仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 友人が水道水に塩入れて飲んでました。怖いです……




第十二話 メメント・妖怪の山!

 

 

「「ごのだびは、まごどに申し訳ございませんでじた……」」

 

 宿儺からの折檻(拳)を受けた事で、顔面を元の倍程度に腫れ上がらせた少女――鍵山雛と河城にとりが土下座しながら謝罪する。

 一見すると女児に暴力を振るうDVクソ野郎にも見えたが――平安時代の呪術師や両面宿儺を知る者たちからすれば、それがいかに温情に溢れた措置か分かるだろう。

 

 対面する宿儺は不服そうな感情を隠そうともせず、冷静に説教を続けていた。

 

「貴様らに妖怪としてのプライドは無いのか?……この俺に立ち向かうだけの気概がありながら、よもや戦うまでもなく降参するとは……」

 

「そ、それは……椛が……椛が私の大切な盟友だから……」

 

「チッ…………あの女は殺しておらん。というより、先の白狼天狗の中で命を落とした者はいない(恐らくはな)」

 

「えっ!」

 

 

 

 驚きのあまり、バッと顔を上げるにとり。僅かな逡巡の後、その相貌が安堵で歪み――目元に涙を浮かべて喜ぶ。

 隣に座っている雛も雛で、無表情を貫こうとしているのだろうが心なしか表情が和らいでいる。

 

「よ、良かったぁ〜」

 

 敵の言葉を鵜呑みにして、急に気を抜き出したにとり達に思う所はあったが――面倒な予感を感じたため――宿儺はその言葉を飲み込む。

 彼女らをあえて軽傷で済ませたのは、白狼天狗に代わって情報を聞き出すためであり、ここで話が拗れたりヘソを曲げられて困るのは宿儺の方だからだ。

 

 

「……俺の質問に素直に答えるのであれば、ここで見逃してやる。その後は、友人の手当てでも好きにしてやるといい」

 

「ほ、本当?何でも答えるよ!ねっ、雛もそうだよね!」

 

「なんか逆に都合が良過ぎて……これ死亡フラグじゃね?厄いわ……」

 

「こ、こら!今は余計な事言わないで……それで聞きたい事って?一体何なのさ?」

 

 

 どちらかと言えば雛の意見に同意したい宿儺だったが、黙って頷くと懐から幻想郷縁起を取り出し、質問へとうつる。

 

 

「まずは、この妖怪の山の地理について教えてもらおう。俺が読んだ縁起――図書館に置いてあった物は、途中が何編か抜け落ちていたうえ、肝心の内容も眉唾な部分が多かったからな」

 

「地理が知りたいのかい?別に良いけど……その情報を使って、この山を侵略したりしないよね?」

 

「俺は領土も奴隷もいらん…………そこまで気になるなら、『縛り』を結んでやっても良い」

 

 そこまで聞いてやっと安心したのか、やがてポツリポツリとこの山の地理について話始める。

 二人の情報を元に脳内で簡単な地図を描きながら、それを記憶していく。

 

 

 

(なるほど……山の頂には天魔と位の高い天狗達の居城があるのか。中腹地点には守矢神社、麓の大裂け目には旧地獄へと通じる入り口か……概ね理解できた)

 

 

 途中から勝手に盛り上がり始めた二人が、地元の隠れた隠れた名店や野菜が安く買える露天商、絶景を拝めるオススメのデートスポットまで(聞かれてもいないのに)紹介し始めたので、宿儺は取り敢えず待ったをかける。

 そして、いよいよ本命の質問を切り出す。

 

「最後の質問だ。この山に『念写』の能力を使える者は居るか?」

 

 

 瞬間、饒舌に話していたにとりと雛の表情がサッと青褪める。

 即座に取り繕おうとして、にとりが弁明をし始めるが――めざとい宿儺は見逃さない。

 

 

(……コイツらの知り合いだったか。この程度の下っ端に能力を知られているとなると――――先ほどの椛の反応と合わせて鑑みるに、恐らくは『バカの個人的な暴走』と見て間違いないな。はぁ……つまらん)

 

 

「えぇと……どうだろ〜なぁ〜。う〜ん、そんな能力の奴なんて知ってたり……知らなかったり……」

 

「はぁ……もう良い。大体分かった」

 

 尚も見苦しい言い訳を続けようとするにとりを黙らせる。

 もはや宿儺にとって、件の覗き魔に対する興味は失せていた。どちらかと言えばそれをダシにして、どれだけの妖怪の山の強者を相手に、合法的に闘り合えるかが重要だった。

 

 

(取り敢えずは山頂を目指すとしよう。道中、俺を邪魔する奴を()()()()()したとして……しばらくすれば、俺への本格的な征伐隊が組まれるはずだ……まぁ多少蹴散らそうが、落とし所は見つかるだろう)

