仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 久々の投稿になってしまい、申し訳ありませぬ。
 推し(宿儺)の死によってモチベ下がってたんですが、死滅回遊アニメとモジュロで復活しました。

 



第十五話 鬼神を見た

 

 

 人外魔鏡による楽園、妖怪の山。

 そんな山の急峻な斜面を登りつめた中腹地点に、守矢神社は存在している。

 

 山の息吹そのものが宿るような古い杉の巨木が、境内を囲むように立ち並び、根元には苔が厚く堆積している。空を覆う枝葉は陽光を濾し、境内はまるで時間が止まったかのような、そんな静寂に支配されていた。

 本殿は非常に簡素で、伝統的なつくりをしていたが――不思議とどこか異界特有の気配を纏っている。檜皮葺きで出来た屋根は、ところどころに新しい葺き替えの跡が見えるものの、全体として古の息吹を色濃く残していた。

 

 ここは人の世と妖の世の狭間。太古の日本を思い起こさせる、静謐とした信仰の場所。

 

 普段はこの神社を信仰する多くの妖怪や、一部の人里の人間によって、静けさの中にも小さな活気が見られるが――――今日の守矢神社は()()()()()()()()独特の雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 守矢神社 本殿

 

 

 床に並べられた5つの座布団の上に、幻想郷屈指の実力者たちが膝を並べて向かい合っていた。

 小柄で愛くるしい見た目からは想像できないが、この守矢神社の真の祭神でもあり――日本で最も恐れられる祟り神の1人、『土着神の頂点』洩矢諏訪子。そして、ふわりとした紫髪と真っ赤なドレスを羽織った、グラマラスで勝ち気な女性――同じく守矢神社で祀られる祭神の一柱『山坂と湖の権化』八坂神奈子。

 向かいに座るのは、天狗社会のヒエラルキーにおいて(天魔を除いて)トップに君臨する大天狗――『鴉天狗の大将』飯綱丸龍が天魔の名代として参加している。

 

 しかし、そんな“幻想郷屈指の有力者”たちが霞んで見えてしまうのは、現在――――

 

 

 

 

「……おい、なぜ貴様がここに居る。八雲紫、よもや俺に殺されに来たか?」

 

「ふふふ……挑発には乗らないわ。いくら貴方が強かろうと、私との『縛り』がある以上、好き勝手はできないでしょ?まるでケージの中で吠えるチワワちゃんみたいね…………ちょっと……少し言い過ぎたのは謝るから、そんな怖い顔しないでよ」

 

 

 表情筋だけで人を殺しかねない様子の宿儺に――部外者ではあるが――少しでも場を和ませようと考えた神奈子は、小さく咳き込んでから口火を切る。

 

 

「こほん!……にしても、これがあの噂に名高い両面宿儺ねぇ。1時間と経ってやしないのに、山の若いの(ウチ)を300人近くノシちまうとは……『史上最強の人間』って肩書きは伊達じゃないみたいだね」

 

「ほんとほんと〜。神奈子とのんびりお昼寝してたら、とんでもない邪気を感じて……何が起きたのかと思ったら、文に『宿儺が復活してこっちに向かってる』って警告されてね〜。まぁ、まさかその少し後に、文の方が死にかけるとは思わなかったけど……ふふ、禍福無門……だね」

 

「……私たち天狗もかなり肝を冷やしましたよ。一応、不確かではありますが“宿儺復活”の可能性を知っていた我々ですら、その矛先がこちらに向かってくるとは思いませんでしたし。いえ、事の発端は我々にあるのですが……」

 

 

 

 神奈子を皮切りに、口々に話し始める“現代における”妖怪の山の代表たち。

 ようやく紫から視線を外した宿儺は、右手で眉間に集まった皺をほぐし――徐々にいつもの憮然とした表情に戻っていく。

 

 

「飯綱丸と言ったな?その話ぶり、俺が妖怪の山に立ち入った動機を掴んでいると見えるが?」

 

「えぇ。あなたが入山した直後、白狼天狗の犬走椛と話していた内容は、妖術によって上層部に共有されています。その情報を元に調査した結果、今回の全貌が明らかになりました…………あなたが侵攻の際に『逃げる者は追わず・妖怪の殺害を目的としていなかった』点からも、私は裏付けが取れたと思っています」

 

「話が早いのは良いが、こうも簡単に手打ちとなるのはつまらんな……久方ぶりの現世だ。もっと妖怪(貴様ら)と闘り合いたかったのだがな」

 

