仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 ごめん!遅れた!これから更新がんばる!

 ちな、本作の時系列は神霊廟の後くらいです




第五話 チャイルド・プレイ 前編

 

 

 咲夜とレミリアが退室してから5分ほど経過し、手持ち無沙汰だった宿儺が月を見ながら回想していると――コンコンと控えめに戸を叩く音が聞こえた。

 

「……ゴホン。あ、あの〜……は、入ってもよろしいで……入っても良いコアか〜?入るコアね〜」

 

 珍妙な語尾の、気弱そうな女性の声がドア越しに聞こえてくる。嫌な予感に襲われた宿儺は、しばらくの間、その存在を無視していたのだが――――やがて痺れを切らした声の主が、押し入る様にして入ってくる。

 

「や、やっぱり居るじゃないです……居るコアね〜。無視するなんて酷〜いコア〜」

 

 情熱的な炎を想起させるロングヘアーの赤髪に、オフィスカジュアルなスーツを上下で合わせた美女。タイトなスカートには過激なスリットが入っており、そこから顔を覗かせる肌色が目に悪いものの――当の本人は、幸の薄そうな顔を強張らせている。

 

「わ、私はパチュリー様の使い魔で、大図書館の司書も務めている『小悪魔』と申しま……小悪魔だコアね〜。みんなからは『こあ』って呼ばれてるコアだから、お嬢様のお客人兼同盟者でもある宿儺様にもそう呼んで欲しいコ〜ア〜よ〜。改めてこれから、よろしくだコア!」

 

 脂汗を流しながら陽気に振る舞う小悪魔を、宿儺は絶対零度の視線を持って睨み付ける。予想外の反応に焦りを見せた小悪魔が、更に捲し立てるようにして宿儺に話し掛けていると――やがて宿儺が重い口を開く。

 

「女……その耳障りな喋り口調を辞めろ。5秒だけ待ってやる……5……4……3……」

 

「う、うわぁー!じょ、冗談です!今すぐ辞めるのでお仕置きだけは勘弁してくださーい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、私って普通に美少女じゃないですか」

 

 豪奢なカーペットを踏みしめながら、紅魔館の廊下を並んで歩く宿儺と小悪魔。地下室までの道すがら、小悪魔が積極的に話し掛けるも宿儺は死んだ目で無言を貫いていた。しかし、その沈黙を肯定と判断した小悪魔は気にした様子もなく更に続ける。

 

「今どき『普通の美少女』って流行らないんですよね〜。特にこの幻想郷では。…………なのでキャラ付けで語尾を変えてみようと思ったんですけど、失敗でしたね。……いえ、平安時代には()()()()()娯楽も少なかったでしょうし“宿儺様なら簡単に籠絡出来そう”だとか、そんな事は考えてませんよ?本当です」

 

 幸の薄そうな顔立ちの癖に、妙な図々しさを持つ女――――小悪魔こと「こあ」は、逼迫した身の危険が無いと分かるや否や、友達同士の様な距離感で宿儺との(一方的な)会話を楽しんでいた。

 

 

「それにしても妹様の元に御客人を案内しろだなんて……珍しい事もあるものですねぇ。妹様ってばもう数百年は引き篭もっていて、紅魔館の住人でさえお会いする事は滅多にないんですよ?

 

……あっと、ここです!この階段を降りて行くと地下室に繋がるんですよ!他は全て空き部屋なので、このまま直進すれば妹様のお部屋に着きますよ」

 

 

 こあの指差す先には、暗く澱んだ階段が先が全く見えないほど、長く続いていた。まるで異界の入口であるかのように、紅魔館の美しい白亜の壁紙はぶつりと途切れ、代わりに無機質で威圧感のある石造りの壁が続いている。

 数メートルおきに設置された蝋燭の炎が唯一の光源となっているものの、暗闇の底から運ばれてくるカビ臭い冷気によって、その姿形を変えていく。

 

「ほぅ……確かに()()()。どれ、少し味見といった所だな」

 

 地下室へと続く階段を睥睨した宿儺()は、静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 薄暗い廊下の突き当たり。所々に錆の見えるドアノブを捻ると、意外にも鍵は掛かっておらず、すんなりとその分厚い門扉が開かれた。

 

 廊下とは打って変わって、明るい照明に照らされたその部屋は、()()()()()()()()()()()――まるで絵本の1ページを切り抜いた様に可愛いらしい様相をしている。

 赤と黒のコントラストが映えるゴシック調の部屋には、細部まで意匠の凝らされた可愛いらしい子供用の家具が所狭しと置かれていた。

 

