仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 カリヤン、エエヤン、ハンマーカンマー





第二十二話 グリーン・インフェルノ 其の三

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 もし仮に、そんなことを口にする者が居れば…………その人物は幻想郷において狂人扱いされるだろう。

 

 

 風見幽香の『強さ』と『恐ろしさ』とは、もはや絶対的な事実であり、是非を語るまでもない。

 

 

 

 

 しかし、この言葉には“あながち()ではない”部分が一点だけ存在する。

 

 

 それは遥か過去において、風見幽香が『()()()()()()()()()()()()()()()()()』ということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今より太古の大昔。人類が拙いながらも、文明を築き始めてまだ間もない時代において……大地にひっそりと咲いた一輪の花があった。

 

 その花は本来、数週間で枯れてしまう運命にありながら、数ヶ月・数年と経過しても不思議と咲き続けていた。

 季節の移り変わりや災害に巻き込まれても、人と妖怪の争いに巻き込まれ返り血を浴びることがあっても、その花は変わらず咲き続け――その地に根を張っていた。

 

 やがて50年もの月日が流れた頃――――その花に異変が起きる。

 

 

 

 

 

 人里から遠く離れた小高い丘に、白い肌の少女が1人で立っていた。本来なら、その地に咲いていたはずの『決して枯れない花』は姿形もなく、まるで初めからこの世界に存在していないようだった。

 彼女は吹き抜ける風に髪を揺らしながら、自らの視線の先に枯れかけた向日葵の花を見つける。

 

 

「どウして……こんなにも綺麗なのに、すぐ枯れてしまうの?」

 

 

 慈愛と哀愁の籠った一言が風に溶けて無くなっていく。名前はおろか、存在すらあやふやな彼女こそ――――後の世で「風見幽香」として恐れられる大妖怪の始まりだった。

 劇的な生い立ちなど何もない。ただその地に強く根付き、大地から生き物の感情や恐怖を吸い上げ、妖怪に変異しただけの一輪の花。

 

 鬼や天狗・吸血鬼などといった――――生まれながらに優れた妖怪と比べてしまえば、取るに足らない一般的なただの雑魚妖怪。吹けば飛ぶような塵芥に等しい存在だった。

 

 

 

 

 

 しかし、わずか数百年もしないうちに彼女は――――もはや“ただの妖怪”とは一線を画すほどの()()と呼ばれるようになる。

 

 鬼に匹敵するほどの膂力、大天狗を上回る妖力、そして蓄積された植生学に関する圧倒的な知識量と戦闘技術。

 これら全てを“()()”によって()()()()手に入れた彼女は――――宿儺が生まれる1000年前には既に、並み居る大妖怪たちを差し置いて、全妖怪のトップ層に名を連ねるまでに至っていた。

 

 

 才能を持たずに生まれた彼女の、唯一の才能。それは“貪欲さ”だった。

 

 成長に対する貪欲さ、強さに対する貪欲さ、知識に対する貪欲さ、自らの「花を操る程度の能力」の“可能性”に対する貪欲さが彼女を大きく成長させた。

 努力による“生まれ持った才能”の凌駕……より具体的に言えば、出自において圧倒的に優れるフランドール・スカーレットでさえ、風見幽香と十回戦って一度でも勝つのは困難を極めるだろう。

 

 

 そして、それは1000年が経過した現代においても変わらない。否、むしろ宿儺と出会ったことで、彼女の鋭さにはより磨きがかかっていた。

 

 妖怪の本拠地が幻想郷へ移転し、多くの怪異が本気の殺し合いから遠ざかり、名のある大妖怪ですら(大半が)丸くなった現代において、彼女は“ある異名”を持って呼ばれている。

 

 

――――現存する数少ない“現役の大妖怪”

 

 

 現在、妖怪の山は彼女に対して(宿儺と同様に)絶対不可触(アンタッチャブル)へと指定している。

 もはや現代において、彼女を単独で討ち倒せる妖怪など――山の四天王と八雲紫を除けば――ほぼ存在しないだろう。互角の実力を持つ者でさえ、八雲藍以外に思い当たる節がない。

 

 

 まさに彼女こそ、幻想郷を生きる『厄災』そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、宿儺。私とアナタの戦績について……覚えテるかしら?」

 

 

 

 宿儺と幽香を中心に、数百を越える()()()()が草原一面に咲き誇る。しかし、その異様な光景に2人は一切動じる気配を見せない。

 

 

「戦績か……気にしたことはないな。だが、負けた覚えもない」

 