「……お戯れを」

 

 

 苦笑いを浮かべた飯綱丸が、恐らく本音で言っているであろう宿儺から視線を逸らす。

 

 先ほど、この神社の巫女である早苗(さなえ)が淹れてきたお茶に手を伸ばしつつ、段々とこの場の空気が和んでいくのを感じ取ったのか――お茶菓子を口いっぱいに頬張った諏訪子が、飯綱丸に対して疑問を投げかける。

 

 

「それで“例の下手人さん”はどうなるの〜?今はウチの早苗が見張ってるけど、さっきまで『死にたくないー!殺すなら最後に酒を飲ませてくれー!』って泣き喚いてたよ?」

 

「はたては……いえ、あの鴉天狗(バカ)は宿儺様さえよろしければ、こちらで厳重な処分を下そうと思っているのですが……」

 

「構わん。もはや興も冷めたしな…………それに妖怪の山(ここ)での一幕は、それなりに良い暇潰しになった。二度と俺を覗き見ないと誓うのであれば、あの程度の下奴に固執する理由もない」

 

「……ありがとうございます。今回の一件、怪我人は多数出ましたが死者はいませんので……流石に殺すのはどうかと私も思っていました。とはいえ、はたてにはしっかりと地獄を見てもらう予定ですが……」

 

 

 ふっふっふっ……と悪意に満ちた笑みを浮かべる飯綱丸(苦労人)。その様子から下手人が迎えるであろう最悪な未来を幻視し、心の中で哀悼の意を捧げながら合唱した神奈子は――――宿儺に対して、自身が抱いていたイメージとのギャップを口にする。

 

 

「にしても宿儺(あんた)ってば、意外に落とし所の分かる男だねぇ。私のイメージじゃ『逆らう者は皆殺しだ〜』って感じで、妖怪の山と徹底抗戦するんじゃないかと冷や冷やしてたよ」

 

「……俺をどこぞの蛮族だとでも思っていたのか?不快なり邪魔であるなりすれば殺すが…………あえて殺して回る真似はせん。それに、今は『完全に自由の身』という訳でもないからな」

 

「なるほどねぇ……で、その『()()()()』っていうのに、紫が絡んでると私は見てるんだけど?」

 

 

 神奈子は、宿儺に向けていた顔を一旦背けると――疑いの色を帯びた、検察官のように鋭い視線で“境界の妖怪”を射抜く。

 

 

「あら、中々鋭いわね神奈子?そう……宿儺と私は現在、個人的な縛りを結んでいてね……それが原因で彼の行動は一部制限されているの」

 

「そりゃあね…………私らが宿儺と交渉しようと出向いた矢先、普段はめったに姿を見せないハズのあんたが、突然目の前に現れたんだ。さっきのやり取りといい、“何かある”って思うのは当然だろう?」

 

 

 八雲紫と八坂神奈子の間に剣呑とした空気が流れ始める。

 そんな2人の様子に、面倒事の予感を感じ取った宿儺は――その場を立ち上がり、紫たちに背を向けた。

 

 

「話は済んだか?用が無ければ俺は帰る。今後、もし話がしたいのであれば……次からは紅魔館に使者を送れ」

 

「?……紅魔館?宿儺様は現在、紅魔館に滞在されているのですか?」

 

「滞在もなにも……当主レミリア・スカーレットと俺は同盟関係にある」

 

「「「!!!」」」

 

 

 紫を除いた3人が大きく目を見開き、宿儺を凝視した。

 誰かと馴れ合っているイメージの沸かない宿儺が、同盟を結んでいたということも驚きだが――――その事実は、幻想郷のパワーバランスを大きく変えうることを意味していた。

 

 額に汗を滲ませた飯綱丸がゴクリと唾を飲み込み――その話題に対して、大きく切り込む。

 

 

「……宿儺様。それは我々“妖怪の山”や“天狗衆”とも同盟を組む可能性がある……と捉えてよろしいのでしょうか?」

 

「おい、龍!お前勝手に……!大体、今日のお前は天魔の名代だろう?そこまで決める権限はないハズだ……!」

 

「神奈子様……本日、私は天魔様より“宿儺との健全な関係構築”を命令として賜っております。現場判断ではありますが、あくまで命令の範疇です」

 