 

 

 しかし、それ以上に目を奪うのは

 

――四肢をもがれたり、割かれた腹の中から綿の飛び出したりしている――

 

 部屋のあちこちに転がる大量のぬいぐるみの残骸だった。

 

 

 

 そんな部屋の中央。ぬいぐるみに埋もれていた1人の可憐な幼女が、こてんと首を傾げながらこちらを振り向く。

 ぱっちりとした紅い瞳に、光を弾く様な瑞々しい金髪。フリルのついた真紅のドレスとナイトキャップを合わせた装いからして、一見するとただの幼子にも見える。しかし、その口元には鋭利な犬歯が顔を出しており、背中から生えた七色のダイヤモンドのような翼が彼女が人外である事を主張していた。

 そしてなにより、ナイトキャップから覗かせるその小さな相貌は、確かに姉――紅魔館の当主、レミリア・スカーレットの面影を残すものだった。

 

 

「え?誰?妖怪…………では無いみたいだけど。お姉ちゃんのお客さん?迷子になってこの部屋まで来ちゃったの?」

 

 

 一瞬、戸惑う様な表情を浮かべるものの、すぐさま庇護欲を掻き立てる様な満面の笑みを浮かべる。

 

「ふふ。ねぇ、私フラン。フランドール・スカーレット。……嬉しいなぁ。私、お姉ちゃんに言われてこの部屋に監禁されてるから、滅多に他の人とお話しできないの。……あとでちゃんと帰り道を教えてあげるから、こっちに来てフランの遊び相手になってくれない?ほんのちょっとでいいの。ダメかな?お兄ちゃん」

 

 言い終わるや否や、両手を広げてだっこのポーズを取りつつ、とてとてとおぼつかない足取りで宿儺に近づいてくる。

 一連の言動を冷めた視線で見ていた宿儺は――――間合いに入った瞬間、フランの顔面を躊躇なく殴りつけた。

 

 先ほど咲夜を殴った時以上に力を込めて殴ったにも関わらず、小柄なフランが吹き飛ぶ事はなく、大きくのけ反りながらも数m後退するのみだった。

 唇を伝う一筋の血を舌で舐め取りながら、フランが妖艶な笑みを浮かべる。

 

 

「あ〜あ、バレちゃったぁ。…………でも、いいの?自分より一回りも小さい女の子の顔を殴るなんて、世間ではイケナイことなんだよ?」

 

「とんだ詐欺師の分際で何を言う?……この俺が、纏わりつくような貴様の殺気に気付かないとでも思ったか?…………お前の姉に言われてな。少し貴様を教育してやろう」

 

「教育〜?ロクに私も止められないお姉ちゃんがぁ??あなたに???」

 

 本気で虚を突かれたのか、大きく目を見開いて驚く。やがてフランの瞳に狂気の色が混じり始め――肩を震わせる様にして大きく笑った。

 

 

「……………あははははっ!面白〜い!!でも、それって結局“フランと遊んでくれる”って事だよね?楽しみだなぁ〜。“みんな”すぐ壊れちゃってつまんなかったし。……異変の時に魔法使いさんが来てくれたけど、アレは結局弾幕ごっこだったからなぁ。

 

………ねぇ?だから、お兄ちゃんで発散しちゃってもイイよね?」

 

 

 フランの身体から、暴力的な勢いで妖力が溢れ出し、瞳が狂気に染まっていく。彼女の小さな手の中には、いつの間にか――腐り果てた血液が固まって出来たような――禍々しくも圧倒的な力を感じさせる槍が握られている。対する宿儺も、「愉快極まりない」という感情を隠そうともせず、慢心と残虐性を覗かせる笑みを浮かべたまま半身になり、2本の腕を突き出してファイティングポーズを取る。

 

 

「ふふふ……よく見ればあなたって……たくさん血が詰まってそうな立派な身体つきをしてたのね。……あははっ!!殺した後が楽しみになってきちゃった!」

 

「いい機会だ。井の中の蛙である貴様にも教えてやろう。“格の違い”というやつをな」

 

 

 その言葉を合図にフランの足元が爆ぜ、満面の笑みを浮かべたまま宿儺に肉薄する。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 上司に頼まれた道案内を終えた小悪魔は、真っ直ぐに元の居場所である大図書館に戻る――――事はなく、好奇心からこっそりと宿儺の後を着けていた。なんでも平安の世から1000年の時を経て黄泉がえりを果たした男が、1日にして紅魔館と同盟を結び、数百年間も引き篭もり続けている当主の妹に会って何かをしようとしている。気にならない訳がない。