「ウフフフフ…………アナタはそうでしょうね。19戦19敗、これが私たちの戦績よ」

 

「そうか。20回目の敗北を味わうため、わざわざ俺の元を訪ねて来るとは……酔狂なものだな」

 

 

 ニヤリとした嘲笑を浮かべた宿儺。その表情には、自らより()の存在である幽香へ向けた侮蔑の意思だけでなく、どこか親しみを帯びた感情も混ざっていた。

 

 

「ハヒッ、ヒヒッ……この()に、そんな口の利き方をするなんて……今の時代じゃあ、アナタだけよ。退屈になっタものだわ」

 

「で、戦績について何が言いたい?よもや1000年経って、この俺に勝つ自信でも付いたのか?」

 

「まさか。そこまで自惚れちゃいないワよ……ただ、この戦いには1()()……私が個人的に“目標”を設定してるのよ」

 

「ほぅ……」

 

 

 先ほどの嘲笑とは打って変わって、宿儺の表情にありありと好奇心の色が浮かぶ。彼女の口にした“目標”が、どうにも気になった宿儺は――顎を軽く突き出しながら話の続きを催促した。

 

 

「アナタは…………過去19回の戦いで一度も“領域”を使わなかった。私が使()()()()()()()()状況まで追い詰めることが出来なかっタ……」

 

「…………別に俺が領域を使わなかった理由など、ただの気まぐれだ。貴様以下の相手に見せることもある。だが……追い詰められたことがないのは、まぁ事実だな」

 

「そウでしょ?だから……『私はこの戦いにおいて、宿儺(アナタ)に領域を使わせるまで追い詰める』。それが私の“目標”よ」

 

 

 

 瞬間、宿儺の身に纏う雰囲気が一変する。

 外野から見れば、彼女の発言は何の問題もない――――少なくとも宿儺を挑発する意図のない、ごく普通の宣言に思えただろう。しかしながら、2人にとって“この宣言”は全く異なる意味合いを持つ。それは……

 

 

――――『現在の風見幽香は、領域を除いた両面宿儺を上回る実力を持つ』――――

 

 

 領域無しの宿儺を追い詰める、という言葉には当然“この意味”が含まれる。

 そしてそれは…………宿儺の闘志を、一瞬にして燃え上がらせるには十分な燃料だった。

 

 

 

「ククッ、クククッ……ハハハハハッ!言ってくれたなぁ!風見幽香!!さては1000年もの間、無駄に生きたせいで血迷ったのではあるまいな……!」

 

「フフッ、ウフフフッ……いいえ。私は()()()。私は今日、アナタに領域を使わせるわ」

 

「良いだろう……魅せてみろ。『解』」

 

 

 

 不可視の斬撃が、風見幽香の身体を引き裂かんと瞬時に飛来する。

 その予備動作の少なさとスピードから、事実上は不可視にして不可避。必中に等しい宿儺の斬撃が、そのまま幽香へと命中しようとして……()()()()()

 

 先ほどまで幽香が居た場所からは、忽然とその姿が消えており――――いつの間にか宿儺の背後へと周り込んだ彼女が、横殴りに日傘を振りかぶる。

 

 

「チッ……」

 

 

 日傘による殴打を喰らった宿儺が、思わず舌打ちを打つ。だが――宿儺の右上腕は既に、()()()()()背後に現れた風見幽香の肩を、ガッチリと掴んで拘束していた。

 

 

(風見幽香め……()()()()()。超スピードや超加速のような単純なものではない…………先の攻撃()を回避し、この俺に一撃当てるだけの“タネ”がある。だが、一先ずは奴にカウンターをくれてやるとしよう)

 

 

「捌」

 

 

 宿儺が対象に直接触れている間に発動する、一撃必殺の斬撃。

 まともに喰らえば、大妖怪ですら一発で致命傷になりかねない大技を発動しようとして――――()()()()()()

 それは決して宿儺がミスを犯した訳ではなく、幽香によって術式を乱された訳でもない。

 

 唯一の発動条件である“相手への接触”。それが満たされなかった。

 

 宿儺の右上腕のその向こう。固く拘束したはずの風見幽香の存在が、消えてなくなっていた。

 そして、再び別方向から現れた風見幽香が日傘を大きく振りかぶり――その殴打を受けた宿儺は、吹き飛ばされながらも『()()()()』の正体へと辿り着く。

 

 

(チッ……なるほど、()()()()()()()。奴め……条件付きの“瞬間移動術”を手に入れたか)

