仮想の鬼神、幻想の都に墜つ 作:じゅじゅじゅ
どもです。
遅筆過ぎるので、執筆スピードを上げたい今日この頃。
何かいい方法はないですかねぇ。
高速で流れていく景色を
青々と生い茂る森林地帯に、剥き出しになった岩壁。透き通った清流には、妖怪や妖精といった怪異が所々に点在しているものの、それは紛れもなく、かつての日本が誇った美しき原風景と呼べるだろう。
宿儺は現在、自らを覗き見した不届者を誅殺するべく、目もくらむほどの速さで空を駆けていた。
それに伴い、紅魔館では普段(レミリアにお願いされ)抑え込んでいる呪力も、今は自然と垂れ流しにしている。その影響を受けて、視界に映る一般妖怪たちがてんやわんやしているのが分かるが――――今の宿儺は、そんな雑魚共に用はない。
彼の目的はただ一つ。この幻想郷におけるパワーバランスの一角、『妖怪の山』だ。
(俺に術を使った者が誰であれ、どんな意図であれ……そんなモノは関係ない。今の俺には、不文律を無視して押し入るだけの“大義名分”がある。無論、やり過ぎればリスクになるが…………ケヒッ、折角の機会だ。現代の妖怪とやらを蹂躙してやるとしよう……!)
宿儺の監視が組織的な意向だったのか、それとも個人による暴走なのか。そもそも罠の可能性すら考えられたが、彼にとっては至極どうでも良い。組織が相手なら潰し、個人が相手なら殺し、それすらも罠ならば食い破る。
常にシンプルな行動指針によって動く――――ゆえに宿儺の足は衰えない。
宿儺が『妖怪の山』領空に侵入するまで、あと5分。
◇◇◇◇◇◇◇
現在、妖怪の山において哨戒任務を任せられている『白狼天狗部隊』は、阿鼻叫喚の地獄に陥っていた。
つい先日、上層部によって「
実際、その姿は未だ目視可能な範囲内には居ないものの、邪悪かつ強大なオーラが(どういう理由か)闘争本能を剥き出しにして近づいてくるのが感じ取れる。
もちろん、妖怪たちも愚かではない。確実な脅威の接近を前に、ただ指を咥えて待つような真似はしなかった。
既に河童や山童を代表とする温厚で戦闘能力に劣る妖怪や力の弱い神々は避難を始め、上層部は緊急で集結し会議を行なっている。守矢神社に対しても、鴉天狗の伝令が派遣されている筈だ。たった一つの問題を除けば、組織としては100点満点の初動だろう。
たった一つの問題――――それは避難を行うにせよ会議を進めるにせよ――――もう時間が全く残されていないという事実。
ゆえに何としてでも時間を稼ぐ、決死の先遣隊が配置されるのは当然で――――それに抜擢されたのが『白狼天狗部隊』だった。
急遽、部隊を率いる事になった仮隊長の犬走椛は、辺りを見渡し――青い顔を浮かべている同僚たちに暗澹たる感情を抱く。
(みんなの士気が低い……いや、それもそうだ。詳しい事情は知らないけれど、上層部がこれだけ警戒する相手……きっと生半可じゃ済まされない。それにこの邪悪な気配。姿が見えないほど遠くに居る筈なのに、さっきから全身の鳥肌が立ってしょうがない……)
本音を言えば、今すぐにでも逃げ出したい思いだった。しかし、部隊を率いる長として無様な姿は見せられない。何より、今必死になって避難している妖怪たちの中には椛の友人だって含まれている。
開発好きのポジティブオタクな河童少女、厄に塗れたアンラッキー
(だからこそ、ここで引くわけにはいかない……対話をして引き返して貰うのがベスト!仮に失敗したとしても、あの子達が逃げ切るまでの時間は絶対に稼いでみせる……!!)