 元より悪魔という種族らしく、相応の狡賢さと下世話な一面を持ち合わせている小悪魔が、「盗み聞きの一つでもしてやろう」という考えに至るのはある意味当然の結果だった。

 

 

 簡単な術で視力と聴覚を強化し、扉の隙間からこっそりと中の様子を伺う。

 既に妹様の頬には殴られた跡があり、片手には()()()()()()()が握られ、その全身からは迸る様な狂気と妖力が溢れている。対する宿儺は余裕ある嘲笑を浮かべつつも、目線はしっかりとフランドールに向けられており――――まごう事なき戦闘の予兆が見てとれた。

 

(おぉ!こ、これは見物に来て正解でしたねぇ!……こんな面白そうな場面(ケンカ)が見れるだなんて、ここ数百年ぶりですよ!!もし、万が一の事が起きたらパチュリー様に連絡するとして…………ふふふ、今は特等席で楽しませて貰うコアね〜)

 

 

 次の瞬間、突如としてフランドールの足元の床が爆ぜる。強化された小悪魔の視界でも捉えきれない程の、神速の刺突が宿儺に放たれる。

 

 

(速っっっっ!!!!)

 

 あまりに殺意が籠った一撃に小悪魔は思わず目を剥いてしまうが、当の宿儺は焦った様子もなく、薄い笑みを顔に貼り付けたまま軽々とその一閃を避ける。

 しかし、フラン自身も初撃が回避される事を想定していたのか、レーヴァテインの柄の部分を持ち替え、槍としてのリーチを伸ばしつつ、宿儺の側面へと滑る様にして回り込んだ。

 

 瞬間、弾ける様な風切り音が部屋全体に叩きつけられる。

 レーヴァテインをまるでフェンシングの様に扱い、凄まじい勢いで必殺の刺突を浴びせ続ける。一撃一撃に殺意の宿った、超高密度の連撃が宿儺を襲う。

 

 しかし、その槍が宿儺を貫く事はなかった。それどころか、大柄な肉体に擦り傷一つ着ける事すら敵わず、嘲笑をもって全ての攻撃を回避されていた。

 

 

 

 そこでようやく小悪魔は悟る。異形の肉体を持った客人の、その隔絶した実力を。

 

 

(う、嘘でしょ?あの人って、こんなに強かったんですか……?ていうか妹様も強すぎ……今の私が飛び込んで行ったら2秒で殺されちゃう自信がありますねぇ………)

 

 

 

 

 やがて数十秒にも渡った刺突の雨が止み、狂気に目を爛々と輝かせたフランが喜色混じりに声を上げる。

 

「へぇ〜〜?言うだけあって、お兄ちゃん強いんだね?フラン、ちょっとだけびっくりしたかも」

 

 

「フッ、準備運動は終わりか?どうした、早く次を見せてみろ」

 

 

「心配しないで。お兄ちゃんの事はこの私がしっかりボコボコにしてあげるから、安心していいよ。ていうかさぁ…………」

 

 

 宿儺の腹の前で組まれている下半分の2本の腕を指差しながら、フランが不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

 

「そっちの2本の腕。私と闘い始めてから、ずっと組んだままだよね?…………もしかして、フランの事ナメてるの?」

 

 

「加減されるのは不服だったか?なら、この俺に腕を使わせるだけの“何か”を提示する事だな」

 

 

「別にいいよ。使わないでも。……その時は、舐めプしたまま死んだお兄ちゃんを笑ってやるんだから」

 

 

 フランが右手を伸ばし、その掌中に妖力を集中させて術を発動させる。

 

 

「禁忌 『ケルベロスクリッパー』」

 

 フランの周囲を取り囲む様にして、不定形の犬の形をした豪炎が噴き上がる。怨嗟の叫びに喉を震わせるかの如く――巨大な顎を開けた灼熱の狂犬が、宿儺を噛み砕かんと殺到する。

 回避のためバックステップで距離を取り始めた宿儺に対し、フランはダメ押しとばかりに新たな術を発動させる。

 

「禁忌 『クランベリートラップ』」

 

 フランから放たれた複数の魔法陣が、宿儺を包囲する様に配置される。やがて魔法陣は、明滅とともに追尾性のある大量の妖力弾を放出し、狂犬から離れようとする宿儺に向かって飛んでいく。

 

 