 

 

 3度目。宿儺が吹き飛ばされた方向に、再び待ち構えるようにして現れた幽香が、大きく日傘を振りかぶるが――――今度は予想していた宿儺によってその一撃を防がれる。

 

 

「アラアラアラ……たった2回で慣れるなんて、流石じゃない」

 

「抜かせ……次は無いぞ」

 

 

 風見幽香の日傘を受け止めた宿儺が、彼女の()()()()()一輪の花を忌々しげに睨みつける。

 

 

「通称『フラワー・ステップ』……私が()()()()()()()()()()花を対象に、その花が咲いている場所へと瞬間移動でキる術よ」

 

「これといった能力も持たない花を大量に咲かせたのは、自らの“転移先”を作るためか。だが……それは言い換えると、転移が出来る場所をあらかじめ相手に晒していることになる。その程度の半端な技が、俺に通用するとでも……?」

 

「えぇ、思わナいわ。私の切り札が()()()()ならね」

 

 

 再び瞬間移動を行った幽香が、宿儺の眼前へと迫り、思い切り日傘を振り下ろす。

 しかしながら、文字通り全てを把握した呪いの王相手に通じるわけもなく……軽々とその一撃を受け止められる。一瞬、鍔迫り合いのような状態になり、()数に優れる宿儺が幽香へ反撃しようとした――――まさにその瞬間。

 

 

 

 宿儺の胴体を“2本の光の矢”が貫通する。

 

 

 

「グッ……なるほどな。随分と()()()なったのだな」

 

「ホント……人間とは思えないほど丈夫ネェ……でも“削り”にはなりそうで良かったワ」

 

 

 風見幽香の奥義『マスタースパーク』には一つの大きなデメリットが存在する。それこそが、技の発動までに掛かる『溜めの長さ』だった。

 圧倒的な高火力で分厚い防御すら貫通し、触れたもの全て蒸発させるマスタースパークは、その発動までに風見幽香でさえ5~7秒近く時間を掛ける必要がある。

 

 そして、トップクラスの戦いにおける5〜7秒という時間は――死に直結しかねないほど致命的な間であり(そのため幽香は、花の毒や拘束術を併用しながら使う場合が多い)溜め終わった後も狙う方向が分かりやすいという欠点があった。

 ゆえに、彼女が新たに見出した解決策こそ――――

 

 

「“極小のマスタースパーク”よ。溜めにかかる時間ヲ極限まで減らし、狙う場所すら分かりにくく出来る。欠点として、本物のマスタースパークに比べると、壊滅的に威力が落ちるケど…………その代わり()()()()()()()も見ツかっタ」

 

()()()()()()()()()マスタースパークを撃たせたか……」

 

「ご名答♡」

 

 

 宿儺が後方を振り返ると、2輪の鉛色の花から白煙が上がっているのが見える。

 忌々しそうに顔を歪める宿儺に対して――――幽香は口端を吊り上げながら、肩を揺らし不気味に嗤う。その様子はまるで歓喜する悪魔のようであり、悪戯に成功した幼子のようにも見えた。

 

 

「極小のマスタースパークは、そこまでの妖力を必要とシない。だから、私が()()()()()()()()()()()十分に発動出来る……アナタにとっては安全ピンで刺された程度のダメージでしょウし、急所に当たっても致命傷にはならないけど…………集中力は削がれるでしょ?」

 

「面倒な小技を覚えてきたな……」

 

 

 風見幽香は突然、その場で両腕を軽く広げた。

 まるで自分が今この瞬間、世界で最も美しい何かを独り占めしたとでもいうように。やがて――植物の蔓が獲物の喉に巻き付く前の、一瞬の愉悦に等しい動きで――彼女の身体は回転を始める。

 

「フフ……フフフ……」

 

 その回転は、異様にねっとりとしていて、スローモーションのように遅く見えた。

 風見幽香の振り撒く独特な空気感によって戦場が支配されるも――特に気にした様子もなく、喉の奥から絞り出すような含み笑いを溢して回り続ける。だが、そんな彼女の真っ赤な眼球だけは一分の隙もなく宿儺を捉えていた。

 

 やがてピタリと、その場で静止した幽香がゆっくりと口を開く。

 

 

「第二ラウンドは『檻』よ。愛しいアナタを決して逃さない檻……心ゆくまで闘いましょウ?」

 

 

 






 向日葵が日本に来たのは17世紀頃とかいうツッコミはしないでください(怖い顔)



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