犬走椛の瞳に熱い炎が宿る。
背筋をただして胸を張り、部隊の端まで声が届くよう大きく咆哮する。
「皆の者〜〜〜!!傾聴!!!」
この場に集まった白狼天狗たち、総勢200名の視線が集まるのを感じる。
普段であれば、これだけ大勢の前で話すという事に物怖じしてしまうかもしれないが――――緊迫した状況が椛に勇気を与えていた。
「これより数分後、我々は未知の仮想敵と接敵します……皆さんも既にお気付きのように、この任務は極めて危険度が高いです。ですが!ここで我々が逃げて、誰が妖怪の山を守ってくれるのでしょうか!ここで我々が怯えて、誰が弱き者たちを救えるのでしょうか!!我々は戦わなければならない!!!弱き者を守るため、そして何より我々の長がこの危機を乗り越える為の策を思いつくまでの時間を、我々が死力を尽くして稼ぐのです!!!
…………それに、まだ100%敵対すると決まった訳ではありません。まずは私が代表して一対一で宿儺と交渉をします。皆さんは交渉が決裂したもしもの場合に備えて、このまま後ろで待機していてください」
椛の激励を耳にした白狼天狗たちが雄叫びを挙げる。未だ顔色の悪い者たちも多いが、誰1人として怯えた様子の者は居ない。
士気が回復していくのを感じた椛は、心の中で安堵のため息を吐きつつ――事前に説明していた通りの陣形を作るように指示を出す。
右翼陣営50、左翼陣営50、そして中央に本隊となる100名を配置した――いわゆる『鶴翼の陣』に近しい形だ。これは敵が単騎であるという状況で、なおかつその巨大過ぎる気配ゆえに、攻めてくる方角があらかじめ分かっていたからこそ可能な選択だった。
また、この陣形を選んだのにはもう1つ――見た目で敵を威圧するという意図もあるのだが――その望みが薄いという事は、椛自身も理解していた。
椛はその陣形の中央から突出した、最前線にて来訪者を待ち構える。
徐々に宿儺の気配を近くに感じるようになっていくにつれ、自身の中で緊張感が増し、時間が圧縮されたような感覚を味わう。手汗により手に握りしめた剣と盾に違和感を感じ始めた頃合い――――山影から一人の男が現れた。
「…………来た!」
全身から溢れんばかりの
筋肉質で2mを越える体格、そしてそれに内包された圧倒的な力の密度に――犬走椛は彼我の戦力差を理解する。
(な……なんて途轍もないの……私たちみたいな妖怪が何千、何万と命を賭けたところで勝てるヴィジョンが見えない…………敵対するのは絶対に悪手!総力戦が始まれば、奇跡的に勝てたとしても間違いなく『山』は滅ぶ。まずは交渉、次に時間稼ぎ!何としてでも私の責務を果たさないと……)
宿儺との距離が10mほどまで近づいた時、椛は丁寧なお辞儀をして出迎える。
幸いにして、いきなり攻撃されるような事態にはならなかったが、未だ油断は出来ない。
「こんにちは。妖怪の山にて哨戒の任に就いております犬走椛と申します……両面宿儺様かとお見かけしますが……本日はどういった用件で?」
「ほぅ。俺を知っているのか?」
「はい……ですが、お名前以上の事は何も……」
意外とまともな会話が出来るという事実に、心の中のリトル椛が喜びの舞を踊り出す。
もしかすると「このまま衝突を避けられるのでは?」という淡い期待が、彼女の胸に生まれた。
「用件……用件と言ったな?それならば、貴様らの方にこそ心当たりがあるのではないか?」
「……え?」
「この先に俺へ無礼を働いた者が居てな。今日はその者を誅殺するべく、ここまで足を運んだのだ」
「え?……え?」
椛の脳内を、特大のクエスチョンマークが走り抜けていく。
そもそも妖怪の山の住人には、宿儺との接近禁止が言い渡されている上、彼が山へ侵入してきたという記録もない。これは日頃から哨戒の任に就き、千里眼という能力を持つ椛だからこそ間違いなく断言出来る。無礼を働くも何も、誰一人として彼に会った者は居ないだろう。
そこまで考えついた時、椛はある可能性に考えつく。