 

(……ここの連中を相手に、日頃の憂さ晴らしをしながら、ある程度()()()()()連中が出てくるまで待つ。覗き魔を差し出させる為の交渉は、その後に行えばいい)

 

 

 今後の方針が固まった宿儺は、幻想郷縁起を懐にしまう。やがて後ろを振り返りながら――遙か遠くの山頂へと視線を向ける。

 標高にしておよそ4000m近くはあるだろうこの山は、山道や山小屋などのインフラがほとんど整備されていない。ゆえに、常人であれば――仮に妖怪が居なくとも――登頂は困難を極めるのだろうが、飛行能力を持つ強者からすれば景観の良いハイキングに過ぎず、どうしても緊張感といったものが湧いてこない。

 

(夕餉までには紅魔館に戻れるな……)

 

 くだらない事を考えていると、すぐ近くから視線を感じる。正座をしたにとりと雛が、こちらを不安そうに眺めていた。

 恐らくは、知り合いが殺される事を危惧しての事だろうが――――実際、宿儺が有害であると判断した場合において、躊躇なく殺す算段ではあるのだが――――横槍を入れられても迷惑なので、軽くフォローを入れる。

 

「……殺すと決まった訳ではない。まずは話を聞く程度のことはしてやる……それが俺の最大限の譲歩だ」

 

 それだけ言い残すと、宿儺は再び“空”を踏みしめながら山頂を目指して駆けていく。

 

 

 

 

 

 

「ひゅい。とんでもなく怖い奴だったけど……案外こっちの話もちゃんと聞いてくれるんだな……」

 

「えぇ、そうね。見た目と雰囲気からして、人語すら話せずに妖怪を食べてそうなイメージだったけど……人は見かけによらないのね」

 

 緊張が緩和され、お互いの腫れ上がった顔を見合わせながら――にとりと雛は軽口を叩き合う。

 「鬼の居ぬ間になんとやら」。到底本人には聞かせられぬ内容だったが、平均的な幻想郷の住人として、相応の図太さを持ち合わせている彼女らにとって大した事ではない。

 やがて何かを思い出したかのように、雛が大きく「あ!」という声を上げる。

 

「うん?どうしたんだい、盟友?」

 

「いや、彼に忠告するのを忘れちゃって……ほら私って一応、厄神でしょ?だから……

 

 

 

私と会った日は『厄日』になりやすいってね」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 守矢神社への伝令を終えた鴉天狗――射命丸文は、遙か上空から宿儺によって打ち捨てられた白狼天狗部隊を眺めていた。

 

「あやや、だから言わんこっちゃ無いですねぇ。まぁ、あの子達はあれが役目なんで、仕方がないと言ったらそれまでなんですが……」

 

 どこか他人事で、同胞の犠牲を何とも思っていない――超然的で慇懃無礼を絵に描いたような黒髪の美少女が、中空で腕を組みながら唸り声を上げる。

 

「一応、上司から与えられた仕事は終えたので、避難するも働くも自由なんですが……う〜ん。悩みますねぇ」

 

 まるで真剣味を感じない、心にもない軽薄な言葉遣いではあるものの、文の内心は穏やかではない。

 見かけに寄らず数千年の時を生きてきた大妖怪――射命丸文は1000年前に一度、宿儺との邂逅を果たしていた。それは宿儺からしてみれば記憶の隅にすら残らない取るに足らないものであり、文にしてみれば今なお心を蝕み続けるトラウマでもあった。

 

「あの当時と同じまま……正直、もう2度と会うことなんてないと思っていましたよ」

 

 独白のようにポツリと告げられた言葉が、誰に聞かれるでもなく、風に呑まれて消えていく。

 しばし、センシティブな感情に陥るものの――頭を振って邪念を追い払い、今考えるべき問題に焦点を当てる。

 

 

(さて、逃げるか立ち向かうかですが……ここは“逃げ一択”ですね。私のスピードなら、たとえあの両面宿儺が相手でも逃げ切れる自信がありますし……何より「巨悪に立ち向かう〜」だなんてのは私のキャラに合ってませんので。ええ、そういうのは誌面でやれば良いのです)

 

(そもそも、闘うにしたって自力が違いますし…………じきに大天狗衆や諏訪子様や神奈子様、果ては天魔様まで動くとなれば…………あやや!考えれば考えるほど、私が闘う理由がありませんねぇ!……さて。そうと決まれば、事態が落ち着くまで博麗神社にでも避難しますか)

 

 真っ黒な大きな翼をはためかせ、愛しの故郷から踵を返そうとした瞬間――豆粒のような小ささの――見知った顔を地上に見つける。

 

