男に固定したまま端末で時間軸を操作し、そこから30分後の画像を出力する。

 

「あらあら、随分と楽しそうに飲み食いしちゃってぇ…………店内は1人、連れは居なさそう?……みすちーのビビり様からして、幻想郷には縁のない強者という線が有力かな?」

 

 すぐさま画像を拡大し、そこから分かる情報を次々に推理する。

 久方ぶりの大スクープの予感。何より、未知の異邦人というロマン溢れる存在が、はたてのジャーナリズム精神に火を付けた。食い入るようにして画像を覗き込みながら、男が頼んだメニュー・自分が感じた印象・そこから飛躍させた考察などを下書き用の白紙に殴り書きしていく。

 

 筆が乗りはじめ、はたてのテンションが最高潮に到達した瞬間――――ブツリという音と共に、端末がブラックアウトする。

 

 

「はぁーー!!!なんでこのタイミングで切れんのよ!!効果時間だって、まだまだ残ってるハズじゃんかぁぁ?!」

 

 午前5時、自室で絶叫を上げながら暴れ回る。賃貸住宅に住む現代人であれば、即退去が確定するほどの無法な行為だが――この幻想郷において、そんな些事を気にする者はいない。

 ひとしきりストレスをぶち撒けた後、はたては一旦冷静さを取り戻す。再度、端末にキーワードを入力し、能力を発動するものの――――

 

「な!?作動しない?!…………勘付かれた上、何か対策をされた?チッ、一筋縄じゃいかないか」

 

 はたては顎に手を当て、思わず唸り声を上げる。

 とはいえ、彼女の心は既に決まっていた。

 

 

「こんな面白そうなネタ、そうそう掴めるもんじゃない……それに相手は1人の人間(?)。無効化する手段だって、無限に続けられるとは思えない。食事や睡眠を取ったり、疲れて気の緩む瞬間が必ず来るハズ………いいわ、こうなりゃ根性比べよ。アタシの記者魂、見せつけてやるっての!!!」

 

 早朝、空の酒瓶だらけの部屋で、三文記者の独身女性が雄叫びを上げる。

 

 

 

 

 だが、交友関係の少なく、滅多に外出することのない彼女は知らない。上層部が、“件の男”に関して箝口令を敷くのと同時に、「絶対に触れてないけない存在(アンタッチャブル)」として指定し、接触はおろか調査すら禁じているという事実に。

 

 

 かくして運命の歯車は狂いだし、事態は急変する。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 穏やかな陽の光の下、芝生のような緑色のチャイナ服を着た女性が、鉄の門扉に寄りかかりながら静かに寝息を立てていた。

 

「ぐへぇ〜……むにゃむにゃ。お嬢様〜、それはブルーハワイじゃなくてチェレンコフ放射ですよ〜……」

 

 

 牧歌的で、平和そのものを体現した様なこの空間。そこへ1人の邪悪が降り立ち――躊躇なく美鈴の頬を引っ叩いた。

 

 

「ふべっ!」

 

「おい、起きろ…………というより貴様、勤務中に寝過ぎだろう。逆に起きているのを見たことがないぞ?」

 

 

 目尻に涙を浮かべながら、叩かれた頬を抑え――美鈴は情けなく抗議する。

 

 

「うぅ……痛い……す、宿儺さまぁ。せめて起こす時はもう少し優しくしてくれませんか?私、これでも女の子なんですよ?」

 

「やかましい。使用人として最低限の務めを果たせ。この愚か者が……ところで貴様に一つ聞きたいことがある」

 

「……えっと、聞きたいことですか?」

 

 

 滅多にない宿儺からの頼み事ということで、思わず嫌な想像が駆け巡る。一瞬、美鈴はサッと表情を青ざめさせるも――宿儺は気にした様子もなく、一冊の本を懐から取り出して中を見せる。

 

 

「この本に記されている、妖怪の山とやらの方角はどっちだ?紅魔館からは何分程度で辿り着ける?」

 

 

 驚くほど拍子抜けする内容に、美鈴は心の中でほっと安堵のため息を吐く。

 気持ちを切り替え顔を上げ、紅魔館の門番として――何より幻想郷に住まう先達として、宿儺の問いに真摯に答える。

 

「紅魔館からは東の方角にありますね。飛んで行けば大体15分くらいで着きますよ…………あ!」

 

「む?どうした?」

 

「いえ……あまりにも人外過ぎて忘れてたんですけど、宿儺様って普通に元人間ですよね?……もしかしたら、飛べないんじゃないかと思って……」

 

「あぁ、その程度なら問題はない」

 

 薄い笑みを浮かべながら、軽く身体をほぐす様な仕草をする。

 軽い準備運動でコンディションを整えた宿儺は、ただ歩くような気軽さで()()()()()()()()()()()()()()()。そのまま重力という名の自然の摂理を無視して、瞬く間に“空”を駆け上がっていく。

 

「人の身である俺に、宙を飛ぶことは出来ない。だが、それならば“空を駆ければ”良い。空気中の温度や密度、湿度といった違いを理解し、空間を“面”として捉える。それだけの事だ」

 

 

 

 そう言い残すと、宿儺は遥か空の彼方へ消えていった。

 一連の流れをただひたすら真顔で見つめていた美鈴は――一度大きく深呼吸をする。

 

「あの人、ホントに元人間なんですかねぇ……話してる内容もほとんど理解不能でしたし……いえ。実際に“出来てる”以上、あの人が正しいんでしょうが……」

 

 遠く晴れ渡った青空に宿儺の面影を感じながら、美鈴はなんとも言えない気持ちになる。

 そんな美鈴を受け入れるかの様に――――所々でちぎれ、まるで魚の鱗のような形をした雲がゆっくりと大空を流れていく。

 

「……それにしても。今日の宿儺様って、なんか機嫌良さそうでしたねぇ。妖怪の山に行かれるとの事ですし、昔のお友達にでも会いにいくんでしょうか?」

 

 1人ポツンと門番をしている彼女の問いに答える者はいない。

 だが、美鈴はそれを特に気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにはにかんだ。

 

 

「なんやかんや言っても、宿儺様はもう紅魔館の一員ですからねぇ。楽しんでるみたいで良かったです……今日はきっと、穏やかで平和な一日になるような予感がします!」

 

 

 美鈴は知らない。

 宿儺が何の目的で出かけたのかを。そして、これから妖怪の山で何が起こるかを。

 

 

 

 

 しばらくの間、宿儺に思いを馳せていた美鈴は、やがて身体を預ける様にして門扉に寄りかかる。

 

 

 

「さて、やる事も無いんで二度寝でもしちゃいますか!」

 

 

 

 紅魔館は今日も平和である。

 

 

 





 はたてのケータイって、よく見ると柄がかなり派手なんすよね……

 宿儺の空中ジャンプについてなんですが……(以下、単行本勢にはネタバレ有り)術式が焼き切れた後も普通に使ってましたし、真希との書き分けも無かったので、フィジギフの空中ジャンプと同じ理屈だと考えてます。
 また、幻想郷だと空を飛べるのがデフォルトなので、空中ジャンプに関しては原作よりも都合良く使っていくつもりです。
 
 まぁ、気楽に見てくだされ




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