(もしかして、それこそが目的?……ありもしない難癖を付けて、私たち妖怪の蹂躙や略奪を試みている?……あり得る。これだけ邪悪な気配、それに彼自身も「誅殺」という言葉を使っていたし……とにかく、今は会話を続けないと)
「申し訳ありませんが、何かの間違いかと……我々の内でそういった行為をした者は居ないと断言出来ます。ですが……宿儺様のご懸念も十分に理解できます。つきましては、我々の代表者と後日話し合いの場を……」
「貴様らの見解などに興味はない。匿っているかどうかは知らんが……事実、この山に不届きものがいる。それを懲らしめるのに、わざわざ貴様らの許可が要るとは思えん…………で、時間稼ぎは済んだのか?」
「……ッ!!」
「俺が聞きたいのはただ一つ。『退くのか』『退かないのか』だ。邪魔をすれば潰す、そうでなければ見逃す……それ以上でもそれ以下でもない」
交渉決裂。しかもこれ以上の対話が望めないと分かり――椛は後頭部をバットで殴られたような感覚に陥る。
最悪の未来に一歩近づいた事を理解してしまい、止まらない目眩と吐き気を感じていたが――何とか自陣営の前までフラフラと飛んで戻った。
「椛ちゃん……それで交渉はどうなったのかしら?」
普段から仲良くしている白狼天狗の一人が椛に問いかける。
とはいえ、彼女自身も椛の様子から大体察しているのだろう――酷い顔色をしていた。ゆえに椛も包み隠す事なく、ゆっくりと顔を横に振る。瞬間、部隊にさざ波のように動揺が広がる。だが、それでも誰一人として逃げ出す者は居ない。
(みんな立派だ……本当は逃げ出したくて仕方ないだろうに。でも、どうする?ここで戦っても勝ち目はない……最悪、命を落とす者だって出るかもしれない……その判断を下すの?私が?)
全身に悪寒が走る。無意識のうちに呼吸が乱れ、動悸が激しくなるも――――沢山の手が椛を優しく包み込む。
いつの間にか白狼天狗たちが椛の周囲に集まり、皆が励ますように肩を叩いていく。
「ここで逃げる、だなんて言わないよな?」
「まぁ、逃げても後で罰を受けるだけだしね〜」
「私たちは椛ちゃんの指示に従うよ?でも、一人で抱え込まないで」
「みんな……」
暖かい言葉に、思わず視界が滲む。そんな小さな勇気の灯火は伝播していき――皆の心に大きな炎が宿る。
覚悟を決めた椛は顔を上げ、改めて宿儺の方を睨みつける。
(ここで私たちが屈すれば、今後『妖怪の山』は支配され、より苦渋を舐める事になる……!こっちの士気は高い……援軍が来るまで30分、いや40分は時間を稼いでみせる!!)
椛は右手に握りしめた剣を、天高く掲げた。
「絶対に一塊になって動くな!!攻めに固執せず、自らの命と時間を稼ぐことのみを意識しろ!!全隊、出撃ぃぃぃいーー!!!!」
うぉぉぉという地鳴りのような雄叫びを上げ、白狼天狗の軍勢が宿儺へ殺到する。
そんな刹那。椛は目撃する――――宿儺の口に浮かぶ、薄ら笑いを。
ぴちゃり。水音と共に生暖かい何かが椛の左頬に触れる。
気になった椛が左を向くと――そこには真っ赤な火花が咲いていた。身にまとった鎧ごと腹や腕を裂かれ、翼をもがれた天使のように、力を失い自然落下していく仲間たち。
開戦から僅か1秒と経たぬうちに、左翼陣営の約半数。20名余りの白狼天狗が切り裂かれた。
「……脆いな。撫でてやるつもりが一撃でこの体たらくとは…………まぁ、良い。しばらくすれば、質の良い兵も集まるだろう。食前酒といったところだな」
後悔という感情が胸に浮かぶ暇すら与えず――――鬼神による蹂躙が始まる。
ものの数分で全ての白狼天狗を仕留めた宿儺は、自らに着いた返り血を拭いつつ、冷静に状況を把握していた。
(あの椛とかいう天狗の反応を見るに、俺への嫌がらせに組織は関与していない?…………いや、早計だな。術式を使用した途端、また覗かれるような感覚があった。最悪、俺と妖怪の山の共倒れを狙った第三者の可能性も考慮しつつ――下手人の確保を優先するとしよう)