 片腕を欠損し、左肩から胸にかけて大きな裂傷を負った一人の白狼天狗の少女。身体中を血で濡らした少女は、ただ一人涙を流していた。

 責任感があり、正義感も強い彼女はどちらかと言えば文とは対極的で。だからという訳でもないが、文は彼女と会う度、尻尾を掴むなどのダル絡みをしたり、パワハラもどきの命令を遊び半分で出していた。きっと彼女は文に苦手意識を持っていただろう。だが、文はそんな彼女を――不器用ではあるが――1人の後輩として確かに可愛がっていた。

 

 現につい先ほどまで――文に対して、緊急時とはいえ仮隊長に指名された事を誇らしげに話していた。

 

 その後輩が今、泣いている。

 それは痛みに耐えられないからではなく、恐怖に怯えている訳でもない。己の無力を呪いながら、悔しさに涙を流していた。

 

 自分の中の理性が「この闘いは無意味だ」と囁く。しかし、それ以上に。自分の魂が、うるさいほどに叫んでいる。

 

 

 

――――「闘え、決して奴を野放しにしてはならない」と。

 

 

 

 どの程度の時間、その場に立ち尽くしていたのかは分からない。

 しかし気付けば、文の周囲には数多くの天狗たちが集まっていた。鼻高天狗に山伏天狗、文と同じ鴉天狗まで。日頃、生活していく中でよく顔を合わせる仲間であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 普段は、個人主義で飄々とした性格から馴れ合いを好まない天狗達が――――烈火の如く怒りを携え、皆心を一つにしながら――――傷付いた同胞を見下ろしている。

 

 人を1人傷付けるという行為は、すなわちその人を愛する者も傷付ける行為である。

 そして、それらが積み重なる事で――――獅子奮迅(ししふんじん)の如き苛烈な憎しみを作り上げ――――『呪い』が生まれる。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「ふん、つまらんな」

 

 冷たく言い捨てると、持っていた肉の塊――宿儺に対して突っかかってきた野良妖怪の身体を投げ捨てる。

 山頂を目指していくまでの道中、ほとんどの妖怪が宿儺の気配を恐れて避難か逃走を選んだ。しかしながら、一部の縄張り意識が強い妖怪や好戦的な妖怪、あるいは宿儺の強さに魅せられた妖怪は逃げずに彼へ挑んできた。

 その数は意外にも多く、白狼天狗部隊を退けてから――――たった今倒した山姥を含めて、50を上回る妖怪達が宿儺の前に立ちはばかり、そして散っていった。

 

 

「気骨ある妖怪が多いのは構わんが……いかんせん弱過ぎる。弱いのであれば、せめて徒党を組むか知恵を使えば良いものを……」

 

 ただの作業となりつつあった戦闘に若干嫌気を感じつつも――それでも久々に感じる“自由”を宿儺は謳歌していた。

 

「まぁ良い……大天狗どもが表に出て来るまでの辛抱だな」

 

 気を取り直し、再び空を駆けようと顔を見上げた瞬間――唐突に風が凪いだ。

 それは自然な環境変化では決して起こり得ない、極めて不自然かつ不気味なものであり――もし仮に凡人がこの場に居たのであれば、不安に苛まれ、恐怖に慄いていただろう。

 風の怒り、大自然の憎しみとも形容されるような異常現象に晒されながら――宿儺は笑みを浮かべていた。

 

 やがて彼の目の前に、数にして30ほどの様々な天狗が並び立つ。

 宿儺を前にしてこの数の戦力というのは、もはや心許ないと言う他、あり得ないだろう。しかし、そのどれもが()()()()()()()()()()()の強さはあり、中でも数人は確実に大妖怪レベルに足を踏み入れているのが感じ取れる。

 個としての強さは、先に倒した白狼天狗たちとは確実に一線を期しており――その脅威は比較にもならない。

 

 

「あやや〜、これはこれは。申し訳ありませんねぇ。此処から先は侵入禁止になっていまして……もし今から山を降りられるのでしたら、麓まで私が案内するんですが……いかがしますか?」

 

 丁寧な口調、人好きのする表情をした黒髪の美少女が、宿儺に対してそう持ちかける。

 しかしながら、彼女のそういった態度とは裏腹に――彼女の妖力は「絶対に逃してなるものか」と、怒りに満ちていた。否、彼女だけではない。

 

――――この場にいる全ての天狗が、宿儺に対して憎悪と憤怒を向けているのが分かる。

 

 

 太古より山の中で『風の神の怒り』を買った侵入者は非業の死を遂げてきた。

 しかし、宿儺は――その怒りに、敵意に歓喜していた。

 

「ハハッ、良いぞ。そう来なくてはな!」

 

 四つの腕を広げ、彼らを挑発する。

 

「さて、誰からでも構わん。好きにかかって来るといい」

 

 

 妖怪の山にて、風神たちと呪いの王が衝突する。

 

 

 

 





 
 旅行行きたい……

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