 本来の弾幕ごっこであれば確実にルール違反であろう――――致死量に匹敵する妖力が込められた、逃げ場の無い全方位攻撃。

 これにより強制的に退路を封じられた宿儺は、この戦闘において初めて“自らの術式”を使用する。

 

 

「解」

 

 

 あえて指向性を絞らず、不可視の斬撃を全方位に向けて放つことで、自らに殺到していた全ての弾幕を一つ残らず破壊する。

 初めて宿儺の術式を目にしたフランは、驚きから一瞬だけ身体を硬直させるものの――――即座にそれを塗り潰すようにして狂気的な笑みを浮かべる。だが……

 

 

――違和感

 

――漠然とした違和感がフランドール・スカーレットの全身を襲う

 

 

 人間を超越したフランだからこそ知覚できる『第六感』にも似た危機察知能力。

 視界に映る宿儺が邪悪に笑い、手掌をこちらに向けている。

 

 

“龍鱗” “反発” “番いの流星”

 

「避けろよ」

 

 

 

「解」

 

 

 

 手掌と詠唱により強化された“解”がフランの左腕を斬り飛ばす。

 だが、片腕の一本というのは――一般的な大妖怪からすれば、かすり傷にすら値しない。事実、まるで時を巻き戻すかのように、一瞬で腕が再生する。しかし、当のフランは動揺を隠せない様子で激しく狼狽する。

 

(全く反応できなかった……!!術の発動タイミングだって分かってたのに、()()()の術が見えなかった……!!!)

 

 フランの中にあった“大妖怪としての驕り”が消え、宿儺に対する警戒度を上げる。

 術自体に大した脅威は感じない。見えない斬撃を飛ばすというだけの、()()()()()()ものだ。確かに、一撃で大妖怪の腕を落とす程の威力は恐ろしくもあるが――――絶望的ではない。フランが驚愕したのは、術そのものの()()()()()()()()()()()()だ。

 

 自らの知覚速度を越えるスピードの斬撃が、“呪力の起こり”すら最小限にノーモーションで繰り出される。先程は()()()宿儺が宣言し、自らの直感が働いた事で避けるだけの余裕があった。しかし、次に避けられる保障はない。

 

(……クソッ!手加減されたんだ!!『フランなんかいつでも倒せる』って顔で、弄ばれてるんだ!!!うぅ〜、悔しい!悔しい!!)

 

 ほっぺたを膨らませながら、涙目で宿儺を睨みつける。いっそ狂気に身を任せて大暴れするという手段もあったが、フランの中のプライドがそれに待ったをかける。

 

 

(純粋な体術でダメージを与えるのは難しい……かといって弾幕を当てるのも一苦労…………攻撃に転じられたらこっちがジリ貧……それなら!)

 

 

 狂気に染まりつつある思考の片隅で、フランは冷静に()()()()()()を使用する。

 

 

 

「禁忌 『フォーオブアカインド』!!」

 

 

 まるで連続で撮影された映像のように、フランの姿や輪郭がゆっくりとブレ始める。ただの輪郭でしかない写像が次々と具現化していき、やがて4体のフランドール・スカーレットが出現した。

 それを目撃した宿儺は――攻勢に転じようとする動きを止め――興味深そうな視線を向けたままフランの分身を観察する。

 

 

「ククッ、なるほどな……どうやらただの分身体、という訳ではではなさそうだな」

 

 戦闘中、一切使用する事のなかった2()()()()をほどく。

 しかし、そんな言動とは裏腹に、宿儺は相変わらずの嘲笑を浮かべたまま、フランに期待に満ちた視線を向ける。

 

「ほら、頑張れ頑張れ。貴様の全てを見せてみろ。もしかすると、この俺に一矢報いれるやも知れんぞ?」

 

 

 

「ねぇ、いつまで余裕ぶるつもり?だって、私たちとっくに……」

 

「4対1だよ?さっきまでと同じ状況だと思ってるなら……大間違いだね」

 

「まぁ、別に?なんて言おうと、お兄ちゃんの勝手だけどね。でもさ……」

 

「これだけイキってて()()()()()に負けちゃったら、お兄ちゃん恥ずかしいよ?」

 

 

 

 4人のフランドール・スカーレットが、()()()()()()()()()()()()()()()()煽るような視線を宿儺に向ける。

 紅魔館の地下深く――――鬼たちのボルテージが上がる。

 

 

 

 

 





 次話は明日、公開予定。

 咲夜さんと美鈴さんのキャラデザって、神がかってますよね。
 メイドとチャイナ娘の居る職場……それはアリだ。



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