ふと、足元からうめき声が聞こえてくる。大地や森の木々を赤く染めながら、打ち捨てられたように横たわる白狼天狗たち。
宿儺によって、ギリギリ死なない程度に――ほとんど瀕死に近い重症を与えられた白狼天狗たちは、ある者は苦痛に叫び、またある者は恐怖のあまり号泣していた。
(“縛り”に抵触するリスクを避け、交渉材料にも使えるよう全て半殺しにしたが……しくじったな。案内役として一人は無傷で残しておくべきだったか。どれ、反転術式でとりあえず椛という女を治して……)
瞬間、宿儺の体表が大きな爆発に巻き込まれる。
爆煙の中、ダメージを反転術式で回復させた宿儺は――新たな刺客の登場に歓喜する。
(面白い……ダメージ自体は大したものでないが、攻撃が当たるまでこの俺が
爆煙が晴れ、宿儺の姿が露出する。
攻撃の正体を掴みたい宿儺は――――二撃目を誘う為、あえて大袈裟によろけたフリをする。
(音や気配は感じない……それどころか妖力の残穢すら無いか。ならば……)
今一度、自らの知覚に反応するものが無い事を確認した宿儺は、次なる策に打って出る。
祈るような形で手と手を組み合わせ、詠唱を始める。すると、肉体を覆うような形で――半透明の球体状の結界が構築された。
「
これを応用し、宿儺は敵の攻撃を看破しようとしていた。
瞬間、宿儺が展開していた
(一尺ほどの球体……速度はそこそこ……だが、霊力や妖力を帯びていないだと?……クハッ、なるほど。
飛翔体が宿儺の肌に触れた途端、先ほどと同様の爆発が生じる。
派手な爆音と爆煙に身を隠すようにしながら――入射角から当たりを付けた発射地点へと急行する。
(ふむ。一人……いや、二人だな。かなり遠くへ隠れていたか)
森の木々を切り裂きながら、宿儺は発射地点へと着地する。迷彩柄のシートが掛けられただけの、杜撰な隠蔽工作が仕掛けられていたそこには――涙を浮かべながらブルブルと震える一人の河童少女と、頭を抱えながらうずくまる一人の小神が居た。
そして、その傍に――もはや言い逃れの余地もない――最新鋭の
「ひゅ、ひゅぃぃいいい!!!み、みつかったぁ……もうダメだぁ、おしまいだぁ…………い、いや!コイツは盟友の仇!さ、刺し違えても倒してや……やっぱ無理だ!怖過ぎる!!」
「あぁ……私の人生はここで終わってしまうんですね……思い返せば厄に塗れた人生でした…………というか、こうなったのは『椛を助けよう!』とか言い出したにとりさんの所為では?砲台を用意したのもにとりさんですし……よし、全ての責任はにとりさんにあるという事で、私は今からでも避難しますか」
「ちょ、ちょっと雛!何一人で逃げようとしてるのさ!あんただって、さっき『これ、蝿に豆鉄砲当てる遊びみたいで楽しいわね……』とか言ってた癖に!!」
「やめろぉ!ただでさえ厄の多い私に、これ以上厄を押し付けようとするのをやめろぉ!」
宿儺が声を掛けるよりも早く、新たな刺客たちが殴り合いの喧嘩を始める。
新たな刺客の登場に、少なからず胸を躍らせていた宿儺は、急激に冷や水を浴びせられたような気分に陥ったものの――とりあえず固定砲台に手で触れながら『捌』を発動し、粉々に破壊する。
「うわぁぁぁああ!!!私の『カッパ式光学迷彩砲台ちゃんMark 2』がぁぁぁぁ!!!」
哀れな河童の悲鳴が、妖怪の山に響き渡った。
◇◇◇◇◇◇◇
一方そのころ、『妖怪の山』某所の姫海棠はたて宅では…………
「よっしゃーー!!!なんか分からんが、また能力が使えるようになったぞー!!我慢比べはアタシの勝ちだー!!酒だ、酒を持ってくるのじゃー!」
あまりにも友人が少な過ぎるがゆえに、避難勧告や招集命令すらスルーされたはたてが、たった一人状況を知らないまま私室で
夏やでぇ
心安らかなり
ひとくち裏話
五条が渋谷事変で術式使わずに1000体の棒立ち改造人間を5分で倒したので、まぁ下っ端の妖怪ならこのくらいかなという描写でした。
それと本作では、妖怪は反転術式を食らっても消滅しません。ただ、幽霊・怨霊・呪霊などには有効です。