「勝手に話を進めるな……大天狗の女。俺はあくまでレミリアと個人的な協力関係を持っただけだ…………有象無象相手に、徒党を組む気はない」

 

「…………左様でございましたか」

 

 

 やり取りを終えた宿儺が「全く……今日は()()()()」と呟きながら、今度こそ後ろを向いて去っていく。

 特に呼び止める理由もない神奈子たちは、目線のみで宿儺のことを見送っていると――今度は八雲紫がおもむろに立ち上がった。

 

 

「どうやら上手いこと話もまとまったみたいだし、これで私もお暇するわね。今回の一件、鴉天狗たちにも良い薬になったでしょう…………外の世界だと『ぷらいばしー』ってのは結構、大事にされてるのよ?…………特に宿儺みたいな、目に見えた虎の尾を踏む真似をしてこの程度で済んだのは幸運だったわ」

 

「ちょっと待ちなよ、紫〜〜…………私らは今になって宿儺を黄泉がえらせた理由とか、宿儺との間にどんな縛りを結んだのかとか、聞きたいことが沢山あるんだけど〜?まだお茶菓子も残ってるんだし、もう少し()()()()()()気はないのかな?」

 

「残念だけど、諏訪子。ここで全てを話す気はないわ。そうね……時期が来たら“全て”を教えると約束するわ」

 

「相変わらず食えない女だね〜」

 

 

 胡散臭い微笑を浮かべた紫が、諏訪子の皮肉に笑みを返すと――その場で()()()を開き、守矢神社の本殿から忽然と姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 その後、残された神奈子と諏訪子と飯綱丸で、今回の一件に対する大まかな事後処理の方針を決めた後――表に放置されていた下手人を抱えて、飯綱丸が飛び去っていく。

 やがて飯綱丸の後ろ姿が米粒程度の大きさになった時、八坂神奈子は隣に立つ友人にポツリと本音で問いかける。

 

 

「ねぇ、諏訪子。もし本気で妖怪の山(ウチら)と宿儺が闘り合ったとしたら……あんたはどうなってたと思う?」

 

「…………そうだねぇ。ま、実際にやってみないと分からないけど……山に棲む有力な妖怪たちと大天狗衆に天魔、そして私と神奈子でかかれば……流石に勝率は私らの方が高いと思うよ?」

 

「そうかい……ただ、それで終わりじゃないだろ?」

 

「うん。低いとはいえ私たちが負ける可能性だってあるし、何より()()()()()()()()。大幅に戦力を失った妖怪の山(わたしたち)は、単独では存在していけないだろう。良くて戦後の内ゲバによる全滅…………最悪は力を失った私たちが、他の勢力に目を付けられ侵略されて――奴隷同然の地位まで落ちることだってあり得るよ」

 

「なるほど……そりゃ世知辛いねぇ」

 

「まぁ〜いつの時代もそんなもんだよ〜……諸行無常、だね」

 

 

 あっけらかんとした諏訪子の物言いに、神奈子は思わず心から笑い声を上げる。

 ひとしきり笑った後、笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を指で拭った神奈子は――猛禽類を思わせる獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「とはいえ、ウチらも黙ってやられる訳にはいかないよ…………何より、あの女(八雲紫)が自らの手で創り上げた幻想郷に、1000年かけてまで宿儺を黄泉がえらせたんだ。“ただ破滅をもたらす”のが目的じゃないのは明らか!縛りの内容も気になるけど…………はっはっはっ!中々面白くなってきたじゃないか!!!」

 

 

 両腕を大きく広げた神奈子は、天を仰ぎ、声を張り上げ宣言する。

 

 

「さぁ、祭りだ!!たとえ誰が来ようと、この山を揺るがせはしない!この我ら守矢の、新たな信仰の礎としてやろうぞ!!」

 

 

 

 妖怪の山に、風雨と山を司りし神の力強い笑い声がこだまする。太古の日本を生き抜いてきた神として、絶対的な威信を滲ませる神奈子は――これから幻想郷で巻き起こる波乱を想起し――その興奮から瞳は喜色に溢れ、頬は紅潮していた。

 

 かくして、後の世で『妖怪の山事変』とも呼ばれる、300名近くの妖怪が犠牲となった騒動は終結を迎えた。

 

 

 

 

 

 






 神奈子すき
 ちなみに、この世界の幻想郷において“現”妖怪の山最強は諏訪子です。
 次は年明け、1月2日の更新です。みなさん良いお年を!



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